- 著者: Roy S. Herbst, Jean-Charles Soria, Marcin Kowanetz, Gregg D. Fine, Omid Hamid, Michael S. Gordon, Jeffery A. Sosman, David F. McDermott, John D. Powderly, Scott N. Gettinger, Holbrook E. K. Kohrt, Leora Horn, Donald P. Lawrence, Sandra Rost, Maya Leabman, Yuanyuan Xiao, Ahmad Mokatrin, Hartmut Koeppen, Priti S. Hegde, Ira Mellman, Daniel S. Chen, F. Stephen Hodi
- Corresponding author: Daniel S. Chen (Genentech) / Roy S. Herbst (Yale Cancer Center)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 25428504
背景
がんの発生と進展は、遺伝的およびエピジェネティックな変化の蓄積を伴う多段階のプロセスであり、これらの変化によってがん細胞は正常細胞から区別され、免疫系に異物として認識されるようになる vanRooij et al. JClinOncol 2013。しかし、腫瘍が自然に拒絶されることは稀であり、これは腫瘍微小環境が免疫抑制的な状態を維持しているためである Mellman et al. Nature 2011。PD-L1(programmed death-ligand 1、別名: B7-H1またはCD274)は、多くの腫瘍細胞や免疫細胞に発現し、T細胞上のPD-1(programmed death-1)およびB7.1(CD80)と結合することで、T細胞の活性化、遊走、増殖、および細胞傷害性メディエーターの分泌を抑制し、腫瘍の免疫回避に寄与する「cancer-immunity cycle」の中核経路を形成している Chen et al. Immunity 2013、Dong et al. NatMed 1999。
これまでの臨床研究において、PD-L1やPD-1の経路を阻害することで、進行固形がん患者において持続的な抗腫瘍効果が得られることが示されてきた Brahmer et al. NEnglJMed 2012、Topalian et al. NEnglJMed 2012。しかし、どのような患者が抗PD-L1療法から最も恩恵を受けるのか、その治療効果を予測するバイオマーカーについては未解明であり、臨床現場での患者選択戦略は未確立であった。特に、ヒト腫瘍におけるPD-L1発現の局在(腫瘍細胞(TC)と腫瘍浸潤免疫細胞(IC)のどちらに発現しているか)や、既存の免疫微小環境の遺伝子発現パターンが治療奏効にどのように関与しているかについての詳細な解析が不足していた。既存のマウスモデルの多くはPD-L1を構成的に発現しており、ヒト腫瘍の多様な発現パターンとは一致しないため、実際の患者検体を用いた詳細なバイオマーカー解析が強く求められていた。このように、治療効果を予測する確固たる指標が存在しないことが、がん免疫療法における大きな課題であり、詳細なトランスレーショナル解析データの不足が知識ギャップ(knowledge gap)となっていた。
MPDL3280A(atezolizumab)は、PD-L1とPD-1およびB7.1の結合を特異的に阻害するよう設計された高親和性のヒト化IgG1モノクローナル抗体である。この抗体は、肺における末梢性免疫寛容の維持に重要とされるPD-1とPD-L2の結合を温存するように設計されている。さらに、活性化T細胞の枯渇を防ぐため、Fc(crystallizable fragment)領域に改変(N298A変異)を施し、ADCC(antibody-dependent cellular cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害)活性を排除している。本研究は、この新規抗PD-L1抗体MPDL3280Aの安全性、忍容性、および抗腫瘍活性を評価するとともに、治療効果を予測する詳細なバイオマーカーを同定し、これまでの知見における知識ギャップを埋めることを目的として実施された。
目的
本研究の目的は、進行固形がん患者を対象とした抗PD-L1抗体MPDL3280Aの多施設共同第I相臨床試験(PCD4989g試験、PCD4989g (Phase I clinical trial of MPDL3280A))において、以下の項目を検証することである。
- 安全性および忍容性の評価: MPDL3280Aの用量漸増および拡大コホートにおける有害事象(AE)プロファイルを明らかにし、最大耐用量(MTD)および推奨用量を決定する。
