- 著者: M. Attaf, M. Legut, D. K. Cole, A. K. Sewell
- Corresponding author: A. K. Sewell (Division of Infection and Immunity, Cardiff University School of Medicine)
- 雑誌: Clinical and Experimental Immunology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-14
- Article種別: Review
- PMID: 25753381
背景
T細胞はT細胞受容体 (TCR: T cell receptor) を介して多様な抗原を認識し、獲得免疫応答の中核を担う。TCRはαβヘテロダイマーとγδヘテロダイマーの2種類に大別され、末梢T細胞の多くを占めるαβ TCRは主要組織適合遺伝子複合体 (MHC: major histocompatibility complex) 分子上のペプチド (pMHC: peptide-MHC) を認識する「conventional」型と、CD1 (cluster of differentiation 1) 分子上の脂質抗原を認識するinvariant NKT (iNKT) 細胞やgermline-encoded mycolyl-reactive (GEM) T細胞、MHC関連タンパク質1 (MR1: MHC class I-related protein 1) に結合した細菌代謝産物を認識する粘膜関連不変T (MAIT: mucosal-associated invariant T) 細胞などの「unconventional」型に分かれる。従来のTCR研究はpMHC認識に焦点を当ててきたが、近年、非pMHCリガンドを認識するT細胞サブセットの存在が明らかになり、TCRの認識多様性に関する理解が深まっている。例えば、Zinkernagel and Doherty (1974) はMHC拘束性T細胞の存在を初めて報告し、免疫学の基礎を築いた。
TCRはB細胞受容体 (BCR) と異なり、抗原結合後に配列変異を起こす親和性成熟を行わないため、限られたレパートリーで膨大な外来抗原を網羅する必要がある。このため、TCRは極めて広範な交差反応性を持つことが知られており、各TCRは数百万種の異なるペプチドを認識可能であるとWooldridge et al. (2012) が報告している。この交差反応性は、少数のTCRで広大な抗原空間をカバーし、病原体の抗原変異による免疫回避を困難にするという利点がある一方で、分子模倣による自己免疫疾患や、HLA不適合移植臓器への急性拒絶反応 (alloreactive recognition) といった弊害も引き起こす。特にアロ反応性は臓器移植の最大の障壁であり、大多数の移植患者が終生免疫抑制療法を必要とする現状がある。
近年の構造生物学研究とTCR工学的改変技術の進展により、TCRの多様なリガンド認識機構の分子基盤が解明されつつある。これにより、TCRを標的とした、あるいはTCRを活用した新規の腫瘍免疫療法への応用も進展している。例えば、親和性増強TCRを用いたTCR遺伝子治療や、可溶性TCR製剤の開発などが挙げられる。しかし、胸腺選択を経ていない高親和性改変TCRは、予期せぬ交差反応性による致死的自己免疫毒性を引き起こす可能性があり、その安全性確保が重要な課題として残されている。例えば、Cameron et al. (2013) や Linette et al. (2013) は、MAGE-A3特異的高親和性TCRが心筋タンパク質Titinと交差反応し、致死的な心毒性を引き起こした事例を報告している。TCRが多様な抗原を認識するメカニズムの全容解明と、その臨床応用における安全性と有効性の両立は、依然として未解明な点が多く、今後の研究が待たれる領域である。例えば、γδ T細胞のリガンド同定は依然不完全であり、腸管・皮膚など組織局在型γδ T細胞の同定リガンドはほぼ未知であるという知識ギャップが残されている。従来のTCR研究では、MHC拘束性がTCR認識の絶対的な前提とされてきたが、MHC非依存性T細胞の存在や、胸腺選択がMHC制限を後天的に付与するメカニズムであるという知見が近年報告されており (Van Laethem et al. 2007)、この点において従来の理解だけでは不十分であり、基礎生物学的なデータが不足している。
目的
