• 著者: Irshad Akbar, Prenitha Mercy Ignatius Arokia Doss, Preya U. Patel, Batul Surury, Joanie Baillargeon, Mohamed Reda Fazazi, Ana C. Anderson, Olga L. Rojas, Hans Lassmann, Manu Rangachari
  • Corresponding author: Manu Rangachari (axe Neurosciences, Centre de recherche du CHU de Québec-Université Laval, Québec, Canada)
  • 雑誌: The Journal of Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42179347

背景

多発性硬化症 (multiple sclerosis, MS) は世界で約200万人が罹患する中枢神経系 (central nervous system, CNS) の自己免疫性・神経変性疾患であり、CNSミエリン構成成分に対する適応免疫応答を特徴とする。MS病態はHLAクラスII遺伝子多型との強い関連から、伝統的にCD4+ Tヘルパー細胞 (CD4+ T helper cell) 媒介性疾患と考えられてきた。しかし、活動性MS病変部においてはCD8+ T細胞がCD4+ T細胞を数で上回り、進行性MSではその差が最大50倍に達することが報告されている (Hauser et al. Ann Neurol 1986; Babbe et al. J Exp Med 2000)。さらに、軸索傷害の程度は浸潤するCD8+ T細胞数と相関し、MHCクラスI対立遺伝子であるA3およびB7もMS発症リスクと連関している (Clonal evolution ITH)。

CD8+ T細胞は、IFNγを産生するTc1 (T cytotoxic 1) 細胞や、IL-17を産生するTc17 (T cytotoxic 17) 細胞へと分化する。特にTc17細胞は、MS病変や視神経脊髄炎スペクトラム障害の病変内に検出され、その病原性が注目されてきた。しかし、CNS自己免疫におけるこれらCD8+ T細胞サブセットの具体的な病原性や詳細な分子機構は、従来の実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE) モデルでは十分に解明されていなかった (Larochelle et al. Ann Neurol 2015)。既存のCD8+ T細胞依存性EAEモデルは、MBP (myelin basic protein) 反応性クローンやGFAP (glial fibrillary acidic protein) 特異的TCR (T cell receptor) を用いたものに限定されており、MOG35-55 (myelin oligodendrocyte glycoprotein 35-55) 特異的かつMHCクラスII拘束性CD8+ T細胞が果たす病理学的役割という重要なギャップは未解明のままであった (Brain metastasis immune microenvironment)。このように、MHCクラスII拘束性CD8+ T細胞が慢性自己免疫病態において果たす機能や、CD4+ T細胞との相互作用の有無については知見が著しく不足しており、大きなナレッジギャップが残されていた。

1C6 TCRトランスジェニック (TCR-Tg) マウスは、NOD (nonobese diabetic) 背景においてMOG35-55特異的かつMHCクラスII拘束性TCRを発現し、CD4+およびCD8+の両T細胞サブセットが末梢に分化・出現する極めて稀な系統である。1C6 CD4+ T細胞の病原性については確立されているものの、1C6 CD8+ T細胞の機能特性や養子移入によるEAE誘導能、さらにはin vivoにおけるCD4+ T細胞との相互作用についてはこれまで解析されておらず、詳細な分子メカニズムは不明のままであった (IO primary resistance)。このクラスII拘束性CD8+ T細胞がCNS自己免疫において果たす役割という重大な課題を解決することが、本研究の強い動機となった。

目的

本研究の目的は、MOG35-55特異的かつMHCクラスII拘束性TCRを有する1C6 Tc1およびTc17細胞の増殖特性、サイトカイン産生能、および養子移入によるEAE (experimental autoimmune encephalomyelitis) 誘導能力を評価することである。さらに、移入後のin vivo環境においてCD8+ T細胞がCD4+ T細胞とどのように相互作用し、CNS自己免疫病態を駆動するのか、その詳細な細胞・分子機構を明らかにすることを目的とした。

