• 著者: Veneziani I, Infante P, Ferretti E, Melaiu O, Battistelli C, Lucarini V, Compagnone M, Nicoletti C, Castellano A, Petrini S, Ognibene M, Pezzolo A, Di Marcotullio L, Bei R, Moretta L, Pistoia V, Fruci D, Barnaba V, Locatelli F, Cifaldi L
  • Corresponding author: Loredana Cifaldi (University of Rome Tor Vergata)
  • 雑誌: Cancer immunology research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-12-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33303573

背景

神経芽腫 (neuroblastoma) は小児に最も頻度の高い頭蓋外固形腫瘍であり、集学的治療にもかかわらず3年無イベント生存率は40%未満と依然として予後不良である (Maris JM, N Engl J Med 2010)。NK (natural killer) 細胞を介した自然免疫監視機構は神経芽腫の主要な抗腫瘍エフェクターとして期待されるが、神経芽腫はNK細胞活性化受容体 (NK-AR) であるNKG2DおよびDNAM-1のリガンド発現を選択的に低下させることでNK細胞による殺傷を回避することが示されている (Raffaghello L et al. Neoplasia 2004; Marcus A et al. Adv Immunol 2014)。この免疫逃避機構にはMYCN増幅が深く関与しており、MYCNはp53の拮抗因子であるMDM2を転写標的として上方制御し、p53機能を機能的に不活化することが報告されている (Slack A et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005)。野生型p53を保有する神経芽腫においてNKG2Dリガンド発現がMYCN発現と逆相関することは Brandetti et al. Oncoimmunology 2017 で示されていたが、DNAM-1リガンドであるPVR (poliovirus receptor/CD155) およびNectin-2 (nectin cell adhesion molecule 2) の発現を制御する転写制御機構については未解明な点が残されていた。特にp53との直接的な転写制御関係はこれまで報告されておらず、この領域に知識のギャップが存在した。

MDM2阻害薬Nutlin-3a (Nutlin-3a) はp53-MDM2タンパク質相互作用を拮抗することでp53機能を回復させ、細胞周期停止やアポトーシスを誘導することが知られていたが (Vassilev LT et al. Science 2004)、その免疫調節活性、特にNK細胞活性化リガンドへの影響については知見が手薄であった。先行研究では、神経芽腫細胞株は従来の化学療法薬によるNK細胞活性化リガンド誘導に対して不応性であることが示されており (Veneziani I et al. J Immunol Res 2018)、さらに Veneziani et al. Oncotarget 2019 が報告したBETブロモドメイン阻害薬JQ1は、MYCNを効率的に抑制するにもかかわらずNK細胞活性化リガンド発現を改善しないことが示されていた。これらの背景から、有効なNK細胞ベース免疫療法と組み合わせ可能な新規アプローチの探索が強く求められていた。本研究は、この知識のギャップを埋め、Nutlin-3aが神経芽腫のNK細胞免疫監視を回復させる可能性を多角的に評価することを目的とした。

目的

MDM2阻害薬Nutlin-3aによるp53機能回復が、神経芽腫細胞のNKG2DリガンドおよびDNAM-1リガンド発現を転写レベルで調節するかどうかを検証すること。特に、p53によるDNAM-1リガンドPVRプロモーターへの直接結合の分子メカニズムを解明すること。さらに、Nutlin-3aとNK細胞養子移入療法との組み合わせによる抗腫瘍効果を前臨床in vitroおよびin vivoモデルで評価し、高リスク神経芽腫に対する新規免疫療法の可能性を探ることを目的とした。

結果

p53野生型神経芽腫細胞株におけるNK細胞活性化リガンド発現の上昇: p53野生型神経芽腫細胞株LA-N-5およびSMS-KCNR (MYCN増幅) にNutlin-3a (2 μmol/L) を48時間処理すると、NKG2D受容体リガンドであるULBP1、ULBP2/5/6、ULBP3とDNAM-1受容体リガンドであるPVRおよびNectin-2の細胞表面発現が有意に上昇した (いずれもp<0.001) (Fig 1A)。この上昇はpreapoptotic濃度 (2 μmol/L) でのみ認められ、高用量 (4〜8 μmol/L) ではアポトーシスが主体となった。5回の独立実験 (n=5) を通じてMFI (mean fluorescence intensity) の mean ± SD で一貫した再現性が確認された。定量解析ではPVRが対照比3-fold、ULBP1が2-fold上昇し (p<0.001)、用量依存性を示した。MICAおよびMICBの発現はいずれの細胞株でも変化せず、p53変異型SK-N-BE(2)c細胞ではNutlin-3a処理後のリガンド発現変化が認められなかった。MYCN非増幅のSH-SY5Y細胞ではNKG2Dリガンド (ULBP1、ULBP3) のみが有意に上昇した。Nutlin-3a処理は同時にp53、MDM2、p21を用量依存的に誘導したが、MYCN発現には低用量では影響を与えなかった (高用量のLA-N-5を除く)。これらの結果は、Nutlin-3aによるp53機能回復がNK細胞活性化リガンド発現を転写依存的に誘導することを示している。

