- 著者: Carreira M, Barros L, Cruz RM, Ferreira C, Costa C, Ferreira CM, Mensurado S, Silva-Santos B, Blanco-Domínguez R
- Corresponding author: Bruno Silva-Santos (Universidade de Lisboa, Lisboa, Portugal), Rafael Blanco-Domínguez (GIMM, Lisbon, Portugal)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 42208977
背景
大腸がん (CRC: colorectal cancer) は、世界的にがん関連死亡原因の第2位を占める極めて予後不良な悪性腫瘍である。近年、がん免疫療法の進歩により、ミスマッチ修復欠損型 (MMR-d: mismatch repair-deficient) や高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-H: microsatellite instability-high) を示す大腸がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) が劇的な臨床効果をもたらすことが示されている。しかし、大腸がん全体の約85%以上を占めるミスマッチ修復正常型 (MMR-p: mismatch repair-proficient) やマイクロサテライト安定型 (MSS: microsatellite stable) の大腸がんにおいては、腫瘍抗原の変異原性が低く、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) へのエフェクターT細胞の浸潤が極めて乏しい「冷たい腫瘍 (cold tumor)」であるため、既存のICIはほとんど奏効しないという深刻な臨床課題が存在する。
この課題を克服するため、キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) 発現T細胞やαβ T細胞を用いた養子細胞療法 (ACT: adoptive cell therapy) の開発が進められてきたが、固形がんにおける腫瘍内への浸潤効率の低さや、免疫抑制的なTMEによる機能抑制が大きな障壁となっている。このような背景から、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC: major histocompatibility complex) による制限を受けず、ヒト白血球抗原 (HLA: human leukocyte antigen) 非依存的に広範な腫瘍細胞を認識・傷害できる代替細胞療法として、γδ T細胞、特にVδ1陽性T細胞に着目した治療戦略が注目を集めている。
我々の研究グループは、健常ドナーの末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) からVδ1陽性T細胞を選択的に高純度で拡大培養する技術を確立し、これを「DOT細胞 (Delta One T cells)」と命名してその抗腫瘍効果を報告してきた (Carreira et al. JImmunotherCancer 2026)。DOT細胞は、前臨床モデルにおいて大腸がんを含む複数の固形がんに対して強力な細胞傷害活性を示すことが確認されているが、投与されたDOT細胞がどのような分子機構を介して腫瘍局所へ遊走・浸潤するのか、その詳細なトラフィッキング機構は依然として未解明であった。
特に、大腸がんのTMEにおいてどのケモカイン受容体 (chemokine receptor) がDOT細胞の浸潤を主導しているのか、またMMR-p型大腸がんにおいて免疫細胞の浸潤を促すためのケモカインリガンド (CXCL9/CXCL10/CXCL11など) の分泌をいかにして人為的に誘導すべきかという点について、介入可能な治療標的や具体的な併用戦略に関する知見が不足していた (Velu et al. JClinInvest 2026)。本研究は、DOT細胞の遊走を司る主要なケモカイン受容体を同定し、PTPN2/PTPN1 (protein tyrosine phosphatase non-receptor type 2/1) 阻害薬との組み合わせによってTMEをリモデリングし、DOT細胞の治療効果を最大化する新規戦略を検証したものである (Herbst et al. NEnglJMed 2022)。
目的
