- 著者: Srivastava RM, Trivedi S, Concha-Benavente F, Hyun-bae J, Wang L, Seethala RR, Branstetter BF IV, Ferrone S, Ferris RL
- Corresponding author: Robert L. Ferris (ferrisrl@upmc.edu)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 25972070
背景
頭頸部癌 (HNC; head and neck cancer) はEGFR (epidermal growth factor receptor) を高発現し、cetuximab (抗EGFRモノクローナル抗体) はHNCの標準治療として承認されている (Bonner et al. NEnglJMed 2006 が放射線+cetuximabの局所進行HNCにおけるOS改善を示した)。しかしこれまで奏効する患者は全体の約20%に留まり、cetuximab奏効を予測する分子バイオマーカーは確立されていない点が未解明であった (Trivedi et al. CancerImmunolRes 2014 らによる抗EGFR mAb免疫バイオマーカー review でも明示)。EGFRシグナルは増殖促進のみならず、免疫学的機能にも影響を与えることが先行研究で示唆されてきた。特に著者らの先行研究 (Srivastava et al. CancerImmunolRes 2013 らが示したcetuximab活性化 NK-DC cross-talk によるCTL誘導知見) ではEGFR下流のSHP-2 (Src homology 2 domain-containing protein tyrosine phosphatase 2) がpSTAT1 (phospho signal transducer and activator of transcription 1) を脱リン酸化することでHLA (human leukocyte antigen) クラスIおよびAPM (antigen-processing machinery) の発現を抑制するという経路がHNCで機能することが示されていた。
HLAクラスIおよびAPM成分 (LMP2 [low molecular weight protein 2], TAP1/2 [transporter associated with antigen processing 1/2], タパシン, カルネキシン, カルレティキュリン) の発現低下は、細胞傷害性T細胞 (CTL; cytotoxic T lymphocyte) による腫瘍認識を回避する主要な免疫逃避機序である (Leone et al. NatRevCancer 2013 のreview)。cetuximabによる抗腫瘍効果には免疫学的成分 (ADCC [antibody-dependent cellular cytotoxicity], NK [natural killer] 細胞によるNK-DC cross-talkを介したCTL誘導) が関与することが先行研究で示されていたが、これまでEGFR阻害とHLA発現・APMとの関連、およびその臨床的意義は不明であり、特に前向き第II相臨床試験のpre/post治療生検における分子レベルでのin vivo機構実証が不足していた。この点が本研究を着手するうえで足りなかった証拠ギャップである。
目的
Cetuximabがどのような分子機序でHLAクラスIおよびAPM成分を上方制御するかをin vitroで解明し、SHP-2/STAT1/HLA軸の動態を機能実験で定量化したうえで、この変化がHNC患者の免疫原性増強と臨床奏効に与える影響を前向き第II相試験 (UPCI 08-013, NCT01218048) で検証する。
結果
所見1:CetuximabがSTAT1依存的にHLA-B/CをHLA-Aより強く上昇させAPM成分を包括的に増強する:HNC細胞株 (JHU-022, JHU-028, JHU-029, SCC90, PCI-15B, n=5 cell lines tested) において、cetuximab (10 μg/mL, 48時間) 処理はHLA-B/C発現をタンパクレベルで約2-fold (paired t-test, p<0.01)、転写レベルで約9-fold上昇させた (qPCR, n=3 biological replicates per cell line; Fig 1A, 1B, 1C)。この変化はHLA-A (タンパク1.25-fold, 転写2-fold) より顕著であり、EGF刺激によるHLA抑制もHLA-B/Cの方がHLA-Aより強く認められた。β2-ミクログロブリン発現も同様に増加した。細胞内APM成分 (LMP2, TAP1/2, タパシン, カルネキシン, カルレティキュリン) もcetuximab処理後にWestern blot で増強した (Fig 2)。STAT1依存性の検証として、STAT1+/+ (2FTGH) 細胞ではHLA-B/Cおよび APM成分の変化が明確に認められた一方で、STAT1-/- (U3A) 細胞では変化がなかった (n=3 independent experiments; Fig 3A, 3B)。EGFR siRNAによる抑制でもSTAT1+/+細胞でのみSTAT1活性化が得られ、STAT1依存性が多面的に確認された。STAT1阻害剤フルダラビン (10 μM) はcetuximab・IFNγ・両者の組み合わせによるHLA上昇をすべて消失させた (Fig 4A, 4B)。ChIPアッセイではcetuximab処理によりSTAT1がTAP1プロモーターのGAS elementに物理的に結合することが直接証明された (30分および36時間処理後の両時点で確認, n=3 replicates; Fig 4C)。
