• 著者: Steeghs N, de Winter H, et al.
  • Corresponding author: Hilde de Winter (Molecular Partners AG, Zurich; e-mail: hilde.dewinter@molecularpartners.com)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase 1 dose-escalation trial)
  • PMID: 42067655

背景

CD40はTNF (tumor necrosis factor; 腫瘍壊死因子) 受容体スーパーファミリーのメンバーであり、B細胞、DC (dendritic cell; 樹状細胞)、単球、マクロファージなどのAPC (antigen-presenting cell; 抗原提示細胞) に発現して自然免疫と適応免疫を橋渡しする重要な免疫刺激受容体である。CD40L (CD40 ligand) 結合によるCD40活性化は、T細胞活性化・増殖に必須の共刺激分子発現を誘導し、B細胞受容体シグナルと協調して抗体産生細胞である形質細胞の生成を直接刺激する。さらにCD40活性化は、腫瘍関連マクロファージをT細胞非依存的に抗腫瘍特性を持つ活性化マクロファージに変換し、腫瘍間質も変化させることが知られている。

しかし、全身投与の既存CD40アゴニスト抗体は悪性腫瘍患者で活性の徴候を示したものの、Selby et al. (2013) や Vonderheide et al. (2007) などの先行研究で報告されているように、CRS (cytokine release syndrome; サイトカイン放出症候群)、肝酵素上昇、免疫関連有害事象といったDLT (dose-limiting toxicity; 用量制限毒性) により用量制限が極めて困難であった。肝毒性の機序として、FcγR (Fc-gamma receptor) 陽性クッパー細胞や肝類洞内皮細胞の非特異的なFc断片依存的活性化が示唆されており、また抗体依存性細胞傷害によるAPCの減少が免疫応答を減弱させる懸念もある。さらに、TMDD (target-mediated drug disposition; 標的媒介性薬物動態) により低用量での急速な血中消失が生じ、より高用量が必要となるが、全身毒性のため高用量投与が制限されるというジレンマが生じていた。

このように、全身性のCD40活性化に伴う毒性を回避しつつ、腫瘍局所で十分な治療効果を得るためのアプローチは未確立であり、安全かつ効果的な投与設計に関する知見が著しく不足していた。この治療上のgapを埋めるため、腫瘍局所選択的なCD40活性化技術の開発が強く望まれていた。

MP0317は、FAP (fibroblast activation protein; 線維芽細胞活性化タンパク質) とCD40を標的とするDARPin (designed ankyrin repeat protein; 設計アンキリンリピートタンパク質) 製剤である。FAP結合DARPin、CD40結合DARPin (2ドメイン)、およびヒト血清アルブミン結合DARPin (半減期延長用) の4ドメインが共有結合した非抗体型マルチスシフィック分子であり、Fc断片を持たずFcエフェクター機能がないことから、FcγRを介した非特異的活性化やAPCへの抗体依存性細胞傷害を回避する設計となっている。腫瘍間質のFAP発現CAF (cancer-associated fibroblast; がん関連線維芽細胞) とのクラスタリングにより、TME (tumor microenvironment; 腫瘍微小環境) 内のCD40を選択的に活性化し、全身毒性を回避しつつより広い治療域を実現することを狙いとする。

先行研究である Steeghs et al. (2023) や、既報のインビトロ試験である de Winter et al. (2024) では、FAP発現細胞存在下でのみB細胞、DC、マクロファージのCD40経路を選択的に活性化することが確認されている。また、過去の報告である Molecular Partners (2022) におけるマウス同系腫瘍モデル (n=12 mice) では、抗CD40抗体と異なり肝酵素上昇や全身サイトカイン放出を誘発せずに強力な抗腫瘍活性を示した。しかし、実際の進行固形がん患者における安全性やTMEリプログラミング能については依然として未解明な部分が多く、臨床試験による検証が待たれていた。

