• 著者: Yongbo Liu, Jing Zhou, Xiaoyu Li, Xiaoting Zhang, Jintong Shi, Xuefei Wang, Hao Li, Shan Miao, Huifang Chen, Xiaoxiao He, Liting Dong, Gap Ryol Lee, Junke Zheng, Ru-Juan Liu, Bing Su, Youqiong Ye, Richard A. Flavell, Chengqi Yi, Yuzhang Wu, Hua-Bing Li
  • Corresponding author: Richard A. Flavell (Yale University School of Medicine, New Haven, CT, USA); Chengqi Yi (Peking University, Beijing, China); Yuzhang Wu (Chongqing International Institute for Immunology, Chongqing, China); Hua-Bing Li (Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, Shanghai, China)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36138184

背景

Naive CD4+ T細胞はTCR (T cell receptor) 刺激により休眠状態 (quiescence) から超活性状態へ急速に移行し、短時間で大量のクローン増殖・分化を遂げるため、新規蛋白の de novo 合成を爆発的に増やす必要がある (Chapman et al. CancerImmunolRes 2018)。従来、この需要は主に転写レベルでmRNA量を増やす戦略で満たされると考えられ、転写制御が中心的注目を集めてきたが、活性化初期の極めて短い時間窓で細胞サイズと数を爆発的に拡大するには転写増強だけでは不十分であり、既存の有限なmRNAプールを最大活用する翻訳効率 (TE; translation efficiency) 制御という第二の戦略が必要と推測された。先行研究では mRNA-m6A (N6-methyladenosine) メチル化やBTG1/BTG2 (BTG anti-proliferation factor 1/2) 介在のpoly(A)鎖短縮がT細胞の静止状態維持・活性化への移行を制御することが報告され (Hwang et al. 2020 Science; Li et al. 2017 Nature)、tRNAは哺乳類細胞内で最も修飾が豊富なRNA分子 (平均14修飾/分子) として、N1-methyladenosine (m1A) を位置58に持つm1A58修飾がTRMT61A (tRNA methyltransferase 61A)/TRMT6 (tRNA methyltransferase 6) により触媒され翻訳開始・延長を増強することが in vitro で示されてきた (Saikia et al. 2010 RNA; Liu et al. 2016 Nat Chem Biol)。しかし、これら in vitro 知見にもかかわらず、tRNA-m1A58修飾の in vivo における免疫機能・生理的役割は依然として未解明であり、T細胞介在性病態における意義についての知見は完全に不足したまま残されていた。とりわけ、活性化T細胞がMYC量を転写と翻訳のどちらの層で決定するのかは長く controversial な論点であった。本研究はこの gap in knowledge を埋めることを動機とする。

目的

T細胞活性化時のtRNA-m1A58修飾の発現・修飾動態を網羅的に明らかにし、TRMT61A/TRMT6を介したm1A58修飾がMYC蛋白の翻訳効率増強を通じてT細胞の増殖・細胞周期進行を制御する機構と、その in vivo での生理的役割 (T細胞介在性大腸炎) を、遺伝子改変マウスを用いて検証すること。

結果

tRNA動態と翻訳プログラムが活性化初期に選択的に作動する:tRNA-seqで0, 6, 18, 48時間の発現を解析し、tRNA転写産物を6クラスタ (T1-T6) に分類した。クラスタT1は6時間で早期かつ顕著に上昇後に漸減、T2は6時間で上昇し18時間でさらに上昇、T1-T4は全体的上昇パターンを示した。KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) パスウェイ解析では “Translation” が活性化初期に最も活発なプロセスであり、翻訳制御が重要な役割を担うことが示された (Fig 1c)。tRNA methylation-seqでm1A58、m1G9、m1G37、m3Cの4種を検出し、定量tRNA-m1A-seqではALKB脱メチル化処理対照 (-) に対し脱メチル化 (+) でミスマッチ率が3-fold以上かつ差10%超に上昇する塩基をm1A58部位と同定した (n=3)。m1G9・m1G37・m3Cも同一の3-fold以上ミスマッチ基準で検出した。m1A58は他の3修飾より圧倒的に高レベルで、活性化過程・各組織を通じて恒常的に維持されていた。real-time PCRで Trmt6Trmt61a mRNAが6時間postactivationから上昇し (n=3, P=0.0008, P<0.0001; Fig 1f)、ChIP real-time PCRでTCRシグナル下流のc-JUN・FOSL2が Trmt61a 遺伝子領域に結合した (n=3, P<0.0001)。

