- 著者: Halil-Ibrahim Aksoylar, Vassiliki A. Boussiotis
- Corresponding author: Vassiliki A. Boussiotis (Division of Hematology-Oncology, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-19
- Article種別: Commentary
- PMID: 32973361
背景
PD-1/PD-L1ブロック療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブなど)は、複数の進行がん種において標準治療としての地位を確立した。しかし、単剤での奏効率は15-30%程度に留まり、残りの大多数の患者は一次耐性または二次耐性を示すことが大きな課題として残されている。さらに、一部の症例では「hyperprogression(超進行)」と呼ばれる、PD-1ブロック後に腫瘍が逆説的に増大する現象が観察されており、進行胃がんでは約20%、非小細胞肺がん(NSCLC)では8-15%で報告されている。このhyperprogressionのメカニズムとして、制御性T細胞(Treg)の活性化が提唱されてきた。
腫瘍微小環境に浸潤するTreg細胞は、FoxP3+CD25+の表現型を持ち、CTLA-4を構成的に発現することが知られている。加えて、PD-1も発現することが報告されており、PD-1シグナルがTreg細胞の抑制機能や抗腫瘍免疫抑制にどのように影響するかについては、これまで論争的な議論が繰り広げられてきた。PD-1は通常、活性化T細胞に発現する抑制性受容体であり、そのリガンドが腫瘍微小環境に発現していることが発見されて以来、PD-1またはそのリガンド(PD-L1など)をブロックする抗体を用いた治療は、抗腫瘍T細胞応答を誘導し、がん免疫療法に革命をもたらした。しかし、この画期的な進歩にもかかわらず、持続的な臨床応答は患者のごく一部にしか見られず、その理由については依然として十分に理解されていない点が残されている。
本Commentaryは、同じNature Immunology誌に掲載されたKumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文の論点を整理し、PD-1ブロック療法の効果が患者によって異なるメカニズムについて考察する。特に、腫瘍微小環境におけるCD8+エフェクターT細胞(Teff)とTreg細胞のPD-1発現バランスの重要性に焦点を当て、Treg細胞におけるPD-1の逆説的な役割や、それが治療効果に与える影響について深く掘り下げている。これまでの研究では、PD-L1発現や腫瘍変異負荷(TMB)がPD-1ブロック療法の効果予測バイオマーカーとして検討されてきたが、これら単独では十分な予測能を持たないことが示されており、より精密なバイオマーカーの必要性が指摘されていた。本稿は、この知識ギャップを埋める新たな視点を提供するものである。
目的
本Commentaryの目的は、Kumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文で示された主要な知見を紹介し、その臨床的意義を深く考察することである。具体的には、胃がん患者検体およびマウス腫瘍モデルを用いた解析に基づき、腫瘍浸潤CD8+エフェクターT細胞(Teff)と制御性T細胞(Treg)のPD-1発現バランスがPD-1ブロック療法の効果を予測する新たなバイオマーカーとなり得ることを論じる。
さらに、PD-1を高発現するTreg細胞がPD-1ブロック療法において治療の「foe(敵)」として機能し、hyperprogressionに寄与する可能性を詳細に検討する。この逆説的なメカニズムを解明することで、PD-1ブロック療法の奏効と非奏効の間のギャップを埋めることを目指す。
最終的に、Teff/Treg PD-1発現バランスの概念に基づいた、PD-1ブロック療法の個別化戦略、特にTreg細胞の選択的枯渇戦略との併用療法や、Treg細胞の機能を抑制する新たな治療アプローチの可能性について検討し、今後の臨床開発の方向性を示すことを目的とする。これにより、PD-1ブロック療法の患者選択の精度向上と、治療効果の最大化に貢献する新たなパラダイムを提示する。
結果
本Commentaryは、Kumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文の知見を基に、PD-1ブロック療法の効果予測におけるTeffとTregのPD-1発現バランスの重要性を強調している。
