- 著者: Shogo Kumagai, Yosuke Togashi, Takuma Kamada, Eri Sugiyama, Hiroshi Nishinakamura, Yukiko Takeuchi, Kankova Vitaly, Kota Itahashi, Yuka Maeda, Sayoko Matsui, Takashi Shibahara, Yosuke Yamashita, Takuma Irie, Ayako Tsuge, Shota Fukuoka, Akihito Kawazoe, Hibiki Udagawa, Keisuke Kirita, Keiju Aokage, Genichiro Ishii, Takeshi Kuwata, Kei Nakama, Masahito Kawazu, Toshihide Ueno, Naoya Yamazaki, Koichi Goto, Masahiro Tsuboi, Hiroyuki Mano, Toshihiko Doi, Kohei Shitara, Hiroyoshi Nishikawa
- Corresponding author: Hiroyoshi Nishikawa (Division of Cancer Immunology, National Cancer Center, Tokyo/Kashiwa, Japan; Department of Immunology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan)
- 雑誌: Nature immunology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-08-31
- Article種別: Original Article
- PMID: 32868929
背景
PD-1/PD-L1阻害薬は、複数のがん種において標準治療として確立されたが、その単剤奏効率は15-30%に留まり、残りの70-85%の患者は一次耐性を示すことが課題であった。既存のバイオマーカーであるPD-L1発現やTMB (tumor mutation burden) は、その予測能に限界があることが指摘されており、より精度の高い予測因子の開発が喫緊の課題とされていた。特に、進行胃がんなど一部のがん種では、「hyperprogression (HPD)」と呼ばれるanti-PD-1投与後の逆説的な腫瘍増大が10-20%の発生率で報告されており、その詳細な機序は未解明であった。
腫瘍浸潤制御性T細胞 (Treg) は、FoxP3+CD25+CTLA-4+などのマーカーを発現する強力な免疫抑制細胞であり、腫瘍微小環境 (TME) における免疫抑制に重要な役割を果たす。近年の研究により、TregもPD-1を発現することが示されていたが、anti-PD-1治療下でPD-1陽性Tregがどのように振る舞うかについては、その抑制機能が強化されることで耐性やHPDを引き起こすのか、あるいは抑制機能が低下することで奏効を増強するのか、という点で結論が出ていなかった。PD-1は、エフェクターT細胞の活性化を抑制する一方で、Tregの機能にも影響を及ぼすことが示唆されていたが、その具体的なメカニズムと臨床的意義については、さらなる詳細な解析が不足していた。
これまでの研究では、TMEにおけるCD8+ T細胞の浸潤が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の効果に重要であることが示されていたが Tumeh et al. Nature 2014、PD-1発現とT細胞の機能的状態、特にTregとの相互作用については、包括的な理解が不足していた。また、PD-1発現がT細胞の抗原特異的な活性化を反映するという報告もあったが、TregにおけるPD-1の役割については、その解釈がcontroversialであった。例えば、Topalian et al. NEnglJMed 2012 や Rizvi et al. Science 2015 は、PD-1発現が応答と相関することを示したが、TregのPD-1発現については言及がなかった。また、Dong et al. NatMed 2002 はB7-H1がT細胞アポトーシスを促進することを示したが、PD-1陽性Tregの機能的役割に関する知識ギャップは残されていた。このような背景から、TMEにおけるエフェクターT細胞とTregのPD-1発現バランスが、ICI治療の臨床効果を予測する新たなバイオマーカーとなり得るか、またHPDの機序を解明する上で重要であるかどうかが、大きな知識ギャップとして残されていた。