所見2:EGFRシグナルがSHP-2/STAT1抑制を介してHLAを下方制御しcetuximabがこれを逆転させる:Cetuximab処理 (24時間) はSHP2 (SHP-2 protein) 発現を有意に低下させた (Western blot densitometry, ~0.5-fold; n=3 biological replicates; Fig 5A)。pSTAT1 (Tyr701) はcetuximab単剤で陽性細胞率が 1% から 7% へとわずかに上昇 (cetuximab vs vehicle, fold change 7-fold)、全STAT1は約 2-fold 上昇した (Fig 5B)。IFNγ単剤 (10 ng/mL, 24時間) ではpSTAT1陽性率が 1% から 62% に著明上昇した。cetuximab + IFNγ の組み合わせでは相加以上の効果が認められ (pSTAT1陽性 62% から 81%, 全STAT1 MFI 約 12-fold; Fig 5C)、SHP2 siRNAはcetuximab単独効果をさらに増強した。これらの結果は EGFR-SHP2 軸がpSTAT1を抑制することで免疫逃避が成立し、cetuximabがこの経路を阻害することを示す。さらにcetuximabはIFNγR1 (CD119) 発現も約 1.5-fold 上昇させ (n=3 biological replicates, p<0.05; Fig 6)、EGFR依存性のIFNγシグナル増幅機序を提供した。
所見3:NK細胞とIFNγの協調作用によるHLA上昇増幅とMAGE-3腫瘍抗原提示の増強:Cetuximab活性化NK細胞との共培養 (E:T比 10:1, 24時間, n=3 donors) では、HLA-A/B/Cのさらなる強力な上昇が確認された (HLA-B/C: cetuximab単剤で約 1.93-fold, NK+cetuximab で約 1.78-fold; Fig 7A, 7B)。IFNγ中和抗体 (10 μg/mL) はこの上昇を完全に消失させた。HLA上昇はSTAT1阻害剤フルダラビン投与で完全抑制された。新規mAb 12b6を用いた表面腫瘍抗原提示の定量評価では、cetuximabがHLA-A2:MAGE-3271-279複合体提示を増強し (cetuximab vs vehicle, p<0.001, paired t-test, n=3 biological replicates)、IFNγ単独 (p<0.0001) および cetuximab + IFNγ 組み合わせ (p<0.0001) でさらに顕著であった (Fig 8A, 8B)。SHP2 siRNA + cetuximab の組み合わせはHLA-A/B/Cの最大上昇を誘導した。HLA上昇はIFNγ処理HNC細胞に対するcetuximab介在ADCCを増強 (51Cr release, fold change 約 2-fold) し、HLAクラスI阻害抗体 (W6/32 mAb) はADCCをさらに増強した (n=3 NK donors; Fig 9)。
所見4:第II相臨床試験における奏効例でのみHLAクラスI/STAT1の上昇が確認される:前向き第II相試験 (UPCI 08-013, NCT01218048) では、enrolled 40例のうち 24例 (responder n=7 vs non-responder n=17) のTMAが解析可能であった。Cetuximab術前投与後、HLA-A H-score (HCA2 IHC, scale 0-300) は responder 7例で baseline 中央値 60 から post 中央値 180 へと有意に上昇した (paired Wilcoxon, p<0.05) のに対し non-responder 17例では変化がなかった (Fig 10A)。HLA-B/C H-score (HC10 IHC) も同様に responder で baseline 80 から post 220 へ上昇 (p<0.05) する一方、non-responder では変化がなかった (Fig 10B)。STAT1 IHC も responder 7例で baseline 中央値 40 から post 中央値 160 へ上昇 (p<0.05) し、non-responder 17例とは異なる挙動を示した (Fig 10C)。この結果はin vitroで明らかにした機序知見が臨床奏効パターンと整合することを示す前向き臨床エビデンスである。
考察/結論
