- 著者: Yang J, Yan C, Vilgelm AE, Chen SC, Ayers GD, Johnson CA, Richmond A
- Corresponding author: Ann Richmond (Vanderbilt University)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-11-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 33177110
背景
骨髄由来抑制細胞 (MDSC) は腫瘍微小環境 (TME)における免疫抑制の主要な担い手であり、顆粒球系 G-MDSC (granulocytic MDSC) と単球系 M-MDSC (monocytic MDSC) に分類されてともに強力なCD8+T細胞抑制能を示すことが Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009 らによって確立されている。MDSCは末梢血において臨床的な癌病期・転移腫瘍量と正に相関し、腫瘍進展・転移・免疫逃避において中心的役割を担う (Diaz-Montero et al. Cancer Immunol Immunother 2009; Gabrilovich et al. Nat Rev Immunol 2012)。CXCケモカイン受容体CXCR2はMDSCに発現し、腫瘍細胞から分泌されるCXCL1等のリガンドを介してMDSCの骨髄から末梢血・TMEへの動員を促進する経路として注目されてきた。CXCR2シグナルは骨髄からの好中球遊走にも関与し、造血幹細胞の自己複製・生存にも重要とされる。
腫瘍浸潤B細胞の予後への影響は腫瘍種によって相反する報告が存在する。原発性メラノーマではB細胞浸潤が改善予後と関連し (Erdag et al. Cancer Res 2012; Garg et al. Hum Pathol 2016)、一方で扁平上皮癌・膵臓腫瘍・前立腺癌では免疫抑制的B細胞が化学療法耐性や腫瘍促進に関与するとの報告もある。このような矛盾は腫瘍種・B細胞サブセット・TME構成の違いを反映しており、gap in knowledge として残されていた。特に、CXCR2シグナルが骨髄系細胞の挙動を通じてB細胞サブセットのTMEへの浸潤やケモカイン産生に与える影響については全く検討されておらず、何が足りなかったかという観点では骨髄系のCXCR2シグナル・B細胞・CD8+T細胞の三者連関を機能的に解析した研究が手薄であった。
目的
骨髄系細胞特異的CXCR2欠失モデル CXCR2mye△/△ (myeloid cell-specific CXCR2 knockout) を用いて、腫瘍内MDSCとB細胞サブセットの変化およびCD8+T細胞を介した抗腫瘍免疫増強の分子機序を解析する。B1b (CD5-negative B1 B cells) 細胞-CXCL11 (interferon-inducible T-cell chemoattractant)-CXCR3軸の機能的実証、薬理学的CXCR2阻害薬SX-682の単独・抗PD-1併用効果評価、そしてヒト乳癌・メラノーマコホートでの臨床的意義の検証を行うこと。
結果
骨髄系CXCR2欠失による腫瘍増殖抑制とMDSC・免疫細胞の広範なリプログラミング:CXCR2mye△/△マウスへのPyMT乳癌細胞静脈内投与 (n=8) から2週間後、腫瘍重量はCXCR2WT群の468 ± 81 mgに対してCXCR2mye△/△群で226 ± 107 mgと52%有意に低下した (p<0.001; Fig 1C)。Rich1.1メラノーマ皮下移植モデルでも同様の腫瘍抑制が認められた。末梢血の免疫プロファイルでは、CXCR2mye△/△腫瘍担癌マウスにおいて好中球 (CD11b+Ly6C-Ly6G+) が61%、マクロファージが52%減少し、B細胞が23%増加した (p<0.001)。腫瘍担癌時の末梢血M1マクロファージ (CD11b+F4/80+MHCII+CD206-) は2.2-fold増加した。腫瘍浸潤白血球 (TIL) フローサイトメトリー解析 (n=8) では、CXCR2mye△/△群でG-MDSCが36%、M-MDSCが29%減少した一方、M1様マクロファージが35%増加し、M2様マクロファージ (CD206+) が46%減少した (Fig 2A、2B)。エフェクターメモリーCD4+T細胞は29%増加し、ナイーブ・制御性T細胞は22%減少した (p<0.01)。CD107a+CD8+T細胞は49% (p<0.01)、CD69+CD8+T細胞は44% (p<0.05) 増加した (Fig 2F)。CD11c+MHCII+CD103+樹状細胞も40%増加した。CD8+T細胞を抗CD8α mAbで枯渇させた実験では腫瘍重量が2.1-fold増加 (896 ± 158 mg vs. 428 ± 155 mg、p<0.01、n=6; Fig 3A、3B) し、CD8+T細胞がCXCR2mye△/△の主要エフェクターであることが確認された。ex vivo細胞傷害性アッセイでは、CXCR2mye△/△由来腫瘍浸潤CD8+T細胞がWT由来より有意に高い殺傷活性を示し (Fig 3C)、CXCR2mye△/△由来MDSCはWT由来MDSCと比較してCD8+T細胞殺傷能の抑制が有意に軽減されており、MDSCの免疫抑制能がCXCR2シグナル依存的であることが証明された (Fig 3F)。CXCR2mye△/△由来MDSCはWT由来MDSCと比べてPyMT腫瘍細胞の増殖促進効果も減弱していた (Fig 3G)。
