• 著者: Justina X. Caushi*, Jiajia Zhang*, Zhicheng Ji, Ajay Vaghasia, Boyang Zhang, Emily Han-Chung Hsiue, Brian J. Mog, Wenpin Hou, Sune Justesen, Richard Blosser, Ada Tam, Valsamo Anagnostou, Tricia R. Cottrell, Haidan Guo, Hok Yee Chan, Dipika Singh, Sampriti Thapa, Arbor G. Dykema, Poromendro Burman, Begum Choudhury, Luis Aparicio, Laurene S. Cheung, Mara Lanis, Zineb Belcaid, Margueritta El Asmar, Peter B. Illei, Rulin Wang, Jennifer Meyers, Kornel Schuebel, Anuj Gupta, Alyza Skaist, Sarah Wheelan, Jarushka Naidoo, Kristen A. Marrone, Malcolm Brock, Jinny Ha, Errol L. Bush, Bernard J. Park, Matthew Bott, David R. Jones, Joshua E. Reuss, Victor E. Velculescu, Jamie E. Chaft, Kenneth W. Kinzler, Shibin Zhou, Bert Vogelstein, Janis M. Taube, Matthew D. Hellmann, Julie R. Brahmer, Taha Merghoub, Patrick M. Forde, Srinivasan Yegnasubramanian, Hongkai Ji, Drew M. Pardoll, Kellie N. Smith
  • Corresponding author: Srinivasan Yegnasubramanian (syegnasu@jhmi.edu); Hongkai Ji (hji@jhu.edu); Drew M. Pardoll (dpardol1@jhmi.edu); Kellie N. Smith (kellie@jhmi.edu) (Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34290408

背景

PD-1/PD-L1遮断による抗腫瘍免疫はCD8 T細胞依存的であり、特に変異由来ネオアンチゲン (MANA) を認識するT細胞が中心的役割を担うと考えられている。しかし、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の大多数は腫瘍抗原を認識せず、MANA特異的TILの転写プログラムはこれまで未解明であった。単一細胞転写解析 (scRNA-seq) は腫瘍全TILの機能障害プログラムを明らかにしてきたが、腫瘍特異的なMANA特異的T細胞のみを特定してその転写状態を解析することは技術的に困難であった。先行研究では、PD-1遮断がCD8 T細胞を活性化することが示されており (Tumeh et al. Nature 2014)、また、腫瘍変異負荷が高いほど抗PD-1/PD-L1治療への臨床応答が改善することが報告されている (Yarchoan et al. NEnglJMed 2017)。これらの知見はMANAが抗腫瘍免疫の重要な標的であることを強く示唆する。しかし、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の成功にもかかわらず、ほとんどのがん患者は依然として治療に奏効しないという課題が残されている。ICBの奏効率を向上させるためには、腫瘍微小環境における腫瘍特異的T細胞の機能的状態を理解することが不可欠である。特に、抗PD-1奏効腫瘍と非奏効腫瘍でMANA特異的TILの転写プログラムがどのように異なるかは不明であり、ICB耐性の克服戦略の設計に向けた基礎的理解が求められていた。MANA特異的T細胞は全TILのごく一部を占めるに過ぎず、その特性評価は困難であった。このため、MANA特異的TILの転写プロファイリングの不足が、ICB応答を支えるT細胞機能プログラムの理解における根本的な限界となっていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指すものである。

目的

ネオアジュバント抗PD-1 (nivolumab) 治療を受けた切除可能非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、MANAFEST (mutation-associated neoantigen functional expansion of specific T cells) アッセイとscRNA-seq (single-cell RNA sequencing)/TCR-seq (T-cell receptor sequencing) を統合することでMANA特異的TILを同定し、その転写プログラムを解明することを目的とした。具体的には、ウイルス特異的TILとの比較を通じてMANA特異的TILの機能的特徴を明らかにし、さらに病理学的奏効 (MPR) を示した患者と非奏効患者の間でMANA特異的TILの転写プログラムがどのように異なるかを解析する。これにより、PD-1阻害薬への抵抗性を克服するための新たな治療戦略開発に資する分子基盤を提供することを目指す。