- 抗腫瘍活性の評価: RECIST v1.1に基づき、非小細胞肺がん(NSCLC)、悪性黒色腫、腎細胞がん(RCC)などの進行固形がんにおける客観的奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)を算出する。
- PD-L1発現と治療奏効の相関解析: 治療前の腫瘍生検検体を用いて、腫瘍細胞(TC)および腫瘍浸潤免疫細胞(IC)におけるPD-L1発現レベル(IHCスコア)を測定し、どちらの局在における発現が治療奏効の予測因子として優れているかを検証する。
- 遺伝子発現プロファイルによる予測因子の同定: TH1関連遺伝子(IFN-γ、CXCL9、CXCL10、granzyme Bなど)、CTLA4、PD-L2、およびCX3CL1(fractalkine:フラクタルカイン)などの発現パターンと治療効果との関連を解析する。
- 治療中の免疫動態の解明: 治療前後の連続生検検体および循環血中の免疫細胞やサイトカインの変化を追跡し、MPDL3280Aによる抗腫瘍免疫活性化のメカニズムを明らかにする。
結果
安全性および免疫活性化プロファイル: 安全性評価対象277例において、MPDL3280Aは良好な忍容性を示した。治療関連有害事象(AE)は70.0%(194/277)で発生し、グレード3-4の治療関連AEは12.6%(35/277)であった(Table 1)。免疫関連のグレード3-4 AEはわずか1.1%(3/277)であり、グレード3-5の肺炎(pneumonitis)は報告されなかった。最も頻度の高い治療関連AEは、疲労(24.2%)、食欲減退(11.9%)、悪心(11.6%)、発熱(11.6%)であった。発熱は主にサイクル1の投与初期に発生し、その後のサイクルでは減少した(Extended Data Fig. 2a)。治療開始後、サイクル1終了時(22日目)までに、循環血中の活性化増殖性CD8⁺ T細胞(CD8⁺HLA-DR⁺Ki-67⁺ T細胞)がベースラインと比較して約2.0倍(2-fold increase)に有意に増加し(p<0.00001)、血中ITACおよびIL-18レベルも有意に上昇した(p<0.00001)(Extended Data Fig. 2b, c)。
抗腫瘍活性: 有効性評価可能例175例における客観的奏効率(ORR)は21%(36/175、95% CI 15-27%)であった(Table 2)。がん種別のORRは、NSCLCで23%(12/53、95% CI 12-35%)、悪性黒色腫で30%(13/43、95% CI 18-45%)、RCCで14%(8/56、95% CI 6-25%)であった(Fig. 2)。24週時点の無増悪生存(PFS)率は全体で42.2%であり、NSCLCで44.7%、悪性黒色腫で41.0%、RCCで48.0%であった。全患者のPFS中央値は18.0週(95% CI 12-24週)であった。NSCLC患者における探索的解析では、喫煙歴あり(現・元喫煙者)のORRが42%(11/26)であったのに対し、非喫煙者では10%(1/10)であり、喫煙者で奏効が高い傾向が認められた(p=0.4229)。また、RECIST基準で病勢進行(PD)と判定された後に持続的な腫瘍縮小を示す偽進行(pseudoprogression)の現象も一部の患者で観察された Wolchok et al. ClinCancerRes 2009。
PD-L1発現と治療奏効の相関: 治療前の腫瘍生検検体におけるPD-L1発現レベルを解析した結果、腫瘍浸潤免疫細胞(IC)におけるPD-L1発現が治療奏効と極めて強く相関することが示された(Fig. 3)。全がん種において、IC IHC 3群のORRは46%(15/33)であったのに対し、IC IHC 2群で17%(4/23)、IC IHC 1群で21%(7/34)、IC IHC 0群で13%(8/60)であり、ICにおけるPD-L1高発現と治療奏効との間に有意な相関が認められた(p=0.007)(Fig. 3b)。特にNSCLC患者においては、IC IHC 3群のORRは83%(5/6)に達し、進行(PD)となったのはわずか17%(1/6)であった(p=0.015)(Fig. 3a)。PFS中央値もIC IHCスコアと相関し、IC IHC 3群で37.0週(95% CI 18-59週)と最も良好であった(Fig. 3c)。一方、腫瘍細胞(TC)におけるPD-L1発現と治療奏効との間には、NSCLC(p=0.920)および全がん種(p=0.079)のいずれにおいても有意な相関は認められなかった(Extended Data Fig. 4c, d)。
