• 著者: Proia TA, Singh M, Woessner R, Carnevalli L, Bommakanti G, Magiera L, et al.
  • Corresponding author: Patricia McCoon (AstraZeneca, Waltham, MA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32943458

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI、immune checkpoint inhibitor) はがん治療に革命をもたらしたが、奏効率は多くの腫瘍型で20%未満にとどまり、その主因の一つが骨髄系細胞 (MDSC、myeloid-derived suppressor cell や腫瘍関連マクロファージ TAM、tumor-associated macrophage など) による腫瘍微小環境 (TME) の免疫抑制である。STAT3 (Signal transducer and activator of transcription 3) は転写因子として免疫抑制の中心的な「マスターレギュレーター」であり、骨髄系細胞のMDSC様表現型への偏向と抗腫瘍マクロファージの抑制を促進する (Yu et al. Nature 2014)。先行研究では IFN-γ 関連 mRNA プロファイルが PD-1 blockade への臨床奏効を予測すること (Ayers et al. JClinInvest 2017)、JAK1/2 変異が PD-1 blockade への原発耐性を媒介すること (Shin et al. CancerDiscov 2017) が示されてきた。STAT3 の上流キナーゼ JAK1/2 を標的とするアプローチはSTAT1なども阻害するため免疫療法としての応用に限界があり、高選択的STAT3阻害が切望されていた。

Danvatirsen (AZD9150) はSTAT3を選択的に標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO、antisense oligonucleotide) であり、2つのフェーズI臨床試験 (NCT01563302、NCT01839604) でリンパ腫およびNSCLC (non-small cell lung cancer) 患者に持続的な完全・部分奏効が観察されていたが、その臨床的作用機序、特に腫瘍細胞に対する直接作用かTMEを介した間接作用かが不明であった。ASO薬は細胞種によって取り込み効率に大きな差があり、IV投与後の腫瘍への分布が限られる可能性がある。この特性が danvatirsen の作用機序解明に重要な視点を提供したが、これまで腫瘍検体での細胞種選択的取り込みの直接 IHC 可視化と前臨床モデルでの薬力学的検証を統合した報告は無く、本ギャップが残されていた。

目的

Danvatirsen の作用機序を患者腫瘍サンプルで解析するとともに、マウスシンジェニック腫瘍モデルでSTAT3 ASO が TME 骨髄系細胞に与える薬力学的影響と抗PD-L1との併用効果を明らかにし、臨床試験の科学的根拠を提供する。

結果

Danvatirsen はがん患者腫瘍で TME の間質・免疫細胞に選択的に取り込まれ、STAT3 を免疫細胞で抑制して IFN-γ シグネチャーを増強する:患者腫瘍生検の抗 ASO IHC により、danvatirsen は腫瘍細胞ではほとんど検出されず、間質細胞 (内皮細胞・紡錘形細胞・炎症細胞) に選択的に取り込まれていた (Fig 1A-C)。投与 4 週後のペア生検では腫瘍細胞での STAT3 タンパク低下はほぼ見られなかった (12 例中 1 例の濾胞性リンパ腫で 30% 低下のみ) が、3 例の患者で内皮細胞の STAT3 タンパクが減少した (Fig 1D)。PBMC 中の STAT3 RNA 発現は投与 4 週後に中央値 29% 低下 (p = 0.0024、Wilcoxon signed-rank、n=12) し、STAT1 RNA 発現は中央値 60% 上昇 (p < 0.01) した (Fig 2A)。腫瘍生検の遺伝子発現解析では、投与後に IFN-γ シグネチャーに関連する STAT1・IFN-γ・CXCL9・CXCL10・IDO1 の 5 遺伝子が約2倍 上昇し、これらは PD-L1 軸阻害への奏効と関連する 6 遺伝子シグネチャー (Ayers 2017) の 5 つを包含した (Fig 2B, C)。IFN-γ および I 型 IFN シグネチャーが統計的に有意に (p < 0.05、GSVA) 増強し、NK exhaustion シグネチャーは中央値 0.4 低下した (Fig 2D)。T 細胞数の指標である TCR シーケンスは平均 2.2 倍 増加する傾向 (p = 0.06) を示した (Fig 2E)。

