• 著者: Nabil Ahmed, Vita S. Salsman, Eric Yvon, Chrystal U. Louis, Laszlo Perlaky, Winfried S. Wels, Meghan K. Dishop, Eugenie E. Kleinerman, Martin Pule, Cliona M. Rooney, Helen E. Heslop, Stephen Gottschalk
  • Corresponding author: Stephen Gottschalk (Center for Cell and Gene Therapy, Baylor College of Medicine, Texas Children’s Hospital, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Molecular Therapy
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-05-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19532139

背景

骨肉腫 (osteosarcoma) は、小児および若年成人において最も頻繁に発生する原発性骨悪性腫瘍であり、米国では年間700件以上の新規診断が報告されている (Gurney et al. 2005)。現在の多剤併用化学療法 (MAP: methotrexate, adriamycin, cisplatin) と外科的切除を組み合わせた集学的治療にもかかわらず、診断時に肺転移を伴う患者や再発患者の5年生存率は依然として20-30%と不良であり (Bacci et al. 2005)、新たな治療法の開発が喫緊の課題である。

HER2 (human epidermal growth factor receptor 2, ErbB2) は、骨肉腫の約40-60%で発現が認められ、予後不良因子と関連することが複数の研究で示されている (Gorlick et al. 1999, Hughes et al. 2004, Zhou et al. 2003)。しかし、乳がんで見られるようなHER2遺伝子増幅を伴う高発現 (IHC 3+、細胞あたり10⁵分子以上) とは異なり、骨肉腫におけるHER2発現は一般的に低密度 (IHC 1-2+、細胞あたり10⁴分子未満) である (Scotlandi et al. 2005)。この低発現レベルのため、乳がん治療で高い有効性を示すHER2特異的モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)は、骨肉腫に対しては効果が不十分であることが示されている (Gilbertson et al. 2005)。例えば、小児腫瘍学グループ (COG) の第II相試験AOST0121では、トラスツズマブ単独療法における骨肉腫患者の客観的奏効率 (ORR) は0%であった。これは、モノクローナル抗体のアビディティが、低抗原密度の腫瘍細胞を効果的に標的とするには不十分であることを示唆している (Colomer et al. 2001)。

一方、キメラ抗原受容体 (CAR) を発現するT細胞は、その抗原認識機構において、複数のCAR分子が細胞表面で同時に抗原と結合することで、モノクローナル抗体を上回る総アビディティを発揮すると考えられている (Pule et al. 2003, Pule et al. MolTher 2005)。この特性により、CAR-T細胞は、モノクローナル抗体では効果が得られないような低抗原密度の腫瘍であっても、効率的に認識し、殺傷できる可能性が示唆されている。しかし、骨肉腫における低発現HER2を標的としたCAR-T細胞療法の有効性を検証した前臨床研究は、当時ほとんど存在せず、この治療アプローチが低抗原密度腫瘍に対してどの程度有効であるかは未解明であった。特に、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の有効性には、T細胞の浸潤、持続性、および腫瘍微小環境の免疫抑制が課題として残されており、これらの克服に向けた戦略も不足していた。

目的

本研究の目的は、HER2低発現骨肉腫に対する第二世代HER2特異的CAR-T細胞 (FRP5-CD28-CD3ζ) の有効性を、in vitroでの腫瘍殺傷能、サイトカイン産生能、および増殖能の評価を通じて検証することである。FRP5-CD28-CD3ζは、HER2特異的シングルチェーン可変フラグメント (scFv) であるFRP5を、CD28膜貫通ドメインとCD28-CD3ζシグナルドメインに連結したCARである。さらに、in vivoにおいて、局所皮下腫瘍モデルおよび肺転移マウスモデルを用いて、HER2特異的CAR-T細胞が確立された骨肉腫異種移植片の退縮を誘導し、生存期間を延長するかを評価する。最終的に、本研究は、CAR-T療法がモノクローナル抗体療法では効果が得られない低抗原密度腫瘍に対しても適用可能であることを実証し、HER2低発現固形腫瘍に対する新たな治療戦略の基盤を確立することを目指す。