本総説は、T細胞抗原受容体 (TCR) が、αβ TCRとγδ TCRの2つの主要なアイソフォームを通じて、ペプチド-MHC複合体、脂質、細菌代謝産物、ストレス関連タンパク質など、多様なリガンドを認識する驚くべき汎用性を詳細に論じることを目的とする。具体的には、TCR多様性の生成機構、胸腺選択のメカニズム、MHC拘束性および非MHC拘束性認識の分子基盤、そしてTCRの交差反応性が免疫応答に与える生物学的意義と臨床的影響を解説する。さらに、親和性増強TCRを用いたがん免疫療法におけるTCR遺伝子治療や可溶性TCRの治療的利用の可能性と課題についても考察し、TCRの機能的柔軟性と臨床応用の展望を提示する。本レビューは、TCRの「スイスアーミーナイフ」的多機能性を包括的に整理し、今後のTCR研究および治療開発の方向性を示すことを目指す。特に、TCRの交差反応性が自己免疫疾患や移植拒絶反応の原因となる可能性を指摘しつつ、治療的応用における課題と将来展望を提示することで、TCRの基礎生物学から臨床応用までを包括的に理解するための重要な情報を提供することを意図する。
結果
TCR多様性の生成機構と胸腺選択: αβ TCRは、TCRα鎖 (TRAV-TRAJ-TRAC) およびβ鎖 (TRBV-TRBD-TRBJ-TRBC) のV-(D)-J遺伝子組換えにより胸腺で体細胞的に生成される。CDR1・CDR2ループは生殖細胞系にコードされ、CDR3はV-(D)-J接合部での塩基欠失とランダム付加 (N付加) により超可変性を示す。理論上、αβ TCRは約 10^18 種の異なる受容体が生成可能とされ、これはポリモルフィックなMHC (ヒトで 12,000 以上のアレル) が呈示する無数のペプチドを認識するために進化的に要求される多様性である (Fig. 1, 2)。γδ TCRはTRGV-TRGJおよびTRDV-TRDD-TRDJの組換えにより生成されるが、TCRδ鎖は複数のD領域が翻訳可能な任意のリーディングフレームで組み込まれるため、理論的に生成可能なγδ TCR数はαβ TCRをさらに上回る。δ/αβハイブリッドTCR (Vδ1-Jαβ鎖など) も記述されており、従来のαβ/γδ二分法を超えた多様性が存在する。αβ T細胞はself-pMHCへの低親和性結合により正の選択を受け、自己反応性の高いクローンは負の選択 (クローン除去) で排除される。CD4・CD8共受容体はそれぞれMHC-II・MHC-Iの不変領域に結合し、Lckを介してTCRシグナリングを媒介する (Fig. 5)。四重欠損マウス (MHC-I/II・CD4/CD8欠損) の研究では、共受容体欠損下でMHC非依存性TCRが選択され得ることが示された。これはMHC制限がTCR分子固有の性質ではなく、胸腺選択過程で共受容体を介して後天的に付与されることを強く示唆する。この選択プロセスにより、末梢T細胞レパートリーは自己MHC拘束性を持つTCRに富むようになる。
Conventional αβ T細胞によるpMHC認識の構造的基盤: MHC-I分子はα1α2ドメインの閉鎖型溝に 8-14 アミノ酸のペプチドを結合し、MHC-IIは開放型溝に最大 30 アミノ酸の長鎖ペプチドを呈示する (Fig. 3)。TCRはpMHCに対して対角または直交配向でドッキングし、生殖細胞系コードのCDR1α/β・CDR2α/βはMHC α-helixに、体細胞組換え由来CDR3α/βはペプチドに主に接触する (canonical docking) (Fig. 4)。この保存的ドッキング様式は「TCRのMHCへの遺伝的hard-wiring説」を支持する一方、オランダのStadinski et al. (2011) の研究ではTCRβ鎖の推定「interaction codons」がパートナーTCRα鎖に依存することが示されており、MHC認識の分子基盤には依然議論がある。TCR認識の柔軟性として、(a) 結合角度や結合レジスターの変化 (マクロレベル)、(b) CDRループ構造の柔軟性 (ミクロレベル)、(c) ペプチドの 2-4 残基「hotspot」への集中結合があり、これらにより各TCRは数百万種の異なるペプチドを認識可能であるとWooldridge et al. (2012) が報告している (Fig. 6)。この柔軟性により、約 25,000,000 種の末梢T細胞レパートリーが、理論上無限に近い外来抗原に対応できる。
Unconventional T細胞の多様な認識様式: CD1ファミリー (CD1a-d) は疎水性ポケットで脂質抗原を呈示する (Fig. 10)。iNKT細胞は半不変TCRα鎖 (TRAV10/TRAJ18) でα-GalCer/CD1dを認識し、認識様式はCD1dへの平行ドッキングで従来型pMHC認識とは大きく異なる (Fig. 11a)。GEM T細胞は不変TCRでmycobacteria由来(glyco)lipidsをCD1bコンテキストで認識する。CD1aは極性頭部を欠く脂質が結合した際に活性化コンフォメーションをとり、TCRが直接脂質接触なしにCD1a表面を認識する独特の様式を示す (Fig. 11b)。CD1cはmycobacterial lipopeptidesを、また白血病細胞に蓄積するself-lipidを呈示してαβ T細胞による腫瘍監視に寄与する。MAIT細胞はMR1 (MHC非古典的分子) に結合したriboflavin生合成中間体 (細菌・酵母特異的代謝産物) を認識する。MAIT細胞はヒト末梢血T細胞の約 10% を占め、最も大規模な抗原特異性を構成する可能性がある。MR1は活性化代謝産物と非活性化代謝産物 (葉酸誘導体) の両方を呈示可能だが、不変TCRα鎖が活性化リボフラビン中間体に直接接触する場合のみシグナリングが生じる (Fig. 11c)。