前臨床モデルで mSTAT3 ASO は抗 PD-L1 との併用で CD8 T 細胞依存性の相乗的抗腫瘍効果を発揮するが、checkpoint 阻害抵抗性 4T1 では効果なし:MC38 (C57BL/6)・CT26・A20 (BALB/c) の 3 腫瘍モデルで n=10 mice/group、mSTAT3 ASO 50 mg/kg 単剤は部分的な腫瘍増殖抑制を示し (CT26 で約45% TGI、tumor growth inhibition、Fig 3A)、抗 PD-L1 抗体 10 mg/kg BIW (twice weekly) との併用でいずれも単剤を上回る統計的に有意 (two-way ANOVA p < 0.001) な抗腫瘍効果が得られ、CT26 で 80% TGI、長期生存率 30-40% (n=10) に達した (Fig 3A-C)。一方、checkpoint 阻害抵抗性の 4T1 モデルでは mSTAT3 ASO 単剤・抗 PD-L1 単剤・併用いずれも有効でなかった (TGI < 10%、n=10、Fig 3D)。CT26 細胞を in vitro で mSTAT3 ASO 10 μM 処理しても増殖抑制は認められず (CellTiter-Glo で IC50 > 10 μM)、免疫不全 NSG マウスへの CT26 移植では抗腫瘍効果が消失したことから、STAT3 ASO の効果は免疫細胞コンパートメントを介した間接的なものである (Fig 3E)。抗 CD8a 枯渇抗体 (clone 53-6.7) 投与により mSTAT3 ASO 単剤および抗 PD-L1 との併用双方の抗腫瘍効果が消失し (TGI が 80% → 10% へ低下、p = 0.003、Fig 3F)、CD8^+ T 細胞が主要エフェクター細胞であることが確認された。また、JAK1 選択的阻害薬 AZD4205 は単剤無効かつ抗 PD-L1 の活性を拮抗 (TGI が 60% → 20% へ低下) したことから、JAK1/2 の同時阻害 (STAT1 も阻害) は免疫療法との相乗効果が得られないことが明らかとなり、STAT3 選択的阻害の優位性が示された (Fig 3G)。25 mg/kg の臨床関連用量でも 50 mg/kg と同等の腫瘍増殖抑制が確認され、この用量をメカニスティック解析の主要用量として採用した。

CyTOF およびフローサイトメトリーにより、mSTAT3 ASO は骨髄系細胞で STAT3 を選択的に抑制して TME の免疫抑制マクロファージを減少させ、CD8 T 細胞の機能を増強する:CyTOF 解析では 25 mg/kg mSTAT3 ASO により腫瘍コンパートメント全体で STAT3 が 38.7% 低下し、細胞種別では F4/80^+ マクロファージで 78%、cDC1 で 54%、cDC2 で 50.9% の低下が最も顕著で、CD8 T 細胞では 5.7% の低下にとどまった (Fig 4A, B)。CD4^+FOXP3^+ Treg では 25 mg/kg 投与で 14.9% の低下が観察された。フローサイトメトリーによる TME 全体の解析では、mSTAT3 ASO 単剤で免疫抑制性 CD11b^+CD206^+ TAM が 3 倍 減少し、抗 PD-L1 との併用で 6 倍 減少した (p < 0.001、Fig 4C)。一方、CD11b^+MHCII^+ 抗腫瘍マクロファージは単剤で 1.7 倍、併用で 2.2 倍 増加した (Fig 4D)。IHC による評価でも、CD163^+ 免疫抑制性マクロファージが 2 倍 減少し、iNOS 陽性炎症性マクロファージが腫瘍周縁部で 2 倍 増加した (Fig 5A-D)。CD8^+ T 細胞の機能的サイトカイン産生解析では、ex vivo PMA/ionomycin 刺激後の IL-2・IFN-γ が抗 PD-L1 単剤比で 1.7 倍 上昇し (n=8 mice/group、p = 0.018)、Granzyme B および Ki67 陽性 CD8 T 細胞が約2倍 となった (Fig 6A-D)。ヒト培養系では danvatirsen 5 μM 処理マクロファージおよび MDSC が LPS 刺激後の TNF-α・IFN-γ・IL-12 産生を 2-3 倍 増加させ、MDSC の T 細胞増殖抑制能が約50% 軽減された (Fig 7A-F)。これらの所見は STAT3 ASO が骨髄系コンパートメントのリモデリングを介して間接的に T 細胞応答を強化するモデルを支持する。

