- 著者: Richard A. Morgan, Mark E. Dudley, John R. Wunderlich, Marybeth S. Hughes, James C. Yang, Richard M. Sherry, Richard E. Royal, Suzanne L. Topalian, Udai S. Kammula, Nicholas P. Restifo, Zhili Zheng, Azam Nahvi, Christiaan R. de Vries, Linda J. Rogers-Freezer, Sharon A. Mavroukakis, Steven A. Rosenberg
- Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-08-31
- Article種別: Original Article
- PMID: 16946036
背景
がん免疫療法の分野において、ホストの免疫枯渇 (リンパ球除去前処置) を行った後に自己の腫瘍浸潤リンパ球である TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) を体外で拡大培養して患者に再輸注する養子細胞移植療法である ACT (adoptive cell transfer) は、転移性メラノーマ (悪性黒色腫) 患者において高い客観的腫瘍退縮効果を示すことが先行研究により報告されている。例えば、Rosenberg et al. (1986) の初期の報告や、Dudley et al. Science 2002 および Dudley et al. (2005) による臨床試験では、TILを用いたACTが難治性の転移性メラノーマに対して劇的な効果をもたらすことが示された。しかし、この治療アプローチには重大な制限が存在する。それは、患者自身の腫瘍組織から十分な数かつ高い抗腫瘍活性を持つTILを単離・培養することが技術的に困難であるという点である。特に、メラノーマ以外の一般的な上皮性がん (肺がん、乳がん、食道がん、肝臓がんなど) においては、腫瘍反応性を持つTILを同定・回収することが極めて難しく、治療法として一般化するには至っていない。このような背景から、TILが得られない患者に対しても適用可能な、正常な末梢血リンパ球である PBL (peripheral blood lymphocyte) に遺伝子改変技術を用いて腫瘍特異的な T細胞受容体である TCR (T cell receptor) を導入する手法が模索されてきた。これまでに、メラノーマ・メラノサイト分化抗原であるMART-1やgp100、多くの上皮性がんで発現するNY-ESO-1、およびがん抑制遺伝子p53の変異体などを認識するTCR遺伝子がクローニングされている。しかし、これらの遺伝子改変T細胞を実際にヒトに投与し、体内での長期的な生着や抗腫瘍効果を検証した臨床試験はこれまでになく、その安全性や有効性、体内動態は依然として「未確立」のままであった。また、遺伝子導入されたT細胞が体内で機能を発揮するための最適な培養条件や前処置プロトコルに関する知見も「不足」しており、実用化に向けた大きな課題となっていた。本研究は、これらの課題を解決するため、ヒトで初めてTCR遺伝子改変T細胞を用いた臨床試験を実施したものである。
目的
本研究の目的は、MSGV1AIB (retroviral vector MSGV1AIB: MSGV1AIBレトロウイルスベクター) を用いてMART-1特異的TCR遺伝子を導入した自己PBL (遺伝子改変T細胞) を製造し、これをHLA-A*0201陽性の進行・転移性メラノーマ患者に養子移入することで、その安全性、体内における長期的な生着 (engraftment) および持続性、そして臨床的な腫瘍退縮効果を検証することである。具体的には、体外での培養期間や細胞の分裂状態が投与後の体内生存に与える影響を評価するため、異なる培養プロトコルを適用した3つのコホートを設定し、それぞれの体内動態を比較検討する。さらに、投与された遺伝子改変T細胞が、生体内において標的抗原であるMART-1を特異的に認識し、抗腫瘍活性を維持し続けられるかを免疫学的手法を用いて多角的に評価することを目的とする。
結果
遺伝子導入効率とin vitroにおける特異的反応性:
レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入により、患者由来PBLにおいて高い導入効率が達成された。CD8陽性T細胞におけるVβ12の発現率は平均42% (範囲 17%〜67%) であり、MART-1テトラマー結合率は平均15%であった (Table 1)。遺伝子導入された細胞は、MART-1ペプチドでパルスしたT2細胞、およびHLA-A0201陽性のメラノーマ細胞株である Mel 526 や Mel 624 と共培養した際に、特異的に多量のIFN-γを産生した (Fig. 1D, 1E)。これに対し、HLA-A0201陰性の Mel 888 や Mel 938 に対しては反応を示さず、高い抗原特異的反応性がin vitroで確認された (Fig. 1E)。この結果は、正常な末梢血リンパ球に対して適切なTCR遺伝子導入を行うことで、TILと同等の高い腫瘍特異的反応性を付与できることを示している。
