• 著者: Greta Garrido, Ailem Rabasa, Cristina Garrido, Lisset Chao, Federico Garrido, Ángel M. García-Lora, Belinda Sánchez-Ramírez
  • Corresponding author: Belinda Sánchez-Ramírez (Center of Molecular Immunology, Havana, Cuba)
  • 雑誌: Frontiers in Pharmacology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-10-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29056908

背景

腫瘍細胞によるHLAクラスI分子の表面発現低下は、CD8+細胞傷害性T細胞による免疫監視からの逃避を可能にする主要な免疫回避機構の一つである。APM (antigen processing machinery) はHLAクラスI機能に不可欠な多成分系であり、β2-マイクログロブリン (β2-microglobulin; β2m)、LMP2/LMP7 (low molecular mass polypeptide) などのプロテアソームサブユニット、TAP1/TAP2 (transporter associated with antigen processing)、タパシン・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI (protein disulfide isomerase)・ERp57 (endoplasmic reticulum protein 57) などのシャペロン群が協調して機能する。これまでの研究でTKI (tyrosine kinase inhibitor) である AG1478・PD168393・ゲフィチニブ、および抗 EGFR mAb (monoclonal antibody) であるcetuximabが腫瘍細胞のHLAクラスI発現を上方調節することが示されており (Kersh et al., Front Pharmacol, 2016)、EGFR経路の遮断が免疫原性を高めることが示唆されていた。Srivastavaらはcetuximabが頭頸部癌患者の腫瘍においてEGFR-SHP2 (Src homology 2-containing phosphatase 2)-STAT1経路を介してHLAクラスI発現を上昇させ、奏効患者でのみこの変化が認められることを示した (Srivastava et al. CancerImmunolRes 2015)。Mimulaらは胃癌・食道癌の臨床サンプルにおいてp-Erk発現とHLAクラスI発現に強い逆相関が存在し、MAPK経路がHLAクラスI発現の主要制御因子であることを報告した (Mimura et al., J Immunol, 2013)。対照的に、Boniらはvemurafenib (BRAF inhibitor) 処置ではHLAクラスI発現増加が認められないことを示しており (Boni et al., Cancer Res, 2010)、このHLAクラスI調節がEGFR経路特異的な機序に依存することを示唆する。しかし、同じく臨床使用されているヒト化抗EGFR抗体nimotuzumabのHLAクラスI・APM発現への影響、ならびにin vivoでの適応免疫への寄与については gap in knowledge が存在しており、本研究以前には検討されていなかった。

目的

EGFRシグナルの活性化が腫瘍細胞のHLAクラスI・APM発現を転写レベルで抑制するかを検証し、nimotuzumabがEGFR遮断を通じてHLAクラスI発現を上方調節してCD8+T細胞による細胞傷害性を増強するかどうかを、in vitro腫瘍細胞株モデルおよびin vivo免疫担癌マウスモデルで明らかにする。

結果

EGFシグナルによるHLAクラスI発現抑制とEGFR発現密度依存性:EGF処置 (0.08 nM、48h) によりA431細胞のHLA-ABC表面発現が4-fold低下し、H125細胞においても同様の4-fold低下が観察された (Fig 1A)。この抑制効果はEGFR陰性のU1906細胞では認められず、HLAクラスI下方調節がEGFR活性化に依存することが確認された。マウス腫瘍細胞株においてもEGF (0.5 nM、48h) 処置でF3II・D122 (高EGFR密度) ではH-2K/H-2D (mouse MHC class I K/D locus) が3.5-fold低下したのに対し、CT26・4T1 (低EGFR密度) では1.5-fold の低下にとどまり (Fig 3A)、MHCクラスI抑制の程度がEGFR発現密度に比例することが示された (n=3-5独立実験、mean ± SD)。EGFR陰性のB16F10ではEGF処置によるMHCクラスI変化は認められなかった。以上の結果はEGFRシグナルがHLAクラスI発現を直接かつ定量的に制御することを示す明確な証拠である。

nimotuzumabによるHLAクラスI上方調節とlocus特異的発現パターン:nimotuzumab (10 μg/ml、96h) 処置はA431・H125細胞においてHLA-ABC発現を統計的に有意に上昇させ (Kruskal-Wallis/Dunn post-test、p<0.05)、cetuximab・AG1478と同等の増大効果を示した (Fig 1B)。この上昇はIFNγ (800 UI/ml) 誘導と同等の規模に達し、nimotuzumabがIFNγ類似の強力な免疫活性化作用を有することが示された。locus特異的解析では、A431細胞でHLA-AとHLA-Bの両アレルが同程度に上昇したのに対し、H125細胞ではHLA-AがHLA-Bに比べてより顕著に上昇し、アレル特異的な調節の存在が示された (Fig 1C)。EGFR陰性のU1906細胞ではnimotuzumab処置によるHLA発現変化は検出されず、効果のEGFR依存性が確認された。用量依存的な効果が認められ、最大効果は96h時点で得られた。