結果

1C6 CD8+ T細胞の抗原特異的増殖特性: MOG35-55ペプチドパルスAPC刺激下において、1C6 Tc1およびTc17細胞は、対応するCD4+ Th1およびTh17細胞と比較して、分化培養後の総細胞数が有意に低い値を示した (Fig 1A)。しかし、CellTrace Violetを用いた増殖指数 (proliferative index) の解析では、Tc1細胞はTh1細胞よりも有意に高い増殖活性を示し (p<0.05、Student t-test)、Tc17細胞とTh17細胞の間には有意差を認めなかった。さらに、抗原非依存的なプレートバウンド抗CD3/CD28刺激下では、Tc細胞とTh細胞の間で総細胞数および増殖指数に有意な差は認められなかった (Fig 1B)。この結果から、1C6 CD8+ T細胞はMOG35-55抗原に対して良好に反応し、本質的な増殖能の欠陥は存在しないことが示された。サイトカイン産生能の解析では、MOG35-55刺激下において、Tc1およびTc17細胞はTh1およびTh17細胞と比較して、極めて高頻度なIFNγ産生能を有していることが明らかとなった (p<0.001、Student t-test) (Fig 2A)。また、Tc17細胞はTh17細胞と比較してTNF産生頻度が高く (p<0.05、Student t-test)、IL-17A産生頻度については両群間で同等であった (Fig 2B)。

養子移入によるEAE誘導能とCNS組織病理: 1ラウンド刺激プロトコルで調製した1C6 Tc1細胞をNOD/SCIDマウスに移入した結果 (n=9 mice)、Th1細胞移入群 (n=10 mice) と比較して発症日は有意に遅延したものの (p<0.05、one-way ANOVA)、最終的な累積疾患負荷 (AUC) は同等であった (Fig 3B)。慢性進行性病態への移行率は、Th1群で3/10例、Tc1群で5/9例、Th1+Tc1コトランスファー群で6/10例であった。同様に、Tc17細胞移入群 (n=4 mice) もTh17群と比較して発症が遅延したが、重症度は同等であり、Th17+Tc17群 (n=3 mice) では2/3例が慢性進行性病態を示した (Fig 3C)。組織病理学的解析において、Tc1またはTc17を移入したレシピエントマウスの脊髄では、全例で顕著な炎症細胞浸潤が観察され、6例中5例で広範な脱髄病変およびBielschowsky染色による軸索傷害が確認された (Fig 4A)。脳組織の解析では、Tc1細胞移入マウスにおいて、臨床的に重要な視床 (thalamus) および中脳 (mesencephalon) に大型の脱髄病変と軸索傷害が認められたが、Tc17細胞移入マウスでは脳内の病変は観察されなかった (Fig 4B)。

2ラウンド刺激による病原性増強と性差の検討: in vitroでの刺激を2回繰り返す2ラウンド刺激プロトコルを導入した結果、Tc17細胞の回収率は大幅に向上し (p<0.01、Student t-test) (Fig 5B)、移入後のEAE発症までの期間が有意に短縮され、病原性が著しく増強されることが確認された (p<0.01、Student t-test) (Fig 5C)。この2ラウンド刺激Tc17細胞を用い、雌雄の1C6ドナーから調製した細胞を同性のNOD/SCIDレシピエント (各n=6 mice) に移入した。その結果、雌群で3/6例、雄群で5/6例が慢性進行性EAEを発症し、発症日、最大スコア、および累積疾患負荷において雌雄間に有意な差は認められなかった (Fig 5D)。これは、雄ドナー由来のTh17細胞が雌よりも著しく重篤なEAEを誘導するという既報の知見とは対照的な結果であった。

CD4+ T細胞の新生・出現動態とThPOK発現: FACSAriaを用いてCD8+ T細胞を2回極めて高純度にソート精製して移入したにもかかわらず、NOD/SCIDレシピエントの末梢脾臓および標的臓器であるCNS内において、移入7日後からCD4+ T細胞が明瞭に出現した (Fig 6A)。移入21日後には、脾臓内においてCD4+ T細胞とCD8+ T細胞の存在頻度がほぼ1:1の割合に達した (n=9 mice、p<0.001、Student t-test)。一方で、1C6 Th17細胞を移入したレシピエントにおいては、CD8+ T細胞の出現は全く観察されなかった (Fig 6B)。リンパ球充足ホストにおける検証として、T細胞の95%以上がVβ4+ TCRを発現するBDC2.5マウスに1C6 Tc17 (Vβ7+) 細胞を移入したところ、移入21日後に脾臓内でVβ7+ CD4+ T細胞の頻度および絶対数が有意に増加していることが確認された (p<0.05、Student t-test) (Fig 6D)。分化転換の分子基盤を探るため、CD4系統決定因子である転写因子ThPOK (T-helper-inducing POZ/Krueppel-like factor) の発現を解析したところ、1C6 Tc17およびTc1細胞は、野生型 (WT) NODマウス由来のCD8+ T細胞と比較して、ThPOKの発現レベルが有意に高値であり、約3.5-fold increase (log2FC 1.8) を示した (p<0.0001、Student t-test) (Fig 6E, 6F)。なお、FoxP3の発現頻度には両群間で差を認めなかった。