本研究の目的は、拡大培養されたDOT (Delta One T) 細胞におけるケモカイン受容体の発現プロファイルを網羅的に解析し、腫瘍浸潤を司る主要な受容体としてCXCR3 (C-X-Cケモカイン受容体3型) を同定することである。さらに、大腸がん細胞株および患者由来の初代腫瘍組織においてCXCR3リガンド (CXCL9/10/11) の発現状況を評価し、PTPN2/PTPN1二重阻害薬であるAC484 (ABBV-CLS-484) を用いて腫瘍細胞からのケモカイン分泌を人為的に増強させることで、DOT細胞の腫瘍内浸潤効率および抗腫瘍効果を相乗的に向上させることができるかを、in vitroおよびin vivoの同所性大腸がん異種移植モデルを用いて検証することを目的とした。
結果
CXCR3受容体のDOT細胞における高発現と培養過程での誘導: 健常ドナー由来のDOT細胞 (n=29 donors) における11種類のケモカイン受容体の発現プロファイルをフローサイトメトリーで網羅的に解析した結果、CXCR3が最も一貫して、かつ極めて高い割合 (ほぼ100%の細胞) で発現していることが判明した (Figure 1A)。培養前の末梢血中に存在する新鮮なVδ1陽性T細胞と比較して、14日間のDOT細胞拡大培養プロセスを経ることで、CXCR3の発現レベル (幾何平均蛍光強度: gMFI) は劇的に上昇した (n=6 donors、p<0.0001、Figure 1B)。この発現上昇は、もともとCXCR3陽性であったナイーブ画分の選択的な増殖に加え、培養中の活性化刺激によってCXCR3陰性画分がCXCR3陽性へと表現型をシフトさせるという二重のメカニズムによってもたらされることが、ソート細胞を用いた培養実験 (n=3 replicates) により確認された (Figure 1)。
CXCR3–CXCL9/10/11軸を介したDOT細胞の強力な遊走活性: 大腸がん細胞株 (HCT-116、SW620) の分泌プロファイルをLuminexマルチプレックス解析およびELISAで評価したところ、いずれの細胞株もCXCR3リガンドであるCXCL9、CXCL10、CXCL11を自発的に分泌しており、IFNγ刺激によってその分泌量は数十倍から数百倍に著しく増加した (Figure 1C)。Transwellアッセイにおいて、DOT細胞はリガンドであるCXCL9およびCXCL10 (1-100 ng/mL) に対して濃度依存的に強力な遊走能を示した (n=3 replicates、p<0.01、Figure 1E)。さらに、大腸がん患者から採取した初代腫瘍組織 (n=5 donors) から調製したCD45陰性細胞画分に対しても、DOT細胞は有意な遊走活性を示し (p<0.05、Figure 2F)、その走化性指数は腫瘍細胞が分泌するCXCL10の濃度と極めて強い正の相関 (Spearman r=0.85、p<0.05) を示した (Figure 2G)。
CXCR3シグナルの薬理学的阻害による腫瘍内浸潤の抑制: DOT細胞の遊走におけるCXCR3の機能的寄与を証明するため、選択的CXCR3拮抗薬AMG487を用いた機能喪失実験を実施した。In vitroにおいて、AMG487 (1 µM) または抗CXCR3中和抗体 (20 µg/mL) の添加は、CXCL10 (10 ng/mL) に対するDOT細胞の遊走を完全に消失させた (n=4 replicates、p<0.001、Figure 3A)。また、SW620細胞に対する遊走もAMG487によって著しく抑制された (p<0.01、Figure 3B)。さらに、hIL15-NOGマウスを用いた同所性大腸がん異種移植モデル (n=6 mice per group) において、AMG487で前処理したDOT細胞 (10^7 cells) を静脈内投与したところ、投与1週間後における腫瘍局所へのDOT細胞の浸潤数 (hCD45+ cells/mg 腫瘍重量) および浸潤割合 (%) は、未処理対照群と比較して有意に低下した (p<0.01、Figure 3E, F)。一方で、末梢血や脾臓におけるDOT細胞の回収数には群間で有意な差は認められず、CXCR3シグナルが全身の生存維持ではなく、腫瘍局所への選択的なホーミング (homing) を特異的に制御していることが実証された (Figure 3)。
TCGAデータベースにおけるCXCR3リガンドとVδ1 T細胞浸潤の相関: 臨床検体における本経路の重要性を検証するため、TCGAデータベースの結腸がん (n=453 patients) および直腸がん (n=163 patients) コホートを解析した。その結果、CXCL9、CXCL10、CXCL11のmRNA発現量は、正常組織と比較してがん組織において有意に高発現していた (p<0.0001、Figure 2A, B)。さらに、これら3つのリガンド遺伝子の発現量は、Vδ1陽性T細胞の特異的マーカー遺伝子であるTRDV1の発現量と極めて強い正の相関を示した。結腸がん (n=453 patients) では CXCL9 と TRDV1 の相関が Spearman r=0.45 (p<0.0001)、直腸がん (n=163 patients) では CXCL10 と TRDV1 の相関が Spearman r=0.42 (p<0.0001) であった (Figure 2C, D)。また、免疫原性が高く「温かい腫瘍」とされるMMR-d型大腸がん (n=70 patients) は、免疫細胞の浸潤が乏しいMMR-p型大腸がん (n=468 patients) と比較して、CXCL9/10/11の発現量が有意に高値であった (p<0.001、Figure 2E)。この結果は、MMR-p型大腸がんにおいてDOT細胞療法を成功させるためには、腫瘍局所におけるCXCR3リガンドの発現を人為的に高める介入が必要であることを強く示唆している (Figure 2)。
