• 著者: Joris van der Veeken, Yi Zhong, Roshan Sharma, Linas Mazutis, Phuong Dao, Dana Pe’er, Christina S. Leslie, Alexander Y. Rudensky
  • Corresponding author: Alexander Y. Rudensky (Howard Hughes Medical Institute, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31027997

背景

CD8 T細胞はウイルス感染や腫瘍に対する適応免疫応答において中心的な役割を果たす。T細胞の活性化、エフェクター機能、メモリー形成に伴う遺伝子発現変化は、安定的(持続的メモリー)あるいは一過的(応答後の可逆的変化)に制御されるが、その分子機序は依然として未解明な点が多かった。細胞外からの刺激は、シス制御DNAエレメントのクロマチン状態と関連遺伝子の転写に影響を与え、細胞分化と適応応答を促進する。これらの変化は、刺激の停止後に元に戻る場合と、時間とともに安定して維持される場合がある。この安定的な遺伝子制御と一過的な遺伝子制御の二分法は、免疫システムにおいて特に顕著であり、感染や炎症性刺激への短期的な曝露が、短期的なエフェクター応答と長期的な免疫記憶の両方を引き起こす。急性ウイルス感染に対するCD8 T細胞応答は、この挙動の最もよく知られた例の一つである。ウイルス特異的なナイーブCD8 T細胞の活性化は、爆発的な増殖、炎症誘発性および細胞傷害性機能の獲得、遊走特性の変化など、広範な細胞変化を誘導する。病原体排除後、活性化されたエフェクターT細胞プールは収縮し、抗原特異的なメモリーT細胞の小さな集団が残る。このメモリーT細胞は、活性化エフェクター細胞に関連する多くの特徴を失うが、同じ病原体による再感染に対する応答性を高め、防御を可能にする変化の一部を維持する。

T-betやEomesなどの転写因子(TF)がCD8 T細胞分化に重要であることは、これまで多くの研究で示唆されてきた (Banerjee et al., 2010; Joshi et al., 2007)。しかし、これらのTFがクロマチンリモデリングの安定性にどのように寄与するかは不明であった。従来の逆遺伝学的アプローチ(TFノックアウト)は、trans効果やT細胞機能障害による交絡が問題であり、シス制御の直接的な評価が困難であった。例えば、T-betまたはEomesのいずれかの遺伝子欠損は特定のCD8 T細胞機能に影響を与えるが、両方の複合欠損によるより劇的な障害は、これらの因子の重複した部分的に冗長な機能を示唆していた (Intlekofer et al., 2008)。しかし、複合欠損による重度のT細胞機能障害は、この状況におけるT-box標的遺伝子制御の直接的なメカニズムを理解する努力を妨げる。また、TF欠損は直接的および間接的な標的遺伝子の両方の制御に広範な影響を与える可能性がある。さらに、TF間の冗長性や競合が、遺伝子ノックアウト研究の解釈をさらに複雑にする可能性もある。これらの課題から、活性化CD8 T細胞における安定的な遺伝子制御と可逆的な遺伝子制御に寄与する直接的なシス制御メカニズムをよりよく理解するための、新たなアプローチが不足していた。特に、特定の転写因子がクロマチンリモデリングの安定性に直接的にどのように関与するのかについては、分子レベルでの詳細な理解が未解明であった。

本研究では、野生由来近交系マウス(Cast/Eij、Spret/Eij)と実験系C57BL/6マウスのF1交配を用いた天然のシス制御変異解析と、ATAC-seqおよびRNA-seqの統合解析により、ウイルス特異的CD8 T細胞における安定的エピジェネティック記憶形成の分子基盤を解明することを目的とした。このアプローチは、従来の遺伝子ノックアウト研究では困難であった、シス制御の直接的な評価を可能にする。

目的

本研究の目的は、野生由来近交系マウス(Cast/Eij、Spret/Eij)と実験系C57BL/6マウスのF1交配を利用して、LCMV感染CD8 T細胞における天然のシス制御変異がクロマチンアクセシビリティと遺伝子発現に与える影響を解析することである。これにより、安定的および一過的なクロマチンリモデリングを担う転写因子(TF)とその分子機序を同定し、ウイルス特異的CD8 T細胞応答を駆動する分子メカニズム、および他の免疫細胞や非免疫細胞にも適用可能な転写およびエピジェネティック記憶形成の一般的メカニズムに関する洞察を提供することを目指した。具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とした。