NK細胞殺傷感受性の増強とDNAM-1経路の主要な役割: Nutlin-3a処理LA-N-5およびSMS-KCNR細胞を標的として健常ドナー由来NK細胞 (n=10名) との4時間51Cr遊離アッセイを実施すると、全E:T (effector:target) 比においてDMSO対照群に比較して有意に高い溶解率を示した (p<0.001) (Fig 1D、E)。NK細胞の脱顆粒 (CD107a発現) もNutlin-3a処理神経芽腫細胞との共培養で有意に増大した (p<0.01) (Fig 1B、C)。受容体寄与の解析として抗NKG2D (25 μg/mL) および抗DNAM-1 (DX11) 中和抗体を用いたブロッキング実験 (n=6ドナー) では、DNAM-1の中和がNKG2D中和よりも有意にNK細胞認識を減弱させ (p<0.01)、DNAM-1経路がNutlin-3a処理後の主要な認識経路であることが示された (Fig 1F、G)。重要なことに、Nutlin-3a処理はNK細胞自身のNKG2D・DNAM-1活性化受容体やTIGIT阻害受容体の発現に影響せず、NK細胞の脱顆粒能も変化しなかったため、観察された効果は腫瘍細胞側のリガンド変化によるものと確認された。タイムラプス共焦点顕微鏡ライブイメージングでは、Nutlin-3a処理LA-N-5細胞はNK細胞添加後3時間でDMSO対照群に比べて腫瘍細胞群の面積が有意に縮小し、リアルタイムでの殺傷増強が可視化された。

p53によるPVRプロモーターへの直接結合と転写制御: 143例の神経芽腫患者コホート (Target 2018、cBioportal) の転写発現相関解析では、TP53の発現はPVR発現とのみ有意な正相関を示し、他のNKG2D・DNAM-1リガンド (ULBP1-3、MICB、Nectin-2) との有意な相関は認められなかった。この相関は自施設36例のNanoString解析でも独立に確認された (R² = 0.24、p<0.05) (Fig 2A)。TRAP (Transcription Factor Affinity Prediction) バイオインフォマティクス解析によりPVRプロモーター上に6箇所のp53推定結合部位が同定された一方、ULBP3プロモーターには1箇所のみ、他のリガンドプロモーターには予測結合部位が存在しなかった。ルシフェラーゼレポーターアッセイ (4反復) では、TSS上流879 bpの完全長PVRプロモーター構築物と比較して、4箇所p53結合部位 (TSS上流879〜437 bp) を欠失させた構築物でルシフェラーゼ活性が有意に減少した (p<0.05) (Fig 2C)。さらに、Nutlin-3a処理 (2 μmol/L、16時間) LA-N-5細胞を用いたChIPアッセイ (3反復) では、抗p53抗体によって免疫沈降したクロマチンがPVRプロモーター上の高親和性推定p53結合部位領域を有意に高率で含んでいた (p<0.05) (Fig 2D)。これらの複数の独立した実験的手法の結果は、p53がPVR転写を直接制御する転写因子であることを支持する。

In vivo腫瘍増殖抑制、NK細胞浸潤促進および患者由来初代細胞への効果: LA-N-5担癌NSGマウスにNutlin-3a (20または40 mg/kg、2日ごと12日間) を腹腔内投与した第一段階実験では、腫瘍組織のIHC (immunohistochemistry) 解析においてPVRおよびNectin-2の発現強度が対照群と比較して用量依存的に有意に増強した (p<0.001) (Fig 3B、C)。腫瘍増殖速度および腫瘍内アポトーシス率はこの条件では変化せず、preapoptotic濃度での選択的リガンド誘導がin vivoでも確認された。抗腫瘍効果実験 (各群n=6マウス、3サイクル) では、Nutlin-3a (40 mg/kg) +NK細胞 (5×10^6個、腫瘍周囲移入) +IL-2 (10^3 U/マウス) の3剤併用群 (g5) が、すべての対照群 (g1〜g4) と比較して腫瘍増殖を有意に抑制し (p<0.01) (Fig 4B、C)、カプラン・マイヤー解析では50日モニタリングで50%の生存率を達成した (p<0.001) (Fig 4D)。NKp46+ NK細胞数のIHC定量 (5スライド/3腫瘍塊) では、g5群の腫瘍周囲帯および腫瘍内NK細胞浸潤がg4群 (NK細胞+IL-2のみ) と比較して有意に多く (p<0.01)、Nutlin-3aが腫瘍内NK細胞の浸潤・保持を促進することが示された (Fig 4E、F)。患者由来初代神経芽腫細胞 (n=26例の骨髄穿刺液から単離) においても、9患者由来細胞での測定でNutlin-3a処理によりNKG2DおよびDNAM-1リガンド発現が有意に上昇した (p<0.01〜0.001) (Fig 5A)。特にMYCN増幅・ALK増幅のINSS (International Neuroblastoma Staging System) stage 4最高リスク患者 (p1) 由来の神経芽腫スフェロイド (230個解析) にNutlin-3a前処理後にNK細胞を16時間共培養すると、スフェロイド最大径が有意に縮小し (p<0.001) (Fig 5C)、Annexin V/PI染色によるアポトーシスも有意に増加した (p<0.001) (Fig 5D)。DMSO前処理+NK細胞群ではスフェロイドはほぼ崩壊しなかった。

