• 著者: Yu-Hsiang Chang, John Connolly, Noriko Shimasaki, Kousaku Mimura, Koji Kono, Dario Campana
  • Corresponding author: Dario Campana (National University of Singapore)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23302231

背景

自然免疫細胞であるNK細胞は、MHC非依存的に腫瘍細胞を認識・殺傷する能力を持ち、癌免疫療法において有望なアプローチとして注目されている。NK細胞の抗腫瘍活性は、NKG2D (NK Group 2 member D) を含む活性化受容体と抑制性受容体のバランスによって厳密に制御されている。NKG2Dは、全てのNK細胞および一部のT細胞サブセットに発現する主要な活性化受容体であり、腫瘍細胞やウイルス感染細胞で誘導されるストレスリガンド (MICA、MICB、ULBP1-3) を認識する Raulet et al. NatRevImmunol 2003、Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1999。NKG2DはDAP10 (DNAX-activating protein 10) と会合することでその表面発現と安定化が促進され、またCD3ζ (CD3 zeta) はNK細胞の細胞傷害性シグナル伝達において重要な役割を果たすことが知られている (Wu et al. Science 1999)。これまでの研究では、NK細胞に超生理学的な活性化シグナルを付与することで抗腫瘍能を増強できるという仮説のもと、様々なアプローチが試みられてきた。しかし、NKG2D、DAP10、CD3ζを組み合わせたキメラ受容体の詳細な機能解析、特に広範な腫瘍に対する効果、in vivoでの抗腫瘍活性、および正常細胞への影響については、未解明な点が多かった。これらの課題が残されており、さらなる検証が不足していた。

目的

本研究の目的は、NKG2D、DAP10、CD3ζの3つの要素を一体化した新規キメラ受容体 (NKG2D-DAP10-CD3ζ) をヒト活性化NK細胞に発現させ、そのシグナル伝達特性、広範な腫瘍細胞株に対する細胞傷害増強効果、正常細胞への影響、in vivoでの抗腫瘍効果を詳細に検証することである。さらに、臨床応用を見据え、非ウイルス性の遺伝子導入法であるmRNA電気穿孔法 (electroporation) の有効性も評価することを目的とした。

結果

NKG2D-DAP10-CD3ζキメラ受容体の発現とDAP10の寄与: 21例のドナー由来NK細胞において、NKG2D-DAP10-CD3ζレトロウイルス導入により、NKG2D表面発現量 (MFI) がmock導入細胞と比較して著明に増加した (p < 0.0001) (Fig 1B)。DAP10を含まないNKG2D-CD3ζ単体を発現させた場合と比較しても、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入細胞の方が高いNKG2D発現量 (p = 0.0027) を示し、DAP10の同時発現がキメラ受容体の表面安定化に重要であることが確認された (Fig 1C)。Westernブロット解析により、キメラpCD3ζタンパク質の発現も確認された (Fig 1E)。

広範な腫瘍細胞株に対する細胞傷害活性の著明な増強: 白血病、骨肉腫、前立腺癌、横紋筋肉腫、神経芽腫など22株の腫瘍細胞株に対する65実験の結果、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞は、mock導入NK細胞と比較して、全ての腫瘍細胞株に対して細胞傷害活性が有意に増加した (p < 0.0001)。特に、REH、MOLT-4、CEM-C7 (ALL株)、U-2 OS、MG-36、HOS (骨肉腫株)、DU 145、PC-3 (前立腺癌)、RH36 (横紋筋肉腫) で顕著な細胞傷害性増強が認められた (Fig 2C)。唯一の例外はB-ALL株OP-1で、NKG2Dリガンド (MICA/B、ULBP1-3) が陰性であったため、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入後も抵抗性を維持した。これは、本療法がNKG2Dリガンド発現に依存することを示唆する。NKG2D阻害抗体による前処理は、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞の細胞傷害性増強効果を著明に抑制した (p < 0.001) (Fig 3B)。

正常細胞に対する選択的安全性: allogeneic PBMCおよび骨髄由来間葉系細胞 (MSC) に対する細胞傷害アッセイでは、E:T比1:1において細胞傷害率が20%未満にとどまり、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入細胞とmock導入細胞間で有意差は認められなかった (p > 0.05)。この結果は、NKG2Dリガンドを低発現する正常細胞に対する毒性の増加がなく、腫瘍選択的な細胞傷害増強が確認されたことを示唆する (Fig 2D)。

シグナル伝達経路の活性化とサイトカイン分泌プロファイルの変容: NKG2D刺激後のKinex抗リン酸化抗体アレイ (809種) 解析により、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞では、転写因子CREB1、NFκB活性化に関わるTBK1、およびAKT (protein kinase B) を調節するACK1のリン酸化がmock導入NK細胞と比較して著明に増加した (Fig 4A)。機能性サイトカインとして、IFNγ、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)、IL-13、MIP-1α、MIP-1β、CCL5、TNFαが対照群より有意に高い産生を示した (2-way ANOVA p < 0.01) (Fig 4B)。他の32種のサイトカイン/ケモカインには有意差がなく、特異的なサイトカインプロファイルが確認された。

