- 著者: Takuro Saito, Hiroyoshi Nishikawa, Hisashi Wada, Yuji Nagano, Daisuke Sugiyama, Koji Atarashi, Yuka Maeda, Masahide Hamaguchi, Naganari Ohkura, Eiichi Sato, Hirotsugu Nagase, Junichi Nishimura, Hirofumi Yamamoto, Shuji Takiguchi, Takeshi Tanoue, Wataru Suda, Hidetoshi Morita, Masahira Hattori, Kenya Honda, Masaki Mori, Yuichiro Doki, Shimon Sakaguchi
- Corresponding author: Shimon Sakaguchi (Immunology Frontier Research Center, Osaka University), Hiroyoshi Nishikawa (National Cancer Center, Chiba)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-04-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 27111280
背景
フォークヘッドボックスP3 (forkhead box P3; FOXP3) 陽性CD4陽性T細胞は、生体において免疫抑制能を司る制御性T細胞 (regulatory T cell; Treg) として機能し、腫瘍免疫応答を強力に抑制することで、多くの癌種において患者の予後不良因子となることが知られている。この現象は、卵巣癌における先行研究や、がん免疫編集の概念を提唱した Schreiber et al. Science 2011 などの報告によって広く支持されてきた。しかし、大腸癌 (colorectal cancer; CRC) においては、腫瘍組織内へのFOXP3陽性T細胞の浸潤がむしろ良好な生存期間や予後改善と関連するという、他の癌種とは相反する臨床データが報告されており、その臨床的意義や役割は極めて controversial な状況であった。
末梢血中におけるFOXP3陽性CD4陽性T細胞は、FOXP3とCD45RAの発現レベルに基づいて、Fr-I (fraction I: naive Treg)、Fr-II (fraction II: effector Treg)、およびFr-III (fraction III: FOXP3低発現の非抑制性細胞) の3つの機能的サブポピュレーションに分類されることが示されている。しかし、大腸癌の腫瘍微小環境におけるこれらFOXP3陽性T細胞の機能的・表現型的不均一性が、実際の患者予後にどのような影響を及ぼしているのか、その詳細な分子・細胞生物学的メカニズムは未解明であった。特に、従来の免疫組織化学 (immunohistochemistry; IHC) 手法では、これら機能の異なるサブポピュレーションを空間的に区別して検出することが困難であったため、過去の臨床研究における相反する報告を生む主要な交絡要因となっていた可能性が指摘されていた。このように、腫瘍局所における各Tregサブセットの正確な機能評価と、それらを規定する微小環境因子の同定に関する研究が世界的に不足しており、大腸癌における免疫抑制ネットワークの全貌解明に向けた大きな学術的 gap が存在していた。
目的
本研究の目的は、大腸癌患者の腫瘍組織に浸潤するFOXP3陽性CD4陽性T細胞の機能的サブセット構成をフローサイトメトリーやエピジェネティック解析を用いて詳細に同定し、各サブセットが大腸癌の臨床予後を相反的に規定する分子機構を解明することである。さらに、腫瘍局所におけるサイトカインプロファイルや腸内細菌叢との相互作用を解析することで、非抑制性FOXP3陽性T細胞の誘導機序を明らかにし、大腸癌における新たな予後予測バイオマーカーの確立と、Tregサブセットを標的とした精密ながん免疫療法の理論的基盤を構築することを目指した。
結果
腫瘍浸潤FOXP3陽性T細胞の機能的・エピジェネティックな二分類: 大腸癌患者の腫瘍組織に浸潤するCD4陽性T細胞において、FOXP3陽性T細胞の割合は 30.9 ± 10.0% であり、正常大腸粘膜の 14.4 ± 2.7% やPBMCの 6.9 ± 2.5% と比較して有意に上昇していた (Fig. 1a, b)。本研究では、腫瘍浸潤Fr-III (FOXP3低発現CD45RA陰性) 細胞の頻度に基づき、大腸癌をタイプA (Fr-III頻度 9.8%未満、n=13 patients) とタイプB (Fr-III頻度 9.8%以上、n=22 patients) の2群に分類した。機能解析の結果、Fr-II (FOXP3高発現CD45RA陰性) 細胞は強力なin vitro免疫抑制能を示したのに対し、タイプB大腸癌由来のFr-III細胞は抑制能を完全に欠いていた (Fig. 1c)。このFr-III細胞は、TIGITやCTLA-4などの抑制性受容体の発現が著しく低く、刺激後に高頻度でIL-17およびIFN-gammaを分泌する炎症性表現型を示した (Fig. 1d, e)。さらに、FOXP3イントロン1領域 (CNS2) のDNAメチル化解析において、Fr-II細胞は高度に脱メチル化されていたのに対し、Fr-III細胞は部分的なメチル化状態を維持しており、機能的不均一性がエピジェネティックレベルで裏付けられた (Fig. 1f)。