結果

骨肉腫におけるHER2発現は低密度であり、トラスツズマブは無効であった: 骨肉腫患者18検体のIHC解析では、12例 (67%) でHER2陽性が確認されたが、全例でIHC 1-2+の低発現レベルであった (Figure 1a)。これは乳がんにおけるHER2増幅を示すIHC 3+とは異なり、低抗原密度であることを示唆する。また、12種類の骨肉腫細胞株もFACS解析によりHER2を発現していたが、そのレベルはHER2低発現乳がん細胞株MCF-7と同程度であり、高発現乳がん細胞株SK-BR-3のレベルには達しなかった (Figure 1b)。in vitro増殖アッセイにおいて、トラスツズマブはSK-BR-3細胞の増殖を効率的に抑制したが、LM7、143B、HOS、U2OSなどのHER2陽性骨肉腫細胞株の増殖は、治療濃度 (500 μg/mL) の8倍高濃度でも10%未満しか抑制せず、無効であった (Figure 2a)。さらに、補体依存性細胞傷害性アッセイでも、トラスツズマブはSK-BR-3細胞を効率的に溶解したが、HER2陽性骨肉腫細胞株は、ウサギ補体を使用した場合でも溶解されなかった (Figure 2b)。これらの結果は、骨肉腫におけるHER2発現が、モノクローナル抗体による治療効果を得るには低すぎるレベルであることを明確に示した。

HER2特異的CAR-T細胞は低発現腫瘍に対し強力な特異的殺傷能を発揮した: FRP5-CD28-CD3ζ CARを導入したT細胞は、フローサイトメトリーにより中央値72% (範囲45-92%) のT細胞でCARが発現していることが確認された (Figure 3b)。in vitro細胞傷害性アッセイにおいて、HER2 CAR-T細胞は、HER2低発現骨肉腫細胞株であるLM7に対し75-85%の特異的⁵¹Cr放出を誘導し、中発現の143B細胞に対しては80-90%の殺傷能を示した (Figure 4d)。一方、HER2陰性K562細胞に対する殺傷能は10%未満であり、非形質導入T細胞 (NT T細胞) および対照CAR (CD19-CAR) は、いずれの骨肉腫細胞株に対しても15%未満の殺傷能しか示さなかった。この結果は、CAR-T細胞がモノクローナル抗体の抗原密度閾値 (約10⁵受容体/細胞) を下回る低発現腫瘍であっても、効率的に認識し殺傷できることを実証した。

HER2 CAR-T細胞はTh1偏向サイトカインを産生し、特異的に増殖した: HER2 CAR-T細胞は、HER2陽性骨肉腫細胞株 (LM7, 143Bなど) と共培養することで、IFN-γ (約8000 pg/mL/10⁶細胞)、TNF-α (約3000 pg/mL)、GM-CSF (約2000 pg/mL) などのTh1サイトカインを特異的に産生した (Figure 4a)。一方、IL-4、IL-5、IL-10などのTh2サイトカインの産生は100 pg/mL未満と低く、強いTh1偏向応答を示した。また、HER2 CAR-T細胞は、HER2陽性骨肉腫細胞との共培養により、非形質導入T細胞と比較して有意な増殖を示した (p<0.001, Figure 4c)。これらの結果は、骨肉腫細胞がCAR-T細胞の活性化、サイトカイン産生、および増殖を誘導するのに十分なレベルのHER2を発現していることを示している。

In vivo局所皮下腫瘍モデルにおけるCAR-T細胞の抗腫瘍効果: LM7-ffluc細胞を腹腔内投与して作製した確立皮下腫瘍 (体積100-200 mm³) を有するSCIDマウス (n=10) に、HER2 CAR-T細胞10⁷個を静脈内投与した結果、投与21日目には腫瘍体積が約70%減少した (Figure 5a)。対照の非形質導入T細胞を投与した群では腫瘍の増殖が継続し、CAR-T細胞群との間に統計学的に有意な差が認められた (p<0.001)。生存解析では、HER2 CAR-T細胞を投与した群のマウスは、対照群 (非治療群およびNT T細胞群) の中央値63-65日と比較して、有意に長い生存期間を示した。特に、小腫瘍マウスでは中央値160日超 (p<0.001)、大腫瘍マウスでは中央値88日 (95% CI 62日-160日超, p<0.01) であった (Figure 5c)。これは、HER2 CAR-T細胞が局所的に確立された骨肉腫に対して強力な抗腫瘍効果を発揮することを示している。

In vivo肺転移モデルにおけるCAR-T細胞の抗腫瘍効果: LM7-ffluc細胞を尾静脈注射して作製した肺転移SCIDマウスモデル (n=10) において、HER2 CAR-T細胞10⁷個を静脈内投与した結果、投与14日目には肺腫瘍の生物発光強度が約85%減少し、組織学的に肺結節数の減少が確認された (Figure 6a)。対照の非形質導入T細胞を投与した群では効果は認められなかった。生存解析では、HER2 CAR-T細胞群のマウスは、対照群の中央値65日 (95% CI 36-89日) と比較して、中央値145日 (95% CI 60-160日超, p<0.001) と有意な生存期間の延長を示した (Figure 6b)。治療された10匹中8匹のマウスは、6ヶ月以上の追跡期間で腫瘍再発の兆候を示さなかった。これらの結果は、HER2 CAR-T細胞が、骨肉腫の主要な死因である肺転移に対しても有効な治療戦略となり得ることを強く示唆する。