持続的な刺激に対する脱顆粒能の維持: NKG2DリガンドによるCD107a (脱顆粒マーカー) 発現は、48時間の持続的なNKG2D刺激後もNKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞で維持された。一方、mock導入NK細胞では24時間後には脱顆粒能が喪失した。この結果は、CD3ζシグナルがNKG2D単独刺激に比べてNK細胞の活性化の持続性を高めることを示している (Fig 4C)。

in vivo骨肉腫モデルにおける抗腫瘍効果と非ウイルス性遺伝子導入法の確立: NSGマウスを用いたU-2 OS骨肉腫異種移植モデルにおいて、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞は、腫瘍移植7日後の単回投与で腫瘍シグナルを著明に減少させた。14日目の腫瘍量は、mock導入NK細胞治療群 (腫瘍増殖あり) と比較して有意に低かった (2-way ANOVA p = 0.0028) (Fig 5)。このモデルでは、NKG2D-DAP10-CD3ζ導入NK細胞群の腫瘍シグナルは平均で約10^8 photons/secondであったのに対し、mock導入NK細胞群では約10^9 photons/secondと約10倍高かった。さらに、mRNA電気穿孔法 (NKG2D-CD3ζ + DAP10 mRNA) でも高いNKG2D発現と増強された細胞傷害活性が確認された (p = 0.030)。これにより、レトロウイルス製造の制約を回避し、簡便かつ効率的な臨床応用経路が示された (Fig 6)。

考察/結論

本研究は、NKG2D-DAP10-CD3ζキメラ受容体 (CAR-NK) をNK細胞に導入することで、白血病や骨肉腫を含む広範な腫瘍タイプに対する細胞傷害活性を大幅に増強できることを実証した。

先行研究との違い: 既存のCAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法が特定の腫瘍関連抗原に依存するのに対し、本アプローチはNKG2Dリガンド (MICA/B、ULBP1-3等) が広範な腫瘍で発現誘導されるという点で、これまでの抗原特異的療法とは対照的である。また、DAP10の同時発現がNKG2Dの表面安定化に寄与するという知見は、NKG2D-CD3ζ単独のキメラ受容体を用いた先行研究と異なり、より効率的な受容体発現と機能増強を可能にすることを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、NKG2D、DAP10、CD3ζの3つの要素を組み合わせたキメラ受容体が、NK細胞の抗腫瘍活性を著明に増強し、かつその活性が持続的であることをin vitroおよびin vivoの両方で新規に示した。特に、NKG2Dリガンド刺激に対する脱顆粒能が48時間後も維持されるという発見は、これまでのNKG2D単独刺激では報告されていない持続性であり、NK細胞の疲弊を克服する新規メカニズムを示唆する。

臨床応用: 本知見は、広範な癌種に対する汎用的なNK細胞療法の基盤となりうる。NKG2Dリガンドを低発現する正常細胞に対する細胞傷害性の増加がなかったという結果は、本療法の臨床的安全性を示唆する重要なデータである。さらに、mRNA電気穿孔法による効率的な受容体発現は、レトロウイルス製造の制約を回避し、大量のNK細胞への高効率発現を可能にするため、臨床応用への実用的な経路を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、NKG2Dリガンド発現が陰性の腫瘍に対する治療戦略の確立が残されている。また、in vivoモデルにおけるNK細胞の単回投与とIL-2の短期間投与では腫瘍の完全排除には至らなかったため、NK細胞の複数回投与やIL-2の長期投与、あるいは他の免疫療法との併用効果についても検討が必要である。Limitationとして、本研究はマウス異種移植モデルでの検証にとどまっており、ヒト臨床試験での安全性と有効性の確認が不可欠である。

方法

健常ドナー21例から末梢血単核球 (PBMC) を収集し、K562-mb15-41BBL細胞株との共培養により7日間でNK細胞 (>98% CD56+CD3-) を効率的に拡張した。NKG2D、FLAGタグ付きDAP10、およびCD3ζ細胞内ドメインを含むキメラ受容体をMSCVレトロウイルスベクターに組み込み、拡張NK細胞に導入した。対照群にはGFP (green fluorescent protein) のみを発現するベクターを導入した細胞 (mock導入) を用いた。評価対象とした腫瘍細胞株は、T細胞急性リンパ性白血病 (T-ALL) 3株 (CEM-C7, MOLT-4, Jurkat)、B細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL) 2株 (REH, OP-1)、骨肉腫3株 (U-2 OS, MG-36, HOS)、前立腺癌3株 (DU 145, PC-3, LNCaP)、横紋筋肉腫4株 (RH18, RH30, TE32, RH36)、神経芽腫 (SKNSH)、Ewing肉腫 (TC71)、大腸癌 (Km12L4)、胃癌 (SNU1)、肺扁平上皮癌 (SW900)、肝癌 (HepG2)、乳癌 (MCF7) を含む計22株 (合計65実験) であった。細胞傷害アッセイは、エフェクター対標的細胞比 (E:T比) 1:1または1:2で4時間実施した。シグナル伝達経路の解析には、809種の抗リン酸化抗体を含むKinexアレイを用いた。サイトカイン/ケモカイン分泌はLuminexパネルで測定した。in vivo抗腫瘍効果の検証には、NSGマウス (NOD/scid-IL2Rgnullマウス、n=4/群) にルシフェラーゼ発現U-2 OS細胞 (骨肉腫) 2×10^5個を腹腔内移植し、7日後にNK細胞 (3×10^6個) を単回投与する骨肉腫異種移植モデルを使用した。NK細胞投与後、IL-2を4日間腹腔内投与した。さらに、NKG2D-CD3ζおよびDAP10 mRNAの電気穿孔法による導入も試み、その発現効率と細胞傷害活性を評価した。統計解析には2-way ANOVAおよびt検定を用いた。