  1. シス制御変異がゲノムワイドなクロマチンアクセシビリティと遺伝子発現にどのように影響するかを評価する。
  2. 安定的および一過的なクロマチンリモデリングイベントの明確な特徴と、それらを媒介するTFファミリーを特定する。
  3. T-boxおよびRunx転写因子ファミリーが、安定的なクロマチンリモデリングにおいてどのように協調的に機能するかを解明する。
  4. 隣接するシス制御エレメントの共調節が、クロマチンリモデリングイベントの安定性にどのように寄与するかを明らかにする。

これらの解析を通じて、CD8 T細胞における長期的な免疫記憶の分子基盤を理解し、細胞記憶の普遍的な原理を解明することを目指した。

結果

シス制御変異がゲノムワイドなクロマチン・転写変化の大部分を説明: (Cast×B6) F1および(Spret×B6) F1マウスのLCMV特異的CD8 T細胞において、数千の遺伝子とクロマチン部位でアレル特異的な発現・アクセシビリティ差が認められた (Figure 1)。RNA-seqとATAC-seqのアレル不均衡は有意に正相関し (Pearson相関 r=0.241)、転写制御におけるアレル特異的差異がmRNA不均衡の重要な要因であることを示唆した (Figure 1F)。混合骨髄キメラ(B6+Cast→F1レシピエント)の解析では、同一のtrans環境下でもストレイン特異的遺伝子発現差の約76%がシス制御によって説明され、残り24%がトランス制御に起因すると推定された (Figure 2D)。この解析では、各実験群で3〜4匹のマウス (n=3-4 mice) からのデータがプールされた。トランス制御はSLEC/MPECのサブセット比率に影響し、Cast CD8 T細胞はB6細胞より細胞傷害効率が高い一方で、競争的メモリー形成では不利であることが判明した (Figure 2B, 2E, 2F)。scRNA-seqでは、アレル特異的発現変化はすべて「アナログ」制御(発現量の差)として現れ、「デジタル」制御(発現細胞頻度の変化)は確認されなかった (Figure 3B, 3C)。このscRNA-seq解析は、単一のB6/Spret F1マウスから分離された3018個の単一細胞 (n=3018 cells) を用いて実施された。

安定的・一過的クロマチンリモデリングの明確な特徴的差異: ATAC-seqシグナルの約5倍を超える変化はほぼ全て活性化後に安定的に維持された。安定的応答を示す部位は、ナイーブ時の基底アクセシビリティが低く、活性化時の変化が劇的(大幅なアクセシビリティ増加)である一方、一過的応答を示す部位は、基底アクセシビリティが高く、変化量が小さいという対照的なパターンが示された (Figure 4B)。TF結合モチーフ解析では、Ets・IRFモチーフが全クロマチングループに広く関与するのに対し、T-box・Runx・ホメオドメイン・bZIP (basic leucine zipper) モチーフは安定的応答群にのみ特異的に濃縮されており、TFの種類が安定性を規定することが示唆された (Figure 4D)。例えば、Runx1モチーフ変異とアレル特異的クロマチンアクセシビリティの関連を解析した結果、安定的にアクセシビリティが上昇するピークにおいて、Runx1モチーフ変異が有意な影響を与えることが示された (p=0.006) (Figure 4C)。

T-box (T-bet/Eomes) とRunx/CBFβの協調的ゲノム結合: T-betとEomesのゲノムワイド結合パターンは大きく重複し(Pearson相関 r=0.82)、T-bet/Eomes結合部位の90%以上でRunx-CBFβも結合していた (Figure 5B, 5D)。そのうち約60%はT細胞活性化時にde novoでRunx-CBFβが動員された部位であり、このde novo動員群のATAC-seqピークは安定的アクセシビリティ増加領域と強く一致した (Figure 5E, 5F)。アレル特異的変異解析では、Runxモチーフ変異がT-bet/Eomes結合のアレル比に正相関し(p<0.05)、逆にT-boxモチーフ変異もRunx-CBFβ結合に有意に影響することが判明し、両TFファミリーの双方向的協調結合が証明された (Figure 5G)。T-bet ChIPは7匹のB6/Cast F1マウス (n=7 mice) からプールした活性化T細胞の技術的複製を用いて実施され、CBFβ ChIPは4-6匹のB6/Cast F1マウス (n=4-6 mice) からプールしたナイーブおよび活性化CD8 T細胞の技術的複製を用いて実施された。