PTPN2/PTPN1阻害薬AC484によるリガンド分泌促進と併用効果の増強: TMEにおけるCXCR3リガンドの発現を増強する介入手段として、JAK-STAT経路の負の制御因子であるPTPN2およびPTPN1を標的とする二重阻害薬AC484の有効性を検証した。In vitroにおいて、大腸がん細胞 (SW620、HCT-116) をAC484 (1-10 µM) で処理すると、IFNγ (100 ng/mL) 共存下においてCXCL10の分泌量が濃度依存的に有意に増加した (n=3 replicates、p<0.0001、Figure 4B)。さらに、AC484処理した腫瘍細胞はDOT細胞の遊走を有意に促進し、この効果はAMG487の添加によって完全にキャンセルされた (p<0.001、Figure 4D)。In vivo同所性大腸がんモデル (n=6 mice per group) において、AC484 (20 mg/kg) の経口投与とDOT細胞 (10^7 cells、週1回、計3回投与) の併用療法を評価した (Figure 4E)。AC484単剤では腫瘍重量に影響を与えなかったが、DOT細胞とAC484を併用投与した群では、腫瘍局所におけるDOT細胞の浸潤数 (hCD45+ cells/mg) および割合 (%) が、DOT細胞単剤群と比較して有意に増加した (p<0.05、Figure 4F, G)。この浸潤促進に伴い、治療開始28日目における腫瘍重量は、対照群および各単剤群と比較して、併用療法群において劇的かつ有意に減少した (p<0.01、Figure 4H)。この強力な相乗効果は、本来免疫抵抗性を示すMMR-p型大腸がん (SW620) モデルにおいて達成されたものであり、PTPN2/PTPN1阻害によるケモカイン環境のリモデリングが、DOT細胞療法の治療効果を劇的に向上させる極めて有望な戦略であることを示している (Figure 4)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来のαβ T細胞やCAR-T細胞、あるいはNK (natural killer) 細胞を用いた養子免疫療法に関する研究と異なり、遺伝子改変を施していない天然のVδ1陽性γδ T細胞製品であるDOT細胞が、その独自の拡大培養プロセスにおいて自然に獲得するケモカイン受容体プロファイルに着目し、その腫瘍浸潤機構を詳細に解明した。これまでの多くのACT研究では、腫瘍への遊走能を高めるためにケモカイン受容体を人工的に遺伝子導入するアプローチが主流であったが、本研究はDOT細胞が追加の遺伝子操作なしで極めて高いCXCR3発現を維持し、優れた腫瘍指向性を発揮できることを明らかにした。
新規性: 本研究は、大腸がんのTMEへのDOT細胞の遊走および浸潤が、主としてCXCR3–CXCL9/10/11シグナル軸によって制御されていることを本研究で初めて明らかにした。さらに、PTPN2およびPTPN1の二重阻害薬であるAC484を用いて腫瘍細胞側のJAK-STAT経路を脱抑制し、IFNγ依存的なCXCR3リガンドの分泌を人為的に増強させることで、DOT細胞の腫瘍内浸潤効率を劇的に高め、抗腫瘍効果を相乗的に向上させることができるという新規の併用治療コンセプトを前臨床モデルにおいて実証した。この「腫瘍側のケモカイン分泌能の解放」と「高発現受容体を持つエフェクター細胞の投与」を組み合わせた連続的な治療メカニズムの解明は、これまで報告されていない極めて独創的な知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、大腸がん治療における極めて重要な臨床的意義を有している。現在、大腸がん全体の約80〜85%を占めるMMR-p (MSS) 型の大腸がんは、腫瘍組織への免疫細胞浸潤が乏しい「冷たい腫瘍」であり、既存の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が全く奏効しないという深刻な臨床課題が存在する。本研究で示されたAC484とDOT細胞の併用療法は、MMR-p型大腸がんのTMEを「温かい腫瘍」へと能動的にリモデリングし、治療抵抗性を克服するための極めて有望なアプローチとなる。PTPN2/PTPN1阻害薬AC484 (ABBV-CLS-484) は、すでに進行固形がんを対象とした第I相臨床試験 (NCT04777994) が進行中であり、本研究の知見は、臨床現場におけるDOT細胞療法との併用治験の早期立ち上げや、最適な投与スケジュールおよび用量設定の設計に向けた強固な科学的基盤 (bench-to-bedside) を提供するものである。したがって、本治療戦略の臨床応用は、既存の治療法に抵抗性を示す多くの大腸がん患者に対する新たな選択肢として期待される。
