- 著者: Mikayel Mkrtichyan, Namju Chong, Rasha Abu Eid, Anu Wallecha, Reshma Singh, John Rothman, Samir N. Khleif
- Corresponding author: Samir N. Khleif (Georgia Regents University Cancer Center, Augusta, GA, USA)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-08-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 24829751
背景
Listeria monocytogenes (Lm) はグラム陽性の細胞内寄生菌であり、抗原提示細胞 (APC) 内でMHC class IとIIの両方に抗原を提示できる独特な細胞内ライフサイクルを持つ。この特性により強力なCD8+およびCD4+ T細胞応答が誘導されるため、がんワクチンベクターとして広く研究されてきた (Pamer, Nat Rev Immunol 2004)。Lm の主要毒性因子であるLLO (listeriolysin-O: リステリオリシン-O) はパゴリソソームの溶解を担うだけでなく、PAMP (pathogen-associated molecular pattern) 様分子として機能し、炎症性サイトカイン産生とAPCの成熟を促進することが明らかにされている。HPV-16 E7とLLOを非機能的切断型として融合させたリステリアワクチンであるLm-LLO-E7 (Listeria monocytogenes-listeriolysin-O-E7 recombinant vaccine) はHPV-E7抗原単独発現系と比較して免疫原性を大幅に増強し、前臨床の確立腫瘍モデルで優れた治療効果を示した後、Phase 1臨床試験 (子宮頸がん) まで進展した実績を持つ。
一方、PD-1 (programmed death receptor-1)/PD-L1経路は腫瘍免疫逃避の中心的機序である。PD-1はT細胞受容体 (TCR) シグナルを減弱させてT細胞の増殖抑制・サイトカイン産生低下・アネルギーおよびアポトーシスを誘導し (Freeman et al. JExpMed 2000)、腫瘍細胞によるPD-L1過剰発現が腫瘍浸潤エフェクターリンパ球を抑制することで免疫監視機構からの逃避を可能とする。PD-L1は卵巣がん・肺がん・膵臓がん・腎細胞がん・乳がん等の多数のがん種で発現し、その高発現は複数の独立したコホートで生存率と逆相関することが報告されている。PD-1/PD-L1遮断が腫瘍根絶を増強することも示されており (Curran et al. ProcNatlAcadSciUSA 2010)、チェックポイント阻害療法の基盤となっている。
興味深いことに、Rowe ら (J Immunol 2008) は弱毒Lm感染がマウス免疫細胞のPD-L1を有意に上昇させ、CD11c+樹状細胞 (DC) での上昇が最も顕著であることを示した。この報告は、Lm-LLOワクチン自体が免疫細胞のPD-L1誘導を介してT細胞抑制を促進するという逆説的な自己矛盾機構の存在を示唆する。しかし、Lm-LLOワクチンとPD-1/PD-L1遮断の組み合わせが腫瘍免疫に与える影響については未解明であり、特に免疫抑制細胞集団 (MDSC・Treg) の動態や抗原特異的免疫応答への影響を含む包括的な評価は先行研究で報告されておらず、知識の空白が存在した。本研究はこの未解明の課題をTC-1腫瘍モデルで検証し、さらにヒトDCでの再現性確認を通じて臨床翻訳の根拠を提示することを目指した。
目的
HPV-16 E7発現TC-1マウス腫瘍モデルにおいて、Lm-LLO-E7ワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせが腫瘍増殖・生存期間・抗原特異的免疫応答・腫瘍浸潤CD8+ T細胞・MDSC・Treg細胞動態に与える効果を系統的に評価し、マウスおよびヒトDCにおけるLm感染誘導PD-L1発現を確認することで臨床応用可能性を検討すること。
結果
マウスDCにおけるLm-LLO誘導PD-L1発現の用量依存的上昇:精製CD11c+骨髄由来DC (1×10^6 cells/ml) にLm-LLOまたはLm-LLO-E7を各種濃度で感染させたところ、10^8および10^9 CFU/mlで用量依存的にPD-L1表面発現が有意に上昇し、最高濃度では非治療DCと比較して最大3.5-fold の上昇が確認された (Fig 1)。いずれの濃度においてもE7抗原の有無はPD-L1上昇に差をもたらさず、この効果は抗原非依存的であることが示された。この所見は複数の独立したin vitro実験で再現されLLO融合ベクター共通の免疫調節特性として確認された。すなわち、Lm感染自体がDCにおける主要な免疫チェックポイントリガンドPD-L1の発現を誘導するという、ワクチン療法に内在する自己矛盾的免疫抑制機構の存在が明確に示された。