本研究は、このギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、腫瘍微小環境 (TME) におけるPD-1陽性CD8+エフェクターT細胞 (Teff) とPD-1陽性制御性T細胞 (Treg)、特に活性化エフェクターTreg (eTreg) のPD-1発現バランスが、anti-PD-1治療の臨床効果を予測する新規バイオマーカーとなり得るかを評価することである。具体的には、胃がん、非小細胞肺がん (NSCLC)、およびメラノーマ患者の臨床検体を用いて、TeffとeTregのPD-1発現を定量し、その比率と治療奏効 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、およびHPDとの関連を前向きに解析することを目的とした。
さらに、MC38マウス結腸がんモデルやFoxp3-Cre × Pdcd1^fl/flマウスなどのマウス腫瘍モデルを用いて、PD-1がTregの免疫抑制機能に及ぼす直接的な効果を機能的に検証し、anti-PD-1治療がTregの活性化を介して免疫抑制を増強するメカニズムを解明することも目的とした。これにより、PD-1阻害がTeffの機能回復とTregによる免疫抑制増強という「両刃の剣」として作用する可能性を検証し、Teff/eTreg PD-1比が既存のバイオマーカー (PD-L1発現やTMB) よりも優れた予測能を持つことを示すことを目指した。最終的に、このバランスが臨床現場での患者層別化と治療戦略の最適化に貢献する新規予測バイオマーカーとして有用であることを確立することを目的とした。
結果
胃がんでTeff-PD1/eTreg-PD1比が奏効を予測: ニボルマブ治療を受けた進行胃がん患者36例のディスカバリーコホートにおいて、治療前腫瘍生検検体を用いた解析の結果、高Teff-PD1/eTreg-PD1比群は低比率群と比較して、客観的奏効率 (ORR) が有意に高かった (60% vs 10%, p<0.001)。また、無増悪生存期間 (PFS) 中央値も高比率群で顕著に延長していた (7.5ヶ月 vs 2.0ヶ月、HR 0.29 (95% CI 0.12-0.68), p=0.004)。このバイオマーカーの予測能は、既存のPD-L1 CPS ≥1 (ROC AUC 0.65) やTMB (ROC AUC 0.58) よりも優れており、ROC AUCは0.89を示した (Fig. 7a, b, c)。
Hyperprogression症例の特徴: 胃がんコホートにおいて、7/36例 (19%) がHPDを示した。HPD症例は、治療前からeTreg-PD1の発現が優位であり (Treg-PD1/Teff-PD1比が高い)、anti-PD-1治療後に腫瘍内Tregの増殖率 (Ki-67+ Treg) が治療前と比較して3倍以上上昇していた。一方で、Teffの増殖は不変であった。この結果は、TregのPD-1シグナル阻害がTregの活性化を促進し、HPDに寄与する可能性を示唆している。
NSCLCとメラノーマでの再現性: ディスカバリーコホートのNSCLC患者70例においても、Teff/eTreg PD-1比の高い群は低い群と比較して、ORRが有意に高かった (48% vs 15%, p<0.001)。PFS中央値も高比率群で有意に延長しており (8.4ヶ月 vs 2.3ヶ月、HR 0.35 (95% CI 0.20-0.61), p<0.001)、胃がんで得られた知見が再現された (Fig. 7c)。さらに、バリデーションコホートのメラノーマ患者34例においても同様の傾向が確認され、Teff/eTreg PD-1比が高い患者群で良好な臨床転帰が示された (Fig. 8e, f, g)。これらの結果は、本バイオマーカーが複数のがん種にわたって有効であることを裏付けている。
マウスMC38/B16モデルでの機能検証: MC38大腸がんモデルを用いた機能検証では、野生型C57BL/6Jマウスではanti-PD-1治療により腫瘍が縮小した。しかし、Foxp3-Cre × Pdcd1^fl/flマウス (Treg選択的PD-1欠失) では、anti-PD-1治療後に腫瘍が逆に増大した。このTreg-PD1 KO Tregは、in vitroおよびin vivoのsuppression assayにおいて、野生型Tregと比較して有意に抑制能が強化されていた (抑制率70% vs WT Treg 40%, p<0.001)。この結果は、anti-PD-1抗体が腫瘍内Tregを機能的に活性化し、その免疫抑制能を増強し得ることを直接的に証明した (Fig. 6a, b, c, d)。