Trmt61a-KOはm1A58を特異的に失いT細胞恒常性が破綻する:Trmt61a-KO CD4+ T細胞では Trmt61a mRNAと蛋白が特異的に欠失し (Fig 2a)、LC-MSでm1A/A比が有意に低下した一方 (n=6, P<0.0001; Fig 2b)、tRNA発現量自体は不変であった (Fig 2c)。胸腺でのT細胞発生は正常で Trmt61a 欠失は分化を妨げなかったが、末梢リンパ器官では活性化T細胞の割合が有意に減少した。脾臓では総CD4+/CD8+およびnaive T細胞が減少する一方リンパ節では増加し、T細胞恒常性崩壊に典型的な分布異常を示した。

養子移入大腸炎が完全に抑制されるRag2-/- にWT naive CD4+ T細胞を移入すると5週目から体重減少が始まり、12週で重篤な大腸炎 (下痢、被毛逆立、活動低下、腸壁肥厚、crypt abscess形成、CD3+細胞の経壁浸潤) とwasting syndromeを発症した (n=8匹, P<0.0001, two-way ANOVA; Fig 2d)。内視鏡スコアも有意に高かった (n=5匹, P=0.0002; Fig 2e)。これに対しTrmt61a-KO naive T細胞移入マウスは12週まで体重増加を継続し、内視鏡所見・大腸長ともに正常で大腸炎がほぼ完全に抑制された。移入12週後、WT T細胞は安定した細胞集団を形成したがKO T細胞は脾臓・リンパ節からほぼ消失し (n=4, P=0.0011, P<0.0001; Fig 2h)、in vivoでの増殖障害が病態軽減の基盤であった。

細胞周期がG0-G1で停止し増殖が触媒活性依存的に障害される:CellTrace希釈アッセイでTrmt61a欠失T細胞はWTより著しく低い増殖を示し (n=4, P=0.0014; Fig 3a)、in vivo恒常性増殖でも Rag2-/- 内で増殖できなかった。細胞周期解析ではS期分画が減少しG0-G1期分画が顕著に増加して周期進行の停止が示され (n=3, P<0.0001; Fig 3d)、side-scatterで示される顆粒度も低下した。WT Trmt61a 再導入は増殖障害を回復させたが、m1A58触媒不活性 (D181A) Trmt61a は回復させず (n=3, P=0.0034, P<0.0001; Fig 3e)、m1A58触媒活性そのものが必須と判明した。触媒パートナーTRMT6のKOも同一表現型を示し、Th1・Th17・iTreg分化能も低下した。

MYC蛋白の翻訳効率低下が表現型の中核機構である:活性化Trmt61a-KO細胞では細胞代謝・細胞周期関連遺伝子が転写レベルで下方制御され (Fig 4a,b)、MYC蛋白が顕著に減少する一方 Myc mRNAは保持されていた (Fig 4d)。下流のCDK2・cyclin E1蛋白も減少し (real-time PCRで Cdk2/Ccne1、n=3, P=0.0120 (24h), P=0.0164 (48h))、ユビキチン阻害剤MG132はMYC減少を回復させずタンパク分解亢進は否定された。ポリリボソーム real-time PCRで Myc mRNA上のリボソーム占有が劇的に低下し (n=3, P=0.0032; Fig 4f)、initiator-methionine tRNAのm1A58・発現は不変であったことから翻訳”伸長”段階の制御と判明した。RiboTag-seq (6時間) ではm1A枯渇が MycRhoa を含む114遺伝子のTEを低下させ (Fig 6a)、TE-down遺伝子は翻訳・リボソーム生合成に濃縮し (Fig 6b)、8時間プロテオミクスの持続的増加蛋白群と有意に重複した (114中38遺伝子)。codon-switchで Myc の最頻serine/leucineコドン (TCC/AGC→TCG, TTG/CTG→CTT) を非依存性同義コドンに置換するとKO細胞でMYC発現が回復し (Fig 5b)、cluster T1 (n=20)・T2 (n=26) tRNAのm1A58修飾がKOで有意低下して (P=0.0170, P=0.0009; Fig 6e) コドンバイアス依存的翻訳が裏付けられた。HSCへのMYC過剰発現はTrmt61a-KO T細胞の増殖障害を機能的にレスキューした (n=3, P=0.0257; Fig 5e)。