安全性プロファイル: マウスモデルにおけるHER2 CAR-T細胞の投与は、HER2陽性正常組織 (心筋、肺、腎臓) に対する顕著な傷害を引き起こさず、体重変化や血清生化学検査に有意な異常は認められなかった。これは、本CAR-T細胞のin vivoにおける安全性の可能性を示唆するが、ヒトHER2発現トランスジェニックマウスモデルでのさらなる検証が必要である。

考察/結論

本研究は、HER2低発現骨肉腫に対する第二世代HER2特異的CAR-T細胞 (FRP5-CD28-CD3ζ) の有効性をin vitroおよびin vivoで実証した画期的な前臨床論文である。特に、モノクローナル抗体であるトラスツズマブでは効果が得られない低抗原密度レベルのHER2発現腫瘍に対しても、CAR-T細胞が強力な抗腫瘍効果を発揮することを示した点は、CAR-T療法の適用範囲を「抗原密度の観点でモノクローナル抗体療法を拡張する」ものとして、その新規性を確立した。

先行研究との違い: これまでのHER2を標的とした免疫療法は、乳がんのような高発現腫瘍に限定される傾向があったが、本研究は、骨肉腫、胃がんの一部、肺腺癌の一部など、低HER2発現を示す様々な固形腫瘍に対するCAR-T療法の可能性を大きく広げるものである。先行研究では、HER2を標的としたCAR-T細胞の概念が示されていたが (Li et al. 2008)、本研究は、(1) 低密度HER2発現固形腫瘍を明確な臨床シナリオとして標的化した点、(2) EBV特異的CTLを基盤としたCAR-T細胞プラットフォームの持続性改善の可能性を示唆した点、(3) 骨肉腫の主要な死因である肺転移モデルにおいて顕著な有効性を実証した点で、これまでの報告と異なり、その独自性を有する。

新規性: 本研究で初めて、CAR-T療法がモノクローナル抗体療法では効果が得られない低抗原密度腫瘍に対しても適用可能であることを実証し、HER2低発現固形腫瘍に対する新たな治療戦略の基盤を確立した。これは、CAR-T療法の適用範囲を広げる新規な知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、その後のBaylor College of MedicineにおけるHER2 CAR-T細胞の臨床応用研究に直接的に繋がり、小児固形腫瘍におけるHER2 CAR-T療法の開発を主導した。例えば、本研究の著者らは、骨肉腫患者を対象とした第I/II相HER2 CAR-T臨床試験 (Ahmed et al. J Clin Oncol 2015) や、膠芽腫患者を対象とした試験 (Ahmed et al. JAMA Oncol 2017) を実施し、その安全性と一部での有効性を報告している。これらの臨床試験は、本研究で示された前臨床データが、実際に患者の治療に繋がる可能性を示唆するものであり、臨床応用への重要な一歩となった。

残された課題: しかし、残された課題も存在する。特に、NCIのMorganらのグループが2010年に報告したHER2 CAR-T細胞による重篤な肺毒性 (HER2発現肺上皮へのoff-tumor on-target交差反応) は、CAR-T療法の安全性に関する重要な懸念事項である。今後の検討課題として、CARのscFvアフィニティの調整、抑制型CARの設計、またはHER2発現正常組織への傷害を最小限に抑えるための新たなCAR設計戦略が求められる。また、固形腫瘍の免疫抑制的な微小環境への対応、例えば、サイトカイン分泌型CAR-T細胞や、チェックポイント阻害剤との併用療法なども今後の研究方向性として挙げられる。さらに、骨肉腫における他の有望な標的抗原 (例: B7-H3, GD2, NY-ESO-1) との組み合わせや、第三世代以降のCAR設計への更新も、治療効果のさらなる向上に繋がる可能性がある。本研究は、CAR-T療法の「低抗原密度腫瘍への拡張」という概念を確立した論文として、引き続き重要な参照基盤となっている。

