- 著者: Nicole M. Chapman, Hongbo Chi
- Corresponding author: Hongbo Chi (Department of Immunology, St. Jude Children’s Research Hospital, Memphis, TN)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 29716982
背景
ナイーブT細胞は胸腺で成熟後、二次リンパ器官を静止状態 (quiescence/G0期) で循環している。静止状態は小型の細胞サイズ、低増殖能、低基礎代謝という特性で定義される。TCR (T-cell receptor) と共刺激受容体であるCD28などの同時活性化を受けると、T細胞は「quiescence exit」と呼ばれる移行状態を経て、活性増殖、エフェクター機能獲得、代謝変換を行う。in vitroでは、CD4+ナイーブT細胞が最初の細胞分裂を完了するまでに25〜30時間を要し (Gudmundsdottir et al. 1999)、その後48時間以内に複数回の分裂が起こる (Wells et al. 1997)。CD8+T細胞のG1期への移行速度はin vivoでは抗原刺激強度によって調節されており、TCR刺激が強いほど細胞周期への参入が速まる (Yoon et al. 2010)。
Quiescence exitは活性化T細胞の増殖前段階であり、その後のクローン増殖、エフェクター機能の質と量を規定する重要な移行期である。ワクチン療法、養子T細胞療法、免疫チェックポイント阻害という三大がん免疫療法の有効性は全て、T細胞が効率的にquiescence exitを達成できるかどうかに依存している。しかし、このquiescence exitの分子機序は多岐にわたり、その全体像を統合的に理解するための包括的な枠組みはこれまで不足していた。特に、代謝リプログラミングがT細胞の静止状態からの脱却を駆動する重要な要因であることが近年強調されているが (Buck et al. 2015; Wells et al. 2014)、これらの代謝変化と細胞周期進行、サイトカインシグナル、栄養素取り込み、ミトコンドリア機能再構築との間の相互作用は未解明な点が多く残されている。本レビューはこのquiescence exitの分子機序を6つのHallmarkとして定義・体系化し、その免疫療法への含意を論じた包括的参照文献である。先行研究では個々のHallmarkに焦点を当てた研究が多かったが、これらを統合的に捉え、中心的な調節因子を特定するアプローチはこれまで十分に確立されておらず、体系的な理解のための知見が不足していた。
目的
ナイーブT細胞がquiescenceを解除する際の6つの主要なHallmarksを定義・詳述し、それぞれの分子機序、調節因子、相互連関を整理する。具体的には、細胞周期再開、細胞増大、IL-2 (interleukin-2) オートクライン/パラクラインシグナル、同化代謝、栄養素取り込み、ミトコンドリア機能再構築の各Hallmarkについて、その特徴とmTORC1 (mechanistic target of rapamycin complex 1)-c-Myc (cellular myelocytomatosis oncogene) 軸による調節機構を明らかにする。さらにこれらの知見がワクチン、がん免疫療法、自己免疫疾患の治療応用にどのように活用できるかを論じることを目的とする。本レビューは、T細胞の静止状態からの脱却という複雑なプロセスを包括的に理解するための統合的な枠組みを提供し、この分野における知識のギャップを埋めることを目指す。
結果
細胞周期再開によるG0からS期への移行: ナイーブCD4+T細胞はin vitroで抗原刺激後25〜30時間で最初の細胞分裂を完了し、その後48時間以内に複数回の分裂を起こす。CD8+T細胞のG1参入速度はin vivoで抗原刺激強度によって調節され、TCR刺激が強いほど細胞周期への参入が速まる。抗原刺激から約6時間以内にCD4+・CD8+T細胞はG0からG1に移行し、この移行はp16の過剰発現で阻止される。p16によるCDK4/6 (cyclin-dependent kinase 4/6) 阻害はT細胞の増殖ではなく細胞生存を調節するのに対し、p18欠損T細胞では刺激後の増殖が増強される。CDK4/6活性が不要になると、CDK2-cyclin E複合体がRb (retinoblastoma) の超リン酸化を完成させてE2F転写因子を解放しS期へ進入する (Figure 1A)。p27によるCDK2抑制はTCR/CD28シグナルのSrc-kinase・AktによるCDK2活性化・cyclin E誘導で解除される。mTORC1はG0→G1移行に不可欠であり、Raptor欠損マウスではCD4+T細胞増殖が著明に障害される。CDK4/6阻害薬 (palbociclib等) はT細胞の活性化依存的細胞増大を用量依存的に抑制する。重要なことにCDK2欠損ではT細胞増殖は障害されないが、IL-2産生が著明に低下することからCDK2がIL-2産生制御にも関与する。
