• 著者: Atsushi Tanaka, Hiroyoshi Nishikawa, Shinsuke Noguchi, Daisuke Sugiyama, Hiromasa Morikawa, Yoshiko Takeuchi, Danbee Ha, Naoya Shigeta, Toshio Kitawaki, Yuka Maeda, Takuro Saito, Yoshinori Shinohara, Yoshihiro Kameoka, Keiko Iwaisako, Fumihiko Monma, Kohshi Ohishi, Julia Karbach, Elke Jäger, Kenichi Sawada, Naoyuki Katayama, Naoto Takahashi, Shimon Sakaguchi
  • Corresponding author: Shimon Sakaguchi (Experimental Immunology, Immunology Frontier Research Center, Osaka University, Osaka, Japan); Naoto Takahashi (Akita University, Akita, Japan)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-11-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31704808

背景

FoxP3+制御性T (Treg) 細胞は、自己抗原に対する免疫応答を抑制することで自己免疫疾患の発症を予防する一方で、腫瘍抗原に対する抗腫瘍免疫をも抑制することが知られている。多くの癌種において、腫瘍浸潤Treg細胞の高頻度またはFoxP3+/CD8+T細胞比の高さが予後不良因子であることが報告されている (Bates et al. 2006, Curiel et al. 2004, Sasada et al. 2003, Sato et al. 2005)。マウスモデルではTreg枯渇戦略が抗腫瘍免疫を誘導することが示されており (Onizuka et al. 1999, Shimizu et al. 1999)、ヒトにおいても抗CCR4抗体 (mogamulizumab) や抗CTLA-4抗体 (ipilimumab) によるTreg枯渇が抗体依存性細胞傷害 (ADCC) 機序を介して抗腫瘍効果を発揮することが実証されている (Sugiyama et al. 2013, Ha et al. Proc Natl Acad Sci USA 2019, Saito et al. NatMed 2016, Arce Vargas et al. 2018)。しかし、これらの抗体療法は高コストであり、アクセスが制限されるという課題があり、小分子化合物によるTreg枯渇戦略は未開拓の領域であった。

慢性骨髄性白血病 (CML) の標準治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬イマチニブは、BCR-ABL融合タンパク質を標的とするが、T細胞のLCK (lymphocyte-specific protein tyrosine kinase) などのT細胞シグナル伝達分子をオフターゲットとして阻害することが報告されている (Balachandran et al. 2011, Dietz et al. 2004, Hantschel et al. 2008)。しかし、そのT細胞機能への影響、特にTreg細胞への影響については詳細が未解明であった。ヒトFoxP3+T細胞は、FoxP3とCD45RAの発現レベルに基づいて、Fr. I (ナイーブTreg細胞)、Fr. II (エフェクターTreg細胞; eTreg細胞)、およびFr. III (非Treg活性化T細胞) の3つの主要なサブセットに分類される (Miyara et al. 2009, Saito et al. 2016, Sakaguchi et al. 2010, Sugiyama et al. 2013)。腫瘍浸潤Treg細胞の大部分はeTreg細胞であることが知られており (Nishikawa and Sakaguchi 2014, Tanaka and Sakaguchi 2017)、eTreg細胞の選択的枯渇は、自己免疫反応を誘発することなく抗腫瘍免疫を増強する上で重要な戦略となる可能性を秘めている。

本研究は、イマチニブが小分子としてeTreg細胞を選択的に枯渇させ、抗腫瘍免疫を増強する可能性に着目した。この作用機序を解明することは、新たな免疫療法戦略の開発に繋がるだけでなく、既存薬の新たな臨床的価値を創出する上で極めて重要である。特に、イマチニブがCML治療において自己免疫疾患を誘発することなく長期間使用されてきた背景は、そのTreg枯渇作用が自己免疫を回避しつつ抗腫瘍効果を発揮する可能性を示唆している。これまでの研究では、Treg細胞の機能と腫瘍免疫における役割が強調されてきたが、小分子による選択的なTreg細胞枯渇メカニズム、特にeTreg細胞に焦点を当てた研究は不足していた。