遺伝子発現および微小環境バイオマーカー: 治療前の腫瘍検体における遺伝子発現解析(n=37 patients)において、奏効例ではTH1関連遺伝子(IFN-γ、CXCL9、CXCL10、granzyme Bなど)およびCTLA4のベースライン発現レベルが有意に高かった(Extended Data Fig. 5b)。対照的に、ケモカインであるフラクタルカイン(CX3CL1)のベースライン発現レベルは、非奏効例(PD群)で有意に高かった(p<0.05)(Extended Data Fig. 5b)。悪性黒色腫では、IFN-γおよびその誘導遺伝子(IDO1、CXCL9)のベースライン発現と奏効との相関が非常に強かったが、NSCLCやRCCではこの相関は比較的弱かった(Extended Data Fig. 6)。また、PD-L2の高発現はMPDL3280Aに対する治療抵抗性とは関連せず、PD-L2高発現例でも50%以上の標的病変縮小が観察された。
治療中の腫瘍微小環境の動態: 連続生検を行った28例(n=28 patients)の解析において、奏効例(PR以上)の80%(4/5)で治療後にICにおけるPD-L1発現の増加(5%以上の増加)が認められ、60%(3/5)でTCにおけるPD-L1発現の増加が認められた(Fig. 4a)。この治療によるPD-L1発現の上昇は、腫瘍内のIFN-γ遺伝子発現の変化と強く相関していた(Pearson相関係数 r=0.70)(Extended Data Fig. 5c)。奏効例の腫瘍内では、CD8⁺ T細胞の浸潤増加と広範な腫瘍壊死が観察され、T細胞活性化遺伝子群の上昇が確認された(Extended Data Fig. 7)。 一方、非奏効例(PD群)の治療中生検では、PD-L1の上方制御がほとんど見られず、以下の3つの免疫回避パターンが同定された。(1) CD8⁺ T細胞の浸潤がほぼ存在しない「免疫学的無知(immunological ignorance)」、(2) T細胞浸潤はあるがPD-L1発現を伴わない「非機能的免疫応答(non-functional immune response)」、(3) CD8⁺ T細胞が腫瘍塊の外縁に留まり内部に浸潤できない「排除された浸潤(excluded infiltrate)」(Fig. 4b)。
in vitro ADCC活性評価: in vitroにおける抗体依存性細胞傷害活性の評価において、野生型(unmodified wild-type)抗PD-L1抗体はPD-L1を発現させた標的細胞(n=2 cell lines)に対して効率的な細胞傷害活性を示した。これに対し、Fc領域にN298A変異を導入して設計されたMPDL3280Aは、ADCC活性が完全に排除されており、標的細胞の殺傷は観察されなかった(Extended Data Fig. 10b)。これにより、治療中の活性化T細胞の不要な枯渇を防ぐ設計の妥当性が実証された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、抗PD-L1抗体MPDL3280Aが進行固形がんにおいて優れた安全性と高い抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。これまでの免疫チェックポイント阻害剤の研究では、主に腫瘍細胞(TC)におけるPD-L1発現がバイオマーカーとして注目されてきたが Taube et al. SciTranslMed 2012、本研究の結果はそれらと異なり、腫瘍浸潤免疫細胞(IC)におけるPD-L1発現が治療奏効とより強く相関することを示した。これは、腫瘍細胞による直接的な適応性抵抗性だけでなく、免疫細胞を介した微小環境における免疫抑制がPD-L1阻害療法の感受性を決定づける重要な要因であることを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、MPDL3280Aに対する治療奏効が、治療前の腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1高発現、TH1関連遺伝子(IFN-γ、CXCL9など)およびCTLA4の高発現、そしてCX3CL1(フラクタルカイン)の低発現と強く関連することを新規に同定した。これらの知見は、既存の抗腫瘍免疫が存在しながらもPD-L1によって抑制されている「炎症性腫瘍(inflamed tumour)」において、PD-L1阻害薬が最も効果的に作用するという仮説を強く支持するものである Spranger et al. SciTranslMed 2013。また、治療中の連続生検により、奏効例においてT細胞浸潤の増加とPD-L1発現のさらなる上方制御がIFN-γの上昇と連動して起こる動態を可視化した点も新規性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法における患者選択戦略の臨床応用に直結する。治療前の生検検体を用いてICにおけるPD-L1発現(IHCスコア)を評価することで、MPDL3280Aから最大の臨床的有用性を得られる患者を高精度に特定することが可能となる。これにより、効果の期待できない患者への不要な投与や毒性を回避し、医療経済的な個別化医療の推進に貢献する。また、CTLA4やCX3CL1などの遺伝子発現プロファイルは、IHC染色を補完するマルチマーカーパネルとしての臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1発現が低い患者や、腫瘍微小環境において「免疫学的無知」「非機能的免疫応答」「排除された浸潤」を示す非奏効患者に対する治療戦略の確立が残されている。これらの患者群では、PD-L1阻害単独では効果が限定的であるため、他の免疫療法(抗CTLA4抗体など)や化学療法、分子標的薬との併用療法の開発が今後の研究の方向性となる。また、本研究は第I相試験であり、PD-L1発現と長期的な全生存期間(OS)との関連については、より大規模なランダム化比較試験による検証が今後の課題である。