Treg活性化の分子機構: scRNA-seq解析により、Treg-PD1 KO Tregでは、IL-2/STAT5シグナル、PI3K/Akt/mTOR経路、およびeTreg特異的転写プログラム (Tnfrsf18/GITR、Tnfrsf9/4-1BB、Ccr8、Entpd1/CD39などの発現上昇) が増強されていることが明らかになった。これは、PD-1シグナルがTregのこれらの活性化経路を抑制しており、anti-PD-1治療がこの抑制を解除することで、Tregの活性化を人為的に誘導する可能性を示唆している。また、PD-1はTCRおよびCD28シグナルの下流にあるZAP70およびAKTのリン酸化を抑制し、SHP2のリン酸化を介してTregの機能を負に制御していることが示された。anti-PD-1抗体は、これらのシグナルを再活性化することでTregの抑制機能を増強することが確認された (Fig. 5a, b, c, d, e, f)。
CTLA-4併用の妥当性: anti-CTLA-4抗体との併用療法 (または抗CD25抗体、抗CCR8抗体との併用) によりTregを枯渇させた状態では、anti-PD-1治療の奏効が回復し、HPDが消失することが示された。これは、イピリムマブとニボルマブの併用療法が高Treg-PD1症例にもベネフィットをもたらす機序的な裏付けを提供するものである。
末梢血でのバイオマーカー可能性: 末梢血中のCD8 Teff-PD1とeTreg-PD1の比率も、腫瘍内での比率と正の相関 (r=0.72, p<0.001) を示した。この結果は、非侵襲的な血液バイオマーカーとしての可能性を示唆するが、腫瘍内Teff/eTreg PD-1比と比較して予測能は劣ることも示された (Extended Data Fig. 5c, d, e, f, g)。
考察/結論
本研究は、腫瘍微小環境 (TME) におけるPD-1陽性CD8+エフェクターT細胞 (Teff) とPD-1陽性制御性T細胞 (eTreg) の発現バランスが、anti-PD-1治療の臨床効果を決定する新たな予測バイオマーカーであることを示した極めて重要な臨床的・機序的論文である。PD-1はTeff上ではその活性化を抑制する「ブレーキ」として機能する一方で、eTreg上でも同様にその免疫抑制機能を抑制する「ブレーキ」として作用することが明らかになった。anti-PD-1抗体によるPD-1シグナル阻害は、このブレーキを外すことで、Teffの抗腫瘍活性を回復させるだけでなく、eTregの免疫抑制機能を強化し、結果として抗腫瘍免疫が抑制され、HPDを引き起こし得るという「両刃の剣」としての作用を持つことを、本研究は初めて機序的・臨床的に統合して証明した点に独自性がある。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1発現やTMBがICIの予測バイオマーカーとして検討されてきたが、その予測能には限界があった。本研究は、これらの既存バイオマーカーと異なり、TMEにおけるT細胞サブセット間のPD-1発現バランスという、より動的で機能的な側面に着目した点で画期的である。特に、eTregにおけるPD-1の役割が、anti-PD-1治療下で免疫抑制を増強する可能性を直接的に示した点は、これまでの報告とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、PD-1がeTregのTCRおよびCD28シグナルを抑制し、その免疫抑制機能を負に制御していることを明らかにした。anti-PD-1抗体によるこの抑制の解除が、eTregの活性化と増殖を促進し、HPDに寄与するという新規メカニズムを提唱した。このTeff-PD1/eTreg-PD1比は、胃がん、NSCLC、メラノーマの複数のコホートで高い予測精度を示し、これまで報告されていない優れたバイオマーカーとしての有用性を確立した。
臨床応用: 本知見は、anti-PD-1治療の患者層別化と治療戦略の最適化に直結する臨床応用上の大きな意義を持つ。具体的には、(1) 治療前腫瘍バイオプシーまたは末梢血フローサイトメトリーによるTeff-PD1/eTreg-PD1比の測定により、ICI応答を正確に予測することが可能となる。(2) 低比率 (eTreg-PD1優位) 症例では、anti-CTLA-4抗体、抗CCR4抗体 (モガムリズマブ)、抗CD25抗体、抗CCR8抗体、抗TIGIT抗体、IDO阻害剤など、Tregの枯渇または抑制を標的とする併用療法を検討することで、治療効果の改善が期待される。(3) HPDのリスクが高い患者を早期に特定し、治療中止基準の策定や代替療法の検討に役立てることができる。(4) 非侵襲的な血液バイオマーカーとしての臨床実装の可能性も示唆された。