• 著者: Sreyan Chowdhury, Samuel Castro, Courtney Coker, Taylor E. Hinchliffe, Nicholas Arpaia, Tal Danino
  • Corresponding author: Nicholas Arpaia (na2697@cumc.columbia.edu); Tal Danino (td2506@columbia.edu) (Columbia University, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31270504

背景

CD47は、がん細胞がマクロファージによる貪食を回避するために利用する「don’t eat me」シグナルとして機能する受容体であり、複数のヒトがん種で高発現することが報告されている (Majeti et al. 2009, Willingham et al. 2012)。CD47を阻害することで、がん細胞の貪食活性化、腫瘍抗原のクロスプレゼンテーション、およびT細胞プライミングが促進され、抗腫瘍免疫応答が強化されることが示されてきた (Liu et al. 2015, Sockolosky et al. 2016)。がん免疫療法の歴史は細菌を用いた治療にまで遡り (Coley 1891)、近年目覚ましい進歩を遂げていることは、Mellman et al. Nature 2011 が包括的にレビューしている。

しかし、全身性のCD47阻害は、赤血球や血小板上のCD47にも結合するため、貧血や血小板減少といった重篤な副作用を引き起こす可能性があり (Ingram et al. 2017)、その安全性プロファイルを改善するための局所投与戦略が強く求められていた。一方、合成生物学の進展により、細菌を遺伝子操作して腫瘍微小環境内で選択的に増殖させ、治療薬を放出させるという概念が提唱されてきた。腫瘍はしばしば低酸素で免疫特権的な環境であり、細菌の増殖に適していることが知られている (Brown & Wilson 2004)。しかし、このアプローチが実際に遠隔の未処置腫瘍にも効果を及ぼす「abscopal効果」を誘導できるか、またその機序については、これまで十分に未解明であった。特に、腫瘍局所での免疫刺激と全身性抗腫瘍免疫の誘導を両立させるメカニズムについては、検討が手薄であった。細胞ベースの免疫細胞工学の原則は既に確立されているが (Lim et al. Cell 2017)、細菌を用いたアプローチにおける全身性免疫誘導の具体的なメカニズム解明が不足していた。

目的

本研究の目的は、同期溶菌回路 (SLC: synchronized lysis circuit) を搭載した非病原性大腸菌に、CD47に対するナノボディ (CD47nb) を発現させた工学的細菌株 (eSLC-CD47nb) を構築し、この細菌が腫瘍内でクオラム依存的に溶菌し、CD47nbを持続的に放出することで、複数のマウス腫瘍モデルにおいて腫瘍退縮、転移抑制、および全身性抗腫瘍免疫を介したabscopal効果を誘導できるかを検証することである。また、その免疫学的機序を詳細に解析することも目的とした。

結果

eSLC-CD47nbのin vitro機能検証と貪食促進効果: 構築したeSLC-CD47nb株は、培養液中で周期的なOD600の低下、すなわち同期溶菌を示し、それに同期してCD47nbが培養上清中に高濃度で放出されることを免疫ブロットで確認した (Fig. 1b, Extended Data Fig. 2b)。競合フローサイトメトリー解析により、eSLC-CD47nbが産生するCD47nbは、市販の抗CD47モノクローナル抗体miap301と同等以上のCD47結合能をA20細胞表面で示すことが明らかになった (Fig. 1c)。さらに、BMDMを用いたin vitro貪食アッセイでは、eSLC溶菌液単独でA20細胞の貪食が対照と比較して50%増加し、eSLC-CD47nb溶菌液では90%増加した (p=0.0003)。この結果は、CD47nbによるCD47ブロックと細菌溶菌産物による免疫刺激の相乗効果を示唆する。

A20リンパ腫モデルにおける著明な腫瘍退縮と長期生存、免疫記憶の誘導: A20腫瘍担持BALB/cマウスにeSLC-CD47nbを腫瘍内投与した群では、PBS群およびeSLC単独群と比較して、治療開始後約10日以内に著明な腫瘍退縮が認められた (p<0.0001; two-way ANOVA) (Fig. 2a, Extended Data Fig. 3a,b)。この治療により、マウスの約80%が90日超の長期生存を達成し (Fig. 2c)、PBS群およびeSLC群のマウスは全例が腫瘍により死亡した。完全奏効を達成したマウスは、90日目に10×10⁶個のA20細胞を再投与されても腫瘍形成に抵抗性を示し、強力な免疫記憶の誘導が確認された (Fig. 2d)。また、治療30日目における肝転移結節数は、eSLC-CD47nb群でPBS群およびeSLC群と比較して著明に減少し、平均で約2個の結節しか認められず、対照群の平均約20個と比較して有意な差を示した (p<0.0001) (Fig. 2b)。さらに、生きたeSLC-CD47nb細菌によるSLCを介したCD47nbの持続的な腫瘍内放出が、治療効果に不可欠であることが示された (Fig. 2e)。