T-betとRunx1の直接タンパク質相互作用の確認: T-boxとRunxモチーフは同一ATAC-seqピーク内で平均ヌクレオソームの半分の距離に配置されており (Figure 5H)、共免疫沈降(co-IP)実験によりT-betとRunx1の直接タンパク質相互作用も確認された (Figure 5I)。この近傍配置と直接相互作用が、両TFによる協調的クロマチンリモデリングの物理的基盤となっていると考えられる。

隣接クロマチン領域の共調節が安定的メモリーの特徴: Runxモチーフ変異は、変異を含むATACピーク自体だけでなく、3 kb以内の隣接ピークのアクセシビリティにも有意な影響を与えた (Figure 6B)。遺伝子に関連する複数の隣接ATACピークが同一方向にアレル不均衡を示す「共調節」パターンが観察され、2個以上のピークが共調節される場合の変化はほぼ常に安定的であった(安定vs一過的:数百 vs 数個) (Figure 6E)。単一制御要素ではなく、「クロマチンエレメントの集団的リモデリング」が転写記憶の安定化機構であることが示された。隣接ピーク間のアレル不均衡のPearson相関は、近接するピーク間で強く、距離が離れるにつれて急速に減少することが示された (Figure 6D)。

考察/結論

本研究は、ゲノムワイドなシス制御変異解析という新規アプローチにより、CD8 T細胞の安定的エピジェネティック記憶の形成に関与する転写因子(TF)と機序を直接的に同定した。

先行研究との違い: これまでのTFノックアウト研究では、trans効果やT細胞機能障害による交絡が問題となり、シス制御の直接的な評価は困難であった。本研究は、天然の遺伝的変異を利用することで、これらの交絡因子を排除し、T-boxファミリー(T-bet/Eomes)とRunx/CBFβファミリーの協調的・直接的タンパク質相互作用がDNA標的部位への安定的なクロマチンリモデリングを媒介するという「協調リモデリングモデル」を直接的なシス制御評価によって支持した点で、既存の研究と大きく異なる。特に、T-betとEomesの結合パターンが強く重複し(Pearson相関 r=0.82)、これらの結合部位の90%以上でRunx-CBFβも結合していたという発見は、両TFファミリーの協調的機能の直接的な証拠として、これまでの研究では得られなかったものである。

新規性: 本研究で初めて、安定的クロマチンリモデリングが、ナイーブ時の低い基底アクセシビリティから活性化時に劇的なアクセシビリティ増加を伴うこと、そしてT-boxおよびRunxモチーフが安定的応答に特異的に濃縮されることを明らかにした。さらに、T-betとRunx1の直接的なタンパク質相互作用と、T-boxおよびRunxモチーフが同一ATAC-seqピーク内で近接して配置されていることを確認し、両TFファミリーの協調的結合が安定的なクロマチンリモデリングの分子基盤であることを新規に示した。また、隣接する複数の制御要素の同時調節が、クロマチンリモデリングイベントの安定性と関連していることを本研究で初めて報告した。これは、単一の制御要素だけでなく、複数の隣接する要素の「集団的リモデリング」が長期的な転写記憶の安定化に寄与するという、これまで報告されていない概念を提示するものである。

臨床応用: 本知見は、CD8 T細胞の持続的機能(腫瘍浸潤リンパ球の機能維持など)の分子基盤を理解する上で重要な臨床的意義を持つ。T-bet/EomesおよびRunx/CBFβによる安定的クロマチン記憶の制御機序の解明は、養子細胞療法や腫瘍ワクチン設計において、より効果的で持続的な抗腫瘍免疫応答を誘導するための新たな標的を提供する可能性がある。例えば、これらのTFの活性を調節することで、メモリーT細胞の質と量を向上させ、免疫療法の効果を高めることが期待される。特に、安定的なクロマチンリモデリングを誘導するTFの同定は、T細胞の疲弊を克服し、長期的な抗腫瘍免疫を確立するための新しい戦略の開発に繋がる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、T-boxとRunxファミリー以外のTFが安定的なクロマチンリモデリングにどのように寄与するか、また、隣接クロマチン領域の共調節を媒介する具体的な分子メカニズム(例えば、3Dゲノム構造や局所的なクロマチン結合タンパク質の連鎖など)をさらに詳細に解明する必要がある。本研究では、scRNA-seq解析においてデジタル制御の証拠は見られなかったが、これは解析可能な遺伝子のサブセットに限定された結果である可能性も残されている。より広範な遺伝子群におけるデジタル/アナログ制御の検証も今後の課題である。Limitationとして、本研究はマウスモデルに限定されており、ヒトのCD8 T細胞における同様のメカニズムの検証が求められる。また、in vivoでのT-boxとRunxの協調的結合の動態をリアルタイムで追跡する技術の開発も、より深い理解に繋がるだろう。