APM全構成要素の協調的転写上方調節:nimotuzumab処置後のリアルタイムqPCR解析 (A431・H125細胞) では、HLA-A・HLA-B・HLA-CのみならずAPM全構成要素 (β2m・LMP2・LMP7・TAP1・TAP2・タパシン・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI・ERp57) のmRNA発現が統計的に有意に増加した (Fig 2A)。cetuximab・AG1478も同様のAPM全体の転写上昇を誘導した。逆に、EGF処置はA431・H125細胞でこれらHLAクラスI HC・β2m・APM全構成要素のmRNAを有意に抑制した (Fig 2B)。EGFR陰性U1906ではIFNγのみがHLAクラスI HC遺伝子転写を誘導した。マウス細胞株 (F3II・D122) においても7A7・AG1478処置でMHC-I HC・β2m・LMP・PA28α (proteasome activator 28α)・BLH (bleomycin hydrolase)・TAP・ERAAP1 (endoplasmic reticulum aminopeptidase 1)・タパシン・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI・ERp57の全APM遺伝子の有意な発現増加が確認された (one-way ANOVA、Dunnet post-test;Fig 3C, 3D)。特にBLH・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI・ERp57はIFNγ非応答性でEGFRI特異的に誘導される遺伝子として同定され、EGFRIがIFNγシグナルとは独立した追加の転写経路を活性化することが示唆された。

7A7 in vivo投与によるD122腫瘍MHCクラスI発現増強と抗腫瘍効果:D122担癌C57BL/6マウス (n=8/群) に7A7 (56 μg) またはAG1478 (1 mg) を腫瘍内/全身投与 (day 12-21、72h毎) したところ、両EGFRI群で対照 (PBS) 群と比較して腫瘍体積が有意に縮小した (two-way ANOVA/Bonferroni;Fig 4B)。腫瘍内投与群は全身投与群よりも強い抗腫瘍効果を示した。22日目に摘出した腫瘍由来細胞懸濁液のフローサイトメトリー解析では、腫瘍内7A7投与群でH-2Kb (H-2K locus b allele)・H-2Db (H-2D locus b allele) 発現が対照群と比較して統計的に有意に増加し (Kruskal-Wallis/Dunn post-test、p<0.05;Fig 4C)、全身投与群でも同等のMHC-I上昇が観察された (Fig 4D)。7A7の効果はAG1478と比較して概ね同等以上であり、抗体としての免疫エフェクター機能がAPM誘導にも寄与する可能性が示された。以上は全身性抗EGFR抗体療法が腫瘍内HLAクラスI発現を in vivo で上方調節できることを示す最初の証拠である。

CD8+T細胞傷害性の増強と主要拘束アレルH-2Kbの役割:D122特異的CD8+T細胞 (D122転移モデルマウスから7A7処置14日後に取得、リンパ節再刺激) をEGFRI前処置D122細胞と共培養すると (E:T比2.5:1、48h)、IFNγ産生が未処置D122に対して有意に増加し、IFNγ処置D122と同等の刺激能を示した (Fig 5B)。抗H-2Kb抗体 (10 μg/ml) 添加により7A7・AG1478処置D122に対するIFNγ産生が強く遮断されたのに対し、抗H-2Db抗体添加の抑制効果は軽微であり、D122腫瘍に対するT細胞認識の主要MHC拘束アレルがH-2Kbであることが確認された。EGFR陰性・同一MHCを持つB16F10細胞はD122特異的T細胞を刺激せず、抗原特異性が示された。4h LDH放出アッセイでは、7A7・AG1478前処置D122細胞に対するD122特異的CD8+T細胞の特異的溶解率がE:T比50:1で約48%に達した (Fig 5C)。未処置D122や陰性対照B16F10に対する細胞傷害性はいずれも低値であり、EGFRI処置によるMHCクラスI上昇が抗腫瘍T細胞応答を機能的に増強することが直接的に示された。

考察/結論

本研究は、EGFRシグナルの活性化が腫瘍細胞のHLAクラスI発現を下方調節する一方、nimotuzumabによるEGFR遮断がAPM全構成要素の転写を協調的に上方調節してHLAクラスI発現を回復・増強し、in vitroおよびin vivoでCD8+T細胞による腫瘍溶解を促進するという新規な免疫調節機序を明らかにした。これまでの研究ではcetuximab・AG1478・ゲフィチニブによるHLAクラスI上昇が報告されていたが、nimotuzumabについては同様の効果が検討されておらず、本研究で初めてnimotuzumabがこれらと同等のAPM転写活性化を誘導することが証明された。