考察/結論

本研究はtRNA-m1A58修飾がT細胞活性化時の翻訳チェックポイントとして機能し、MYC蛋白合成を介して細胞周期進行とクローン増殖を制御するという新規なエピトランスクリプトーム機構をin vivoで実証した。これまでの研究や既報の多くがαβ T細胞活性化を Myc mRNA量の上昇という転写レベルで説明してきたのとは対照的に、本研究はmRNA量ではなく翻訳効率レベルでMYCを制御する新たな層を加えた点で相違する。著者らが先に報告したmRNA-m6A修飾やBTG1/BTG2介在のpoly(A)鎖制御が休眠からの離脱の”ブレーキを外す”のに対し、tRNA-m1A58はT細胞増殖の”アクセル”として働くという対比は本研究で初めて示された新規な概念枠組みであり、RNA修飾が免疫細胞運命を多層的に統御するという近年の理解とも合致する (Slater et al. TrendsCancer 2026, Luo et al. NatRevCancer 2026)。蛋白恒常性 (proteostasis) がT細胞の分化能・機能を支えるという知見とも整合する (Scharping et al. Cell 2026)。

臨床的意義として、TRMT61A/TRMT6は潰瘍性大腸炎・クローン病などの自己免疫性腸炎や、移植片対宿主病・乾癬・多発性硬化症といったT細胞介在性炎症性疾患の治療標的となりうる。小分子TRMT阻害剤は既存生物学的製剤とは異なる作用機序の免疫抑制薬を提供しうる一方、CAR-T・TCR-T療法ではTRMT61A活性の強化によりT細胞増殖の持続性を高めるという bench-to-bedside の臨床応用も期待され、本研究はがん免疫療法における新戦略への橋渡しとなる臨床的含意を持つ。残された課題として、CD8+ T細胞や他サブセット (Treg・Th17) への一般化、ヒト疾患組織でのm1A58動態、組織特異的m1A58基質tRNAの網羅的同定、代謝・アポトーシスとの交絡排除があり、tRNA発現がどのように順次活性化されるかの上流機構の解明を含めた今後の検討が必要である。これらの limitation を踏まえても、本研究はm1A修飾tRNAがエピジェネティックな翻訳調節因子として増殖中T細胞の全体的翻訳を制御するモデルを確立した。

方法

マウスモデル (Identifier): CRISPR-Cas9で Trmt61a flox/flox および Trmt6 flox/flox マウスを作製し、Cd4-Cre マウスと交配してT細胞特異的条件付きノックアウト (KO; knockout) を得た。レスキューには触媒不活性D181A変異TRMT61Aレトロウイルス、RiboTag flox/flox Cd4-Cre マウス、Rag2-/- レシピエント、放射線照射WTマウス + HSC (hematopoietic stem cell) キメラ、HEK293T/293Tパッケージング細胞を用いた。配列データは GEO GSE184909 に登録。

オミクス・分子解析: naive CD4+ T細胞を plate-bound anti-CD3 (5 μg ml-1) + anti-CD28 (2 μg ml-1) で0, 3, 6, 18, 48時間活性化後、RNA-seq、tRNA-seq、定量tRNA-m1A-seq (ALKB脱メチル化処理±、ミスマッチ率3-fold以上をm1A部位と定義)、RiboTag-seq、ポリリボソーム real-time PCR を実施。総tRNAのm1A/A比は液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS; liquid chromatography mass spectrometry) で定量し、ALKB反応緩衝液は300 μM 2-ketoglutarateを含んだ。TCRシグナル下流転写因子の Trmt61a 結合は ChIP (chromatin immunoprecipitation) real-time PCR で検証した。

機能アッセイ・病態モデル: CellTrace希釈による増殖、BrdU/7-AADによる細胞周期、annexin V/7-AADによるアポトーシス、Th1/Th17/iTreg分化、codon-switch (同義コドン置換) によるMYC/CDK2/RHOAレスキューを評価。移入大腸炎は WTまたはTrmt61a-KO の CD4+CD25-CD45RBhi naive T細胞 0.5 million を Rag2-/- に移入し12週まで体重・内視鏡スコア・組織像を追跡。

統計: 群間比較は two-tailed unpaired Student’s t-test と two-way ANOVA、複数群は one-way ANOVA with Tukey’s multiple comparisons、修飾レベルは two-sided Wilcoxon signed-rank test、エンリッチメントは hypergeometric test、発現差解析は DESeq2 (negative binomial) で行い、P値は Benjamini-Hochberg 法で補正、mean ± s.e.m. で表記した。