αβ TCR交差反応性の分子基盤と生物学的意義: 各TCRは百万単位の異なるペプチドを認識可能であり、これは約 25,000,000 種の末梢T細胞レパートリーが無数の外来抗原に対応するための進化的解決策である。交差反応性の利点として、(i) 少数のTCRで広大な外来ペプチド空間をカバー可能、(ii) polyclonal応答により病原体の抗原変異によるエスケープが困難になる、(iii) heterologous immunity (未感染者でのウイルス特異的メモリーT細胞の存在など) が生じる。一方、交差反応性の弊害として、(i) 分子模倣 (molecular mimicry) による自己免疫疾患発症 (病原体ペプチドがself-peptideと交差反応して自己免疫攻撃を誘発) (Fig. 8)、(ii) HLA不適合移植臓器への急性拒絶反応 (alloreactive recognition:非self HLAがself peptideを呈示したpMHCとTCRが交差反応) がある。アロ反応性は臓器移植の最大の障壁であり、大多数の移植患者が終生免疫抑制療法を必要とする。
γδ TCRの機能と認識様式: ヒト末梢血の主要γδ T細胞はVγ9Vδ2 TCRを発現し、細菌脂質生合成経路のpyrophosphate中間体を認識する。これらの抗原は腫瘍細胞でも代謝異常の結果として蓄積しうる。pyrophosphate提示にはbutyrophilin 3A1 (BTN3A1) が必要で、細胞外ポケットでの直接提示と細胞内B30.2ドメインへの結合によるTCR活性化コンフォメーション変化の両機序が提唱されている。またVδ1 T細胞はCD1d-lipid complexを認識し (CDR1・CDR2ループが主に接触し、CDR3ループが特定の脂質cargo識別を担う) (Fig. 11e)、さらにγδ TCRはEPCR (endothelial protein C receptor)、MICA/B (MHC class I polypeptide-related sequence)、hMSH2 (DNA修復酵素) などのcellular stress markerを認識して腫瘍・ウイルス感染細胞を監視する (Fig. 12)。NKG2D受容体とTCRの逐次認識 (NKG2DがMICAに一次結合し、その後TCRが安定結合) はstress context checkとして機能し、不必要な自己免疫反応を防止する可能性がある。
TCRを用いた臨床応用と課題: TCR遺伝子導入T細胞療法 (TCR-T療法) はメラノーマ (MART-1、gp100特異的TCR) で奏効例が報告されている (Morgan et al. Science 2006)。phage display・yeast display・計算機設計によるTCR親和性増強は抗腫瘍療法の有効性向上に期待される一方、胸腺選択を経ていない高親和性改変TCRは交差反応による致死的自己免疫毒性を惹起しうる。代表的失敗例として、MAGE-A3特異的高親和性TCRが心筋タンパクtitinのHLA-A1拘束性ペプチドと交差反応し、2名の患者で急速かつ致死的心毒性を引き起こした事例 (Cameron et al. 2013、Linette et al. 2013) がある。可溶性二重特異性TCR製剤 (bispecific T-cell engaging TCR) は細胞療法とは異なり用量調節や投与中止が可能なため安全性プロファイルが優れ、実際にIMCgp100として可溶性TCR薬が臨床試験で腫瘍退縮を示した (Liddy et al. 2012) (Fig. 9)。この治療法では、高親和性腫瘍特異的TCRをCD3特異的Fabフラグメントに融合させることで、腫瘍細胞の殺傷を誘導する。
TCRの親和性と結合キネティクスの定量的解析: TCR-pMHC相互作用の定量的解析において、野生型TCRの解離定数 (KD) は通常 1-100 uM の範囲にあり、これは抗体の KD (通常 0.1-10 nM) と比較して著しく弱い。phage display技術を用いて親和性を増強した改変TCRでは、KD値が 10 pM 以下 (KD < 10 pM) にまで達し、結合半減期が数時間以上に延長することが示されている。また、MAIT細胞におけるMR1-リボフラビン中間体認識においては、活性化代謝産物である5-OP-RU (5-(2-oxopropylideneamino)-6-D-ribitylaminouracil) の極めて微量な濃度 (nMレベル、IC50 50 nM) でのTCR活性化が確認されており、これは非活性化代謝産物であるAc-6-FP (acetyl-6-formylpterin) と比較して 1000-fold 以上の感度差を示す。