PD-1発現バランスと臨床効果の相関: Kumagai et al. NatImmunol 2020は、進行胃がん患者36例、NSCLC患者70例、メラノーマ患者34例を対象に、PD-1ブロック治療前後の腫瘍組織および末梢血をフローサイトメトリーで解析した。その結果、腫瘍浸潤CD8+Teff細胞(PD-1+)と腫瘍浸潤Treg細胞(PD-1+)のPD-1発現比が高い症例ほど、客観的奏効率(objective response rate, ORR)および無増悪生存期間(PFS)が有意に高いことを報告した(p<0.01)。逆に、Treg細胞側のPD-1発現が優位な症例では、hyperprogression(胃がんで16-20%)が高頻度で観察された。これは、PD-L1発現単独ではPD-1ブロック療法の効果を十分に予測できないという先行研究の課題を解決する新たな知見である。
PD-1ブロックによるTreg細胞の抑制機能強化: in vitro抑制アッセイにおいて、PD-1hiTreg細胞とPD-1loCD8+T細胞を共培養し、PD-1シグナルをブロックすると、Treg細胞の抑制活性が増加し、CD8+T細胞の増殖が阻害されることが示された。これは、PD-1ブロックがTreg細胞を「解放」し、その抑制機能を強化する可能性を示唆する。さらに、PD-1ブロック療法は、TILs中の活性化eTreg細胞を誘導し、CTLA4、GITR、ICOSなどの受容体発現を上方制御することが確認された。マウスMC38・CT26腫瘍モデルを用いた実験でも、PD-1欠損Treg細胞を養子移入した場合、PD-1ブロックは抗腫瘍応答を改善したが、PD-1欠損CD8+T細胞と野生型Treg細胞を養子移入した場合、PD-1ブロックは腫瘍量を増加させた。これらの結果は、PD-1シグナル阻害がPD-1+Treg細胞の抑制活性を増強することを示唆している。
PD-1のTreg細胞生物学における逆説的役割: PD-1は通常、Teff細胞では疲弊マーカーとして機能し、抑制シグナルを伝達するが、Treg細胞においては異なる役割を持つ可能性が示唆された。Kumagai et al. NatImmunol 2020の研究では、PD-1ブロックがTreg細胞のTCRおよびCD28を介したシグナル伝達(ZAP-70およびAktキナーゼの活性化)をTeff細胞と同様に増強することが示された。これは、PD-1がTreg細胞において、TCR/CD28シグナルを過度に伝達させずに低レベルの刺激で生存・抑制機能を維持させる微調整器として機能する可能性を示唆している。PD-1欠損Treg細胞は高応答性、高増殖性、高抑制能を示すという報告もあり、PD-1ブロックがTreg細胞を「解放」し、腫瘍微小環境でその抑制機能を強化してしまうという逆説的なメカニズムが提唱された。
PD-1発現バランスに基づく数学的予測モデル: Kumagai et al. NatImmunol 2020は、これらの知見に基づき、腫瘍微小環境におけるCD8+Teff細胞とeTreg細胞のPD-1発現バランスを組み込んだ数学的予測モデルを開発し、PD-1ブロック療法の臨床効果を予測できることを検証した。このモデルは、PD-1ベースの免疫療法から恩恵を受ける患者を特定するための重要な進歩である。しかし、PD-1がTreg細胞の機能に与える影響については、がん以外の自己免疫疾患など、Treg細胞が重要な役割を果たす他の病態においてもさらなる検討が必要である。
考察/結論
Kumagai et al.の核心的知見と先行研究との違い: Kumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文は、PD-1ブロック療法の効果が患者によって異なるメカニズムを解明する上で極めて重要な知見を提供した。これまでの研究では、PD-L1発現や腫瘍変異負荷(TMB)がバイオマーカーとして注目されてきたが、それら単独では十分な予測能を持たないという課題が残されていた。本研究は、腫瘍浸潤CD8+Teff細胞とTreg細胞のPD-1発現バランスという、これまでとは異なる視点から治療効果予測のバイオマーカーを提案した点で、先行研究と大きく異なっている。特に、Treg細胞におけるPD-1の逆説的な役割、すなわちPD-1ブロックがTreg細胞の抑制機能を強化する可能性を示唆した点は、これまでのPD-1のT細胞疲弊マーカーとしての一般的な理解とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍微小環境におけるTeff細胞とTreg細胞のPD-1発現バランスがPD-1ブロック療法の臨床効果を予測する新たなバイオマーカーとして機能し得ることを実証した。PD-1は通常、Teff細胞では疲弊マーカーとして機能するが、Treg細胞ではTCR/CD28シグナルを微調整し、低レベルの刺激で生存・抑制機能を維持させる役割を持つ可能性が示唆されたことは新規な発見である。PD-1欠損Treg細胞が高応答性、高増殖性、高抑制能を示すという報告もあり、PD-1ブロックがTreg細胞を「解放」し、腫瘍微小環境で抑制機能を強化してしまうという逆説的なメカニズムは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、PD-1ブロック療法の適応患者選択の個別化に直結する臨床的意義を持つ。