腫瘍浸潤B1b細胞によるCXCL11産生増大とCXCR3依存的CD8+T細胞動員軸の機能的実証:62種類サイトカインアレイ解析により、CXCR2mye△/△腫瘍担癌マウスの血清CXCL11はWT群と比較して72-fold高値であり、CXCL9も6-fold増加していた (Fig 4A)。ELISAによる組織別CXCL11測定では腫瘍組織が主要産生源であり、腫瘍なしマウスでは低値であった (Fig 4B-D)。腫瘍浸潤免疫細胞の細胞内CXCL11フローサイトメトリーでは、B220+B細胞が腫瘍内CXCL11の77%を産生しており、CXCR2mye△/△マウスのB細胞でCXCL11発現が有意に増加していた (Fig 5A)。B細胞サブセット解析 (CD19/B220/CD43/CD5マーカー) では、B1b細胞 (CD5-CD43highB220highCD19+) の腫瘍浸潤がCXCR2mye△/△群で有意に増加し (p<0.01; Fig 5B、5C)、免疫蛍光共焦点顕微鏡でもB220+細胞内のCXCL11発現が確認された (Fig 5D)。B1a細胞の増加は腫瘍移植自体に依存しており、CXCR2欠失非依存的であった。B細胞枯渇実験 (B220 mAb、93%以上の枯渇効率) では腫瘍重量が38%増加し (p<0.01; Fig 4G)、腫瘍組織内CXCL11発現が67%低下し、腫瘍浸潤CD8+T細胞の数・活性化 (CD69+)・細胞傷害活性 (CD107a+)・増殖 (Ki67+) がいずれも有意に低下した (Fig 4H-K)。Boyden chamberアッセイでは、CXCR2mye△/△マウス由来B細胞培養上清がCD8+T細胞遊走を有意に促進し、CXCR3拮抗薬SCH546738 (20 nmol/L) の添加で遊走が抑制された (p<0.01; Fig 5E)。組換えCXCL11への直接曝露でも用量依存的なCD8+T細胞走化性が確認され、CXCL11-CXCR3軸がCD8+T細胞動員の主要経路であることが証明された。
SX-682による薬理学的CXCR2阻害の有効性・抗PD-1との相乗効果、ヒトコホートでの臨床的相関:薬理学的CXCR2阻害薬SX-682の経口投与 (3.023 g/kg混餌、n=5/群) により、Rich1.1メラノーマ担癌マウスでの腫瘍負荷が63%減少した (p<0.05; Fig 6A)。抗PD-1単独では有意差がなかったが、SX-682と抗PD-1の併用はvehicle対照比でp<0.001、SX-682単独比でp<0.05で腫瘍を有意に抑制した。SX-682投与群では腫瘍内B1b細胞増加 (p<0.01)、活性化CD69+CD8+T細胞増加 (p<0.01)、Gr1+MDSC減少 (p<0.01) が確認され、遺伝子ノックアウトと同様の免疫プロファイル変化が薬理学的にも再現された (Fig 6B-G)。TCGAの乳癌コホート (n=1,064) ではB220 amplification症例の生存期間中央値が255.49ヶ月以上であり、diploid症例 (120.53ヶ月) と比較して大幅に延長した。B220とCXCL11のmRNA発現はSpearman r=0.6699 (p<0.0001, n=1,064) で正相関し、B220+CXCL11とCD8αはSpearman r=0.7988 (p<0.0001, n=1,064) で強く相関した。GEO乳癌11研究 (n=1,678) での検証でも同様の正相関が確認され、メラノーマTCGA (n=358) でもB220増幅症例の生存期間中央値246.85ヶ月はB220欠失症例 (53.48ヶ月) を大幅に上回り、ヒト腫瘍でのB1b-CXCL11-CD8+T細胞軸の臨床的意義が示された (Fig 7A、7B)。
考察/結論
本研究は、骨髄系CXCR2シグナルがTMEの免疫抑制維持において果たす役割を機能的に解明し、腫瘍浸潤B1b細胞-CXCL11-CXCR3軸がCD8+T細胞の腫瘍内動員において重要な経路であることを本研究で初めて示した点に最大の意義がある。この経路はin vivo枯渇実験・Boyden chamberケモタキシスアッセイ・CXCR3拮抗実験の三点から機能的に実証され、前転移性ニッチ形成を含むTMEリモデリングの新規な分子機序として位置づけられる。
これまでの研究では腫瘍浸潤B細胞の機能について腫瘍種により相反する報告が存在した。扁平上皮癌 (Affara et al. Cancer Cell 2014) や膵臓腫瘍 (Lee et al. Cancer Discov 2016) ではB細胞が免疫抑制的に機能するとされる既報と対照的に、本研究は乳癌・メラノーマモデルにおいてB1b細胞サブセットが抗腫瘍性CXCL11を産生してCXCR3発現CD8+T細胞を腫瘍に引き寄せる正の免疫制御因子として機能することを明らかにした。B1a細胞の増加が腫瘍移植依存的でCXCR2欠失非依存的であった点は、B1aとB1bが異なる制御を受けることを示す新規な知見であり、B1aがIL-10産生を介してCD8+T細胞応答を抑制するという既報 (Kobayashi et al. J Invest Dermatol 2019) とも整合する。