細胞増大とmTORC1-c-Myc軸による翻訳・転写制御: ナイーブT細胞は抗原刺激後24時間で容積ベースで 2.0-fold 以上に増大する。G0→G1移行はT細胞の増大のチェックポイントであり、CDK4/6阻害がT細胞の活性化依存的増大を抑制する。mTORC1はp70 S6K (p70 S6 kinase) のリン酸化と4E-BP1 (eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1) の抑制解除を介してタンパク質合成を促進し、リボソーム生合成 (rRNAとリボソームタンパク質の転写誘導) を協調的に活性化することで細胞増大を駆動する。mTORC1は同時にc-Myc発現を誘導し、c-Myc欠損T細胞では細胞増大・増殖・エフェクター機能獲得が著明に障害される。c-Mycはインターフェーズ期CDK・サイクリンの誘導を介して細胞周期進行を促進する。このmTORC1-c-Myc軸が細胞増大の中枢的制御ハブとして機能する (Figure 1B)。タンパク質増加と並行してDNA複製に必要なタンパク質・脂質分子 (細胞分裂に必要なリン脂質等) が産生される。
IL-2オートクライン/パラクラインシグナリングループの形成: IL-2はT細胞の主要増殖因子であり、その受容体はα (CD25)・β (CD122)・γc (CD132) 鎖から構成される (Figure 1A)。ナイーブT細胞はCD132と少量のCD122を恒常発現して中程度の親和性IL-2R (interleukin-2 receptor) 複合体を形成する。TCR/CD28共刺激によりNFκB、NFAT (nuclear factor of activated T-cells)、AP-1が協調してIl2 (interleukin-2 gene) 転写を活性化し、STAT5 (signal transducer and activator of transcription 5) 転写活性化によりIl2ra (interleukin-2 receptor subunit alpha gene) が誘導される。続いてオートクライン/パラクラインIL-2シグナルがCD25とCD122のさらなる誘導を介して高親和性IL-2結合を維持するポジティブフィードバックループが形成される。IL-2はSTAT5経路の他にPI3K-Akt-mTOR経路を活性化し、T細胞増大・増殖の自律的サイクルを支持する。Raptor欠損CD4+T細胞では抗原刺激後のIL-2産生・CD25発現・STAT5活性化が障害されており、mTORC1軸がIL-2シグナリングの上流制御因子として機能することが示された。CDK2阻害もIL-2産生を著明に低下させることから、CD28依存的CDK2活性化がG1-S (G1-S phase transition) チェックポイントにおけるインターフェースを形成する。
同化代謝リプログラミングとWarburg効果の誘導: ナイーブT細胞から活性化T細胞への移行で、酸化的リン酸化 (OXPHOS) 依存の低エネルギー代謝からWarburg代謝 (好気的解糖) への劇的なシフトが約24〜48時間以内に起こる (Figure 1B)。mTORC1はc-Myc誘導を介してHK2 (hexokinase 2)・PFK (phosphofructokinase)・LDH (lactate dehydrogenase) などの解糖系酵素を転写誘導し、グルコースフラックスをWarburg代謝に誘導する。活性化T細胞ではグルコース消費量が静止T細胞比で 10.0-fold 以上に増大し、乳酸産生も同程度に増加する。解糖中間体のホスホエノールピルビン酸 (PEP) は、アミノ酸合成の前駆体として細胞増大を支援し、細胞内Ca2+濃度を維持してNFAT活性化を持続させる。グルコース-6-リン酸がペントースリン酸経路 (PPP) に流入して5炭素糖を産生しヌクレオチド合成を支援する。グルコースはさらにアセチルCoA・NADH・NADPHの前駆体としてアミノ酸・脂肪酸・コレステロール生合成を支援する。mTORC1はSREBP (sterol regulatory element-binding protein) 転写因子の誘導を介してCD4+T細胞活性化後の脂質代謝を促進し、SCAP (SREBP cleavage-activating protein) もCD8+T細胞の増殖に必須である。加えてT細胞はc-Myc依存的グルタミン分解 (glutaminolysis) を亢進させ、α-ケトグルタル酸 (α-KG) を生成してTCAサイクルを補充する。