考察/結論

本研究は、MDM2阻害薬Nutlin-3aがpreapoptotic濃度においてp53機能の回復を介してNK細胞活性化リガンド (NKG2D・DNAM-1系) の転写誘導を引き起こし、神経芽腫のNK細胞感受性をin vitro・in vivoの両モデルで増強することを示した。神経芽腫ではMYCN増幅がMDM2を転写活性化してp53を機能的に抑制し、NK細胞活性化リガンド発現を低下させるという免疫逃避の病態生物学的悪循環が存在するが、Nutlin-3aはこの連鎖を標的とすることで抗腫瘍NK細胞免疫を回復させる。

先行研究との違い: これまでの研究では、神経芽腫細胞株は従来の化学療法薬によるNK細胞活性化リガンド誘導に対して不応性であることが示されており、さらに Veneziani et al. Oncotarget 2019 が報告したBETブロモドメイン阻害薬JQ1は、MYCN抑制にもかかわらずリガンド発現を改善しないことと対照的に、Nutlin-3aはpreapoptotic濃度でリガンド発現を選択的かつ転写依存的に誘導する点で先行報告とは異なる特性を持つ。また、NK細胞側のシグナル伝達を強化する Chang et al. CancerRes 2013 のキメラ受容体アプローチとは対照的に、本研究では腫瘍細胞側の「免疫原性」を転写レベルで高める観点でNutlin-3aが機能する点が novel な戦略である。Nutlin-3aはNK細胞自身の活性化・阻害受容体 (NKG2D、DNAM-1、TIGIT、KIR (Killer Immunoglobulin-like Receptor)) の発現と機能に影響を与えないことが確認されており、その効果はひとえに腫瘍細胞のリガンド変化に依存している。

新規性: 本研究で新規に示された重要な点として、p53がPVRリガンドのプロモーターに直接結合してその転写を制御する転写因子であることが、ルシフェラーゼアッセイとChIPアッセイの2つの独立したアプローチにより実験的に確認された。既報ではp53がULBP1・ULBP2リガンドに対して遺伝子イントロン内のp53応答配列を介して転写因子として機能することが知られていたが、DNAMリガンドプロモーターへの直接結合はこれまで報告されていない。この発見はp53を単なるアポトーシス誘導因子としてではなく、NK細胞免疫監視の上流転写制御因子として位置づけ直すものである。また、Nutlin-3aによるin vivoでのNK細胞腫瘍浸潤促進 (NKp46+細胞数の有意増加) は、PVR・Nectin-2リガンドを介したNK細胞の保持・シグナリング強化が腫瘍微小環境に変化をもたらすことを示唆し、リガンド誘導による免疫浸潤改善という新規の免疫調節メカニズムを提示する。

臨床応用: Nutlin-3aのアナログ (RG7112、AMG 232、HDM201等) は現在、小細胞肺がん・乳がん・肉腫・グリオブラストーマを含む複数の固形腫瘍を対象とした臨床試験に進んでおり、その臨床的意義は神経芽腫以外にも広がる可能性がある。特に小児腫瘍は診断時にp53野生型を保有する頻度が成人腫瘍より高く、Nutlin-3aによる免疫調節作用を活かした臨床応用が期待される。Nutlin-3aは正常細胞に対して非毒性であることが確認されており、がん局所でpreapoptotic濃度に達した際に免疫調節と細胞傷害の二面的効果が補完的に作用する可能性がある。本研究で示されたNutlin-3a+NK細胞養子移入療法の組み合わせは高リスク神経芽腫に対する有望なbench-to-bedsideの橋渡し戦略として、臨床的含意を持つ。