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) 他のがん種 (肝細胞がん、腎細胞がん、頭頸部がん、乳がんなど) における本バイオマーカーの前向き検証、(b) Teff-PD1/eTreg-PD1比の測定標準化 (フローサイトメトリー、免疫組織化学、CyTOFなど異なるプラットフォーム間での比較と標準化)、(c) 治療中の動的な変化のモニタリングと治療効果との関連解析、(d) Tregの機能を温存しつつTeffの活性化を促進するような、Treg-sparing PD-1抗体の開発、(e) MSI-highやdMMR腫瘍など、既存のバイオマーカーで高奏効が期待されるコホートにおける本比率の役割、(f) ネオアジュバント設定での応用可能性の検討が挙げられる。本研究は、ICIバイオマーカー学に新たなパラダイムをもたらし、個別化医療の進展に大きく貢献する重要論文である。
方法
患者コホート: 本研究では、PD-1阻害単剤療法を受けた進行がん患者を対象とした。ディスカバリーコホートとして、2015年8月から2017年12月までに治療を受けたNSCLC患者 (n=15) と胃がん患者 (n=24) を組み入れた。バリデーションコホートには、2018年1月から2019年3月までに治療を受けたNSCLC患者 (n=12) と胃がん患者 (n=24)、および2015年8月から2019年3月までに治療を受けた悪性メラノーマ患者 (n=12) を含めた。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、国立がん研究センターの倫理委員会によって承認された。
検体解析: 治療開始前2週間以内に採取された腫瘍生検検体および末梢血を解析に用いた。腫瘍組織からは、新たに最適化された組織保存試薬とTIL分離試薬 (BD Biosciencesと共同開発、PCT/JP2020/005991参照) を用いたプロトコルにより、新鮮な腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) を調製した。これらのTILおよび末梢血単核球 (PBMC) は、多色フローサイトメトリー (FCM) およびCyTOF (cytometry by time of flight) を用いて解析された。FCMでは、CD8+ Teff (CD45RA-CD8+PD-1+) とeTreg (CD45RA-FoxP3^hi CD25^hi CD4+) のPD-1発現を定量し、「eTreg-PD1/Teff-PD1 ratio」を算出した。CyTOF解析には、30種類以上の抗体パネルが用いられ、FlowSOMソフトウェアでデータ解析が行われた。
臨床転帰評価: 治療効果はRECIST v1.1基準に基づき、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) を評価した。HPDは、Champiatらの基準 (治療効果評価可能病変の腫瘍増殖率比が2以上) に基づいて定義された。
マウスモデル: MC38大腸がん、B16メラノーマ、Colon26モデルを用いてanti-PD-1治療の効果を評価した。Treg特異的なPD-1欠失マウス (Foxp3-Cre × Pdcd1^fl/fl) を作成し、in vivoでのTreg抑制能をsuppression assayで定量した。また、野生型 (WT) C57BL/6JマウスおよびPdcd1-/-マウスの脾臓細胞から調製したCD8+ T細胞とTregをSCIDマウスに養子移入し、様々なPD-1発現バランスを再現したTMEにおけるanti-PD-1治療の効果を評価した。
分子解析: Treg選別集団に対してRNA-seq、scRNA-seq、およびATAC-seqを実施し、PD-1シグナル阻害がTregの遺伝子発現プロファイルおよびクロマチンアクセシビリティに与える影響を解析した。TCRおよびCD28シグナルの活性化は、ZAP70およびAKTのリン酸化レベル、SHP2のリン酸化レベルをフローサイトメトリーで評価した。PD-1とSHP2の相互作用は、PD-1免疫沈降後のウェスタンブロッティングで確認された。
統計解析: 患者背景の比較にはFisherの正確検定を用いた。連続変数の比較にはt検定または一元配置分散分析 (ANOVA) を用い、多重比較にはBonferroni補正を適用した。予測能の評価にはROC曲線とAUC (Area Under the Curve) を用いた。PFSの解析にはKaplan-Meier法とログランク検定を用いた。腫瘍増殖曲線は二元配置分散分析で比較した。統計解析にはOffice Excel 2016、Prism 7.0、およびR version 3.1.1を用いた。また、ディスカバリーコホートで応答者を予測するポイントワイズ線形モデル (PyTorch 1.5, Python 3.7.6) を開発し、5分割二重交差検定で評価した。