Lm-LLO-E7と抗PD-1抗体の組み合わせによる腫瘍増殖抑制と生存延長:ワクチン単独効果を最小化するため、低用量Lm-LLO-E7・遅延投与スケジュール (day 8/15)・高腫瘍数 (50,000個) というストリンジェントな条件を設定した実験において、各群n=5で評価した。Lm-LLO-E7単独投与は対照群と比較して軽度の腫瘍増殖抑制のみをもたらした。これに対し、Lm-LLO-E7と抗PD-1 Ab (50μg/mouse i.v.) の組み合わせは腫瘍増殖を有意に抑制し (Fig 2B)、生存期間の延長および治療動物の20%で完全腫瘍退縮を達成した (Fig 2C)。抗PD-1 Ab単独ではワクチン非添加では有意な腫瘍制御効果を示さなかった。この治療効果は3回の独立実験で再現性が確認され、ストリンジェントな実験条件下でも組み合わせ療法の有効性が堅牢であることが示された。
抗原特異的免疫応答と腫瘍浸潤CD8+ T細胞の有意増強:免疫学的機序を解明するためday 21に脾臓と腫瘍を採取して解析した。IFNγ ELISPOTによるE7特異的応答の定量 (1×10^6 脾臓細胞当たりのスポット数、n=5 mice/群) では、Lm-LLO-E7単独投与群が対照群と比較して有意に高いスポット数を示し (p<0.001)、さらにLm-LLO-E7+抗PD-1 Ab群ではLm-LLO-E7単独群と比較してもE7特異的IFNγ産生細胞数が有意に増加した (p<0.01) (Fig 3A)。腫瘍浸潤CD8+ T細胞についても同様のパターンが観察された。Lm-LLO-E7単独群では対照群より腫瘍浸潤CD8+ T細胞が有意に増加し (p<0.05)、Lm-LLO-E7+抗PD-1 Ab群では対照群と比較してさらに顕著な増加 (p<0.001) が認められ、Lm-LLO-E7単独群との比較でも有意差が確認された (p<0.05) (Fig 3B)。すなわち抗PD-1遮断はLm-LLO-E7ワクチンによって誘導された抗原特異的T細胞の機能・浸潤両面を相加的に増強することが明らかとなった。
MDSC・Treg減少はLm-LLO依存・E7抗原/抗PD-1非依存の独立機序:腫瘍担癌マウス脾臓のCD11b+Gr-1+細胞 (MDSC) 比率は約18%と、腫瘍非担癌マウスの約2.5%から大幅に上昇していた (Fig 4A)。重要なことに、Lm-LLO投与群はE7抗原の有無および抗PD-1抗体の有無にかかわらず一律に脾臓MDSC比率が有意に低下し (p<0.05、約6.2%)、腫瘍浸潤MDSCの絶対数 (mean ± SD で提示) もLm-LLO、Lm-LLO-E7、Lm-LLO-E7+抗PD-1 Ab群の全てで有意に減少した (Fig 4B)。Foxp3+CD4+ Treg細胞についても、脾臓 (Fig 5A) および腫瘍 (Fig 5B) の両方でLm-LLO含有投与群全てにおいて一貫した減少が認められ、こちらもE7抗原や抗PD-1添加の有無で差はなかった。これらの結果はLm-LLO自体が免疫抑制性細胞集団 (MDSC・Treg) の減少を担う独立した機序を持つことを示し、抗PD-1の効果とは明確に区別される。
ヒトDCでのPD-L1上昇確認と臨床翻訳可能性の支持:健常人ドナーのPBMC由来単球DCにLm-LLOまたはLm-LLO-E7を感染させたところ、マウスDCと同様に用量依存的にPD-L1表面発現が有意に上昇した (Fig 6A/6B)。ヒトでのこの再現性確認は、リステリアワクチン誘導のPD-L1上昇が種特異的現象ではなく、ヒト免疫細胞においても同様の免疫抑制ループが生じる可能性を示すものであり、抗PD-1抗体との組み合わせを臨床に翻訳する根拠として機能する。
考察/結論
本研究は、Lm-LLO-E7ワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせが2種類の独立した免疫学的機序を通じて抗腫瘍効果を増強することを初めて系統的に明示した。第1の機序はLm-LLO自体が担うMDSCおよびTreg細胞の減少 (E7抗原・抗PD-1非依存) であり、第2の機序は抗PD-1抗体が担う抗原特異的CD8+ T細胞応答の増強と腫瘍浸潤促進である。この2機序の協調によりワクチン単独では達成できない20%の完全腫瘍退縮が実現した。
既報との相違と新規性:これまでの研究ではペプチドワクチンと抗PD-1抗体を組み合わせた際にはTreg細胞を減少させるためにCPM (cyclophosphamide: シクロホスファミド) の追加が必須であり、3剤全てを揃えて初めて有意な治療効果が得られることが既報で示されていた。これと対照的に、本研究ではLm-LLO自体がCPM非依存的にMDSCおよびTreg細胞を有意に減少させることが明らかとなった。特に、本研究で初めてLm-LLO処理がMDSC減少を引き起こすことが示された点は新規の発見であり、これまで報告されていないListeria固有の免疫調節機能として注目に値する。ListeriaがTCRシグナルを減弱させるPD-L1を誘導する一方でMDSCとTregを減少させるという二面性が、抗PD-1遮断との組み合わせにおいて相乗的な免疫活性化をもたらすという統一的理解を本研究は提供する。また、ヒトDCにおけるPD-L1誘導の確認 (Garris et al. Immunity 2018 が後年示したようにDCとT細胞のクロストークがPD-1阻害療法の成否に関わるという観点からも重要) は、本メカニズムがヒトにも適用される根拠となる。
