• 著者: Dhanya K. Nambiar, Todd Aguilera, Hongbin Cao, Shirley Kwok, Christina Kong, Joshua Bloomstein, Zemin Wang, Vangipuram S. Rangan, Dadi Jiang, Rie von Eyben, Rachel Liang, Sonya Agarwal, A. Dimitrios Colevas, Alan Korman, Clint T. Allen, Ravindra Uppaluri, Albert C. Koong, Amato Giaccia, Quynh Thu Le
  • Corresponding author: Quynh Thu Le (Department of Radiation Oncology, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-11-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31710313

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI, immune checkpoint inhibitor) は複数のがん種で生存期間の改善をもたらしたが、HNC (head and neck cancer; 頭頸部がん) を含む多くの腫瘍ではT細胞除外 (T cell exclusion) による免疫回避が残遺し、奏効率は依然として限定的である (Postow et al. JClinOncol 2015)。腫瘍内のT細胞浸潤密度と局在は大規模コホートにおいて予後を予測する独立したバイオマーカーとして示されており (Galon et al. Science 2006)、anti-PD-L1抗体への奏効を予測するうえでもT細胞浸潤の程度が鍵因子となることが報告されている (Herbst et al. Nature 2014)。これらの知見からT細胞除外の分子機序の解明が急務とされていたが、その主因となる因子は未同定であった。

腫瘍内皮 (tumor endothelium) は従来、T細胞が血管外に遊出する際の受動的な物理的障壁とみなされてきた。しかし近年、腫瘍内皮がFasL (Fas ligand) などの免疫抑制分子を発現することで能動的な免疫抑制バリアへと転換しうることが示されはじめ、腫瘍血管の免疫調節的役割への関心が高まっている。Gal1 (galectin-1) は炭水化物結合レクチンの一種で、肺がん・メラノーマ・乳がん・HNCなど固形がんで過剰発現・分泌される。先行研究ではHNCにおいてGal1と低酸素 (hypoxia) の関連、およびGal1と腫瘍内CD3+ T細胞数の強い逆相関が示されていた (Le et al. JCO 2005)。

しかし、T細胞に対するGal1の直接的なアポトーシス誘導能については7〜30μMという生理的濃度を大幅に超える高濃度が必要であることが複数の研究で示されており、TME (tumor microenvironment; 腫瘍微小環境) 内でのGal1の実際の免疫抑制機序には gap in knowledge が存在した。すなわち、生理的濃度のGal1がいかにして「T cell-excluded tumor」を形成するかという機序が不足しており、本研究はこの欠落した知識を補完することを目的として立案された。

目的

HNCにおいてGal1が腫瘍内皮を介したT細胞除外を誘導しICI応答性を低下させる分子機序を解明すること。また、Gal1阻害が抗腫瘍免疫を回復させanti-PD1療法および放射線療法 (RT, radiotherapy) との相乗効果を発揮しうるかを前臨床モデルで検証し、臨床コホートにおける予後予測バイオマーカーとしての有用性を評価すること。

結果

Gal1高発現はHNC患者のOS・ICI奏効率と逆相関する:TCGA HNSCコホート (n=518) においてGal1 mRNA高発現群は低発現群と比べて全生存期間が有意に短く (P=0.0016、log-rank検定、Fig 1A)、ガレクチンファミリー3種 (Gal1・Gal3・Gal9) の中でGal1のみが腫瘍組織で正常組織 (GTEx [Genotype-Tissue Expression] n=44) と比べ有意に過剰発現していた。CIBERSORT解析ではGal1発現とCD4+ memory resting T細胞・CD4+ follicular T細胞との間に有意な逆相関が認められた。ICI治療を受けたリカレント/転移性HNC患者33名のコホート (Table 1: 女性18名/男性15名、中央年齢65歳、SCC [squamous cell carcinoma] 25名) では腫瘍・間質のGal1 IHC発現を基にlow-risk群 (n=5) とhigh-risk群 (n=28) に分類した。RECIST基準によるanti-PD1奏効率はlow-risk群67%、intermediate-risk群9%、high-risk群0% (P=0.053) であり、low-risk群でOSが有意に良好であった (P=0.018、Fig 5I)。治療継続サイクル数中央値はlow-risk群12サイクル対しhigh-risk群3〜4サイクルと大差があり (P=0.0053)、Gal1が臨床的ICI耐性と強く関連することが示された (Table 2: 高Gal1間質染色群でCD8低染色13/26例 vs 低Gal1群でCD8高染色5/7例)。