考察/結論

本研究の最も重要な知見は、danvatirsen が腫瘍細胞ではなく TME の骨髄系細胞を主要作用部位として STAT3 を抑制し、間接的に T 細胞機能を高めるという「非腫瘍細胞選択的」な作用機序を患者レベルで実証したことである。先行研究 の STAT3 阻害薬研究 (Yu et al. Nature 2014) と異な り、本研究は phase I 患者腫瘍検体での ASO 取り込みを抗 ASO 抗体 IHC で直接可視化し、間質・免疫細胞優位の分布を示した点で これまで の腫瘍細胞中心の作用機序仮説と 対照的 である。従来の比較 として、Shin らの JAK1/2 mutation による PD-1 blockade 一次耐性報告 (Shin et al. CancerDiscov 2017) は STAT1 機能不全が ICI 抵抗の原因となることを示したが、本研究は STAT3 選択的阻害が STAT1 を逆に上昇 (60%) させて IFN-γ 軸を保護することを患者検体で示し、両者の 相違 が明確である。ASO 薬は細胞種による取り込み差異が大きく、固形腫瘍への選択的送達には課題があるが、本研究では骨髄系細胞への選択的な danvatirsen 取り込みが腫瘍内炎症環境の再構築を可能にするという 本研究で初めて 統合的に提示された新たな概念である。

新規 な貢献を三点に整理する。第一に、STAT3 ASO が腫瘍細胞ではなく F4/80^+ マクロファージで 78% という極めて高い STAT3 抑制率を達成し、CD8 T 細胞の 5.7% 低下と対比的な細胞種選択性を CyTOF で定量化したこと。第二に、JAK1 阻害薬 AZD4205 が STAT1 阻害を伴うため抗 PD-L1 と拮抗するのに対し、STAT3 選択的阻害は STAT1/IFN-γ 軸を温存しつつ免疫抑制マクロファージを減らすという、 これまで報告されていない STAT1/STAT3 役割分担の臨床関連性を示したこと。第三に、ヒト培養 MDSC で T 細胞抑制能が約50% 解除されることを示し、 novel な ASO 治療パラダイムを培養レベルで再現したこと。

臨床応用 に向けて、本研究は danvatirsen と抗 PD-L1 抗体 durvalumab の併用を評価する HNSCC phase I/II 試験の科学的根拠を提供する 臨床的意義 がある。 bench-to-bedside translational 観点では、(a) PBMC の STAT3 RNA 中央値 29% 低下が pharmacodynamic biomarker として使用可能、(b) NanoString 6 遺伝子 IFN-γ シグネチャー (CXCL9/CXCL10/IDO1/STAT1/IFN-γ/HLA-DRA) が treatment-on-target biomarker となる、(c) JAK1/2 阻害薬と異なり STAT3 ASO は IFN-γ 軸を破壊しないため ICI 併用に最適という 3 点が 臨床的有用 性を持つ。danvatirsen は 2025 年現在 phase II HNSCC (NCT03334617) で進行中である。