目的

本研究の目的は、チロシンキナーゼ阻害薬イマチニブが小分子としてエフェクター制御性T (eTreg) 細胞を選択的に枯渇させ、抗腫瘍免疫を増強できるかを検証することである。具体的には、以下の3つの側面から検討を行った。(1) イマチニブ治療中の慢性骨髄性白血病 (CML) 患者における末梢血T細胞サブセットの組成および機能の変化を詳細に解析すること。(2) ヒトおよびマウスのin vitroおよびin vivo実験モデルを用いて、イマチニブのeTreg細胞に対する直接的な作用と抗腫瘍免疫増強効果を評価すること。(3) イマチニブによるeTreg細胞の選択的枯渇を導く分子機序を解明すること。これらの検証を通じて、「小分子によるTreg枯渇」という新たな免疫療法概念の確立を目指した。

結果

CMR患者における選択的eTreg細胞減少: イマチニブ治療中のCML患者において、完全分子学的寛解 (CMR) を達成した患者 (n=51) は、非CMR患者 (n=42) および健常ドナー (n=15) と比較して、全FoxP3+Treg細胞、特にeTreg細胞 (Fr. II) の頻度および細胞数が有意に減少していた (p=0.003、p=0.0002)。ナイーブTreg細胞 (Fr. I) もやや減少傾向を示したが、FoxP3lo非Treg細胞 (Fr. III) やCD4+T細胞、CD8+T細胞の総数には有意な変化は認められなかった (Figure 1A, B)。イマチニブ治療開始後6ヶ月間の経時解析では、eTreg細胞のみが漸減し、ナイーブTreg細胞や非Treg細胞は維持されることが示された (Figure S1C)。ROC曲線解析により、eTreg細胞の減少はCMR達成の予測バイオマーカーとして有用であることが示され (AUC=0.718、p=0.0003)、これはイマチニブ治療効果とTreg細胞枯渇の関連性を示唆する。CMR群と非CMR群の間で、Sokalリスクスコア、治療期間、血中イマチニブ濃度、BIM遺伝子欠失などの臨床パラメータに有意差はなかった (Table 2)。BCR-ABL阻害作用は強いがオフターゲット作用が弱いニロチニブはeTreg細胞減少効果が弱く、より広範なオフターゲット作用を持つダサチニブはeTreg細胞枯渇効果を示した (Figure S2A, B)。

CMR患者におけるCD8+T細胞の活性化: CMR患者では、セントラルメモリー (CCR7+CD45RA-) およびエフェクターメモリー (CCR7-CD45RA-) CD8+T細胞の頻度および細胞数が増加し、ナイーブ (CCR7+CD45RA+) および最終分化型 (CCR7-CD45RA+) CD8+T細胞が減少していた (Figure 2A, B)。PMA/イオノマイシン刺激後のIFNγとIL-2を同時産生するCD8+T細胞の頻度は、CMR患者で有意に高く、非CMR患者では低下していた (Figure 2C, D)。また、PD-1+およびLAG-3+ (疲弊マーカー) CD8+T細胞は非CMR患者で増加し、CMR患者では健常ドナーと同レベルであった (Figure 2E, F)。これらの結果は、eTreg細胞の枯渇が一般的な抗腫瘍免疫の活性化に繋がることを示唆する。NK細胞、樹状細胞、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の頻度、サイトカイン産生、APC活性化状態にはCMR/非CMR間で有意差はなかった (Figure S3, S4A-D)。

イマチニブによるin vitroでの選択的eTreg細胞アポトーシス誘導: 健常ドナー由来のT細胞を用いて、CML治療濃度域 (約10 μM) のイマチニブは、in vitroでeTreg細胞の増殖を有意に抑制し、アポトーシスを増加させた (Figure 3A)。一方、ナイーブTreg細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞のナイーブ/メモリー/エフェクターサブセットにはわずかな影響しか与えなかった (Figure S4E, F)。CD8+T細胞のサイトカイン産生にも影響はなかった (Figure S4G, H)。高用量イマチニブ (>40 μM) では全てのT細胞サブセットを傷害したが、治療濃度ではeTreg細胞に対する選択性を示した。ニロチニブは治療濃度ではeTreg細胞を傷害せず、より高用量で同様の効果を示した。ダサチニブは治療濃度でもeTreg細胞枯渇効果を示した。この選択性は健常ドナー由来T細胞でも再現され、CML細胞由来の間接効果ではなく、Treg細胞への直接効果であることが証明された。健常ドナーはイマチニブ感受性により2群 (感受性/非感受性) に統計的に分類され、CML患者のCMR達成率が約半数であることと整合した (Figure 3B, C)。このin vitro実験では、n=8 healthy donorsのPBMCを用いたイマチニブ処理により、eTreg細胞のIC50が約5 μMであった。

