• 著者: Kazuyo Moro, Taketo Yamada, Masanobu Tanabe, Tsutomu Takeuchi, Tomokatsu Ikawa, Hiroshi Kawamoto, Jun-ichi Furusawa, Masashi Ohtani, Hideki Fujii, Shigeo Koyasu
  • Corresponding author: Shigeo Koyasu (Department of Microbiology and Immunology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2009-12-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20023630

背景

自然免疫系は、感染初期段階において多様な微生物と戦う上で重要な役割を果たす。これまで、自然免疫リンパ球としては、T細胞やBリンパ球とは異なり抗原受容体を発現せず、ウイルス感染細胞に対する細胞傷害活性を迅速に発揮し、様々なサイトカインを産生するNK (natural killer) 細胞が主要な存在として認識されてきた (Lodoen & Lanier 2006; Andoniou et al. 2006)。しかし、TH2型サイトカインであるIL-5やIL-13を、T細胞やBリンパ球に依存することなく迅速に産生する自然免疫リンパ球の実体は長らく未解明であった。蠕虫感染やアレルギー反応において、IL-25やIL-33がIL-5およびIL-13の産生を誘導することは知られていたが、これらのサイトカインを実際に大量産生する自然免疫細胞の同定が重要な課題として残されていた (Fallon et al. 2006)。特に、IL-33はIL-1受容体関連タンパク質ST2 (suppression of tumorigenicity 2) を介してシグナルを伝達し、TH2型サイトカインを誘導することが報告されていたが (Schmitz et al. 2005)、その直接の標的細胞は不明であった。

腹膜腔には、脂肪組織に関連した未同定のリンパ球集塊が存在することが以前から観察されていたが、その機能的意義は不明であった。これらの集塊は、リンパ節とは異なり線維性被膜を持たず、リンパ球が直接脂肪細胞と接触する特異な構造を示していた。この未解明なリンパ組織構造と、そこに存在する新規リンパ球サブセットの同定は、TH2型自然免疫応答のメカニズムを理解する上で極めて重要な知識ギャップであった。特に、IL-7受容体共通γ鎖である gc (common cytokine receptor gamma chain) がリンパ球の分化に不可欠であることは知られていたが (Cao et al. 1995)、gc依存的な新規リンパ組織の存在は認識されていなかった。また、B1細胞の自己複製を支持するサイトカインとしてIL-5が知られていたが (Erickson et al. 2001)、その産生源となる自然免疫細胞の特定は不足していた。本研究は、この腹膜腔の脂肪組織に付属する新規リンパ組織であるFALC (fat-associated lymphoid cluster) と、そこに存在するTH2型サイトカイン産生能を持つ自然リンパ球の同定と機能解析を目的とした。これにより、TH1/TH2バランスを自然免疫レベルで制御する細胞の存在を明らかにし、蠕虫感染防御やアレルギー応答における自然免疫の役割に関する理解を深めることが期待された。本研究は、これまで自然免疫リンパ球のTH2応答における役割の解明が手薄であり、その細胞ソースが不足しているという知識ギャップを埋めるものである。

目的

本研究の目的は、マウス腹膜腔脂肪組織に付属する新規リンパ組織構造であるFALC (fat-associated lymphoid cluster) に存在する新規リンパ球サブセットの表現型、系統、および機能を詳細に解析することである。具体的には、系統マーカー陰性かつc-Kit陽性、Sca-1 (stem cell antigen-1) 陽性を示す Lin- (lineage-negative) c-Kit+Sca-1+ 細胞のサイトカイン産生能、増殖特性、B1細胞の自己複製支持機能、および蠕虫感染後の杯細胞過形成誘導における役割を明らかにすることを目的とした。Lin-c-Kit+Sca-1+細胞とは、CD3e、CD4、CD8a、TCRb (T-cell receptor beta)、TCRd (T-cell receptor delta)、CD5、CD19、B220、NK1.1、Ter119 (erythroid cell marker)、Gr-1、Mac-1、CD11c、FceRIa (Fc epsilon receptor I alpha) といった一般的なリンパ球・骨髄系細胞マーカー (Linマーカー) を陰性とし、c-Kit (CD117) とSca-1 (Ly6a) を陽性とする細胞集団を指す。さらに、これらの細胞がIL-33に応答してTH2サイトカインを産生するメカニズムを解明し、その生物学的意義、特に自然免疫応答におけるTH2型自然リンパ球としての役割を論じることを目指した。最終的に、これらの新規リンパ球を「natural helper cells」と命名し、その特徴を包括的に記述することを目的とした。