Gal1はCD8+ T細胞依存的にHNCマウスモデルの腫瘍増殖・転移を促進する:高悪性度MOC2細胞は低酸素条件下でGal1分泌をさらに亢進し (ELISA, pg/mL、Fig 1B)、MOC1は低レベル、MEERLは低酸素下でのみ誘導されるという差次的分泌パターンを示した。MOC1へのGal1過剰発現は腫瘍増殖と肺転移を促進し (Fig 1D, G)、MOC2/MEERLでのGal1 KOは原発腫瘍増殖を約50% (P<0.001、repeated-measures ANOVA) 抑制した (Fig 1E, F)。Gal1 KO担腫瘍マウスでは一次腫瘍サイズを一致させた比較でも自然発生的な肺・リンパ節転移が有意に減少した (Fig 1H, I)。フローサイトメトリーによる腫瘍免疫解析では、小型腫瘍 (約100mm^3) でGal1 KO群がWT群に比べCD4+ T細胞が約2-fold増加、CD8+ T細胞が約3-fold増加し、大型腫瘍 (約300mm^3) ではCD8+ T細胞がWT群5.7%からKO群23.7%へと顕著に増加した (Fig 1J)。Gal1 WT腫瘍のT細胞はnaive型 (CD44-CD62Lhi) 優位であったのに対しKO腫瘍ではeffector memory型 (CD44hiCD62Llo) が優位であり (Fig 1K)、WT腫瘍T細胞にはPD1+Tim3+ダブル陽性の疲弊 (exhaustion) 表現型も高頻度に認められた。CD8A-KOマウスではGal1 KO腫瘍の増殖差がほぼ消失した (約15%の軽微な遅延のみ) こと、およびin vitroでの細胞増殖に差がなかったことから、Gal1の腫瘍促進作用がCD8+ T細胞排除を主因とする免疫依存的な機序であることが確認された。

Gal1は腫瘍内皮を介してT細胞浸潤を52%阻害する:Gal1によるT細胞への直接アポトーシス誘導には7〜30μMの高濃度が必要であり、MOC2 CM (×10濃縮) によるT細胞アポトーシスはわずか15.75% (Gal1-KO CM: 8.2%) にとどまり、TUNEL (terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick-end labeling) 染色でも腫瘍内T細胞アポトーシスに有意差は認められなかった。TEM アッセイでは、Gal1 WT CM前処理内皮細胞はGal1 KO CM前処理と比べてT細胞透過を52%低下させ (n=3 independent experiments)、anti-Gal1抗体の添加でこの阻害が有意に回復した (Fig 2B)。T細胞遊走阻害はGal1 WT CM希釈率に依存して変化した。In vivoでのCSFE標識T細胞の adoptive transfer実験では、Gal1 KO腫瘍担腫瘍マウスへ注入したT細胞は腫瘍内へ高度に浸潤したのに対し、Gal1 WT腫瘍ではほとんど浸潤せず、脾臓T細胞数は両群で同等であったことから効果が腫瘍特異的であることが確認された (Fig 2D, E)。Gal1 WT腫瘍担腫瘍マウスにanti-Gal1抗体 (200μg i.p.×2) を投与するとWT腫瘍へのT細胞浸潤が有意に増加した (Fig 2F)。クロス移入実験ではT細胞側よりも腫瘍側のGal1環境がT細胞浸潤を規定することが示された (Fig 2G, H)。血管正常化 (pericyte coverage・vessel perfusion) はGal1 WT/KO腫瘍間で差がなく (Fig 3A, B)、Gal1の効果が主に内皮分子発現変化を介することが確認された。

Gal1は腫瘍内皮のJAK/STAT1軸を活性化しPD-L1・galectin-9を誘導してT細胞バリアを形成する:Gal1 WT/KO腫瘍から単離したTECの遺伝子発現プロファイリング (n=3/群) では、STAT1シグナルがGal1 KO TECで有意に低下しており、Gal1 WT TECではISG (interferon-stimulated gene, インターフェロン刺激遺伝子) シグネチャーおよびPD-L1 (CD274)・galectin-9 (Lgals9) の発現が顕著に亢進していた。フローサイトメトリーによる単離TECの解析ではGal1 WT腫瘍由来TECはNECやKO腫瘍由来TECと比べてPD-L1発現が著明に高かった (Fig 3D)。In vitroでGal1 WT CM処理した内皮細胞ではGal1 KO CMやanti-Gal1抗体併用と比べてpSTAT1 (phospho-STAT1, Tyr-701) が顕著に亢進し (Fig 3E)、JAK2リン酸化も増加してJAK阻害剤 (100nM) 添加により減弱した (Fig 3F)。免疫蛍光染色ではGal1 WT腫瘍のPD-L1・galectin-9発現はCD31陽性内皮細胞に局在し、KO腫瘍ではがん細胞全体に分散 (IFNγ産生増加に伴うadaptive immune resistance) していた (Fig 4A, B)。内皮細胞のPD-L1をブロックすると、TEM アッセイにてT細胞遊走が30%回復し (Fig 4E)、PD1+Tim3を同時ブロックしたT細胞のin vivo移入でも浸潤改善が得られた (Fig 4F)。これらの結果はGal1依存的な内皮PD-L1/Gal9誘導がT細胞除外バリアの形成に直接寄与することを示す。