方法

野生由来近交系マウス(Cast/Eij、Spret/Eij)と実験系C57BL/6マウスのF1交配を利用し、LCMV Armstrong株に感染させたマウスからウイルス特異的CD8 T細胞を分離した。ナイーブ(未感染)、活性化(感染後7日目)、メモリー(感染後8-10週後)のNP396特異的CD8 T細胞を、ATAC-seq(クロマチンアクセシビリティ)とRNA-seqで解析した。実験には少なくとも8週齢の雄および雌のF1マウスが用いられた。

シーケンスデータ解析: シーケンスリードは、B6およびpseudo-Cast/Spretゲノムに並行してマッピングし、各リードの最もスコアの高いアラインメントを保持した。アレル特異的なクロマチンアクセシビリティおよび遺伝子発現差は、遺伝子またはピーク内の任意の遺伝的変異と重複するすべてのリードをカウントした後、ベータ二項検定を用いて評価した。RNA-seqリードはSTAR Dobin et al. Bioinformatics 2013 を用いてマッピングし、DESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を用いて差次的に発現する遺伝子を同定した。ATAC-seqリードもSTARを用いてマッピングし、MACS2 (Model-based Analysis of ChIP-Seq) Zhang et al. GenomeBiol 2008 を用いてピークをコールした。

シス/トランス調節の分離: シス/トランス調節の寄与を分離するため、混合骨髄キメラ(B6+Cast骨髄→F1レシピエント)を作製した。致死量照射したF1レシピエントにB6(CD45.1)とCast(CD45陰性)の骨髄前駆細胞を1:1の比率で移植し、再構成されたマウスをLCMV Armstrong株に感染させた。これにより、同一のtrans環境下でのアレル特異的応答を比較し、シス制御とトランス制御の相対的寄与を評価した。

単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)解析: 感染後7日目のB6/Spret F1マウスからウイルス特異的T細胞を単離し、scRNA-seq解析を実施した。データは、Chromium Single Cell 3’ Reagent Kit (v2) を用いて調製し、Illumina HiSeq 2500でシーケンスした。scRNA-seqデータは、ライブラリサイズの中央値に正規化し、主成分分析(PCA)と拡散マップ(Diffusion Maps)を用いて次元削減を行った。PhenoGraphを用いて細胞をクラスター化し、Earth Mover’s Distance (EMD) を用いて差次的発現遺伝子を同定した。アレル特異的発現パターンを「デジタル」制御(発現細胞頻度の変化)と「アナログ」制御(発現量の差)に分類し、評価した。

転写因子結合解析: T-bet、Eomes、Runx-CBFβのChIP-seqを実施し、ゲノムワイドな結合パターンを解析した。T-bet ChIPは、7匹のB6/Cast F1マウスからプールした活性化T細胞の技術的複製を用いて実施した。Eomes ChIPは、単一のB6/Cast F1マウスからin vitroで増殖させた細胞の技術的複製を用いて実施した。CBFβ ChIPは、4-6匹のB6/Cast F1マウスからプールしたナイーブおよび活性化CD8 T細胞の技術的複製を用いて実施した。ChIP-seqピークはMACS2を用いてコールし、DREME (Discriminative Regular Expression Motif Elicitation) を用いて濃縮されたモチーフを予測した。FIMO (Find Individual Motif Occurrences) を用いて既知のTF結合モチーフをスキャンし、モチーフ変異がアレル特異的クロマチンアクセシビリティに与える影響を評価した。共免疫沈降(co-IP)実験により、T-betとRunx1の直接的なタンパク質相互作用を確認した。

隣接クロマチン領域の共調節解析: Runxモチーフ変異が、変異を含むATACピークだけでなく、隣接するクロマチン領域のアクセシビリティにも影響を与えるかを解析した。アレル不均衡を示す複数の隣接ATACピークが同一方向に共調節されるパターンを特定し、その安定性との関連を評価した。統計解析にはt検定、Pearson相関、ベータ二項検定などが用いられた。