結果

FALCの同定と新規リンパ球の表現型: マウス腸間膜の血管に沿って、直径100-500 umのリンパ球集塊が5-50個存在することが確認された (Figure 1a, b)。これらの集塊は加齢と共に数とサイズが増加し、線維性被膜がなく、リンパ球が直接脂肪細胞と接触する特徴を有していた (Figure 1c)。この新規リンパ組織は「FALC (fat-associated lymphoid cluster)」と命名された。フローサイトメトリー解析により、腸間膜細胞の20-40%を占めるLin-c-Kit+Sca-1+細胞集団が同定され、n=1 mouse あたり 0.5-2 x 10^5個の細胞が存在した (Figure 1d)。これらの細胞は腸間膜、腎臓周囲、性器周囲の脂肪組織に多く分布し、皮下脂肪や大網にはほとんど見られなかった (Figure 1f)。表現型解析の結果、これらの細胞はCD45+IL7Ra+Thy-1.2+CD27+T1/ST2 (IL33R)+CD25+CD38+CD44+CD69+GITR+であることが示された (Figure 2c)。Giemsa染色および電子顕微鏡観察では、小型で円形、濃染性の核と乏しい細胞質を持つリンパ球様の形態が確認された (Figure 2a, b)。転写因子解析では、GATA3+cMaf+JunB+STAT6+とTH2型転写プログラムの発現が認められた (Figure 2h)。ヒト腸間膜にも類似の集塊が存在し、c-Kit+IL7Ra+細胞が検出された (Figure 1g, h)。

FALC c-Kit+Sca-1+細胞の系統的特徴: Rag2-/-マウスおよびnu/nuマウスにFALC c-Kit+Sca-1+細胞が存在したことから、これらの細胞はT細胞、B細胞、NKT細胞非依存的に発生する自然免疫細胞であることが示された (Figure 2d)。一方、gc (IL2Rg)-/-マウスおよびIl7-/-マウスではFALC c-Kit+Sca-1+細胞が欠失しており、gcサイトカイン依存的な分化経路が示唆された (Figure 2d)。LTi細胞が欠損するRorc-GFP/GFPマウスやaly/alyマウスでもFALC細胞は存在するが頻度が減少しており、LTi細胞とは異なる系統であることが示唆された (Figure 2d)。これらの細胞はTNFRSF11A (RANK) やRorcを発現せず、NK1.1やNKp46+IL-22+細胞にも分化しないことが確認された。SCF/c-Kit経路も分化に部分的に関与し、Sl/SldおよびW/Wv変異マウスでは細胞数が減少した (Figure 2e)。T1/ST2 (IL-33R) の高発現は、胸腺DN2細胞やLTi細胞では認められず、FALC c-Kit+Sca-1+細胞が独自のリンパ球系統に属することを示唆した。マイクロアレイ解析でも、FALC c-Kit+Sca-1+細胞の遺伝子発現パターンはDN2細胞やLTi細胞とは異なっていた。

大量のTH2サイトカイン産生能: PMAとイオノマイシン刺激により、FALC c-Kit+Sca-1+細胞はIL-2、IL-4、IL-5、IL-6、GM-CSFを産生し、IFN-gも中等度に産生することがELISAで確認された (Figure 3b)。マイクロアレイ解析では、IL-4、IL-5、IL-6、IL-13 mRNAが高発現していた (Figure 2g)。特に注目すべきは、IL-33単独、あるいはIL-2とIL-25の組み合わせ刺激により、n=5000 cells からマイクログラムレベル(脾臓CD4+ T細胞の 10-fold 以上の高レベル)のIL-5とIL-13を産生する能力であり、これは脾臓CD4+ T細胞よりも大幅に多い量であった (Figure 3c)。IL-33はIL-17産生を誘導しなかった。これらの細胞はIL-2に応答して増殖し、42日間以上その表現型を維持できることから、終末分化エフェクター細胞の特性を持つことが示唆された (Figure 3a)。SCFとIL-7はこれらの細胞の生存を支持するサイトカインとして機能した。