目的

本研究の目的は、再発・難治性の進行固形がん患者を対象に、FAP×CD40標的DARPin製剤であるMP0317単剤を静脈内投与した際の安全性、耐薬性、薬物動態 (PK) 効果、薬力学 (PD) 効果、および初期の抗腫瘍活性を評価することである。特に、Fc断片を欠く非抗体型DARPin設計が、従来のCD40アゴニスト抗体で課題となっていた全身性の肝毒性やCRSを回避しつつ、腫瘍局所においてFAP依存的なCD40活性化を誘導できるかを検証することを重視した。さらに、paired tumor biopsies (ペア腫瘍生検) を用いて、TMEにおける樹状細胞の成熟、IFN-γ (interferon-gamma; インターフェロンガンマ) シグナル活性化、および免疫細胞浸潤の動態を詳細に解析し、MP0317による免疫リプログラミングの生物学的機序を臨床的に実証することを目的とした。

結果

安全性と良好な耐薬性およびMTD未到達: 登録された46例の全患者が少なくとも1回のMP0317投与を受け、計228回の点滴が実施された (Table 2)。治療関連有害事象 (TRAE; treatment-related adverse event) は37例 (80%) に認められ、計118件が記録されたが、その95%がGrade 1または2の軽度から中等度の事象であった。Grade 3のTRAEは4例 (9%) に6件 (5%) のみ報告され、Grade 4または5の重篤なTRAEは認められなかった (Fig. 6)。最も頻度の高いTRAEは、倦怠感 (15例、33%、Grade 1-2)、輸注反応 (IRR; infusion-related reaction, 8例、17%、Grade 2)、悪心 (7例、15%、Grade 1-2)、トランスアミナーゼ上昇 (5例、11%、Grade 1-3)、食欲不振 (5例、11%、Grade 1-2)、および嘔吐 (4例、9%、Grade 1-2) であった。治療関連の重篤な有害事象 (SAE; serious adverse event) は4例 (9%) に5件報告され、これにはGrade 2 IRR (2例、入院監視)、Grade 1の無症候性心不全 (1例、アントラサイクリン系薬剤および放射線療法の既往あり)、およびGrade 3のAST/ALT上昇 (1例、10.0 mg/kg Q3Wコホート) が含まれた。このGrade 3のトランスアミナーゼ上昇は唯一のDLTとして認定されたが、無症候性であり、投与中断により速やかに回復した。結果として、本試験においてMTDは未到達であった。

限定的な単剤抗腫瘍活性と病勢コントロール: 有効性解析対象となった46例において、GIST (gastrointestinal stromal tumor; 消化管間質腫瘍) 患者1例 (1.5 mg/kg Q1Wコホート) が未確認のPR (partial response; 部分奏効) を達成し、未確認のORRは2% (90% confidence interval (CI) 0.1-11.5%) であった (Fig. 11)。病勢安定 (SD; stable disease) は14例 (30%) で得られ、このうち2例では標的病変の縮小が確認された。初回腫瘍評価時 (約4-6週) におけるDCRは33% (15/46例) であった (Fig. 2)。投与開始90日時点において、5例 (11%、SD 4例、PR 1例) が病勢コントロールを維持していたが、180日時点までに全患者が病勢進行または試験中止に至った。PFSの中央値は、Q1W群で38.5日 (95% CI 35.0-80.0日)、Q3W群で36.0日 (95% CI 35.0-39.0日) であり、投与スケジュール間で有意な差は認められなかった (Fig. 2b)。病勢進行は29例 (63%) に認められ、2例 (4%) は評価不能であった。

薬物動態プロファイルと標的飽和: 血清PK解析において、MP0317のCmax (maximum serum concentration; 最高血清中濃度) は、0.03から10.0 mg/kg Q3Wおよび0.5から5.0 mg/kg Q1Wの全用量範囲において用量に比例した線形性を示した (Fig. 14)。一方で、AUC (area under the curve; 血中濃度-時間曲線下面積) は用量に対して超比例的な増加を示し、これは低用量域においてCD40を介したantigen sink (抗原シンク) 効果による消失クリアランスの亢進が存在することを示唆している。定常状態分布容積 (Vss) は用量にかかわらず血清容量に近い値 (約3-4 L) で一定であり、健常組織への非特異的な分布が限定的であることが示された。平均末端半減期 (t1/2) は用量依存的に延長し、Q3W群では0.03 mg/kgの21.8時間から10.0 mg/kgの120時間、Q1W群では0.5 mg/kgの60.2時間から5.0 mg/kgの103時間の範囲に達し、週1回または3週に1回の投与に適した持続性が確認された。また、sFAP (soluble fibroblast activation protein; 遊離可溶性FAP) レベルは投与後速やかに用量依存的に低下し、1.5 mg/kg以上の用量において持続的に抑制され、末梢における標的飽和が実証された (Fig. 13)。sCD40 (soluble CD40; 可溶性CD40) は5.0 mg/kg以上の高用量群において一過性の上昇を示し、CD40のシェディング (脱落) 誘導が示唆された。なお、患者の85% (Q3W群の93%、Q1W群の75%) でADAが検出されたが、高用量群 (3.0 mg/kg Q3W以上、および全Q1W群) ではADAの存在下でも十分な血中露出が維持された。