PD-L1発現やTMBだけでなく、腫瘍浸潤Teff vs TregのPD-1発現比を測定することが、臨床的に有用なベッドサイドバイオマーカーとなり得る。具体的には、(a) 高Teff-PD-1/Treg-PD-1比の患者ではanti-PD-1単独で高奏効が期待され、(b) 低比率でTreg PD-1が優位な患者ではhyperprogressionを警戒し、Treg枯渇療法(抗CTLA-4抗体、抗CCR4抗体モガムリズマブ、抗CD25抗体など)との併用が必要となる可能性がある。このようなアルゴリズムは、治療戦略の最適化と患者アウトカムの改善に貢献し、臨床現場での意思決定を支援する。さらに、Treg選択的PD-1ブロック耐性設計(Treg-spare型PD-1抗体の開発)や、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害、TGF-β阻害などTreg機能抑制戦略との併用療法の開発にも繋がる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、いくつかの重要な点が残されている。第一に、ヒト胃がん以外の他のがん種(NSCLC、メラノーマ、肝細胞がん、腎細胞がんなど)におけるTeff/Treg PD-1比の前向き検証が必要である。第二に、hyperprogressionの診断基準の標準化と、Treg活性化との因果関係の直接的な証明が求められる。第三に、治療前バイオプシーにおけるTeff/Treg PD-1比測定の技術標準化(フローサイトメトリー、免疫組織化学、CyTOFなど)が必要である。第四に、Treg選択的PD-1ブロック耐性抗体の臨床開発が期待される。最後に、初期応答後の二次耐性(acquired resistance)におけるTreg細胞の関与についても、さらなる研究が必要である。これらの課題を克服することで、PD-1ブロック療法の効果を最大化し、より多くの患者に恩恵をもたらすことが可能となる。
方法
本論文は、Kumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文の知見を解説し、その臨床的意義を考察するCommentary論文であるため、著者らによる新たな実験的手法は実施されていない。
Kumagai et al. NatImmunol 2020の原著論文では、PD-1ブロック療法の効果予測因子を特定するため、非小細胞肺がん(NSCLC)、胃がん(GC)、悪性黒色腫(MM)の患者検体を用いた包括的な解析が行われた。具体的には、PD-1ブロック単剤療法(ニボルマブまたはペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体、あるいはアテゾリズマブなどの抗PD-L1抗体)を受けた患者の腫瘍浸潤リンパ球(TILs)を対象に、フローサイトメトリーと次世代シーケンシングを組み合わせた解析が実施された。この方法により、CD8+T細胞とTreg細胞におけるPD-1発現レベルのバランスの意義が特定された。
また、Treg細胞の機能的サブセットとして、胸腺由来ナイーブTreg細胞(tTreg, CD45RA+FoxP3lo)と活性化エフェクターTreg細胞(eTreg, CD45RA-FoxP3hi)が解析され、特にeTreg細胞がほとんどのがんの腫瘍微小環境に浸潤する主要なFoxP3+Treg細胞であることが確認された。非奏効患者の腫瘍サンプルでは、PD-1+eTreg細胞の頻度が高いことが見出された。
さらに、in vitro抑制アッセイを用いて、eTreg細胞におけるPD-1発現の機能的結果と、PD-1シグナルブロックの特異的な影響が評価された。NSCLCサンプル由来のTILsを使用し、PD-1loTreg細胞とPD-1hiCD8+T細胞を共培養した場合、PD-1ブロックはCD8+T細胞の増殖を増強した。逆に、PD-1hiTreg細胞とPD-1loCD8+T細胞を共培養した場合、PD-1シグナルブロックはTreg細胞の抑制活性を増加させ、PD-1loCD8+T細胞の増殖を阻害した。
マウスMC38結腸腫瘍モデルを用いたin vivo実験では、PD-1欠損Treg細胞(Pdcd1-/-Treg細胞)と野生型CD8+T細胞を腫瘍担持マウスに養子移入した場合、PD-1ブロックは抗腫瘍応答を改善した。対照的に、PD-1欠損CD8+T細胞(Pdcd1-/-CD8+T細胞)と野生型Treg細胞を養子移入した場合、PD-1ブロックは腫瘍量を増加させた。これらの結果に基づき、CD8+Teff細胞とeTreg細胞におけるPD-1発現のバランスを組み込んだ数学的モデルが開発され、PD-1ブロック療法の臨床効果予測に利用できることが検証された。