残された課題: しかしながら、残された課題としていくつかの限界 (limitation) も存在している。第一に、本研究で使用した同所性異種移植マウスモデルは、ヒトIL-15をトランスジェニックした高度免疫不全マウス (hIL15-NOG) であり、マウス自身の機能的なT細胞、B細胞、NK細胞、あるいは骨髄由来抑制細胞 (MDSC) などの免疫抑制細胞を欠いている。そのため、ヒトの複雑な免疫微小環境における相互作用を完全には再現できておらず、今後はヒト化マウスモデルや患者由来がんオルガノイドを用いた免疫共培養システムなど、より臨床に近い系での検証が必要である。第二に、AC484の全身投与が患者自身の内因性免疫系や正常組織に与える影響、およびDOT細胞との最適な投与スケジュール (同時投与か先行投与か) の最適化については、さらなる詳細な検討が必要である。
方法
細胞株および培養: MMR-d型大腸がん細胞株HCT-116 (ATCC CCL-247) およびMMR-p型大腸がん細胞株SW620 (ATCC CCL-227) を使用した。SW620細胞に対しては、ルシフェラーゼおよびGFP (green fluorescent protein) を安定発現させたSW620 Luc+/+GFP^high細胞を構築し、in vivoでのイメージングに用いた。
DOT細胞の調製: 健常ドナーのPBMCから、磁気ビーズを用いてαβ T細胞を除去した後、G-REX (gas-permeable rapid expansion: ガス透過性急速細胞拡大培養) 培養プラットフォームを用いて14日間の拡大培養を行った。培養開始時 (Day 0) に抗CD3抗体 (OKT-3、140 ng/mL) およびIL-4 (100 ng/mL)、IFNγ (70 ng/mL)、IL-21 (7 ng/mL)、IL-1β (15 ng/mL) を添加し、Day 7およびDay 11にIL-15 (70-100 ng/mL) およびIL-21、抗CD3抗体を補充した。Vδ1陽性T細胞の割合が65%以上に達したバッチのみを実験に使用した。
患者由来初代腫瘍サンプルの処理: 未治療の大腸がん患者から外科的切除または生検によって得られた腫瘍組織を、Liberase (0.25 U/mL) およびDNase I (0.1 mg/mL) を用いて酵素的に分散し、単一細胞懸濁液を調製した。さらに、磁気ビーズを用いてCD45陽性免疫細胞を除去し、CD45陰性腫瘍・間質細胞画分を単離して走化性アッセイの刺激源として用いた。
動物実験モデル: 高度免疫不全マウスにヒトIL-15遺伝子を導入したhIL15-NOGマウス (7-20週齢、雌性) を使用した。麻酔下で盲腸壁の漿膜下層に10^5個 of SW620 Luc+/+GFP^high細胞を精密に注入し、同所性大腸がん異種移植 (orthotopic xenograft) モデルを確立した。腫瘍の生着および成長は、D-ルシフェリン (15 mg/mL) を腹腔内投与した後の生物発光イメージング (BLI: bioluminescence imaging) システムを用いて定量的に評価した。
薬剤投与: CXCR3拮抗薬としてAMG487を使用し、in vitroでは1 µM、in vivoでは5 mg/kgを連日腹腔内投与、あるいはDOT細胞に対してあらかじめin vitroで1 µMを24時間前処理した。PTPN2/PTPN1二重阻害薬としてAC484 (ABBV-CLS-484、臨床試験ID: NCT04777994) を使用し、in vitroでは1-10 µM、in vivoでは20 mg/kgを連日または隔日で経口ゾンデ投与した。
解析および統計手法: フローサイトメトリーを用いて、DOT細胞上の11種類のケモカイン受容体発現を解析した。Transwellアッセイ (ポアサイズ5 µM) を用いて、各種リガンドまたは腫瘍上清に対するDOT細胞の走化性指数 (chemotaxis index) を算出した。TCGA (The Cancer Genome Atlas) データベースから結腸がん (n=453) および直腸がん (n=163) の遺伝子発現データを取得し、TRDV1 (Vδ1のプロキシ) とCXCR3リガンドの相関を解析した。統計解析にはGraphPad Prism V.8を用い、データの正規性をShapiro-Wilk検定で確認後、2群間比較にはt検定またはMann-Whitney U検定、多群間比較には一元配置または二元配置ANOVA (Tukey、Dunnett、またはŠidák多重比較補正)、相関分析にはSpearman順位相関分析を適用した。有意水準はp<0.05とした。