残された課題 および limitation は四点に集約される。第一に、前臨床メカニズム解析が CT26 モデル一種に依存しており、他癌腫での再現性検証が 今後の検討 課題である。第二に、患者サンプルが臨床奏効例を含まない (投与中に奏効した症例の生検が入手できなかった) ため、responder vs non-responder の biomarker discrimination は future の課題として残る。第三に、骨髄抑制 (血小板減少) が danvatirsen の用量制限毒性であり、STAT3 の血小板産生への関与を考慮した慢性投与の安全性は future direction として 今後の研究 が必要。第四に、4T1 のような checkpoint 阻害抵抗性モデルで効果がなかった点から、STAT3 ASO の感受性予測 biomarker (TME 骨髄系細胞密度等) の確立は 未解決の課題 である。

結論として、STAT3 ASO である danvatirsen は腫瘍内で TME の間質・免疫細胞に選択的に取り込まれて STAT3 を抑制し、患者腫瘍において IFN-γ シグネチャーの増強など免疫活性化を示す。前臨床モデルでは骨髄系細胞コンパートメントのリモデリング (免疫抑制マクロファージの 6 倍 減少と炎症性マクロファージの 2.2 倍 増加) を介した CD8^+ T 細胞の機能増強と抗 PD-L1 との相乗効果が実証された。腫瘍細胞への直接 STAT3 抑制を必要とせずにチェックポイント阻害の効果を増強できるというコンセプトは、新たな ICI 増感戦略への道筋を示す。

方法

患者サンプル解析: phase I 試験 NCT01563302 で danvatirsen を投与された DLBCL (diffuse large B-cell lymphoma) 9 例・濾胞性リンパ腫 (FL) 2 例・NSCLC 1 例のベースライン/投与 4 週後ペア腫瘍生検 12 対について、抗 ASO 抗体を用いた IHC で ASO 取り込み細胞を同定し、抗 STAT3 IHC で STAT3 タンパク発現を定量した。NanoString nCounter Human Immunology v2 コードセット (579 遺伝子) で遺伝子発現解析を実施し、GSVA (Gene Set Variation Analysis) で 90 種類の免疫遺伝子シグネチャーを評価した。PBMC (peripheral blood mononuclear cells) 中の STAT3 RNA 発現変化も解析した。統計検定は Wilcoxon signed-rank test (paired data) と Mann-Whitney U-test (unpaired data) を採用し、生存解析は log-rank test を使用した。

前臨床研究: CT26 (BALB/c colon)・A20 (BALB/c B-cell lymphoma)・MC38 (C57BL/6 colon)・4T1 (BALB/c breast、checkpoint 阻害抵抗性) マウス腫瘍モデルを使用し、マウス STAT3 サロゲート ASO (mSTAT3 ASO) 50 mg/kg または 25 mg/kg と抗 PD-L1 抗体 10 mg/kg BIW (twice weekly) の単剤・併用効果を評価した。Two-way ANOVA で 群間比較、Bonferroni 多重比較補正を適用。免疫不全 NOD/SCID-γ (NSG) マウスへの CT26 移植で T 細胞・NK 細胞依存性を検証、抗 CD8a 枯渇抗体 (clone 53-6.7、Bio X Cell) で CD8 依存性を確認した。

多パラメータ解析: CyTOF (mass cytometry) により TME 内免疫細胞種ごとの STAT3 タンパク発現量と ASO 取り込みを 40 マーカー panel で定量し、多色フローサイトメトリーで骨髄系細胞 (CD11b、F4/80、CD206、MHCII、Ly6C、Ly6G)・T 細胞サブセット (CD8、CD4、FOXP3、Granzyme B、Ki67、IFN-γ、IL-2) の変動を解析した。IHC・マルチプレックス免疫蛍光法 (Opal multiplex) で CD163/iNOS マクロファージ表現型を評価し、NanoString 遺伝子発現解析で変化を確認した。ヒト培養系では単球由来マクロファージ・樹状細胞・MDSC を danvatirsen 1-10 μM で処理し、LPS (100 ng/mL) 刺激後のサイトカイン産生と M2 から M1 への表現型変化を Luminex で評価した。In vitro CT26 細胞増殖は CellTiter-Glo で評価した。