Gal1阻害とanti-PD1・RTの3剤併用で腫瘍増殖54%・肺転移74%抑制を達成する:MOC2およびMEERL皮下腫瘍モデルではanti-PD1単独の抗腫瘍効果はほとんど認められなかった (Fig 5A, B)。Gal1 KO+anti-PD1の組み合わせでは腫瘍増殖・転移が有意に抑制され、皮下モデルでの肺転移巣はGal1 KO+anti-PD1群でGal1 WT+anti-PD1群と比べて約88%減少した (Fig 5C)。口腔頬部正位モデルではanti-Gal1抗体 (150μg i.p.) +anti-PD1抗体 (200μg i.p.) の併用により対照群・PD1単独群と比べ腫瘍増殖が54%抑制され (Fig 5E)、肺転移が74%減少した (Fig 5F)。腫瘍内CD8+ T細胞数も3剤群で有意に増加した (Fig 5G)。RT実験 (2.5Gy×6、計15Gy) ではGal1 KO+anti-PD1+RTの3剤群でRT開始から50日後に70%のマウスが腫瘍消失を示し (Fig 6A)、腫瘍内T細胞およびDC (dendritic cell; CD11c+MHCII [MHC class II]+) 数の顕著な増加が確認された (Fig 6B, C)。放射線がGal1分泌を亢進させることが既知であり、RT+ICI治療の障壁をGal1阻害が除去するという論理的な相乗機序が前臨床的に裏付けられた。

考察/結論

本研究は、HNCにおけるGal1の免疫調節機序として、これまでの研究で主流であった直接的T細胞アポトーシス誘導 (高濃度Gal1依存) とは異なる新規の経路を同定した。すなわち、生理的濃度以下のGal1でも腫瘍内皮細胞のJAK/STAT1シグナル経路を持続的に活性化し、PD-L1とgalectin-9の内皮表面発現を誘導することで、T細胞が血管外に遊出する際の分子的バリアを形成する「内皮リプログラミング」機序が初めて解明された。先行研究ではGal1のT細胞アポトーシス誘導に7〜30μMの高濃度が必要とされ、腫瘍モデルによって結果が異なることが問題とされていたが、本知見はこの既報の矛盾を整合的に説明する。腫瘍が小型の早期段階では生理的濃度のGal1が内皮を介したT細胞除外の主機序として機能し、腫瘍増大とともにGal1濃度が高まった段階でT細胞アポトーシスが付加されるという時系列的な機序転換モデルが提唱された。

新規の学術的貢献として、本研究で初めてGal1が腫瘍内皮を能動的な免疫抑制バリアへと転換させる具体的な分子機序 (JAK/STAT1→PD-L1/galectin-9軸) が示された。慢性IFNγシグナルによるSTAT1持続活性化がISGフットプリント亢進を介してICI耐性を生むことが別途報告されており (Benci et al. Cell 2016)、本研究の知見 (Gal1による腫瘍内皮での慢性STAT1活性化) はこのパラダイムと一致する。さらに、低酸素環境でのGal1分泌亢進および放射線照射後のGal1増加という2つの文脈から、Gal1が腫瘍血管新生と免疫抑制を架橋する二刀流の分子標的であることが示唆された。この観点は抗VEGF+抗CTLA-4治療中の循環Gal1増加が予後不良と相関するという臨床報告 (Wu et al. 2017) とも整合し、Gal1標的療法の普遍的な意義を支持する。