これまでのcetuximab作用機序は先行研究 (Bonner et al. NEnglJMed 2006 の局所進行 HNC におけるOS改善, Srivastava et al. CancerImmunolRes 2013 の cetuximab 活性化 NK-DC cross-talk) でEGFR下流増殖シグナル遮断と ADCC に注力されてきたが、本研究はそれら先行研究と異なり、EGFRがSHP-2を介してpSTAT1を抑制しHLAクラスI・APM経路を下方制御するという免疫逃避機序を、cetuximabが多重に逆転させるという統合的な分子機構を初めて解明した点で対照的に新規である。これまで報告されていない経路として、cetuximabが細胞自律的なシグナル遮断だけでなく、NK細胞活性化に伴うIFNγ分泌 → IFNγR1上昇 → さらなるHLA誘導という増幅ループを引き起こすことが新規に証明された (先行研究の Srivastava et al. CancerImmunolRes 2013 らの NK-DC cross-talk 知見と異なり、本研究はNK→腫瘍細胞→IFNγR1 という autocrine/paracrine 増幅機構を直接示した)。HLA-B/CがHLA-Aより顕著に上昇する点も新規発見であり、HLA-Bは一般にKIR (killer-cell immunoglobulin-like receptor; NK細胞阻害受容体) のリガンドとなりうるためcetuximab状況下ではCTL認識増強に振れていると考えられる。
臨床応用の観点で本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research である。前向き第II相試験 (UPCI 08-013, NCT01218048) において cetuximab 奏効群 (n=7) でのみ HLA-A・HLA-B/C・STAT1 が術前から術後で有意に上昇し、非奏効群 (n=17) では変化がなかったことは、HLA upregulation が cetuximab 効果のバイオマーカーとなりうる強力な臨床的意義を提供する。臨床応用として、cetuximab + IFNγ・抗 PD-1・SHP2 阻害剤の併用、あるいは HLA-B/C 上昇を induction therapy として位置づける戦略が今後の臨床試験設計に応用できる。腫瘍特異的でない MAGE-3 抗原提示の増強は「antigen spread」の可能性を示唆し、EGFR以外のTAA (tumor-associated antigen) ペプチド認識を通じたより広範な腫瘍特異的CTL応答誘導の臨床応用が期待される。
残された課題として、第一に limitation として奏効患者では腫瘍縮小と並行してHLAクラスI・STAT1の上昇が確認されたが、奏効が先でHLA上昇が後続する可能性も排除できない点があり、HLA up 動態と腫瘍縮小の時系列解析が future work として必要である。第二に、本研究は n=24 評価可能 cohort と限定的 sample size であり、より大規模な独立コホートでの確認が今後の課題である。第三に、HLA upregulation を induction biomarker として用いる prospective umbrella trial の設計が今後の検討課題である。第四に、抗EGFR療法と免疫療法 (抗PD-1 Akbay et al. CancerDiscov 2013 が EGFR-driven 肺癌における PD-1 軸関与を示した文脈、抗LAG-3, SHP2 阻害剤) の併用による STAT1/HLA/APM 軸の活性化と適応免疫の相乗効果の検証も今後の研究展望として残されている。
方法
細胞株として JHU-022, JHU-028, JHU-029, SCC90, PCI-13, PCI-15B, 93-VU-147T (いずれもHNC細胞株, ATCC/PCI cell repository 由来), STAT1+/+ 2FTGH線維肉腫細胞, STAT1-/- U3A細胞 (STAT1依存性検証用 isogenic pair), MCF-7 (EGFR低発現対照乳癌細胞株) を使用した。試験管内実験では cetuximab (10 μg/mL, 48-72時間) 処理後のHLA-A・HLA-B/C発現変化をフローサイトメトリー (HCA2 mAb / HC10 mAb) およびIHC (immunohistochemistry) で定量した。SHP2 siRNA, EGFR siRNA, フルダラビン (STAT1阻害剤) を用いた経路解析、クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイ (anti-STAT1抗体, TAP1プロモーターGAS element プライマー) を実施した。IFNγR1 (CD119) 発現変化はフローサイトメトリーで評価し、NK細胞との共培養 (E:T比 10:1, 24時間) でHLA-A/B/C上昇を評価、IFNγ中和抗体 (10 μg/mL) による阻害実験と 51Cr放出アッセイ (4時間, E:T比 2.5-25:1) によるADCC測定も実施した。腫瘍抗原提示の定量にはHLA-A2:MAGE-3271-279複合体を認識する新規mAb 12b6 (in-house generated) を用いた。臨床試験は前向き第II相試験 UPCI 08-013 (NCT01218048): stage III/IVA HNC患者 40例 (口腔 19例, 中咽頭 15例, 喉頭 6例) に対し、術前cetuximab単剤 (400 mg/m2 day 1 → 250 mg/m2 day 8/15/22, 4週間) を投与。治療前後の腫瘍生検ペアからTMA (組織マイクロアレイ) を作製し、HLA-A (HCA2 mAb)・HLA-B/C (HC10 mAb)・STAT1をIHCで半定量 (H-score 0-300)。CTスキャンで奏効 (腫瘍縮小 ≥20%) / 非奏効を判定。統計はpaired Student t-test (HLA-A/B/C up vs baseline) と Mann-Whitney U test (responder vs non-responder)。