方法
本研究は、多施設共同の非盲検第I相臨床試験(PCD4989g、ClinicalTrials.gov識別子: NCT01375842)として実施された。
対象患者: 18歳以上の進行・再発または転移性の固形がん患者(NSCLC、悪性黒色腫、RCC、結腸直腸がん(CRC)、胃がん、頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)など)277例が登録された。主な適格基準は、ECOGパフォーマンスステータス0または1、RECIST v1.1で測定可能な病変を有すること、十分な臓器機能を有することであった。自己免疫疾患の既往、活動性の脳転移、または過去に抗CTLA4、抗PD-1、抗PD-L1抗体による治療歴がある患者は除外された。
治療プロトコル: 患者にはMPDL3280Aを3週ごと(q3w)に静脈内投与した。用量漸増コホートでは0.01 mg/kgから20 mg/kgまでの用量が評価され、拡大コホートでは10、15、20 mg/kgが用いられた。最大耐用量(MTD)は到達せず、20 mg/kg q3wまで用量制限毒性(DLT)は観察されなかった。臨床的および非臨床的データに基づき、標的薬物濃度を維持するのに十分な用量として、15 mg/kg q3w(固定用量1,200 mg q3wに相当)が選択された。
安全性および有効性評価: 有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づき評価された。有効性評価は、ベースラインで腫瘍評価を受け、1 mg/kg以上の用量を投与された175例を対象とし、RECIST v1.1に従って客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)を算出した Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。
バイオマーカー解析:
- PD-L1免疫組織化学(IHC)染色: 治療前のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍検体を用いて、ウサギモノクローナル抗体(クローンSP142)によるIHC染色を実施した。PD-L1発現は、腫瘍細胞(TC)および腫瘍浸潤免疫細胞(IC)の両方で評価された。ICにおけるPD-L1発現は、腫瘍面積を占める陽性免疫細胞の割合に基づき、IHC 0(<1%)、IHC 1(≥1%かつ<5%)、IHC 2(≥5%かつ<10%)、IHC 3(≥10%)に分類された。
- 遺伝子発現解析(iChip): Fluidigm BioMark HDリアルタイムPCRプラットフォームを用い、TH1関連遺伝子、CTLA4、PD-L2、CX3CL1などのmRNA発現レベルを測定した。4つの参照遺伝子であるSP2 (transcription factor Sp2)、GUSB (beta-glucuronidase)、TMEM55B (transmembrane protein 55B)、VPS33B (vacuolar protein sorting-associated protein 33B) の幾何平均値を用いてデルタCt(ΔCt)法により正規化した。
- 連続生検および血中バイオマーカー: 28例の患者で治療中の連続生検を実施した。また、循環血中のCD8⁺HLA-DR⁺Ki-67⁺ T細胞をフローサイトメトリー(FACS)で、血中サイトカイン(IFN-γ、IL-6、IL-18、ITAC (interferon-inducible T-cell alpha chemoattractant:インターフェロン誘導性T細胞αケモカイン))をELISAまたはMyriad RBMにより測定した。
統計解析: PD-L1 IHCスコアと治療奏効(奏効 vs 非奏効)の関連はロジスティック回帰モデルを用いて評価し、PFSはカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法を用いて推定した。群間比較にはt検定およびフィッシャー(Fisher’s exact)極定を用い、多重比較補正にはボンフェローニ(Bonferroni)補正を適用した。