結果

MANA特異的TILは不完全な細胞傷害活性化とTRM表現型を示す: MANA特異的T細胞 (n=1,350 cells) およびウイルス (インフルエンザ・EBV) 特異的クロノタイプのUMAP上分布は明確に異なった (Fig. 2c)。EBV特異的T細胞はエフェクターT (Teff) クラスターに局在した一方、インフルエンザ特異的T細胞とMANA特異的T細胞は主に組織常在記憶 (TRM) クラスター (ZNF683/HOBIT高発現、ITGAE/CD103高発現) に局在した。MANA特異的TILはHLA-DRA、GZMH、IFNG、NKG7などのCTL活性化遺伝子を部分的に発現した一方、細胞傷害分子GZMKの発現は低く、CTL機能の核心転写因子EOMESはEBV特異的細胞と比較して最小限の発現にとどまった。MANA特異的TILはPRDM1 (BLIMP-1) の高発現を示し、複数のチェックポイント遺伝子 (PDCD1/PD-1、LAG3、TIGIT、HAVCR2/TIM3) が有意に高発現していた。EBV特異的と比較してMANA特異的細胞でCTLA4およびCD39 (ENTPD1) が最も高く差次発現しており、CD39高発現はMANA特異的TILの先行フローサイトメトリー研究と一致する。TOX2 (クロマチン修飾因子、T細胞疲弊プログラム関連) はEBV特異的と比較してMANA特異的で著明に高発現したが、TOXは最小限の増加にとどまった。HOBITはインフルエンザ特異的TRMと比較してもMANA特異的TILでより高発現した (Fig. 2e)。MANA特異的T細胞は最も高い免疫チェックポイントおよび疲弊シグネチャーを示した (Extended Data Fig. 6f)。これらの結果は、MANA特異的CD8 T細胞がエフェクタープログラムの不完全な活性化と、PD-1、CTLA-4、TIM3、TIGIT、CD39などのチェックポイント分子の有意な高発現を特徴とする、非伝統的なハイブリッド転写プログラムを持つことを示している。

MANA特異的TILはIL-7R低発現で機能的なIL-7応答が減弱している: インフルエンザ特異的TILと比較してMANA特異的TILはIL-7R発現が4.6倍低く、T幹細胞記憶関連遺伝子 (TCF7、IL-7R) 全般が低発現であった (Fig. 2f)。In vitroでIL-7刺激によるIL-7R調節遺伝子発現誘導はインフルエンザ特異的TILが著明に高応答したのに対し、MANA特異的TILでは超生理的濃度のIL-7でも限定的な応答にとどまった (Fig. 2g, Extended Data Fig. 7)。例えば、IL-7 0.1 ng/ml刺激では、インフルエンザ特異的TILのIL-7応答遺伝子セットスコアはMANA特異的TILと比較して有意に高かった (p<0.05)。この知見は、MANA特異的TILがIL-7シグナルによる生存・記憶形成支持を受けにくい状態にあることを示唆する。

非MPR由来MANA特異的TCRはリガンド依存性シグナリング能が著明に低下している: Jurkat-NFATシステムで測定したリガンド依存性TCRシグナリングにおいて、MPR由来TCR (n=3 clonotypes) のペプチド用量応答曲線はEBV特異的・インフルエンザ特異的TCRと同等の強さを示した。一方、非MPR由来MANA特異的TCR (n=7 clonotypes) のペプチド用量応答曲線は約2 log10の左方向シフトを示し、機能的アビディティ (リガンド依存性シグナリング能) が著明に低下していた (Fig. 2h, Extended Data Fig. 8e)。MHC結合親和性 (測定Kd) はMPR・非MPR由来MANA間で同等であることから (MD01-005-MANA7: Kd=5.1 nM、MD01-004-MANA12: Kd=17.5 nM)、この差異はMHC結合能ではなくTCRシグナリング固有の機能的差異によることが示された。