臨床的意義として、Gal1のIHC染色をICI治療前の患者選択バイオマーカーとして利用できる可能性が示された。n=33の小規模後方視的コホートではあるが、Gal1低発現群での奏効率67%と高発現群0%という対照的な結果は、より大規模な前向きコホートによる検証の強固な根拠を提供する。anti-Gal1抗体 (BMS製) が「T cell-excluded (cold)」腫瘍を「T cell-enriched (hot)」腫瘍へと転換させ、局所進行HNCにおけるRT+anti-PD1と組み合わせた3剤療法の前臨床的有効性を示したことは、現在進行中の臨床試験 (NCT02764593) への橋渡し (bench-to-bedside) の根拠となりうる。Gal1抗体治療において動物モデルで明らかな毒性が観察されなかったことも、臨床応用の安全性に対する初期的な裏付けとなる。

今後の検討課題として、第一に本前臨床知見をヒト臨床試験で検証することが最優先事項である。第二に、Gal1がIFNγR1/R2 (interferon-γ receptor subunits 1 and 2) の糖鎖修飾部位に直接結合してJAK/STATを活性化するという機序 (Blouin et al. Cell 2016による先行報告) の詳細、およびGal1とVEGFR2 N-グリカン結合を介した血管新生促進との関連については、今後の研究としてさらなる分子機序の解明が必要である。第三に、Gal1が高発現する他の固形がん (肺がん、メラノーマ、乳がん) でも同様の腫瘍内皮リプログラミングが作動するかどうかを明らかにすることが重要な課題である。本研究のlimitation としてコホートの小ささ (n=33) と後方視的デザインが挙げられており、より大規模な多施設前向き試験における future research が求められる。

方法

臨床解析にはTCGAのHNSC (head and neck squamous cell carcinoma; 頭頸部扁平上皮がん) コホート (n=518) のRNA-Seqデータ (Illumina HiSeq 2000、log2 RSEM [RNA-Seq by Expectation-Maximization] normalized count) を用いてGal1 mRNA発現とOS (overall survival; 全生存期間) の相関をKaplan-Meier法およびlog-rank検定で解析した。免疫細胞組成の推定にはCIBERSORT (LM22 [22-cell type leukocyte gene signature matrix]、100 permutations) を使用し、Gal1発現との相関を検討した。

前臨床試験にはHPV- (MOC1、MOC2) およびHPV+ (MEERL) の3種同系マウスHNCモデルを使用した。Gal1 KO (knockout) 株はCRISPR/Cas9 (pSpCas9(BB)-2A-Puro、Addgene #62988) で作製し、MOC1へのGal1過剰発現にはレンチウイルスベクターを用いた。遺伝子改変はWestern blotおよびDNA-Seqで確認した。皮下腫瘍モデル (MOC2: 2.5×10^5個、MOC1/MEERL: 1×10^6個) および口腔頬部正位モデル (MOC2: 4×10^4個) でC57BL/6マウスへ投与した。腫瘍体積はV=L×W^2/2で算出した。

In vitro TEM (transendothelial migration; 経内皮遊走) アッセイでは、マウス内皮細胞C166およびSVEC4-10をGal1 WT/KO腫瘍CM (conditioned medium; 条件培地) で24時間前処理後にTranswellに播種し、活性化脾臓T細胞 (2×10^5個) を上層に添加、4時間後に下層に遊走した細胞数を計測した。CSFE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 標識T細胞のin vivo adoptive transfer実験では、担腫瘍マウスの脾臓T細胞を静脈内投与し48時間後にフローサイトメトリーで腫瘍・脾臓への浸潤を定量した。

TEC (tumor endothelial cell, 腫瘍内皮細胞) はGal1 WT/KO腫瘍各n=3から抗CD31マイクロビーズ (Miltenyi) による磁気細胞分離で単離・展開し、遺伝子発現プロファイリングをSTRINGデータベース相互作用マッピングおよびパスウェイ解析で解析した。NEC (normal endothelial cell, 正常内皮細胞) は正常肺組織から同様に単離した。免疫染色では抗PD-L1 (Abcam ab233482)、抗CD31 (SZ31)、抗galectin-9を使用した。

RT実験では2.5Gy×6回 (計15Gy) の分割照射を225kVp X線照射装置 (IC-250) で実施し、anti-PD1抗体・anti-Gal1抗体 (各200μg i.p.) をRT開始1日前から4日ごとに計5回投与した。臨床コホートとして、ICI治療を受けたリカレント/転移性HNC患者33名の術前腫瘍生検を免疫組織化学染色 (IHC) でGal1発現評価し、Stanford IRB承認のもとデータを収集した。統計は2群比較にStudent’s t検定、多群比較に1-way ANOVA with Tukey’s adjustment、腫瘍増殖曲線にrepeated-measures ANOVA、OS解析にKaplan-Meier法とlog-rank検定、奏効率分布にχ2検定を用い、SAS 9.4またはGraphPad Prism 7.04で解析した。