栄養素取り込みトランスポーターの協調的発現亢進: 活性化T細胞は複数の輸送体を誘導して栄養素取り込みを急増させる。GLUT1 (glucose transporter 1) の細胞膜上発現がPI3K-Aktシグナル依存的に増大し、グルコース取り込みを増加させる。GLUT1遺伝子欠損ではin vitro/in vivoでの抗原誘導T細胞増殖が著明に低下、逆にGLUT1過剰発現はCD4+T細胞成長・IL-2産生・TFH (follicular helper T) 分化を増強する。System Lトランスポーター (SLC7A5/LAT1) はロイシン等の必須アミノ酸輸送を担い、mTORC1活性化の上流センサーとして機能する。ASCT2 (alanine, serine, cysteine transporter 2) の誘導によりグルタミン取り込みが増大するが、ASCT2欠損CD4+T細胞では増殖障害は軽微であり、TCAサイクルへの機能的冗長性がある。CD71 (transferrin receptor 1) の誘導によりmTORC1依存的に鉄取り込みが促進され、ヒトCD71ミスセンス変異ではT細胞活性化が効率的に行われない。グルコース・アミノ酸 (ロイシン・バリン・アルギニン等) はmTORC1自体の活性化シグナルとしても機能し、mTORC1活性と栄養素取り込みがフィードフォワードループを形成する。
ミトコンドリア機能再構築と一炭素代謝の活性化: Warburg代謝へのシフトと並行して、ミトコンドリア自体も機能・形態の大きな変化を遂げる。mTORC1はミトコンドリア生合成 (PGC-1α等の誘導) とOXPHOS能力の増大を促進し、活性化T細胞は静止T細胞と比較してミトコンドリア質量・膜電位・OXPHOS能力が増大する。ミトコンドリアETC (electron transport chain) 複合体IIIが産生する低濃度ROS (mROS) はCa2+シグナリングを介してNFAT依存的Il2転写を活性化する。Cox10 (cytochrome c oxidase assembly factor heme A:farnesyltransferase COX10) 欠損T細胞 (ETC複合体IV欠損) では活性化誘導性アポトーシス増加と増殖低下が生じ、さらにTH1/TH2/TH17への分化障害とin vivoでのエフェクター応答低下を示す。一方、ミトコンドリア呼吸阻害はリソソーム生合成を制御することでT細胞増殖と分化を障害する。One-carbon代謝 (葉酸回路) はmTORC1依存的に亢進し、核酸合成・メチル化反応を支援する。ミトコンドリア分裂・融合 (dynamics) は活性化CD8+T細胞でのOXPHOS誘導効率を決定し、記憶CD8+T細胞では融合が優位でOXPHOS能力が高い。α-KGはDNA・ヒストン脱メチル化酵素の補因子として機能し、高NADH/NAD+比下ではLDHがα-KGをS-2-ヒドロキシグルタル酸に変換して脱メチル化を阻害する。
Quiescence exitにおける30時間の時間的チェックポイント: mTORC1活性または解糖をTCR/CD28共刺激開始時に阻害するとCD4+T細胞は増殖不全・TH2分化障害を示すが、活性化24時間後の阻害では部分的なブロックにとどまり、48時間後の阻害はほぼ影響を与えない。この「30時間以内のチェックポイント」を境にT細胞はmTORC1・解糖依存性を失い、独立した増殖プログラムに移行する。これはquiescence exit (活性化後最初の30時間) が後続のT細胞運命を決定するチェックポイントであることを示す。Cox10欠損T細胞の解析では、細胞周期参入 (Hallmark 1) とミトコンドリア呼吸 (Hallmark 6の一部) の障害がIL-2シグナリング (Hallmark 3)・グルコース取り込み・GLUT1/CD71/CD98発現 (Hallmarks 4-5) に影響しないにもかかわらず、T細胞応答全体が著明に障害されることが示された。この結果は、個々のHallmarkの充足がT細胞応答の全体的な質に不可欠であることを示唆している。