イマチニブによる抗腫瘍免疫増強: メラノーマ患者のPBMCをイマチニブ添加培養することで、NY-ESO-1特異的CD8+T細胞が有意に拡大した (Figure 4B)。この実験では、n=3 melanoma patientsのPBMCからNY-ESO-1特異的CD8+T細胞が約2.5-fold増強された (p=0.0023)。マウスCT26腫瘍モデルにおいて、BALB/cマウス (n=9または10 mice per group) にイマチニブ (10または50 mg/kg経口) を5日間投与すると、腫瘍増殖が有意に抑制され (p<0.001)、腫瘍内Treg細胞の減少とCD8+T細胞の増加を誘導した (Figure 5A, B)。脾臓においても、CD44hiCD62LloまたはKi67+CD44hiエフェクターTreg細胞の頻度が減少した (Figure 5C, D)。T/B細胞欠損BALB/c SCIDマウス (n=8または9 mice per group) ではイマチニブによる腫瘍増殖抑制効果は認められなかった。

eTreg細胞脆弱性のFoxP3依存的機序: eTreg細胞は、従来のT細胞やナイーブTreg細胞と比較して、LCKおよびZAP-70のmRNAおよびタンパク質発現レベルが有意に低かった (Figure 6A, C, Figure S5E, G)。LCK mRNA発現はeTreg細胞でCD8+T細胞の約0.5-fold (p=0.007)、ZAP-70 mRNA発現はeTreg細胞でCD8+T細胞の約0.3-fold (p=0.0001) であった。これはFoxP3がLCKおよびZAP-70の発現を抑制することを示唆する (Figure 6B, Figure S5F)。TCR刺激時、eTreg細胞はLCK発現が元々低いため、イマチニブによるLCKの追加阻害によってTCRシグナル閾値を下回り、シグナル欠乏性アポトーシスが選択的に誘導されると考えられる。一方、従来のT細胞はLCKが豊富であるため、イマチニブ治療濃度でのLCK阻害ではアポトーシスが誘導されない。この機序は、eTreg細胞が恒常的に高い増殖状態にあることと合致し、活発に分裂中の細胞はTCRシグナル要求性が高く、アポトーシスに感受性であることを示唆する。LCK阻害剤AMG-47aも同様にeTreg細胞を選択的に減少させ、活性型カスパーゼ3/7を誘導した (Figure 6D, E, F)。この実験では、n=3 healthy donorsのPBMCを用いたAMG-47a処理により、eTreg細胞のKi-67+細胞が約4-fold減少した。

考察/結論

本研究は、小分子チロシンキナーゼ阻害薬イマチニブが、BCR-ABLだけでなくT細胞のLCK (lymphocyte-specific protein tyrosine kinase) をオフターゲットとして阻害することで、エフェクター制御性T (eTreg) 細胞を選択的にアポトーシス誘導し枯渇させることを初めて実証した。これにより、抗腫瘍免疫が増強されることが明らかとなり、「小分子によるTreg枯渇」という新しい免疫療法概念を確立した。慢性骨髄性白血病 (CML) 患者において、イマチニブ治療による完全分子学的寛解 (CMR) 達成群ではeTreg細胞の選択的減少とエフェクター/メモリーCD8+T細胞の有意な増加が認められたことは、イマチニブがCML細胞を直接殺傷するだけでなく、Treg枯渇を介した抗白血病免疫の再活性化によって完全寛解を達成することを示唆する。

先行研究との違い: これまでのTreg枯渇戦略は主に抗体療法に依存しており、小分子によるTreg枯渇は未開拓の領域であった。本研究は、イマチニブがLCKのオフターゲット阻害を介してeTreg細胞を選択的に枯渇させるという新規の機序を同定した点で、これまでの報告と異なる。特に、FoxP3依存的なLCKおよびZAP-70の低発現により、eTreg細胞がTCRシグナル欠乏性アポトーシスに脆弱であるという発見は、Treg細胞生物学における新たな知見である。

新規性: 本研究で初めて、イマチニブがCML治療濃度においてeTreg細胞を選択的にアポトーシス誘導し、抗腫瘍免疫を増強できることを示した。この選択性は、FoxP3によるLCKおよびZAP-70のダウンレギュレーションという免疫生物学的発見に基づいている。これにより、eTreg細胞がTCRシグナルに依存する高い増殖状態にあるため、イマチニブによるLCK阻害がTCRシグナル閾値を低下させ、シグナル欠乏性アポトーシスを誘導するというメカニズムが明らかになった。これは、自己免疫を回避しつつ抗腫瘍免疫を増強する、小分子によるTreg枯渇という新規の免疫療法戦略の可能性を示唆する。