MPR vs 非MPR MANA特異的TILの転写プログラムは明確に異なる: MPR由来MANA特異的TIL (n=45 cells) と非MPR由来MANA特異的TIL (n=885 cells) の差次発現解析で高度に有意な差を検出した (Fig. 3a, p<0.05)。非MPR MANA特異的TILはT細胞機能障害遺伝子 (TOX2、CTLA4、HAVCR2、ENTPD1) が有意に高発現し、チェックポイントスコアと疲弊スコアがいずれも非MPRで高値であった (Fig. 3d, Extended Data Fig. 10a)。MPR MANA特異的TILはメモリー関連遺伝子 (IL7R、TCF7) とエフェクター機能遺伝子 (GZMK) が高発現した (Fig. 3a-c)。CXCL13は非MPR MANA特異的TILでチェックポイント遺伝子と最も強く相関し、かつMANA特異的TILでウイルス特異的TILと比較して高発現した (Fig. 2d-f)。免疫抑制分子をコードする多数の遺伝子が非MPRのチェックポイントスコアと高相関を示した (Fig. 3e)。非MPR MANA特異的TILは大部分がHOBIT高発現TRMサブセットに限局していた。逆説的に、MPRより非MPRで腫瘍内MANA特異的TILが多く検出された (Extended Data Fig. 2, 3, Supplementary Table 9)。

MANA特異的T細胞の全身性再プログラミング: MPR患者MD01-005の末梢血T細胞の時系列scRNA-seq-TCR-seq解析では、抗PD-1治療開始2週間後にはMANA特異的クローンがTRM様クラスター (Tmem(3)) にマッピングされた (n=9 clonotypes)。4週間後 (腫瘍切除時) には、表現型の有意な多様化が観察され (p≤0.021)、MANA特異的細胞の半分がTeffクラスターに存在した (Fig. 4e)。RNA velocity解析では、TRM様記憶MANA特異的T細胞がTmem(3)クラスターから活性化エフェクター (Teff(3)) またはTmem(2)転写プロファイルへと双方向の流れを示すことが観察された (Fig. 4f)。Teff細胞機能、活性化、T細胞ホーミング、遊走、組織保持に関連する遺伝子がTmem(3)からTeff(3)への擬似時間軸に沿って上方制御された一方、休止記憶T細胞に関連する遺伝子は減少した (Fig. 4g, h)。

考察/結論

本論文はJohns Hopkins Pardoll・Smith・Yegnasubramanian・Jiグループが、ネオアジュバント抗PD-1治療NSCLCにおいてMANAFEST (mutation-associated neoantigen functional expansion of specific T cells) + scRNA-seq (single-cell RNA sequencing)/TCR-seq (T-cell receptor sequencing) という革新的な統合技術によりMANA特異的TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の転写プログラムを初めて系統的に解明した画期的な研究である。

新規性: 本研究で初めて、MANA特異的TILが不完全なCTL活性化プログラムを持ちながらも多数の阻害性チェックポイントを高発現するという「incomplete activation」表現型を定義した。これは、なぜPD-1遮断のみでは完全な奏効が得られないかの分子的基盤を提供する。特に、IL-7Rが4.6倍低発現でIL-7応答性が著明に減弱しているという知見は、MANA特異的TILがin vivoでIL-7による生存維持サポートを受けにくく、持続的な記憶応答の形成が困難であることを示し、IL-7やIL-15などのサイトカイン補充療法との組み合わせの根拠を提供した。また、TCRのリガンド依存性シグナリング能がMHC結合親和性と独立してMPR (major pathologic response) と非MPRで約2 log10の差を示すという発見は、TCRのシグナリング能力が免疫療法奏効を決定する重要な因子であることを示し、高機能アビディティTCRを選択するACT (adoptive cell therapy) 戦略やTCR改変の根拠となった。

