• 著者: Xuejing Ma, Chang Guo, Runhan Li, Zhiyu Gao, Penghui Ma, Zhaolin Hua, Baidong Hou
  • Corresponding author: Zhaolin Hua (Institute of Biophysics, CAS), Baidong Hou (Institute of Biophysics, CAS)
  • 雑誌: Cell reports
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42085184

背景

多価ナノ粒子ワクチンは、強力なT細胞依存性 (T cell-dependent: TD) 抗体応答を誘導する極めて有望なプラットフォームとして注目されている。しかし、これらの多価抗原がどのようにして初期のCD4+ T細胞ヘルプを始動させるのか、その詳細な細胞内・分子メカニズムは未解明であり、免疫学における重要な課題として残されていた。一般に、樹状細胞 (dendritic cell: DC) がナイーブCD4+ T細胞を活性化し、濾胞性ヘルパーT (T follicular helper: Tfh) 細胞への分化を誘導する主要な抗原提示細胞 (antigen-presenting cell: APC) として広く認識されている。一方で、Hong et al. (2018) らの先行研究においては、Qβバクテリオファージ由来のウイルス様粒子 (virus-like particle: VLP) に対するCD4+ T細胞活性化が、DCではなくB細胞主導で行われることが報告されていた。また、Bachmann et al. (1997) らは反復配列を持つ抗原の免疫原性を示し、Irvine et al. (2020) らはナノ粒子による液性免疫制御の重要性を報告している。しかし、このB細胞依存的な抗原提示能が、Qβ-VLPの粒子内部に非特異的に内包された単鎖RNA (single-stranded RNA: ssRNA) によるToll様受容体7 (Toll-like receptor 7: TLR7) 刺激に起因するのか、あるいは抗原の多価性そのものに起因するのかは明確に区別されておらず、学術的なgapが存在していた。さらに、ferritin (フェリチン) など、ゲノム核酸を内包しない他の代表的なナノ粒子プラットフォームにおいて、同様のB細胞介在性抗原提示経路が一般的に機能しているかどうかも未検証であった。このように、多価ナノ粒子ワクチンが免疫応答を劇的に強化するメカニズムについて、B細胞とDCのそれぞれの寄与度やアジュバント効果との相互作用を詳細に解析した知見は著しく不足しており、合理的ワクチン設計に向けた大きな障壁となっていた。

目的

本研究の目的は、ssRNAを含有するアジュバント一体型ナノ粒子と、ssRNAを含有しない空のナノ粒子という2つの異なるAP205バクテリオファージ由来VLP (virus-like particle) フォーマット、および代表的な非核酸内包ナノ粒子であるferritinプラットフォームを用いて、多価ナノ粒子ワクチンに対するナイーブCD4+ T細胞活性化におけるB細胞とDCの役割を詳細に解明することである。モデル抗原として重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2) のスパイクタンパク質受容体結合ドメイン (receptor-binding domain: RBD) およびエムポックスウイルス (mpox virus: MPXV) のA35抗原を用い、抗原多価性そのものが持つB細胞APC機能の誘導能を評価するとともに、末梢免疫経路における遠隔リンパ器官への免疫応答の空間的拡張におけるB細胞介在性抗原提示の機能的意義を明らかにすることを目指した。

結果

アジュバントフォーマットによるB細胞応答の差異: (Figure 1) に示すように、AP205ssRNA-RBDはAP205Empty-RBDと比較して、マウスにおいて有意に高い抗RBD IgG力価、GC B細胞頻度、および記憶B細胞数を誘導した (p<0.001) (Figure 1H)。このEmpty製剤の応答低下は、水酸化アルミニウムアジュバント (alum) の添加によりAP205ssRNA-RBDと同等レベルまで回復した。しかし、誘導されるIgGサブクラスは異なり、ssRNA製剤はIgG2c優位、alum製剤はIgG1優位のプロファイルを示した (Figure 1I)。B細胞特異的MyD88欠損マウス (MyD88fl/fl Cd79a-Cre, n=5 mice) を用いた検証により、AP205ssRNA-RBDによるGC応答はB細胞内在性のTLR-MyD88シグナルに厳密に依存する一方、AP205Empty-RBD + alumによる応答はこれに依存しないことが示された。