臨床応用: 本知見は、イマチニブやダサチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤が、CML以外の多様な癌種における免疫チェックポイント阻害薬との併用療法において、抗腫瘍効果を増強する可能性を示唆する。特に、消化管間質腫瘍 (GIST) においては、イマチニブと免疫療法の併用に関する前臨床的基盤を提供する。また、in vitroで観察されたイマチニブ感受性の個体差は、治療奏効予測バイオマーカーの開発に繋がり、精密医療の観点から臨床的意義が大きい。LCK/ZAP-70低発現を標的とした次世代の選択的eTreg枯渇薬の開発も可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) イマチニブ感受性の遺伝的決定因子の同定、(2) 他のチロシンキナーゼ阻害剤 (例: ダサチニブ、スニチニブ) の腫瘍免疫増強効果の詳細な比較、(3) 免疫チェックポイント阻害薬との併用における最適な投与タイミングとレジメンの確立、(4) 長期的なTreg枯渇による自己免疫リスクの評価、(5) 自己免疫疾患治療への応用可能性、(6) 固形腫瘍 (非小細胞肺癌、大腸癌、メラノーマなど) におけるイマチニブ併用効果の前向き臨床試験での検証が残されている。現在、ダサチニブとニボルマブの併用療法に関する臨床試験が進行中であり、本研究の知見はこれらの試験の設計にも貢献するであろう。

方法

CML患者解析: 日本国内の93例のイマチニブ治療中CML患者 (完全分子学的寛解 [CMR] 51例、非CMR 42例) から末梢血単核球 (PBMC) を採取し、15例の健常ドナーと比較した。患者はイマチニブ400 mg/日を平均75.7ヶ月 (範囲1-10年) 投与されていた。フローサイトメトリーにより、FoxP3hiCD45RA- eTreg細胞 (Fr. II)、FoxP3loCD45RA+ ナイーブTreg細胞 (Fr. I)、およびFoxP3loCD45RA- 非Treg細胞 (Fr. III) のサブセット頻度を測定した。CD8+T細胞については、CCR7/CD45RAの発現に基づいてナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、および最終分化型に分類した。PMA/イオノマイシン刺激後のIFNγ/IL-2産生能、およびPD-1/LAG-3/Tim-3/CTLA-4などの疲弊マーカーの発現を解析した。CMR予測能はROC曲線を用いて評価した。ニロチニブ単独またはイマチニブからニロチニブへ切り替えた患者 (nが少数) についても同様に解析した。

in vitro実験: 健常ドナーからCD4+T細胞サブセット (ナイーブTreg、eTreg、FoxP3-conventional T細胞) およびCD8+T細胞をセルソーターで分離し、抗CD3/抗CD28抗体刺激下でイマチニブ (0-40 μM)、ニロチニブ、ダサチニブを添加して48-72時間培養した。細胞増殖 (CFSE希釈法/Ki-67発現)、アポトーシス (Annexin V染色)、およびサイトカイン産生を評価した。メラノーマ患者由来PBMCを用いたNY-ESO-1特異的CD8+T細胞の拡大実験も実施した。

分子機序解析: FoxP3誘導実験において、LCKおよびZAP-70のmRNAおよびタンパク質発現レベルをリアルタイムPCRおよびWestern blotで解析した。TCRシグナル下流分子 (pLck、pZAP-70、pNFATなど) のリン酸化状態もWestern blotで検証した。FoxP3のLCKおよびZAP-70遺伝子プロモーター領域への結合は、SRAデータベースのChIP-seqデータを用いて解析した。LCK阻害剤AMG-47aを用いて、イマチニブと同様のeTreg細胞選択的枯渇効果があるかを確認した。

マウスin vivo実験: BALB/cマウスにCT26結腸癌細胞を皮下接種し、イマチニブ (10または50 mg/kg/日、経口) を5日間投与して腫瘍増殖抑制効果を評価した。T/B細胞欠損BALB/c SCIDマウスも対照として使用した。腫瘍内および脾臓のTreg細胞頻度とCD8+T細胞数をフローサイトメトリーで解析した。

統計解析: Mann-Whitney U検定、Student’s t検定、二元配置分散分析 (two-way ANOVA with Holm-Sidak multiple comparisons)、ROC曲線下面積 (AUC) を用いて統計的有意差を評価した。p値が0.05未満を有意とした。