先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍浸潤T細胞全体を対象とした解析が主であったが、本研究はMANAFESTアッセイを用いて真のMANA特異的T細胞クローンを同定し、その転写プログラムを単一細胞レベルで詳細に解析した点で、先行研究とは一線を画す。特に、MANA特異的T細胞がTRM (tissue-resident memory) 表現型を示す一方で、IL-7Rの発現が低く、IL-7に対する機能的応答が低いという点は、インフルエンザ特異的TRMとは異なるMANA特異的T細胞のユニークな特性を明らかにした。また、非MPRでMANA特異的TILが多いにもかかわらず奏効しないという逆説は、T細胞の絶対数よりも機能的質がICB奏効を決定することを示す重要な知見であり、従来のT細胞数に基づく評価とは対照的である。

臨床応用: 本知見は、PD-1阻害薬への抵抗性を克服するための新たな治療戦略の臨床応用に直結する。例えば、IL-7シグナル伝達経路を標的とすることで、MANA特異的TILの機能不全を改善し、ICB応答を増強できる可能性が示唆される。また、TCRの機能的アビディティが奏効予測因子となる可能性があり、高アビディティTCRを選択する養子細胞療法 (ACT) 戦略の開発に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、MANA特異的TILのTOX2による機能障害プログラムの分子機序のさらなる解明、TCRアビディティ向上戦略の開発、IL-7/TCF7+メモリーMANA T細胞の誘導法の確立が挙げられる。また、本研究はNSCLCを対象としているが、他の癌種でのMANAFESTアッセイの適用可能性や、治療前の生検検体でのTCRアビディティ測定による奏効予測の可能性についても検討が必要である。Limitationとしては、MANA特異的T細胞の検出数が限られていたこと、特にMPR患者からの細胞数が少なかったことが挙げられる。

方法

本研究では、ネオアジュバントnivolumab治療を受けた切除可能NSCLC患者20例 (臨床試験NCT02259621) の外科切除検体を使用した。このうち9例がMPR (残存腫瘍≤10%)、11例が非MPRであった。合計15腫瘍、12隣接正常肺、3腫瘍所属リンパ節、1遠隔転移からCD3+T細胞を分離し、scRNA-seqとTCR-seqを結合して実施した。品質管理を通過したT細胞は合計560,916細胞であった。MANAFESTアッセイは、9例の患者から実施され、7例 (MPR 3例、非MPR 4例) からMANA特異的TCR 72種、CEF (CMV, EBV, インフルエンザ) 特異的TCR 33種、インフルエンザ特異的TCR 52種を同定した。TCRを「バーコード」として活用し、MANA特異的、インフルエンザ特異的、EBV特異的クロノタイプの転写プログラムをUMAP解析と差次発現解析で比較した。TCRクローニングとJurkat-NFAT (nuclear factor of activated T-cells) ルシフェラーゼレポーターシステムを用いて、同定されたTCRのリガンド依存性シグナリング能を評価した。MHC結合親和性 (Kd) はLOCIアッセイと尿素ベースのアッセイで測定した。MPR (9例) と非MPR (11例) のMANA特異的TIL転写プログラムを比較するため、45個のMPR由来MANA特異的TIL転写産物と885個の非MPR由来MANA特異的TIL転写産物について差次発現解析を行った。scRNA-seqデータの前処理と品質管理にはCell Ranger v3.1.0を使用し、低品質細胞のフィルタリング基準として、検出遺伝子数が250未満または中央値の3倍の絶対偏差を超える細胞、ミトコンドリア遺伝子比率が10%を超える細胞、リボソーム遺伝子比率が10%未満の細胞を除外した。Seurat (3.1.5) を用いてデータ統合とクラスタリングを行い、UMAPで次元削減を行った。CD8+T細胞の同定にはSAVERを用いてドロップアウトを補完し、CD8A発現値の二峰性密度曲線の谷をカットオフとした。統計解析にはWilcoxon rank-sum test、Fisher’s exact test、線形混合効果モデル、Kruskal-Wallis Test、Bonferroni補正、Benjamini-Hochberg (B-H) 法を用いた。RNA velocity解析にはvelocyto PythonパッケージとSeuratWapperワークフローを使用し、TSCAN (v.1.7.0) で細胞の擬似時間 (pseudotime) を再構築した。