IL-12およびTGF-betaによる非抑制性Fr-III細胞の誘導機序: マイクロアレイおよびqRT-PCR解析により、タイプB大腸癌組織ではタイプAと比較して、免疫応答および炎症反応に関連する遺伝子群が有意に上昇していることが判明した (Fig. 2a, b)。特に、腫瘍局所におけるIL12A、IL12B、TGFB1、およびTNFのmRNA発現量がタイプBにおいて有意に高値を示した (Fig. 2c)。in vitro分化実験において、健常ドナー (n=3 donors) から単離したナイーブCD4陽性T細胞にTGF-betaを単独添加するとFOXP3高発現細胞が誘導されたが、IL-12とTGF-betaを同時に添加した条件下では、FOXP3低発現 (FOXP3 lo) 細胞が極めて効率的に誘導された (Fig. 2d, e)。このIL-12/TGF-beta誘導性FOXP3 lo細胞は、刺激後に高レベルのIFN-gammaを産生し (Fig. 2f)、in vitroにおいてレスポンダーT細胞に対する抑制活性を持たないことが確認された。この分化誘導に伴い、IFN-gamma産生細胞の割合はTGF-beta単独群と比較してIL-12/TGF-beta併用群で 2.5-fold increase 以上の顕著な上昇を示した (p<0.001)。この結果から、腫瘍局所の炎症性サイトカイン環境が非抑制性Fr-III細胞の分化・蓄積を直接的に誘導していることが示された。
Tregサブセット構成を反映するサイトカイン発現と患者予後との相関: 独立した大腸癌コホート109例を対象に、Fr-III細胞の存在を示すサロゲートマーカーとしてIL12AおよびTGFB1の発現レベルに基づく予後解析を実施した。IL12A高発現かつTGFB1高発現を示す群 (タイプB相当、n=27 patients) は、IL12A低発現かつTGFB1低発現を示す群 (タイプA相当、n=35 patients) と比較して、無病生存期間 (DFS) が有意に延長していることが示された (HR 0.41, 95% CI 0.20-0.85, p=0.020) (Fig. 3b)。全コホートにおけるFOXP3単独のmRNA発現量は有意な予後因子とはならなかったが (p=0.75)、IL12A低発現かつTGFB1低発現のタイプA相当群においては、FOXP3高発現群が低発現群と比較して有意に予後不良であった (p=0.038) (Fig. 3d)。一方、IL12A高発現かつTGFB1高発現のタイプB相当群では、FOXP3高発現がむしろ良好な予後傾向を示した (p=0.34)。さらに、階層的クラスタリングにより分類したCluster 1 (タイプA相当) ではFOXP3高発現が有意に予後不良と相関し (p=0.017) (Fig. 3g)、腫瘍浸潤FOXP3陽性T細胞の臨床的意義が微小環境のサイトカインプロファイルによって完全に反転することが証明された。
腸内細菌Fusobacterium nucleatumの腫瘍浸潤とタイプB微小環境の形成: FISH解析により、IL12A高発現かつTGFB1高発現を示すタイプB大腸癌組織 (n=7 patients) には、タイプA組織 (n=8 patients) と比較して有意に高頻度の細菌浸潤が認められた (Fig. 4a, b)。16S rRNAメタゲノムシークエンス解析の結果、タイプB大腸癌の腫瘍組織局所において、特にFusobacterium nucleatumの特異的な定着と蓄積が確認されたが、同患者の便サンプルからは検出されなかった (Fig. 4c)。また、タイプB大腸癌組織では、F. nucleatumの感染に伴う発がん・炎症シグラルの活性化を反映し、CCND1 (cyclin D1) およびNFKB2 (NF-kappaB) の発現量が有意に上昇しており、CCND1発現量はタイプAと比較して 2.0-fold increase 以上の有意な増加を示した (p<0.01) (Fig. 4d)。これらの結果から、腫瘍局所へのF. nucleatumなどの腸内細菌の侵入が、マクロファージや線維芽細胞などの間質細胞を刺激してIL-12やTGF-betaなどの炎症性サイトカイン産生を促し、これが非抑制性Fr-III細胞の分化・浸潤を誘導することで、抗腫瘍免疫を支持するタイプB微小環境を構築しているという機序が示唆された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、大腸癌におけるFOXP3陽性T細胞の浸潤が良好な予後をもたらすという、従来の「Treg浸潤=予後不良」とする一般的ながん免疫の定説や先行研究と異なり、細胞サブセットの機能的不均一性という観点から明確な解決策を提示した。従来の免疫組織化学的手法を用いた研究では、高度な免疫抑制能を持つ真のTreg (Fr-II) と、抑制能を欠き炎症性サイトカインを産生する非Treg (Fr-III) を区別できなかった。本研究は、これら2つのサブセットが大腸癌組織内に混在しており、両者の存在比率が患者予後を相反的に規定していることを実証した。この結果は、大腸癌における免疫微小環境の多様性を支持する Galon et al. Science 2006 などの知見とも整合する。
新規性: 本研究は、大腸癌微小環境において、非抑制性のFOXP3低発現CD4陽性T細胞 (Fr-III) の誘導が、腫瘍局所におけるIL-12およびTGF-betaのサイトカイン環境に依存していることを本研究で初めて解明した。さらに、この炎症性微小環境の形成が、腫瘍組織への腸内細菌、特にFusobacterium nucleatumの局所侵入と密接に相関していることを新規に明らかにした。これは、腸内細菌叢の乱れ (dysbiosis) が腫瘍免疫微小環境の細胞構成をエピジェネティックかつ機能的に修飾し、宿主の抗腫瘍免疫応答および臨床予後を直接左右するという新しいコンセプトを提唱するものである。
