• 著者: Miguel Lopez de Rodas, Kurt A. Schalper
  • Corresponding author: Kurt A. Schalper (Department of Pathology and Yale Cancer Center, Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 34556846

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、PD-1/PD-L1軸を遮断することで腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の機能を回復させ、抗腫瘍効果を発揮する。しかし、ICIの奏効率は限定的であり、TILが高浸潤している「immune-hot」腫瘍であってもICI抵抗性を示す症例が多数存在する。T細胞疲弊 (exhaustion) は、慢性ウイルス感染やがん微小環境における持続的な抗原刺激の結果として生じる機能障害であり、PD-1、LAG3、TIM3、TIGIT、CD39などの複数の免疫阻害シグナル分子を高発現することが特徴である。この疲弊したT細胞は、分化、細胞傷害性、増殖、生存プログラムの異常を伴う多様なT細胞プロファイルを呈することが報告されている。

これまでの研究では、TIL中には腫瘍特異的T細胞だけでなく、腫瘍抗原を認識しないバイスタンダーT細胞(例えば、ウイルスなどの既往抗原特異的T細胞)も多数存在することが示唆されていた。これらのバイスタンダーT細胞が「immune-hot」な腫瘍の外観を形成しながらも、ICI応答には寄与しない可能性が指摘されており、この点がICI抵抗性の一因として考えられていた。しかし、腫瘍抗原特異的T細胞の機能的特性、疲弊のメカニズム、および臨床的意義については、依然として多くの側面が未解明であった。特に、T細胞疲弊が腫瘍抗原への持続的曝露によって誘導されるのか、またその疲弊がどのような表現型と関連するのかについては、詳細な機能的解析が不足していた。

近年、マルチモーダルなハイスループットシングルセル解析技術と計算モデルの発展により、腫瘍組織内の免疫細胞集団の詳細かつ非教師ありの機能解析が可能となった。このような背景のもと、Oliveira et al. (Nature 596:119, 2021) と Caushi et al. Nature 2021 (Nature 596:126, 2021) の2つの画期的な研究が発表された。これらの研究は、ヒトのメラノーマと肺がんにおける腫瘍抗原特異的エフェクターT細胞の機能的特性と臨床的意義をシングルセルレベルで詳細に解析し、上記の未解明な問いに対する重要なデータを提供した。本News & Viewsは、これらの研究結果を統合し、T細胞疲弊の新たな理解とICI抵抗性メカニズムへの洞察を深めることを目的としている。

目的

本News & Views記事の目的は、メラノーマと非小細胞肺がん (NSCLC) における腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞の機能的特性と臨床的意義に関する2つの最近のNature論文 (Oliveira et al. Nature 2021および Caushi et al. Nature 2021) の知見を統合し、論じることである。具体的には、これらの研究が示した、腫瘍抗原への持続的曝露によって誘導されるCD8+ T細胞疲弊のメカニズム、その疲弊が組織常在記憶 (TRM) 表現型と関連すること、そしてこの疲弊が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 抵抗性の「擬似Hot」腫瘍形成にどのように寄与するかについて、その概念的フレームワークを提示し、今後の研究方向性および臨床応用への示唆を考察することを目指す。本記事は、T細胞疲弊の生物学的特性、疾患文脈依存性、および臨床的関連性に関する理解を深めることを目的としている。

結果

腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞の疲弊プロファイルとTRM表現型: Oliveira et al. は、切除されたメラノーマ腫瘍からのCD8+ TILをscRNA-seq、TCRレパートリー解析、および表面タンパク質測定により詳細に解析し、13のサブポピュレーションを定義した。最もクローン的に拡大したTCRクローンを持つT細胞は、PD-1やCD39などの疲弊関連分子を高発現する疲弊プロファイルを示した。これらの疲弊T細胞は、ITGAE (CD103をコード) やZNF683などの組織常在記憶T細胞 (TRM) マーカーの転写産物を特徴的に発現していた。TCR導入実験では、疲弊T細胞由来のTCRクローンは83%が自家がん細胞に対する反応性を示したのに対し、非疲弊T細胞由来のTCRではわずか10%のみが反応性を示した。これは、疲弊T細胞が実際に腫瘍抗原特異的であることを強く示唆する。さらに、腫瘍特異的ネオ抗原および共有メラノーマ抗原のペプチド刺激が疲弊転写プロファイルと関連することが示され、ウイルス抗原特異的CD8+ T細胞ではこの関連は見られなかった。ICI治療後に進行したメラノーマ患者 n=14 例では、疲弊した腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞が末梢血には乏しいものの、進行患者でより多く検出され、PD-1高発現およびCD39高発現が特徴的であった。