多価ナノ粒子による初期CD4+ T細胞増殖は自然免疫刺激非依存的: CFSE希釈アッセイにおいて、AP205ssRNA-RBDOVAとAP205Empty-RBDOVA (alum添加の有無に関わらず) は、n=5 mice の群において、免疫3日後において同等かつ旺盛なOT-II CD4+ T細胞の初期増殖を誘導した (Figure 2D)。増殖指数 (proliferation index) において各群間に有意差は認められなかった (p>0.05)。しかし、初期増殖後のTfh (CXCR5+PD-1+) 細胞への分化成熟には、ssRNAによる内在性刺激またはalumによる外在性アジュバント効果が必要であった (Figure 2E, 2F)。

B細胞と樹状細胞の機能的冗長性: DCを除去したCD11c-DTRキメラマウス (n=5 mice) において、可溶性 (単量体) RBDに対するT細胞活性化は完全に消失した。しかし、AP205ssRNA-RBDOVAまたはAP205Empty-RBDOVAに対するT細胞の初期活性化 (CD69/CD25発現) は完全に維持された (Figure 3C)。一方、B細胞欠損μMTマウス (n=5 mice) では、ナノ粒子に対する24時間後の初期T細胞活性化が部分的に低下したものの、3日後の増殖は維持された (Figure 3F)。これに対し、B細胞とDCの両方を欠損させたμMT × CD11c-DTRマウスにおいては、ナノ粒子免疫によるOT-II T細胞の増殖がほぼ完全に消失した。この結果は、多価ナノ粒子抗原に対してB細胞とDCが抗原提示細胞として機能的に冗長に働いていることを示している。

抗原特異的B細胞によるCD4+ T細胞活性化の単独充足性: MHC-II-/-マウスにWT B細胞を移入したモデル (n=5 mice) において、AP205ssRNA-RBDOVAまたはAP205Empty-RBDOVA免疫により、OT-II T細胞の旺盛な増殖が確認された (Figure 4C)。しかし、HEL特異的BCRを持つMD4 B細胞を移入した場合にはこの増殖が著しく減弱し、B細胞による抗原提示には抗原特異的なBCRを介した取り込みが必須であることが証明された (Figure 4E)。ナノ粒子免疫3時間後において、抗原特異的B細胞 (RBD+ B細胞) ではMHC-IIの発現がPBS対照群と比較して 2.5-fold increase に上昇し、CD86、CCR7、CD83などの共刺激分子・遊走分子の発現も著明に亢進していた (Figure 4H)。

ナノ粒子プラットフォームの一般性と遠隔リンパ器官への免疫拡張: ferritin-RBDOVAおよびAP205-MPXV-A35OVAを用いた検証においても、B細胞とDCによる抗原提示の冗長性、および抗原特異的B細胞によるT細胞活性化の単独充足性が同様に確認され、この機序が特定のナノ粒子や抗原に限定されない一般的な現象であることが示された (Figure 5)。さらに、皮下 (s.c.) または筋肉内 (i.m.) への末梢免疫経路において、可溶性RBDはdLNでのみT細胞増殖を誘導したのに対し、多価ナノ粒子はdLNだけでなく遠隔の免疫器官である脾臓においても強力なT細胞増殖を誘導した (Figure 6F, 6G)。μMTマウス (n=5 mice) を用いた解析により、dLNでのT細胞増殖はB細胞欠損下でも維持されたが、脾臓におけるT細胞増殖はB細胞の欠損によって完全に消失した (Figure 6G)。

脾臓胚中心応答によるBCR多様性の拡大: IGHVレパートリー解析の結果、皮下免疫後に形成された脾臓GCとdLN GCの間で、CDR3のクローン重複度は5%未満と極めて低く、両組織のGCは独立してクローン選択が進むことが示された (Figure 7F)。また、ssRNAを含有するAP205ssRNA-RBDは、AP205Empty-RBDと比較して、脾臓GCにおけるCDR3多様性 (Hill numbers q≥1) を有意に高めることが明らかになった (p<0.01) (Figure 7D)。

考察/結論

本研究は、多価ナノ粒子ワクチンが、抗原特異的B細胞をDCと機能的に冗長なプロフェッショナルAPCとして動員し、ナイーブCD4+ T細胞の初期活性化を駆動するという極めて普遍的な免疫学的メカニズムを明らかにした。