残された課題: PVR以外のNK細胞活性化リガンド (ULBP1-3、Nectin-2) についてはp53の直接プロモーター結合が確認されておらず、p21依存的な細胞周期停止・早期老化 (premature senescence) を介した間接的制御機構の解明が今後の検討課題である。Nutlin-3aによるin vivoでのNK細胞腫瘍浸潤促進の詳細メカニズム (ケモカイン産生変化・接着分子修飾等) についても更なる検討が必要である。p53変異型神経芽腫 (再発時に出現することがある) やMDM2増幅腫瘍に対する代替戦略、ならびにNutlin-3aアナログと免疫療法の最適組み合わせ・投与スケジュールの最適化についても今後の研究が必要であり、ヒト臨床試験でのlimitationとして安全性・有効性の確認が残されている。

方法

細胞株および試薬: p53野生型神経芽腫細胞株LA-N-5 (LA-N-5) およびSMS-KCNR (SMS-KCNR) (いずれもMYCN増幅)、SH-SY5Y (MYCN非増幅) とp53変異型SK-N-BE(2)cを使用した。ヒト赤白血病細胞株K562をNK細胞機能アッセイの対照として用いた。Nutlin-3a (Cayman Chemical) はDMSOに溶解し10 mmol/L原液を調製、in vitro実験では2〜8 μmol/Lで処理した。in vivo実験ではエタノール溶解後にHP-beta-CD (hydroxypropyl-beta-cyclodextrin) で希釈して投与した。

初代細胞分離: 26名の神経芽腫患者の骨髄穿刺液からCD45+細胞除去 (RosetteSep) とFicoll遠心により初代神経芽腫細胞を単離した (純度約90% GD2+)。健常ドナー由来NK細胞はRosetteSep NK-cell enrichment cocktailにより単離し (純度約98% CD3-CD56+)、NK MACS培地+IL-2 (500 IU/mL) で培養した。NK細胞はNKG2D、DNAM-1活性化受容体およびNKG2A、KIR2DL1、KIR2DL3、KIR3DL1抑制性受容体の発現をフローサイトメトリーで定期的に確認した。

フローサイトメトリーおよび細胞傷害アッセイ: NKG2Dリガンド (ULBP1、ULBP2/5/6、ULBP3、MICA、MICB) およびDNAM-1リガンド (PVR、Nectin-2) の細胞表面発現をフローサイトメトリー (BD FACSCantoII/LSRFortessa) で解析した。NK細胞の細胞傷害活性は4時間51Cr遊離アッセイで評価し、脱顆粒はCD107a発現 (フローサイトメトリー) で評価した。受容体の寄与解析には抗NKG2D抗体 (25 μg/mL) および抗DNAM-1抗体 (DX11) による中和実験を実施し、各条件3反復で検定した。

転写制御解析: p53によるPVRプロモーター制御の検証として、ルシフェラーゼレポーターアッセイ (pGL3-PVRプロモーター完全長構築物: TSS (transcription start site) 上流879 bp、および4箇所p53結合部位欠失構築物: TSS上流437 bp) をLA-N-5細胞にLipofectamine 2000でトランスフェクションし4反復で比較した。ChIP (chromatin immunoprecipitation) アッセイでは、Nutlin-3a (2 μmol/L、16時間) 処理LA-N-5細胞を使用し、抗p53抗体 (CST) によるPVRプロモーター上の高親和性推定p53結合部位への結合を定量PCRで検証した (3反復)。TP53とPVRの発現相関は143例の神経芽腫患者コホート (Target 2018、cBioportal) および自施設36例のNanoString PanCancer Immune Profiling assay (730遺伝子パネル、R/BioconductorのNanoStringNormで前処理) で評価した。バイオインフォマティクス解析はTRAP (Transcription Factor Affinity Prediction) ウェブサイトで実施した。

In vivo実験: 4〜6週齢雌NSG (NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ) マウスの右側腹部にLA-N-5細胞 (5×10^6個) を皮下移植した異種移植モデルを使用した。腫瘍が約50 mm^3に達した時点 (移植後20〜25日) でNutlin-3a (20または40 mg/kg、2日ごと腹腔内) を投与し、抗腫瘍効果実験では5群 (g1=vehicle、g2=IL-2+vehicle、g3=Nutlin-3a+vehicle、g4=NK細胞+IL-2+vehicle、g5=Nutlin-3a+NK細胞+IL-2) 各n=6マウス、3治療サイクルを実施した。生存期間はカプラン・マイヤー法でプロットし、log-rank (Mantel-Haenszel) 検定で解析した。統計は両側unpaired Student t検定 (有意水準p<0.05) を基本とし、相関解析はGraphPad Prismによる回帰分析で行った。