B1細胞自己複製支持とIgA産生促進: CFSE標識した腹膜腔由来B1細胞 (CD19+CD23-) とFALC細胞を共培養すると、B1細胞のCFSE希釈 (増殖) が促進された (Figure 3e)。この増殖は抗IL-5中和抗体によりブロックされたことから、IL-5がB1細胞自己複製の主要なメカニズムであることが示唆された。Rag2-/-マウス (FALCを保有) へのB1細胞養子移入ではB1細胞の増殖が促進されたが、gc-/-Rag2-/-マウス (FALCを欠如) では促進が見られなかったことから、in vivoでのFALC細胞依存性が確認された (Figure 3f)。FALC c-Kit+Sca-1+細胞と脾臓B細胞の共培養によりIgA産生が誘導されたが、IgA+細胞の増加は認められず、既存のIgA+細胞からのIgA分泌促進が示唆された。

蠕虫感染防御と杯細胞過形成誘導: Rag2-/-マウスにIL-33を投与すると、IL-5/IL-13産生と杯細胞過形成が誘導されたが、gc-/-Rag2-/-マウス (肥満細胞・好塩基球は保有するがFALC細胞欠如) では誘導されなかった (Figure 4a, b)。この結果は、杯細胞過形成誘導の主体がFALC c-Kit+Sca-1+細胞であることを示唆した。N. brasiliensis感染後、野生型およびRag2-/-マウスでは血清IL-5/IL-13産生、腸間膜でのIL-5/IL-13 mRNA誘導、および杯細胞過形成が認められたが、gc-/-Rag2-/-マウスではこれら全てが消失した (Figure 4c-e)。N. brasiliensis感染は腹膜腔でIL-33を誘導し (Rag2-/-マウスで確認)、FALC細胞がIL-33に応答してIL-13を大量産生し、杯細胞過形成を誘導するという経路が確認された (Figure 4f)。n=2.5 x 10^5 cells のFALC c-Kit+Sca-1+細胞をgc-/-Rag2-/-マウスの腹膜腔内に養子移入すると、蠕虫感染後のIL-13産生と杯細胞過形成が劇的に回復した (Figure 4g, h)。一方、CD4+ T細胞の移入では、2週間後までIL-13産生は回復しなかった。各実験におけるサイトカイン産生誘導能および細胞回復効果の有意差は p<0.001 であった。

考察/結論

本論文は、Koyasuグループ (慶應大学) が新規リンパ球「natural helper cells」 (現在のILC2 (type 2 innate lymphoid cell)) を初めて発見・命名した、ILC研究の出発点となる画期的な報告である。

先行研究との違い: これまでの自然免疫リンパ球研究が主にNK細胞(TH1型)や細胞傷害活性に焦点を当てていたことと異なり、本研究はTH2型サイトカインを産生する自然免疫リンパ球の存在を初めて明確に示した。これは、TH1/TH2バランスが獲得免疫だけでなく自然免疫レベルでも制御されるという新規な概念を提唱した点で極めて重要である。

新規性: 本研究で初めて同定されたFALC (fat-associated lymphoid cluster) は、脂肪組織が単なるエネルギー貯蔵器官ではなく、免疫機能を持つ組織であるという概念を裏付ける新規なリンパ組織構造である。IL-33 (interleukin-33) がILC2を介して蠕虫感染防御の初期TH2応答を駆動するというシグナル経路は、現在のアレルギー、喘息、好酸球性炎症の病態機序の中核概念として確立されている。IL-33受容体 (ST2)、TSLP、IL-25という3つのILC2活性化経路が後に体系化されたが、本論文はその基盤となるIL-33-ILC2軸の重要性を初めて示した。