先行研究との違い: 先行研究であるHong et al. (2018) のQβ-VLPモデルでは、CD4+ T細胞の活性化がほぼ完全にB細胞に依存しており、DCは関与しないとされていた。これに対し、本研究で用いたAP205およびferritinプラットフォームでは、B細胞とDCが機能的に冗長に働いていることが示された。この相違は、ナノ粒子表面の糖鎖修飾や抗原の提示密度、あるいは足場タンパク質固有の物理化学的性質が、DCによる捕捉効率に影響を与えている可能性を示唆しており、先行研究の知見をより一般化された形で補完するものである。

新規性: 本研究は、B細胞を介した抗原提示が、DC依存的なdLN限定的応答という空間的制約を打破し、脾臓などの遠隔リンパ器官におけるT細胞活性化およびGC応答を始動させるために必須であることを本研究で初めて明らかにした。さらに、遠隔リンパ器官でのGC形成が、dLNとは異なる独自のBCRレパートリーを選択・成熟させ、結果としてワクチン誘導性抗体のクローン多様性を劇的に拡大させるという新規の概念を提示した。

臨床応用: 多価ナノ粒子ワクチン設計において、B細胞のAPC機能を最大限に活用することは、より広範な変異株に対応可能な多様性の高い中和抗体プロファイルを誘導するための強力な臨床応用戦略となり得る。特に、末梢接種において脾臓などの全身性リンパ組織を効率的に動員できる設計は、感染防御能の持続性と質を向上させる上で極めて高い臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、ナノ粒子のサイズ、抗原の価数や立体配置、アジュバントの組み合わせが、B細胞のAPC活性化能に与える最適条件の解明が挙げられる。また、本研究はマウスモデルにおける知見であり、ヒトなどの大型哺乳類における末梢接種後のナノ粒子の全身移行性や、脾臓GC応答の動態についてさらに検証を進める必要がある。

方法

ナノ粒子製剤の作製と抗原共役: AP205カプシドタンパク質を大腸菌 (E. coli BL21(DE3) 株) で発現させ、自己会合したVLPを回収した。内包ssRNAを保持した粒子 (AP205ssRNA) は疎水性相互作用クロマトグラフィー (hydrophobic interaction chromatography: HIC) を用いて精製し、内包ssRNAを除去した空の粒子 (AP205Empty) は陰イオン交換クロマトグラフィー (anion exchange chromatography: AEX) を用いて精製した。SpyCatcher/SpyTagシステムを用いて、SARS-CoV-2 RBD (またはOT-II T細胞エピトープを融合したRBDOVA) を各AP205粒子の表面に共有結合により共役させ、AP205ssRNA-RBDおよびAP205Empty-RBDを作製した。DLS (dynamic light scattering) および透過型電子顕微鏡 (TEM) により粒子の均一性を確認した。同様に、ferritin-RBDOVAおよびAP205-MPXV-A35OVAも作製した。

in vivo機能解析モデル: APCの寄与を検証するため、C57BL/6Jバックグラウンドの各種遺伝子欠損マウスおよびキメラマウスモデルを用いた。具体的には、(1) CD11c-DTR骨髄キメラマウスにジフテリア毒素 (diphtheria toxin: DT) を投与してDCを特異的に除去したモデル、(2) B細胞を欠損したμMTマウス、(3) μMT × CD11c-DTR二重欠損マウスを用いた。CFSE (carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester) で標識したナイーブOT-II CD4+ T細胞を養子移入し、免疫後のT細胞増殖 (CFSE希釈) および活性化マーカー (CD69、CD25、CD62L) の発現をフローサイトメトリーで評価した。統計解析には Mann-Whitney U test を用いた。

B細胞単独提示能の検証: 主要組織適合遺伝子複合体クラスII (MHC-II) 欠損マウス (MHC-II-/-) を準致死量照射し、野生型 (WT) B細胞またはHEL (hen egg lysozyme) 特異的BCR (B cell receptor) を発現するMD4マウス由来のB細胞をOT-II T細胞とともに移入する系を構築した。

胚中心 (germinal center: GC) 応答およびレパートリー解析: 免疫後の脾臓および所属リンパ節 (draining lymph node: dLN) におけるGC B細胞、記憶B細胞をフローサイトメトリーで定量した。さらに、ソートしたRBD特異的GC B細胞からRNAを抽出し、テンプレートスイッチ法を用いてUMI (unique molecular identifier) を導入したIGHVレパートリーシーケンシングを実施し、CDR3多様性 (Hill numbers) および組織間のクローン重複度を解析した。