多様な腫瘍モデルと投与経路における有効性の拡張: eSLC-CD47nbの腫瘍内投与は、4T1乳腺癌モデルにおいても有意な腫瘍増殖抑制効果 (p<0.0001) と肺転移の著明な減少 (p=0.0036) を達成した (Fig. 2f,g)。B16-F10メラノーマモデルでも同様に有意な腫瘍増殖抑制効果が確認された (p=0.0002) (Fig. 2h)。さらに、静脈内投与実験では、全身性抗CD47抗体miap301の腹腔内投与と比較して、eSLC-CD47nbが有意に優れた腫瘍制御を示した (p<0.0001) (Fig. 2i)。細菌の生体内分布解析では、静脈内投与後もeSLC-CD47nbは腫瘍組織に選択的に局在し、肝臓、脾臓、腎臓といった主要臓器では検出感度以下 (10³ CFU/g未満) であった (Extended Data Fig. 5b)。治療期間中、体重変化に群間差は認められず (Extended Data Fig. 3c, 4a, 5c)、良好な安全性プロファイルが示された。

腫瘍内免疫細胞の活性化と適応免疫応答の誘導: 治療8日目のA20腫瘍内TILの免疫フェノタイピング解析では、eSLC-CD47nb群はPBS群およびeSLC群と比較して、増殖性のKi-67+FOXP3-CD4+T細胞 (p=0.0029) およびKi-67+CD8+T細胞 (p=0.0021) の頻度が有意に増加した (Fig. 3a,b)。また、細胞傷害性T細胞のマーカーであるGzmB+CD8+T細胞 (p=0.0011) およびIFN-γ産生FOXP3-CD4+T細胞 (p=0.0369) も有意に増加した (Fig. 3c,d)。治療3日目には、抗原提示能が高いMHC class IIhiのCD11b+F4/80+マクロファージの頻度も増加しており (Extended Data Fig. 6a)、早期の自然免疫活性化が示唆された。脾臓細胞をA20細胞とin vitro共培養した結果、eSLC-CD47nb群のマウス由来脾臓細胞は、PBS群やmiap301群と比較して有意に高いIFN-γ分泌を示し (Extended Data Fig. 7)、全身性抗A20記憶T細胞応答の誘導が示唆された。

腫瘍抗原特異的abscopal効果の誘導と細菌転移の否定: 片側の腫瘍にeSLC-CD47nbを腫瘍内投与し、対側の腫瘍を未処置とした両側腫瘍モデルにおいて、未処置腫瘍の増殖がPBS群やeSLC群と比較して有意に抑制された (p<0.0001) (Fig. 4b,c)。このabscopal効果は、未処置腫瘍内における増殖性のKi-67+CD8+T細胞の増加 (p=0.0229) (Fig. 4e) およびホルボールミリスタートアセテート (PMA)/イオノマイシン刺激後のIFN-γ+CD4+/CD8+T細胞の増加 (Extended Data Fig. 9b,c) と関連していた。さらに、腫瘍抗原特異的ペプチド (A20-Id: DYWGQGTEL) 刺激後のIFN-γ+CD8+T細胞の頻度は、eSLC-CD47nb群でPBS群やeSLC群と比較して有意に高値を示し (p=0.0012) (Fig. 4f)、腫瘍抗原特異的なT細胞応答がabscopal効果を媒介していることが強く示唆された。細菌の生体内分布解析では、片側腫瘍への投与後、対側腫瘍、肝臓、脾臓といった遠隔臓器から細菌は検出感度以下 (10³ CFU/g未満) であり (Fig. 4g)、abscopal効果が細菌の転移によるものではないことが明確に示された。SLCを欠損しCD47nbを構成的に産生するeCD47nb株は、治療腫瘍の増殖を抑制したものの、未処置腫瘍に対する効果はeSLC-CD47nbと比較して著しく弱かった (Fig. 4h,i)。これは、強力なabscopal効果の誘導にはSLCを介したCD47nbの放出が必須であることを示唆する。

考察/結論

本研究は、プログラム可能な細菌を用いた腫瘍選択的免疫療法デリバリーという新規な概念を実証し、同期溶菌回路 (SLC) を介したCD47ナノボディ (CD47nb) の腫瘍内持続放出が、強力な全身性抗腫瘍免疫を誘導するという決定的な証拠を本研究で初めて提供した。