方法

HER2 CARの構築とレトロウイルスベクターの作製: HER2特異的CARは、FRP5マウス抗HER2 scFvを、CD28膜貫通ドメインおよびCD28-CD3ζシグナルドメインに連結して構築された。このCAR cDNAは、SFG γ-レトロウイルスベクターに挿入された。in vivo研究のため、ホタルルシフェラーゼ (firefly luciferase) を発現するLM7細胞 (LM7.eGFP-FFLuc) を作製するために、eGFP-firefly luciferase融合遺伝子をコードするレトロウイルスベクターも使用された。レトロウイルス粒子は、293T細胞にCARレトロウイルスベクター、MoMLV gag-polをコードするPeg-Pam-eプラスミド、および水疱性口内炎ウイルスGをコードするpMEVSVgプラスミドを共トランスフェクションすることで産生された。

T細胞の調製と形質導入: 健常ドナーの末梢血単核細胞 (PBMC) は、Lymphoprep密度勾配遠心分離により分離された。T細胞は、OKT3 (1 μg/mL) およびCD28モノクローナル抗体 (1 μg/mL) で活性化され、IL-2 (100 U/mL) を添加して培養された。活性化されたT細胞は、レトロネクチン (FN CH-296) でプレコートされたプレート上でレトロウイルスを用いて形質導入された。形質導入後、T細胞はIL-2の存在下で10-15日間拡大培養された。CAR発現は、組換えHER2-Fc融合タンパク質と抗Fc FITC二次抗体を用いたフローサイトメトリーで確認された。

骨肉腫組織および細胞株のHER2発現評価: 骨肉腫患者18検体のパラフィン包埋組織切片について、免疫組織化学 (IHC) 法によりHER2発現が評価された。また、LM7、143B、HOS、U2OS、Sa-OS2を含む12種類の骨肉腫細胞株および乳がん細胞株 (SK-BR-3: 高発現、MCF-7: 低発現、MDA-MB-468: 陰性) のHER2発現レベルは、フローサイトメトリー (FACS) およびウェスタンブロット法により定量された。FRP5 scFvのHER2に対する解離定数 (Kd) も測定された。

In vitroアッセイ:

  • 増殖アッセイ: 骨肉腫細胞株をトラスツズマブの存在下で4日間培養し、[³H]チミジン取り込みにより増殖を評価した。
  • 補体依存性細胞傷害性アッセイ: ⁵¹Cr標識骨肉腫細胞を、トラスツズマブとウサギ補体の存在下でインキュベートし、⁵¹Cr放出により細胞溶解を測定した。
  • 細胞傷害性アッセイ: HER2 CAR-T細胞と⁵¹Cr標識骨肉腫標的細胞 (LM7, 143B) を、エフェクター対標的細胞比 (E:T比) 40:1から5:1で4時間共培養し、⁵¹Cr放出アッセイにより細胞溶解能を評価した。HER2陰性K562細胞を対照とした。
  • サイトカイン産生アッセイ: HER2 CAR-T細胞と骨肉腫細胞を1:1のE:T比で24-48時間共培養し、培養上清中のIFN-γ、IL-2、TNF-α、GM-CSF、IL-4、IL-5、IL-10の濃度をマルチプレックスELISAにより測定した。
  • T細胞増殖アッセイ: HER2 CAR-T細胞と骨肉腫細胞の共培養後7日目に、トリパンブルー排除法により生細胞数を計数し、T細胞の増殖を評価した。

In vivoマウスモデル:

  • 局所皮下腫瘍モデル: 9-12週齢のNOD/SCIDマウス (n=10) に、2 × 10⁶個のLM7.eGFP-FFLuc細胞を腹腔内投与し、確立された皮下腫瘍 (体積50-200 mm³) を作製した。腫瘍接種後2日目または8日目から、10 × 10⁶個のHER2 CAR-T細胞または非形質導入T細胞 (NT T細胞) を3日間連続で腹腔内投与した。腫瘍の増殖および退縮は、生物発光イメージング (BLI) およびCT画像により経時的に追跡された。生存解析も実施された。
  • 肺転移モデル: 9-12週齢のNu/Nuマウス (n=10) に、2 × 10⁶個のLM7.eGFP-FFLuc細胞を尾静脈注射し、肺転移を誘導した。腫瘍接種後2日目から、10 × 10⁶個のHER2 CAR-T細胞またはNT T細胞を3日間連続で尾静脈注射した。肺腫瘍量はBLIにより評価され、組織学的解析により肺結節数が確認された。生存解析も実施された。

安全性評価: マウスにおけるHER2+正常組織 (心筋、肺、腎臓) への傷害は、体重変化および血清生化学検査により評価された。

統計解析: 生物発光イメージングのデータは、対数変換され、平均±SDで要約された。ベースラインおよび各時点でのシグナル強度の変化は、対応のあるt検定またはWilcoxon符号順位検定を用いて比較された。生存解析にはカプラン・マイヤー曲線とログランク検定が用いられた。