既報のcetuximab研究 (Srivastava et al., 2015) とは異なる点として、7A7/nimotuzumabが一部のAPM遺伝子 (BLH・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI・ERp57) をIFNγ非依存的に誘導することが示された。cetuximabはEGFR-SHP2-STAT1経路を介してIFNγ受容体1発現を増加させHLAクラスI発現を増強することが報告されているが (Srivastava et al., 2015)、本結果は追加のシグナル経路 (MAPK経路、CIITA転写因子など) の関与を示唆する。EGFRが活性化するMAPK (mitogen-activated protein kinase) 経路によるHLAクラスI抑制と、EGFRI処置によるその解除というメカニズムは、Mimulaらが胃癌・食道癌で示したp-Erk・HLAクラスI逆相関とも整合的である。

本結果の臨床的意義として、nimotuzumabはHLAクラスI「soft lesion」 (可逆的なHLAクラスI発現抑制) を有する腫瘍に対して免疫原性を回復させ、CD8+T細胞による腫瘍排除を増強する可能性がある。この臨床応用の観点から、cetuximab新補助療法の臨床試験でHLAクラスI上昇が奏効患者のみで認められた知見は、nimotuzumab治療中の腫瘍生検によるHLAクラスI発現モニタリングが奏効予測バイオマーカーとなりうることを示唆する。bench-to-bedside研究として、免疫チェックポイント阻害薬やがんワクチンとの組み合わせにおける相乗効果の評価が期待される。

残された課題として、本研究はin vitro細胞株モデルおよびマウスモデルに限定されており、ヒト患者の腫瘍微小環境においてnimotuzumabがHLAクラスI発現を上昇させ実際のCD8+T細胞浸潤・活性化を促進するかの検証が今後の検討として必要である。HLA発現調節に関わるEGFRI特異的転写因子 (CIITA (class II MHC transactivator)、NLRC5 (NOD-like receptor CARD domain)、NF-kB (nuclear factor kappa B) など) の同定、EGFR阻害強度 (nimotuzumabは中等度のEGFR阻害、cetuximabは完全遮断) と免疫調節効果の関係、ならびにエピジェネティック制御機構 (miR-21 (microRNA-21) などmiRNAによるHLA発現調節) のnimotuzumabとの相互作用についての更なる検討が求められる (future research)。

方法

ヒト腫瘍細胞株としてA431 (扁平上皮癌; EGFR 2-3×10^6分子/細胞; ATCC CRL-1555)、H125 (肺腺癌; EGFR 2.1×10^5分子/細胞) をEGFR陽性モデルとして使用し、U1906 (小細胞肺癌; EGFR陰性) を陰性対照とした。マウス腫瘍細胞株はD122 (Lewis肺癌転移クローン)、F3II (murine mammary adenocarcinoma cell line)、CT26 (結腸癌; ATCC CRL-2638)、4T1 (乳癌; ATCC CRL-2539)、B16F10 (黒色腫; EGFR陰性対照) を用いた。EGF刺激 (ヒト細胞: 0.08 nM / マウス細胞: 0.5 nM、48h) によるHLA-I発現変化をフローサイトメトリー (BD (Becton Dickinson) FACScan、WinMDI 2.8) で測定し、MFI (mean fluorescence intensity) として定量した (HLA-ABC検出: W6/32抗体)。EGFRI (EGFR inhibitor) としてnimotuzumab (10 μg/ml)、cetuximab (10 μg/ml)、AG1478 (5 μM) を96h処置し、最大誘導対照として IFNγ (ヒト: 800 UI/ml / マウス: 100 UI/ml、48h) を使用した。APM関連遺伝子 (HLA-A/B/C・β2m・LMP2/7・TAP1/2・タパシン・カルネキシン・カルレティキュリン・PDI・ERp57) のmRNA発現はTRIzol抽出後のリアルタイムRT-PCR (Applied Biosystems 7500 Real Time PCR System、SYBR Green法、GAPDHを内部標準) で定量した (40サイクル、四重測定)。In vivoではC57BL/6マウス (6-8週齢、n=8/群) にD122細胞 (5×10^5個、皮下移植) し、腫瘍体積0.25 cm^3到達後の12日目からマウスEGFRサロゲート抗体7A7 (56 μg、腫瘍内または腹腔内) およびAG1478 (1 mg) を72h毎・21日目まで投与し、22日目に摘出腫瘍由来単細胞懸濁液でフローサイトメトリー解析を実施した。CD8+T細胞傷害性はD122特異的CD8+T細胞とEGFRI前処置 (96h) 腫瘍細胞の共培養によるin vitro LDH (lactate dehydrogenase) 放出アッセイ (4h) で評価した (E:T (effector to target) 比10:1・25:1・50:1)。IFNγ産生はELISA (eBioscience) で定量した。統計解析はSPSS (IBM) を使用し、2群比較にMann-Whitney U-test、3群以上の比較に one-way ANOVA (Dunnet post-test) またはKruskal-Wallis test (Dunn post-test)、2要因比較に two-way ANOVA (Bonferroni post-test)、正規分布に従う変数にはStudent’s t-test を用いた (有意水準 p<0.05、両側検定)。