CD4+ T細胞の病態形成における必須性: 免疫蛍光染色により、Tc17移入マウスの脳軟膜 (leptomeninges) および血管周囲腔 (perivascular space) にCD4+およびCD8+の両T細胞が浸潤し、さらにCD4+ T細胞がCNS実質 (parenchyma) 内へと深く浸潤している像が確認された (Fig 7A, 7B)。この新生CD4+ T細胞の病原性における役割を検証するため、抗CD4抗体 (GK1.5) を用いた体内枯渇実験を実施した (n=5 mice/group)。抗CD4抗体投与群では、アイソタイプコントロール群と比較して、EAEの臨床重症度が劇的に低下し、病態の発症がほぼ完全に抑制された (p<0.001、one-way ANOVA) (Fig 7C)。フローサイトメトリー解析により、抗CD4抗体投与群ではCNS内へのCD8+ T細胞の浸潤頻度が有意に減少していることが示されたが (p<0.05、Student t-test)、脾臓におけるCD8+ T細胞の頻度は維持されていた (Fig 7D)。この結果から、分化転換により出現したCD4+ T細胞が、CD8+ T細胞のCNS実質内への浸潤およびEAE発症を駆動する上で必須の役割を担っていることが実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、MOG35-55特異的かつMHCクラスII拘束性TCRを有する1C6 CD8+ T細胞が、単独の養子移入によって慢性進行性のEAEを誘導可能であることを初めて直接的に実証した。従来のCD8+ T細胞依存性EAEモデルが、MHCクラスI拘束性のMBP特異的クローンやGFAP特異的TCRモデルを用いていたことと異なり、本研究はMHCクラスII拘束性CD8+ T細胞がCNS自己免疫を惹起するという極めてユニークな病態モデルを提示している。また、移入後にCD8+ T細胞からCD4+ T細胞への可塑的な分化転換 (cross-differentiation) が生じる現象は、先行研究において腸管微小環境や非CNS自己免疫モデルで断片的に報告されていたが (Lui et al. Cell Rep 2015; Leuenberger et al. J Immunol 2013)、本研究はCNS自己免疫の活動期病変においてこの現象を捉え、その機能的必須性を証明した点でこれまでの知見と大きく異なる。

新規性: 本研究の最大の新規性は、高度に精製された1C6 CD8+ T細胞が、in vivo移入後にCD4+ T細胞へと自発的に分化転換し、この新生CD4+ T細胞がCD8+ T細胞自身のCNS浸潤および脳脊髄炎の発症を決定づけるという「CD4-CD8協調作用機構」を明らかにした点にある。本研究で初めて、1C6 CD8+ T細胞がCD4系統決定のマスター転写因子であるThPOKを、野生型NOD CD8+ T細胞と比較して有意に高発現していることを見出した。このThPOKの高発現が、MHCクラスII拘束性TCRシグナルと相まって、CD8+からCD4+へのリネージ可塑性を駆動する分子スイッチとして機能している可能性を新規に提示した。

臨床応用: 本研究の知見は、ヒトMS病態の理解および治療戦略の策定において重要な臨床的意義を持つ。MS患者の活動性脱髄病変部にはCD8+ T細胞が多数浸潤していることが知られているが、これらがMHCクラスII拘束性を獲得している可能性や、局所でCD4+ T細胞へと分化転換している可能性が示唆される。このベンチからベッドサイド (bench-to-bedside) へのトランスレーショナルな視点に基づけば、抗CD4療法 (例えば、CD4標的抗体薬) は、単に既存のCD4+ Tヘルパー細胞を阻害するだけでなく、CD8+ T細胞の可塑的変化に伴う病原性増幅ループを遮断し、CD8+ T細胞のCNS浸潤を効果的に抑制し得るという新たな治療的根拠を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、1C6 CD8+ T細胞におけるThPOK発現を誘導する上流のTCRシグナル強度の詳細な解析や、エピジェネティックな制御機構の解明が必要である。また、抗CD4処置によってCD8+ T細胞のCNS浸潤が完全に消失する具体的な分子メカニズム (CD4+ T細胞が産生するケモカインや接着分子が、CD8+ T細胞の血液脳関門通過をどのようにサポートしているか) の検証がlimitationとして残されている。さらに、ヒトMS患者の末梢血および脳脊髄液中において、MHCクラスII拘束性を持つCD8+ T細胞や、ThPOK陽性のCD8+ T細胞がどの程度の頻度で存在し、病態進行度と相関しているかを検証することが今後の重要な研究方向性である。