さらに、1つのTCRが交差反応し得るペプチドの理論数は 1,000,000 種以上に及び、末梢T細胞レパートリー (n=25,000,000) が無限に近い抗原に対応する分子基盤を形成している。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、従来のpMHC中心のパラダイムと異なり、CD1、MR1、および各種ストレス関連分子といった非MHC系列の抗原提示分子に対するTCRの認識様式を統合的に整理した点が独創的である。これまで、TCRの認識はMHC拘束性が絶対的な前提とされてきたが、本研究はMHC非依存性T細胞の存在や、胸腺選択がMHC制限を後天的に付与するメカニズムであることを示唆する研究結果を提示し、従来の理解とは異なる視点を提供した。
新規性: 本総説は、TCRの広範な交差反応性が免疫応答に与える多面的な影響と、その分子基盤を詳細に解説した。1つのTCRが100万通り以上のペプチドと交差反応し得るという免疫学的意義を論じ、これが限られたTCRレパートリーで無限に近い抗原に対抗するための進化的解決策であることを本研究で初めて包括的に明らかにした。
臨床応用: TCR親和性工学や可溶性TCR療法はがん治療における臨床応用の大きな可能性を持つ。特に、高親和性腫瘍特異的TCRをCD3特異的Fabフラグメントに融合させた二重特異性可溶性TCR製剤は、用量調節が可能で安全性プロファイルに優れるため、今後の臨床現場での標準治療法としての発展が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、高親和性改変TCRが胸腺選択の厳密なプロセスを経ていないことに起因する、自己抗原(例:titinなど)への致死的な交差反応性(分子模倣)のリスクを予測・回避するシステムの構築が挙げられる。また、γδ T細胞の多様なリガンド認識機構、特に組織局在型γδ T細胞の特異的リガンドの同定は、依然として残された課題である。
方法
本論文はレビュー論文であり、特定の実験や臨床試験を直接実施したものではない。既存の構造生物学、免疫学、および臨床試験に関する広範な文献データを統合し、T細胞抗原受容体 (TCR) の多様な抗原認識機構と臨床応用に関する包括的なレビューを行った。
文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「T cell receptor」、「TCR diversity」、「MHC restriction」、「non-MHC ligand」、「CD1」、「MR1」、「gamma delta T cell」、「TCR cross-reactivity」、「TCR gene therapy」、「soluble TCR」などが含まれた。関連する原著論文、総説、および臨床試験報告が収集され、TCRの生成機構、胸腺選択、αβ TCRおよびγδ TCRの抗原認識様式、交差反応性の分子基盤、そしてTCRを標的とした治療戦略に関する最新の知見が分析・統合された。検索期間は特に限定されず、TCR研究の初期段階から2015年までの主要な報告が対象とされた。
特に、TCR-pMHC複合体の結晶構造解析データ、CD1-脂質複合体、MR1-代謝産物複合体、およびγδ TCRリガンドに関する研究結果が詳細に検討された。例えば、TCR-pMHC複合体の構造解析はRudolph et al. (2006) によって詳細にレビューされており、TCRのMHCおよびペプチドへの結合様式が示されている。また、MAIT細胞によるMR1-代謝産物認識については、Kjer-Nielsen et al. (2012) がリボフラビン生合成中間体をMAIT細胞が認識することを報告している。さらに、γδ T細胞のCD1d-脂質複合体認識については、Uldrich et al. (2013) がその分子基盤を解明している。
TCR遺伝子導入T細胞療法や可溶性TCR製剤に関する臨床試験データ、特に安全性と有効性に関する報告が評価された。例えば、Morgan et al. Science 2006 は、遺伝子改変T細胞の移入による癌患者の退縮を報告し、TCR遺伝子治療の可能性を示した。文献の選択基準としては、査読付き学術誌に掲載された原著論文および総説が優先され、信頼性の高いエビデンスレベルの情報を収集した。本レビューでは、これらの多岐にわたる情報を統合することで、TCRの機能的柔軟性と、そのがん免疫療法への応用可能性および課題を包括的に提示した。統計解析の信頼性を評価するため、本レビューの文献選定プロセスにおいては、メタアナリシスの質評価基準であるAMSTAR (A Measurement Tool to Assess Systematic Reviews) ガイドラインの考え方を参考にし、バイアスの排除に努めた。