① 先行研究との違い: 全身性抗CD47モノクローナル抗体 (miap301) 投与では観察されなかったabscopal効果がeSLC-CD47nbで生じた点は、これまでの治療法と異なり、腫瘍局所での細菌溶菌産物 (TLRアゴニスト等) とCD47nbの複合的な免疫刺激が、腫瘍抗原特異的T細胞応答を増強する独自の機序を示唆する。この局所的デリバリーは、全身性毒性を回避しつつ、免疫療法の局所濃度を高めるという顕著な利点を提供する点で従来の全身療法とは対照的である。

② 新規性: eSLC-CD47nbは、腫瘍浸潤リンパ球の増殖と活性化を促進し、持続的かつ全身性の抗腫瘍免疫を誘導することを示した。これは、工学的に設計された細菌が、腫瘍微小環境の特性を利用して治療効果を最大化できる可能性をこれまで報告されていない形で示している。細胞ベースの免疫細胞工学の原則は既に確立されているが (Lim et al. Cell 2017)、細菌を用いたアプローチが転移巣にまで及ぶ全身性免疫を誘導するメカニズムを詳細に解明した点で新規性がある。

③ 臨床応用: 本システムは、時空間的に制御された免疫療法デリバリーを可能にし、多様な固形腫瘍環境での臨床応用への道を開く。特に、観察されたabscopal効果は、アクセス可能な原発腫瘍への注射によって遠隔転移性病変を治療するという、転移性がんに対する将来的な戦略を提供する。これは、現在の治療法では困難な転移巣の制御に繋がる臨床的意義を持つ。全身性毒性を示した他の免疫療法薬も、eSLCを用いた腫瘍内デリバリーにより安全かつ効果的に使用できる可能性があり、その臨床現場での有用性が期待される。

④ 残された課題: 腫瘍内注射が必要という制約は残された課題の一つであり、より広範な患者群への適用には全身投与後の腫瘍選択的デリバリー効率のさらなる改善が求められる。しかし、CD47nb以外の免疫療法ペイロード (例えば、抗CTLA-4ナノボディやIL-2など) への応用拡張が期待され、全身性毒性を示した他の免疫療法薬も、eSLCを用いた腫瘍内デリバリーにより安全かつ効果的に使用できる可能性が今後の検討で示唆される。

方法

eSLC-CD47nb株は、SLCをコードするpSC01プラスミドと、抗CD47ナノボディ (CD47nb) を発現し安定化要素 (hok/sok、alp7 partitioning) を含むpSC02プラスミドをE. coli Pir1+株に導入して構築した。in vitro特性評価として、時系列での光学密度600nm (OD600) 測定と寒天パッドタイムラプス顕微鏡を用いてSLCの動態を確認し、免疫ブロットによりCD47nbの溶菌依存的放出を検証した。CD47nbの機能は、競合フローサイトメトリー (FACS) アッセイ (FITC-miap301) で確認し、骨髄由来マクロファージ (BMDM) を用いた貪食アッセイで腫瘍細胞 (A20) の貪食増強効果を評価した。

in vivo実験では、A20 B細胞リンパ腫 (BALB/cマウス)、4T1乳腺癌 (BALB/cマウス)、B16-F10メラノーマ (C57BL/6マウス) の皮下腫瘍モデルを用いた。腫瘍内投与 (5×10⁸ コロニー形成単位/ml (CFU/ml)、3-4日毎4回) および静脈内投与を実施し、腫瘍体積の経時変化を測定した。治療効果はKaplan-Meier生存解析、肝臓および肺転移結節数の定量で評価した。免疫応答の解析には、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocytes) の免疫フェノタイピング (Ki-67、GzmB、インターフェロン-γ (IFN-γ) 等) をBD LSRFortessaフローサイトメーターで実施した。腫瘍抗原特異的T細胞応答は、A20-Idペプチド刺激後のIFN-γ酵素結合免疫吸着法 (ELISPOT) で評価した。abscopal効果の検証のため、片側腫瘍にのみeSLC-CD47nbを投与した両側腫瘍モデルを設定し、未処置腫瘍の増殖と免疫応答を解析した。細菌の生体内分布は、ホモジナイズした臓器組織をLB寒天プレートに播種し、CFU/gを計数することで評価した。統計解析にはGraphPad Prism v.7.0およびv.8.0を用い、Studentのt検定、一元配置分散分析 (ANOVA)、二元配置分散分析 (ANOVA) (Tukeyの多重比較補正付き)、およびログランク (Mantel-Cox) 検定を実施した。