考察/結論
先行研究との違い: 従来のT細胞活性化モデルは、抗原認識後のシグナル伝達経路や転写因子の活性化に主眼が置かれていた。これに対し、本研究は初期の代謝リプログラミングや細胞周期制御因子が、単なる活性化の随伴現象ではなく、T細胞の運命決定を駆動する能動的なチェックポイントとして機能していることを明らかにした点で、これまでの知見と大きく異なる。特に、活性化後最初の30時間以内に存在する代謝依存的な時間的チェックポイントの存在を明確に提示した点は、従来の静的な活性化モデルとは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ナイーブT細胞が静止状態から脱却して活性化するプロセス (quiescence exit) を、6つの独立しつつも相互に連関する「Hallmarks」として包括的に定義・体系化することに成功した。さらに、mTORC1-c-Myc軸がこれら6つの特徴 (細胞周期再開、細胞増大、IL-2シグナル、同化代謝、栄養素取り込み、ミトコンドリア機能再構築) のすべてを包括的に統合・制御する中枢シグナルハブであることを新規に提唱した。
臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法やワクチン開発におけるT細胞機能の至適化という臨床応用に直結する。腫瘍微小環境 (TME) 内でT細胞が陥る機能不全状態 (exhaustion/anergy) は、quiescence exitの障害と密接に関連している。PD-1シグナルが活性化後わずか4時間の初期段階で解糖系やアミノ酸代謝を抑制し、脂肪酸酸化を亢進させるという知見は、免疫チェックポイント阻害薬がT細胞の代謝的quiescence exitを回復させることで抗腫瘍効果を発揮するという臨床的意義を裏付ける。また、PEP産生強化やミトコンドリア代謝の調整により、養子移植T細胞の生存性と抗腫瘍応答を向上させる戦略は、今後のがん免疫療法の発展において極めて有用な translational なアプローチである。
残された課題: 今後の検討課題として、これら6つのHallmarkが時間的・空間的にどのように協調して制御されているのか、その詳細な分子動態の解明が挙げられる。また、in vivoの複雑な微小環境において、各Hallmarkの活性化レベルがT細胞の長期的な記憶形成やエフェクター機能の分化に与える影響については未解明な点が多く、さらなる研究が必要である。さらに、T細胞のquiescence exitを標的とした新規治療薬の開発に向けて、mTORC1-c-Myc軸の下流因子の選択的制御方法を確立することが今後の重要な研究方向性である。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験手法や患者コホートを用いた新規の実験研究は実施されていない。代わりに、T細胞の静止状態からの脱却 (quiescence exit) に関する既存の文献を広範に調査し、その知見を統合・体系化している。文献検索は PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学データベースを用いて行われた。検索期間は特に限定せず、T細胞の細胞周期、細胞増大、IL-2シグナル、代謝リプログラミング、栄養素取り込み、ミトコンドリア機能に関する基礎研究および臨床研究が重点的に収集された。文献の選択は、T細胞のquiescence exitを特徴づける6つの主要なHallmarkに関連する研究に焦点を当てて行われた。特定のinclusion/exclusion criteriaは明示されていないものの、関連性の高い原著論文およびレビュー論文が優先的に評価された。これらの文献から、T細胞のquiescence exitを特徴づける6つの主要なHallmarkが特定され、それぞれの分子メカニズム、調節因子、および相互作用が詳細に分析された。統計手法 (例えば Cox regression や Kaplan-Meier 解析、あるいはノンパラメトリック検定である Mann-Whitney 検定など) は用いられていない。本レビューは、これらのHallmarkがどのようにT細胞の増殖、分化、エフェクター機能に影響を与えるか、およびこれらの知見が感染症、自己免疫疾患、がん治療におけるT細胞応答の操作にどのように応用できるかについて考察している。エビデンスレベルの評価やGRADEシステムのような体系的なレビュー手法は採用されていないが、広範な文献調査に基づいている。