ネオ抗原特異的T細胞のTRM疲弊クラスターへの集積とICI感受性との関連: Caushi et al. Nature 2021 は、ネオアジュバントnivolumab術前投与後の切除可能NSCLC患者 n=20 例から得られたin vitro拡大TILを対象に、MANAFEST法を用いてT細胞特異性を規定し、scRNA-seq解析を行った。その結果、15のT細胞クラスターが同定され、そのうち6つがTRM細胞の遺伝子発現プログラムを持つことが示された。ネオ抗原特異的CD8+ T細胞のクローンは、不完全なエフェクタープログラム、複数の免疫阻害シグナル上昇、TRMマーカー上昇、および疲弊転写因子 (PRDM1およびTOX2) の発現を特徴とするTRM疲弊クラスターに主に集積していた。これらの特徴は、ウイルス特異的バイスタンダーT細胞とは対照的であった。主要病理学的奏効 (MPR) を示した患者と非MPR患者を比較すると、MPR患者のネオ抗原特異的CD8+ T細胞では、TCR-ペプチド結合アビディティ (avidity) が高いことが確認され、ICI感受性との関連が示唆された。一方、非MPR患者では疲弊マーカーがさらに強くアップレギュレーションされていた。また、ネオ抗原特異的CD8+ T細胞は、IL-7受容体 (IL-7R) の発現が低下し、IL-7刺激への応答性も低下しており、長期的な生存を支持する能力が低い可能性が示唆された。

「擬似immune-hot」腫瘍の概念: 両研究の知見を統合すると、腫瘍浸潤T細胞は、(1) 腫瘍抗原特異的で疲弊し、TRM表現型を持つ群(真の抗腫瘍免疫の担い手)と、(2) 腫瘍抗原に反応せず、疲弊していないバイスタンダー群(腫瘍排除に寄与しない)の混在から構成されることが示された (Figure 1)。バイスタンダーT細胞が多い腫瘍は、T細胞浸潤が高くてもICIに応答しにくい「擬似immune-hot」腫瘍として分類されうる。このことから、真の腫瘍抗原特異的T細胞の比率と機能的状態が、抗腫瘍免疫応答およびICI感受性を決定する重要な要因であることが示唆された。特に、CD39は疲弊した腫瘍反応性T細胞のマーカーとして機能する可能性が示された。

考察/結論

本News & Views記事は、Oliveira et al.とCaushi et al. Nature 2021の2つのNature論文の知見を統合し、腫瘍抗原特異的T細胞疲弊と組織常在記憶 (TRM) 表現型の関連性、およびバイスタンダーT細胞による「擬似hot」腫瘍という概念的フレームワークを提示した。

先行研究との違い: これまでの研究 (Gettinger et al. NatCommun 2018やSimoni et al. Nature 2018) でTIL中のバイスタンダーT細胞の存在は報告されていたが、本報告で論じられた研究は、MANAFEST法を用いた直接的なT細胞特異性規定とシングルセルRNAシーケンスを組み合わせることで、疲弊の主要な誘因が腫瘍抗原への持続的暴露であることを初めて機能的に実証した点で、これまでの知見と異なり、より深いメカニズム的理解を提供した。

新規性: 本研究で論じられた知見は、腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞が、腫瘍抗原への継続的な曝露によって疲弊プロファイルとTRM表現型を同時に獲得するという新規なメカニズムを明らかにした。また、CD39発現が疲弊T細胞および腫瘍反応性T細胞のマーカーとして機能するという知見は、ICI感受性の事前評価ツールとしての臨床応用可能性を持つ新規なバイオマーカーの候補を提示した。さらに、TCR-ペプチドアビディティと主要病理学的奏効 (MPR) の関連は、T細胞機能の「質」が量と同様に重要であることを示す新規な視点を提供した。