臨床応用: 臨床応用の観点から、本研究の知見は、ILC2を標的とする治療法の開発に大きく貢献した。現在、抗TSLP抗体 (tezepelumabなど) が重症喘息治療薬として承認されており、本論文はその細胞生物学的基盤を提供したと言える。ILC2はアレルギー性疾患や寄生虫感染症だけでなく、がん免疫や代謝性疾患など多様な疾患への関与が示唆されており、臨床的意義は非常に大きい。

残された課題: 残された課題としては、ILC2の詳細な分化・維持機序、特に発生段階における転写因子ネットワークの全容解明が挙げられる。例えば、GATA3やc-MafといったTH2関連転写因子の発現は確認されたが、それらの発現を制御する上流のシグナルや転写因子の同定は今後の研究の方向性として重要である。また、ヒトにおける機能的対応細胞のさらなる詳細な同定と、マウスモデルで得られた知見のヒト病態への外挿性の検証も重要である。さらに、アレルギーおよびがん免疫におけるILC2の役割の解明、特に腫瘍微小環境におけるILC2の機能的異質性や可塑性の理解は、今後の研究の方向性として重要である。

方法

マウス腸間膜、腎臓周囲、性器周囲の脂肪組織から細胞を分離し、フローサイトメトリーを用いて詳細な解析を行った。使用したマウスは C57BL/6J 背景の野生型マウスのほか、Rag2-/- (recombination activating gene 2-deficient) マウス、nu/nu (nude) マウス、gc-/- (gamma c-deficient) マウス、Il7-/- (interleukin 7-deficient) マウス、Rorc-GFP/GFP (RAR-related orphan receptor gamma-GFP knock-in) マウス、aly/aly (alymphoplasia) マウス、Sl/Sld (Steel) マウス、W/Wv (white-spotting) マウスなどの様々な遺伝子改変マウスを用いた。Lin-(CD3e、CD4、CD8a、TCRb、TCRd、CD5、CD19、B220、NK1.1、Ter119、Gr-1、Mac-1、CD11c、FceRIa)c-Kit+Sca-1+細胞を同定し、そのサイトカイン産生、増殖、分化能を評価した。サイトカイン産生は、PMA (phorbol myristate acetate) とイオノマイシン、IL-33、IL-2とIL-25の組み合わせなどの刺激を用いて、ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) および細胞内サイトカイン染色により測定した。増殖能は、IL-2刺激下での長期培養により評価した。

FALC c-Kit+Sca-1+細胞の系統的特徴を明らかにするため、前述の遺伝子改変マウスを用いて、これらの細胞の発生・分化における依存性を検討した。また、マイクロアレイ解析およびRT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction) により、FALC c-Kit+Sca-1+細胞の遺伝子発現プロファイルを、胸腺DN2 (double negative 2) 細胞やLTi (lymphoid tissue inducer) 細胞と比較した。

B1細胞の自己複製支持機能は、CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 標識B1細胞 (腹膜腔由来CD19+CD23-) とFALC細胞の共培養実験、およびCFSE標識B1細胞のRag2-/-マウスまたはgc-/-Rag2-/-マウスへの養子移入実験により評価した。IL-5中和抗体を用いた実験により、B1細胞増殖におけるIL-5の役割を検討した。脾臓B細胞との共培養により、IgA (immunoglobulin A) 産生促進能も評価した。

蠕虫感染防御における役割を評価するため、Nippostrongylus brasiliensis (N. brasiliensis) 感染モデルを用いた。Rag2-/-マウスおよびgc-/-Rag2-/-マウスにIL-33を投与し、血清サイトカインレベルと小腸の杯細胞過形成を評価した。N. brasiliensis感染後の野生型、Rag2-/-、gc-/-Rag2-/-マウスにおける血清IL-5/IL-13産生、腸間膜でのIL-5/IL-13 mRNA誘導、および杯細胞過形成を比較した。さらに、gc-/-Rag2-/-マウスへのFALC c-Kit+Sca-1+細胞またはCD4+ T細胞の養子移入実験を行い、蠕虫感染後のIL-13産生と杯細胞過形成の回復を検討した。

統計解析には Mann-Whitney U test を用いた。