MDSCの免疫抑制能がCXCR2シグナル依存的であるという知見は、CXCR2阻害がMDSCの腫瘍浸潤阻止に加えて残存MDSCの抑制能も減弱させるという二重の免疫活性化機序を示唆する。CXCL13がCXCR2mye△/△マウスのTMEで増加していたことは、CXCL13-CXCR5軸がB1b細胞をTMEに動員する機序の存在を示唆するが、今後の検討が必要な課題である。SX-682と免疫チェックポイント阻害薬の相乗効果は、抗PD-1単独に応答しにくい症例でもMDSC除去が奏効する可能性を示しており、現在進行中の臨床試験 (NCT03161431: SX-682+ペムブロリズマブ、stage III/IV melanoma) の基礎的根拠を提供する点で臨床的意義が高い。TCGA・GEOデータでのB220-CXCL11-CD8α正相関は、B1b-CXCL11軸がバイオマーカーおよび治療標的として臨床応用に向けた橋渡しとなる可能性を示す。
残された課題として、CXCR2選択的阻害とCXCR1共阻害の効果の分離、ヒト腫瘍でのB1b細胞の定量化手法の確立、免疫チェックポイント阻害薬との最適な投与スケジュールの決定、および他の腫瘍種での一般化可能性の検討が挙げられる。本研究はマウスモデル主体であり、ヒト腫瘍でのCXCR2発現骨髄系細胞がB1b細胞増殖を抑制する具体的分子機序についてのさらなる検討が future research として求められる。
方法
マウスモデルと細胞株: LysM-Cre (myeloid-specific Cre recombinase)::CXCR2flox/flox マウス (C57BL/6バックグラウンド、5世代戻し交配) を作製してCXCR2mye△/△を確立した。Cre reporter mT/mGマウスとの掛け合わせにより、CXCR2欠失骨髄系細胞をGFP発現で同定した。腫瘍モデルはC57BL/6由来PyMT (polyoma middle T antigen) 乳癌細胞 (ルシフェラーゼ発現株含む、DMEM/F-12・5% FBS培養) の静脈内投与 (1×10^6個/マウス) による肺転移モデルと、Rich1.1メラノーマ細胞 (Braf V637E・Pten R74X/Q396X変異) の皮下移植モデルを使用した。全培養は月次マイコプラズマPCR陰性確認実施。
免疫解析: gentleMACS解離・コラゲナーゼ/ディスパーゼ/DNase処理でTILを単離し、フローサイトメトリー (FACSCanto II + FlowJo v10.1) でサブセット定量を行った。MDSC (G-MDSC: CD11b+Ly6C-Ly6G+; M-MDSC: CD11b+Ly6G-Ly6C+)、活性化CD8+T細胞 (CD69+、CD107a+)、B細胞サブセット (B1a (CD5-positive B1 cells): CD19+B220+CD5+; B1b: CD19+B220+CD5-CD43high) を同定した。62種類サイトカインアレイ (RayBio AAM-CYT-G3) およびCXCL11/CXCL13 ELISAでサイトカインプロファイルを解析した。B細胞 (MojoSort pan B-cell kit #480051) およびCD8+T細胞 (MojoSort #480008、純度87%) を腫瘍組織からnegative selectionで単離した。
in vivo枯渇・薬理実験: CD8+T細胞枯渇は抗CD8α mAb (200 μg×3日→100 μg隔日)、B細胞枯渇は抗B220 mAb (200 μg×3日→200 μg隔日) で腫瘍移植3日前から実施した。CXCR2阻害薬SX-682 (0.756 g/kgまたは3.023 g/kg混餌) ±抗PD-1抗体 (100 μg/マウス、隔日腹腔内投与) をRich1.1担癌マウスで3週間投与した。Boyden chamberケモタキシスアッセイ (96well・5 μmメンブレン・37°C 18時間) でCD8+T細胞遊走能を評価し、CXCR3拮抗薬SCH546738 (20 nmol/L) の効果を確認した。免疫蛍光共焦点顕微鏡 (LSM 510 Meta) でB220+細胞内CXCL11発現を可視化した。
ヒトデータ解析: TCGA (The Cancer Genome Atlas) の乳癌 (n=1,064) とメラノーマ (n=358) データセット、GEO (Gene Expression Omnibus) 乳癌11研究 (n=1,678) でB220・CXCL11・CD8αのコピー数変化・mRNA発現・全生存期間を解析した。
統計解析: 2群比較はStudent’s t test (不等分散)、3群以上はone-way ANOVA with post hoc、2因子はtwo-way ANOVA、腫瘍増殖曲線は混合効果モデル、生存曲線はKaplan-Meier法+log-rank testで評価した。連続変数の関連はSpearman相関係数で算出し、多重比較のFDR補正はBenjamini-Hochberg法を使用した (有意水準p<0.05)。