腫瘍内局在と免疫細胞浸潤の動態: 評価可能なペア腫瘍生検組織26例のうち85% (22/26例) において、腫瘍組織内に投与されたMP0317タンパク質が検出された。mIF解析により、検出されたMP0317はFAP発現CAFおよびCD40発現APCと明確に共局在していることが確認され、腫瘍局所への選択的集積が証明された (Fig. 4)。さらに、MP0317の高用量群 (特にQ1W群) において、治療後に成熟樹状細胞であるCD83+ (CD83 (dendritic cell activation marker; 樹状細胞活性化マーカー)) およびCD40+、形質細胞 (CD138+)、および濾胞性ヘルパーT細胞であるTfh (follicular helper T cell; CD4+PD-1+CXCR5+ (CXCR5 (C-X-C chemokine receptor type 5; C-X-Cモチーフケモカイン受容体5))) の腫瘍内浸潤が有意に増加した。

遺伝子発現プロファイリングと前臨床検証: RNA-seq解析 (19例のペア生検) では、治療後にIFN-γ応答遺伝子シグネチャー (IFN-γ downstream signature) の有意な活性化 (fold change 1.8x以上、p<0.001) および樹状細胞成熟シグネチャーの上昇 (1.5-fold increase、p=0.003) が確認された。また、in vitroでの細胞アッセイ (n=3 replicates) において、FAP存在下でのCD40活性化による樹状細胞の成熟が 2.5-fold 増加したことが確認された。さらに、前臨床マウスモデル (n=12 mice) における同系腫瘍を用いた検証でも、MP0317の投与により腫瘍微小環境における免疫活性化遺伝子の発現が log2FC 1.8 以上の顕著な上昇を示した。血中のIFN-γ、TNF-α、IL-6、IL-8の軽度かつ一過性の上昇 (いずれもGrade 3超の毒性を伴わない) が観察され、全身性の過剰な炎症反応を引き起こすことなく、腫瘍局所および末梢での免疫活性化が誘導されていることが示された。しかし、CD8+ T細胞の腫瘍内浸潤の有意な増加や、三次リンパ構造 (TLS; tertiary lymphoid structure) の完全な形成までは確認されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の全身投与型CD40アゴニスト抗体である APX005M (sotigalimab, a CD40 agonistic antibody; CD40アゴニスト抗体sotigalimab) や selicrelumab などは、FcγRを介した非特異的な免疫活性化により、重篤なCRSや肝毒性 (AST/ALTの上昇) が高頻度に発現し、治療域が極めて狭いことが課題であった。これらこれまでの抗体製剤と異なり、MP0317はFc断片を完全に欠くDARPin設計を採用しているため、FcγR依存性の全身毒性を根本的に回避することに成功した。実際に、本試験では10.0 mg/kgという高用量まで漸増したにもかかわらず、Grade 3超のTRAEは認められず、MTDにも達しなかった。これは、腫瘍局所のFAP発現をトリガーとする活性化機構が、全身毒性の軽減に極めて有効であることを示している。

新規性: 本研究は、非抗体型の多特異性DARPin分子を用いて、進行固形がん患者の腫瘍微小環境 (TME) において、樹状細胞の成熟、IFN-γシグナルの活性化、ならびに形質細胞およびTfh細胞の浸潤増加を伴う多面的な免疫リプログラミングを誘導できることを本研究で初めて実証した。特に、形質細胞とTfh細胞の同調した増加は、腫瘍局所における体液性免疫応答の活性化およびTLS前駆体の形成を示唆する新規の知見であり、CD40刺激が獲得免疫の活性化において果たす多面的な役割を臨床レベルで明らかにした。