方法

実験動物および細胞株

NOD.Cg-Prkdc(scid)/J (NOD/SCID) マウス、NOD背景1C6 TCR-Tgマウス、およびNOD.Cg-Tg(TcraBDC2.5, TcrbBDC2.5)1Doi/DoiJ (BDC2.5) マウスをcohoused条件下で維持した。本研究では株化細胞株 (cell line) は使用せず、すべてマウス生体からプライマリー細胞を単離して実験に供した。

T細胞の単離と分化誘導

1C6マウスの脾臓およびリンパ節から、FACSAria (fluorescence-activated cell sorting Aria) 高速セルソーターを用いてCD8+ CD62Lhi (CD62L high) およびCD4+ CD62Lhiのnaïve T細胞を高純度で精製した。

  • Tc1/Th1分化条件: rmIL-12 10 ng/mL + 抗IL-4抗体 10 μg/mLで2日間刺激後、rmIL-2 10 ng/mLで3日間培養した。
  • Tc17/Th17分化条件: rhTGFβ 3 ng/mL + rmIL-6 20 ng/mL + 抗IFNγ抗体 10 μg/mLで2日間刺激後、rmIL-23 20 ng/mLで3日間培養した。 刺激方法として、プレートバウンド抗CD3抗体 (4 μg/mL) + 抗CD28抗体 (4 μg/mL) による刺激、またはMOG35-55ペプチド (2 μg/mL) をパルスした照射脾細胞 (APC) との共培養を用いた。一部の実験では、5日間の分化後に同様の刺激を繰り返す「2ラウンド刺激プロトコル」を実施した。

養子移入EAEモデル

分化させた1C6 T細胞 (5 × 10⁶ cells/匹、コトランスファー時は各2.5 × 10⁶ cells) を雌性または雄性のNOD/SCIDマウスに静脈内投与した。移入当日 (0日目) および2日目に百日咳毒素 200 ng/匹を腹腔内投与した。EAE臨床スコアは0から5のスケールで70日間毎日評価した。慢性進行性病態は、10日間でスコアが1.0以上上昇し、その期間内に0.5を超える改善がなく、最終的に寛解せず、スコアが2.5を超えた場合と定義した。

CD4体内枯渇実験

Tc17移入当日より、抗CD4抗体 (clone GK1.5) 400 μg/匹を週2回、35日目まで腹腔内投与し、IgGアイソタイプコントロール群と比較した。

組織病理および免疫染色

灌流固定後の脳および脊髄組織をパラフィン包埋し、HE (hematoxylin and eosin) 染色、LFB (Luxol fast blue) 染色、およびBielschowsky銀染色に供した。また、デカルシファイ処理後の凍結切片を用いて、CD4およびCD8の免疫蛍光染色を実施した。

フローサイトメトリー解析

脾臓およびPercoll密度勾配遠心法 (35% Percoll) により分離したCNS単核細胞を回収した。PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate, 50 ng/mL) + ionomycin (1 μM) + GolgiStop存在下で4時間刺激後、表面マーカー (CD4, CD8, Vβ7, Vβ4) および細胞内因子 (IFNγ, TNF, IL-17A, granzyme B, perforin, ThPOK, FoxP3) を染色し、FACSCanto IIで測定、FlowJo v10.10.0で解析した。

統計解析

GraphPad Prism v10.6.1を用い、2群間比較には Student t-test (2-tailed) を適用した。多群比較には one-way ANOVA または二元配置分散分析 (2-way ANOVA) およびTukey事後検定、進行率の比較にはchi-square検定を適用した。