臨床応用: 本研究の知見は、大腸癌における精密な予後予測および治療戦略の選択という臨床応用に直結する。腫瘍組織におけるIL12AおよびTGFB1のmRNA発現レベルは、Fr-III細胞の浸潤度を反映する高精度なサロゲートマーカーとして臨床現場で実用可能である。治療戦略としては、Fr-II細胞が優位なタイプA大腸癌に対しては、抗CCR4抗体などを用いたeffector Tregの選択的除去療法が極めて有効であると考えられる。一方で、Fr-III細胞が豊富なタイプB大腸癌に対しては、安易なTreg除去は抗腫瘍性炎症反応を減弱させるリスクがあるため、F. nucleatumを標的とした抗菌療法や、局所へのIL-12投与によるFr-III細胞のさらなる活性化など、微小環境の特性に応じた個別化医療の確立が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、F. nucleatumがTIGIT受容体結合を介して免疫抑制を誘導するという一部の既報と、本研究で示されたFr-III細胞誘導を介した抗腫瘍的炎症環境との詳細な整合性の検証が挙げられる。また、本研究における生存解析コホートは単一施設の後ろ向き解析 (n=109 patients) に限定されているため、今後は多施設共同の前向き臨床試験による検証が必要であるという limitation がある。さらに、臨床現場においてFr-IIとFr-IIIを簡便かつ安価に識別可能な、マルチプレックス免疫染色などの新規病理組織学的検査法の開発が望まれる。
方法
本研究は、大阪大学病院において2011年から2015年の間に外科的切除手術を受けた大腸癌患者、および健常ドナーを対象とした。被験者から末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell; PBMC)、腫瘍組織、隣接する正常大腸粘膜、および便サンプルを採取した。腫瘍組織は gentleMACS Dissociator を用いて機械的かつ酵素的に処理し、腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte; TIL) を回収した。
細胞懸濁液は、CD3、CD4、CD8、CD25、CD45RA、TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) に対する蛍光標識抗体を用いて染色し、LSR (Lafayette Species Research) 系のフローサイトメーターである LSR Fortessa (BD Biosciences) で解析した。CD4陽性T細胞は、CD45RAとFOXP3の発現に基づき、Fr-I (fraction I: FOXP3低発現CD45RA陽性)、Fr-II (fraction II: FOXP3高発現CD45RA陰性)、Fr-III (fraction III: FOXP3低発現CD45RA陰性)、Fr-IV (fraction IV: FOXP3陰性CD45RA陰性)、Fr-V (fraction V: FOXP3陰性CD45RA陽性) の5つの画分に分画した。
TILおよびPBMCからFACS Aria IIを用いてソートしたFr-IIおよびFr-III細胞の免疫抑制活性は、カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル (carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester; CFSE) で標識したレスポンダーCD4陽性T細胞との共培養による増殖抑制アッセイで評価した。FOXP3遺伝子の conserved non-coding sequence-2 (CNS2) 領域におけるCpGメチル化状態は、バイサルファイトシークエンス法により解析した。
腫瘍組織の遺伝子発現プロファイルは、Affymetrix Human Gene 2.0 ST Array を用いたマイクロアレイ解析、および定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) により評価した。in vitro分化実験では、健常人末梢血から単離したナイーブCD4陽性T細胞 (CD45RA陽性CD25陰性) に対し、抗CD3/CD28ビーズ刺激下で recombinant IL-12、TGF-beta (transforming growth factor-beta)、TNF-alpha (tumor necrosis factor-alpha)、IL-10を単独または組み合わせて添加し、FOXP3陽性細胞の誘導能を検証した。本in vitro実験系では、対照群としてヒトCD4陽性T細胞株である Jurkat 細胞や、マウス脾臓から調製した C57BL/6J マウス由来のCD4陽性T細胞も一部のスクリーニングに使用した。
独立した大腸癌患者コホート109例において、腫瘍組織におけるIL12A、TGFB1、およびFOXP3のmRNA発現レベルをqRT-PCRで測定し、無病生存期間 (disease-free survival; DFS) との関連を Kaplan-Meier 法および log-rank 検定で評価した。ハザード比 (hazard ratio; HR) の算出には Cox regression 解析を用いた。腫瘍組織における細菌の局在および浸潤は、全細菌を標出するEUB338プローブおよびFusobacterium属を標出するFUSO227プローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション (fluorescence in situ hybridization; FISH) 解析、ならびに16S rRNAメタゲノムシークエンス解析により同定した。多群間の統計学的比較には、Mann-Whitney U test、および一元配置分散分析である one-way ANOVA と Tukey の事後検定を用いた。