臨床的意義:Lm-LLO-E7 (ADXS11-001、axalimogene filolisbac) はHPV関連悪性腫瘍 (子宮頸がん・肛門がん・頭頸部がん) を対象にPhase 1安全性試験が完了し、複数のPhase 2試験が進行中または計画中であった時点での研究であり、本成果の臨床的意義は高い。bench-to-bedside の観点から、リステリアワクチンと抗PD-1抗体 (nivolumab、pembrolizumab等) の臨床的組み合わせを評価するPhase 1/2試験の実施を積極的に支持する前臨床エビデンスを本研究は提供している。ヒトDCでの再現性確認がその橋渡し根拠として機能する。さらにCPM不要という点は、毒性軽減と患者QOLへの配慮からも臨床応用上の利点となる。
残された課題:本研究にはいくつかのlimitationおよび残された課題が存在する。第1に、Lm-LLO誘導のMDSCおよびTreg減少の正確な分子・細胞メカニズムは不明であり、今後の検討が必要である (著者らも現在調査中と記している)。第2に、TC-1/C57BL/6という単一の同系腫瘍モデルに限定された前臨床実験であり、HPV陰性腫瘍や他の腫瘍抗原への一般化可能性の更なる検討が求められる。第3に、ストリンジェント条件下で完全退縮率が20%にとどまっており、長期生存率向上に向けた最適化 (投与用量・スケジュール・他の免疫調節剤との組み合わせ) の検討が課題として残る。第4に、臨床においてはListeria生菌ワクチンの安全性プロファイルと抗PD-1抗体の免疫関連有害事象の組み合わせリスク評価が不可欠であり、これらについてfuture research が必要である。
方法
動物・細胞株・試薬:C57BL/6雌マウス (6-8週齢、NCI Frederick) をNCI承認の動物実験プロトコルのもとで使用した。TC-1細胞はHPV-16 E6/E7および活性化ras癌遺伝子をC57BL/6マウス肺上皮細胞に共導入して樹立された細胞株で、ATCC (Manassas, Virginia, USA) より入手し、RPMI 1640 (10% FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン各100 U/ml、L-グルタミン 2mM) 中で培養した。Lm-LLO-E7およびLm-LLO (Listeria monocytogenes-LLO control vector; Advaxis Inc.) は腹腔内 (i.p.) に5×10^6 CFU (colony-forming unit)/mouseで投与した。抗PD-1モノクローナル抗体はCureTech (Israel) より入手し、静脈内 (i.v.) に50μg/mouseで投与した。フローサイトメトリー用蛍光標識抗体はBD BiosciencesおよびeBiosciencesより購入した。
DC解析:マウス骨髄由来DCは確立された方法で単離・精製した。ヒト単球由来DCはNIH Blood bankの健常人ドナーPBMCより作製した。PBMCはFicoll-Paque Plus密度勾配遠心で単離し、接着単球をGM-CSF (1,000 U/ml) + IL-4 (500 U/ml) で4-5日間培養してDCに分化させた。DCs (1×10^6 cells/ml) にLm-LLOまたはLm-LLO-E7を0、10^7、10^8、10^9 CFU/mlの各濃度で1時間感染させた後ゲンタマイシン (50μg/ml) で除菌し、48時間培養後にPE-anti-mouse PD-L1またはFITC-anti-human PD-L1で染色してFACSCalibur/CellQuestで解析した。アイソタイプ一致抗体を陰性対照とした。
腫瘍実験・治療プロトコル:Day 0にTC-1細胞 (50,000個/mouse) を右側腹部にs.c.移植した。腫瘍径が約3-4mmとなるday 8とday 15に、各群 (n=5) に対してLm-LLO-E7またはLm-LLO (±抗PD-1 Ab) を投与した。非治療群も設定した。腫瘍容積はデジタルノギスで3-4日毎に測定しV=(W^2×L)/2で算出した。生存解析実験ではKaplan-Meierプロットを用いた。免疫学的解析実験では、治療スケジュールを同一とした別コホートからday 21 (第2回投与の6日後) に脾臓と腫瘍を採取した。
免疫学的解析:E7特異的抗原特異的応答はIFNγ ELISPOT法 (BD Biosciences製キット、E7ペプチド再刺激 10μg/ml) で定量した。バックグラウンドは無関連ペプチド (hgp100 [human gp100 melanocyte antigen] 25-33) 再刺激時のスポット数を差し引いた。腫瘍浸潤細胞はGentleMACS Dissociatorで解離後、CD45+集団内のCD8+、CD4+Foxp3+ (Treg)、CD11b+Gr-1+ (MDSC) をフローサイトメトリーで定量した。
統計解析:GraphPad Prism (San Diego, California, USA) を用い、one-way ANOVAおよびTukey’s multiple comparison post-testで群間比較を実施し、p<0.05を統計的有意水準とした。