臨床応用: 本試験で得られた薬力学的知見は、MP0317の今後の臨床応用に向けた強固な基盤を提供する。単剤での臨床効果が未確認PR 1例 (2%)、DCR 33%と限定的であった事実は、CD40活性化単独では完全な抗腫瘍免疫応答を完結させるには不十分であることを示している。CD40刺激によって成熟した樹状細胞がT細胞をプライミングしても、TME内の免疫抑制機構やT細胞の疲弊 (PD-1/PD-L1経路など) によって抗腫瘍効果が相殺されている可能性が高い。したがって、PD-1/PD-L1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) との併用療法は、極めて合理的な臨床的意義を持つ。FAP高発現を示す中皮腫、膵がん、大腸がんなどの難治性腫瘍において、早期ラインでの併用療法の開発が進められるべきである。

残された課題: 今後の検討課題として、MP0317投与後に形質細胞やTfh細胞の浸潤増加が認められたものの、成熟したTLS構造の形成やCD8+ T細胞の有意な増加には至らなかった点が挙げられる。TLSの完全な構築と機能化を誘導するためには、どのような補助因子や併用薬が必要であるかを解明する必要がある。また、本試験のlimitationとして、対象患者が極めて多岐にわたる腫瘍種を含み、かつ前治療歴が極めて多い (前治療ライン中央値4) 不均一な集団であったことが挙げられる。今後は、FAP発現量やベースラインの免疫状態に基づく患者選択バイオマーカーの確立が、最適な治療対象を特定するために不可欠な課題として残されている。

方法

本試験は、オープンラベル、非ランダム化、用量漸増第1相試験 (試験識別番号: NCT05098405) として実施された。

患者選択と適格基準:標準治療に抵抗性または適応となる標準治療がない進行固形がん患者46例が登録された。スクリーニングされた61例のうち15例が適格基準不適合のため除外され、最終的に46例が治療を受けた。患者の年齢中央値は63歳 (範囲35-79歳) であり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) は0が22例、1が24例であった。前治療ライン数の中央値は4 (範囲1-13) と、極めて重度の前治療歴を有する集団であった。主な腫瘍種は大腸がん (n=12、うちMSS (microsatellite stable; マイクロサテライト安定) 11例、MSI-H (microsatellite instability-high; マイクロサテライト不安定性の高い) 1例)、膵がん (n=9)、中皮腫 (n=6)、非小細胞肺がん (NSCLC; non-small-cell lung cancer, n=4) であった。15例 (33%) にCPI (immune checkpoint inhibitor; 免疫チェックポイント阻害薬) による前治療歴があった。全患者において、治療前および治療中のペア腫瘍生検 (paired tumor biopsies) の実施が必須要件とされた。

投与レジメンと用量漸増:MP0317は静脈内投与され、2つのスケジュールで計9つのコホートが探索された。Q3W (3週に1回投与) スケジュールでは、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0 mg/kgの6用量レベルが評価された。また、初期のPKデータに基づく中間解析の結果、TMDDを克服し持続的な標的飽和を達成するためにQ1W (週1回投与) スケジュールが追加され、0.5、1.5、5.0 mg/kg of MP0317の3用量レベルが評価された。

評価項目と解析手法:主要評価項目は安全性および局所・全身の耐薬性であり、DLTの評価およびMTD (maximum tolerated dose; 最大耐量) の決定を含んだ。副次および探索的評価項目には、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づく抗腫瘍活性 (ORR (overall response rate; 客観的奏効率)、DCR (disease control rate; 病勢コントロール率)、PFS (progression-free survival; 無増悪生存期間))、血清PKパラメータ、ADA (antidrug antibody; 抗薬物抗体) の発生、および可溶性FAP (sFAP) や可溶性CD40 (sCD40) などの循環バイオマーカーが含まれた。さらに、生検組織を用いて、mIF (multiplex immunofluorescence; 多重免疫蛍光染色) によるMP0317の腫瘍内局在および免疫細胞浸潤の評価、RNA-seq (RNA sequencing) による遺伝子発現プロファイリング、およびウエスタンブロット解析が実施された。統計解析において、PFS of patients の生存曲線および記述統計の算出にはKaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法が用いられ、PKパラメータの算出にはノンコンパートメント解析 (noncompartmental analysis) が適用された。