臨床応用: これらの知見は、ICI治療の層別化戦略に大きな臨床的意義を持つ。特に、CD39発現を疲弊した腫瘍反応性T細胞のバイオマーカーとして用いることで、ICIから限定的な利益しか得られない患者を特定し、治療を最適化できる可能性がある。これにより、不必要な治療を避け、より効果的な治療法への移行を促すことが可能となる。また、「擬似immune-hot」腫瘍の概念は、高TIL浸潤腫瘍であってもICI抵抗性を示す理由を説明し、治療戦略の再考を促す。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) より大規模な患者コホートでのこれらの知見の検証、(2) IL-7経路の調節によるT細胞疲弊改善戦略(例:IL-7/IL-7Rの増強)の探索、(3) 腫瘍内TRM細胞がICI応答において果たす具体的な役割のさらなる解明、(4) PD-L1、Galectin-9、MHCクラスII、FGL1など、T細胞疲弊を誘導するリガンドの同定とその治療標的化が挙げられる。また、T細胞疲弊の獲得や進行における特定の分子メカニズムを明らかにするための追加研究も必要である。さらに、T細胞浸潤が低い「immune-cold」腫瘍や抗原提示に欠陥がある腫瘍における免疫回避の主要メカニズムと、それに対する治療選択肢の検討も今後の研究方向性として重要である。

方法

本News & Views記事は、Oliveira et al. (Nature 596:119, 2021) と Caushi et al. Nature 2021 (Nature 596:126, 2021) の2つの原著論文の知見を分析し、統合する Commentary 形式の論文であるため、独自の実験的「方法」セクションは存在しない。

しかし、本記事が論じる2つの原著論文では、以下の先進的な研究手法が用いられている。

Oliveira et al. の研究方法 (メラノーマ):

  • 患者コホート: 手術で切除されたメラノーマ腫瘍を有する患者 n=4 例から腫瘍浸潤CD8+ T細胞 (TIL) を採取した。さらに、ICI治療後に進行したメラノーマ患者 n=14 例の末梢血サンプルも解析対象とした。
  • シングルセル解析: CD8+ TILのシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) を実施し、遺伝子発現プロファイルを詳細に解析した。
  • T細胞受容体 (TCR) レパートリー解析: 各T細胞のTCR配列を決定し、クローン性および特異性を評価した。
  • 表面タンパク質測定: フローサイトメトリーなどを用いて、PD-1やCD39などのT細胞表面マーカーの発現レベルを測定した。
  • TCR導入実験: 疲弊したT細胞および非疲弊T細胞から単離したTCRクローンを、癌のないドナー由来のT細胞に導入し、自家がん細胞に対する反応性をin vitroで評価した。
  • 抗原特異性評価: 腫瘍特異的ネオ抗原および共有メラノーマ抗原、ならびにウイルス抗原のペプチド刺激に対するT細胞の反応性を評価し、疲弊プロファイルとの関連を解析した。

Caushi et al. Nature 2021 の研究方法 (非小細胞肺がん):

  • 患者コホート: ネオアジュバント nivolumab 治療を受けた切除可能非小細胞肺がん (NSCLC) 患者 n=20 例から、術前投与後の腫瘍組織を採取した。
  • T細胞のin vitro拡大: 腫瘍組織から単離したTILをin vitroで拡大培養した。
  • MANAFESTアッセイ: 変異ネオ抗原ペプチドとMHCクラスI拘束性ウイルス抗原を用いたペプチド刺激ベースアッセイである MANAFEST (Mutant Antigen-specific T cell Activation For ELISpot and Sequencing of T cells) 法を用いて、T細胞の抗原特異性を高精度に規定した。
  • シングルセル解析: in vitro拡大された腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞のscRNA-seq解析およびTCR配列解析を実施した。
  • TCR-ペプチド結合アビディティ評価: T細胞のTCRとネオ抗原ペプチドの結合アビディティを評価し、主要病理学的奏効 (MPR) との関連を解析した。
  • IL-7経路の評価: ネオ抗原特異的CD8+ T細胞におけるIL-7受容体 (IL-7R) の発現およびIL-7刺激に対する応答性を、インフルエンザ特異的T細胞と比較して評価した。

これらの研究は、シングルセルレベルでの遺伝子発現、TCRレパートリー、表面タンパク質、および機能的特異性の統合解析を通じて、ヒト腫瘍微小環境におけるT細胞疲弊のメカニズムと臨床的意義を解明するための包括的なアプローチを採用している。