培養期間の違いによる体内持続性の顕著な差: コホート間で投与細胞の体内持続性に極めて顕著な差が認められた。19日間の長期培養を行ったCohort 1 (n=3 patients) では、輸注後30日以内に末梢血中の遺伝子導入細胞の割合が10%以下に減少し、50日以降には2%以下まで低下した (Fig. 2A)。一方、培養期間を6〜9日間に短縮して活発な分裂期にある細胞を投与したCohort 2 (n=10 patients) およびCohort 3 (n=4 patients) では、15例中14例 (93%) において輸注後1週および4週時点で10%を超える高い生着率 (範囲 9%〜56%) が維持された (Fig. 2B, 2C, 2D)。さらに、50日を超えて追跡可能であった8例全例で17%以上の持続が確認され、9例中7例 (78%) で90日以上にわたり安定して生着し続けた (Fig. 2B, 2C)。この結果は、体外での培養期間を短縮し、細胞の分化度を低く抑えることが、体内での長期的な生着に不可欠であることを強く示唆している。
客観的腫瘍退縮と長期無病生存の達成: Cohort 2およびCohort 3の合計15例のうち、2例 (13%) においてRECIST基準による部分奏効 (PR: partial response) が達成された (Table 1)。患者4 (52歳男性、Cohort 2) は、肝転移 (4.4×3.3 cm) および腋窩リンパン節転移 (1.3×1.2 cm) を有していたが、治療後に腋窩病変が完全消失し、肝病変は89%縮小した (Fig. 3A, 3B)。その後、残存肝病変を切除し、21か月以上の無病生存を維持した。患者14 (30歳男性、Cohort 3) は、肺門リンパ節転移 (4.0×2.5 cm) が完全退縮し、20か月以上の無病生存を達成した (Fig. 3C, 3D)。これら2例のレスポンダーはいずれも、過去に高用量IL-2療法を含む複数の治療に抵抗性を示した難治例であり、本治療法が劇的な臨床効果をもたらし得ることが実証された。
レスポンダーにおける長期生着と機能的T細胞クローンの同定: 臨床的奏効を示した患者4および患者14の体内では、遺伝子導入細胞の著しい増殖が確認された。末梢血中の遺伝子マーク細胞数は、輸注時の細胞数と比較して、患者4で1400倍 (1400-fold)、患者14で30倍 (30-fold) にまで増加した (Fig. 3E)。輸注1年後においても、両患者の末梢血中には20%〜70%という極めて高い割合で遺伝子導入細胞が持続的に生着していた (Fig. 3E)。患者4の輸注1年後の末梢血から得られたT細胞クローンを制限希釈法により解析したところ、79クローン中33クローン (42%) に導入遺伝子が検出され、ex vivoにおいてMART-1特異的な反応性が維持されていることが実証された。これは、遺伝子導入されたT細胞が体内で1年以上にわたり生存し、かつその抗腫瘍機能を保持し続けられることを示す世界初の知見である。
遺伝子発現の減衰とTCRミスペアリングの課題: 輸注後1か月時点において、定量PCR法による遺伝子検出率 (平均26%) と、フローサイトメトリーによるVβ12発現率 (平均8.1%) およびMART-1テトラマー結合率 (平均0.8%) との間に乖離 (discordance) が観察された (Fig. 2E, 2F)。この乖離の原因として、導入された外来性TCR鎖とT細胞が元々持っている内因性TCR鎖との間でミスペアリング (mispairing) が生じたこと、レトロウイルスプロモーターからの転写活性が経時的に減衰したこと、あるいは活性化T細胞からメモリーT細胞への分化に伴い代謝活性が低下したことが考えられた。なお、全17例において、遺伝子導入細胞に起因する重篤な毒性は観察されず、本治療法の安全性が確認された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、患者の腫瘍組織から単離したTILを用いる従来の養子免疫細胞療法 Dudley et al. Science 2002 と異なり、正常な末梢血リンパ球 (PBL) を遺伝子工学的に改変して治療用T細胞を製造するアプローチを採用した。従来のTIL療法では、腫瘍組織から反応性リンパ球を回収・培養できる患者が限定されていたが、本手法はすべての患者から採取可能な末梢血を出発材料とすることで、細胞製造の普遍性を飛躍的に高めることに成功した。
新規性: 本研究は、TCR遺伝子を導入した自己T細胞をヒトに投与し、体内での長期的な生着と、進行した転移性メラノーマに対する客観的な腫瘍退縮を本研究で初めて実証した画期的な報告である。特に、輸注後1年が経過した時点でも、末梢血中に20%〜70%もの高割合で遺伝子改変T細胞が生着し、かつその抗腫瘍機能が維持されていることを示した点は、遺伝子治療およびがん免疫療法における極めて新規な知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、TILが採取できないためにACTの恩恵を受けられなかった多くの患者に対する新たな治療選択肢を提供するものであり、今後の臨床応用に直結する極めて重要な意義を持つ。さらに、本研究で確立された遺伝子改変T細胞療法のプラットフォームは、MART-1以外の腫瘍関連抗原 (NY-ESO-1やp53など) を標的とするTCR療法や、後年のキメラ抗原受容体である CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法の開発へと繋がる、現代の次世代T細胞療法の基盤を形成した。
残された課題: 一方で、今後の残された課題として、いくつかの重要な問題が浮き彫りとなった。第一に、Cohort 2および3における奏効率が13% (2/15例) にとどまり、従来のTIL療法 Dudley et al. Science 2002 で示された約50%の奏効率と比較して低い点である。第二に、導入した外来性TCR鎖と内因性TCR鎖とのミスペアリングによる機能低下や、自己免疫毒性のリスクが懸念される。第三に、レトロウイルスベクターによる遺伝子発現の経時的な減衰である。これらの課題を克服するため、今後はレンチウイルスベクターの導入、TCR定常領域の改変によるミスペアリング防止、より高親和性なTCRの探索、およびメモリーT細胞サブセット (TSCMなど) の最適化といった今後の方向性が示されている。
方法
臨床試験デザインと対象患者: 本試験は、IL-2を含む既存の治療法に抵抗性を示した、HLA-A*0201陽性の進行・転移性メラノーマ患者17例 (n=17 patients) を対象とした非ランダム化第I相臨床試験 (non-randomized phase I clinical trial) である。主要評価項目 (primary endpoint) は安全性 (safety) および遺伝子導入細胞の体内生着率 (engraftment rate) とし、副次評価項目 (secondary endpoint) はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に基づく客観的奏効率 (ORR: objective response rate) とした。本試験は初期の安全性と実行可能性を検証する第I相試験であるため、事前に規定された統計学的なサンプルサイズ設計 (sample size calculation) は行われず、登録された17例全例を対象として記述統計を中心に解析が実施された。
ベクター構築および遺伝子導入: 完全寛解を達成したメラノーマ患者のTILクローンから単離された、HLA-A*0201拘束性MART-1特異的TCRのα鎖およびβ鎖遺伝子を使用した。これらの遺伝子を、高発現を可能にするレトロウイルスベクターであるMSGV1AIBに、IRES (internal ribosomal entry site: 内部リボソーム進入部位) を介して連結した。患者から採取した自己PBLに対し、抗CD3抗体刺激およびインターロイキン-2 (IL-2) 存在下でこのレトロウイルスベクターを感染させ、遺伝子導入を行った。遺伝子導入効率は、フローサイトメトリーを用いてVβ12特異的抗体染色およびMART-1テトラマー結合能により評価した。
コホート割り当てと培養条件: 患者は、投与される細胞の培養条件および分裂状態に基づいて3つのコホートに割り当てられた。Cohort 1 (n=3 patients) では、体外で19日間の長期拡大培養を行った細胞を投与した。Cohort 2 (n=10 patients) では、体外培養期間を6〜9日間に短縮し、活発な分裂期にある細胞を投与した。Cohort 3 (n=4 patients) では、2回目の急速拡大プロトコルであるREP (rapid expansion protocol: 急速拡大培養プロトコル) を適用し、短期間で大量に調製した細胞を投与した。
前処置および細胞輸注: すべての患者は、細胞輸注の前に、非骨髄破壊的リンパ球除去前処置としてシクロホスファミド (60 mg/kgを2日間) およびフルダラビン (25 mg/m²を5日間) の投与を受けた。前処置による免疫枯渇が最大となった時点で、遺伝子改変自己PBLを静脈内投与し、続いて高用量IL-2 (720,000 IU/kg) を8時間おきに忍容性の限界 (5〜14回) まで投与した。
体内動態および免疫学的評価:
輸注後の末梢血中における遺伝子導入細胞の割合は、ベクター特異的プライマーを用いたリアルタイム定量PCR (qPCR) 法により経時的に測定した。また、末梢血単核細胞であるPBMC (peripheral blood mononuclear cell: 末梢血単核細胞) 中のCD8陽性かつVβ12陽性細胞、およびMART-1テトラマー結合細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した。さらに、ex vivoでの抗腫瘍活性を評価するため、患者由来のPBMCと、HLA-A*0201陽性メラノーマ細胞株である Mel 526 および Mel 624、ならびに陰性対照である Mel 888 および Mel 938 を共培養し、ELISPOT (enzyme-linked immunospot: 酵素結合免疫スポット) 法およびインターフェロンγ (IFN-γ) 産生能測定を実施した。
統計解析: 生存期間の解析には Kaplan-Meier 法が適用され、各コホート間の生着率や生存データの比較には log-rank test (ログランク検定) および Fisher’s exact test (フィッシャーの正確確率検定) が用いられた。