- 著者: Simone M. Haag, Muhammet F. Gulen, Luc Reymond, Antoine Gibelin, Laurence Abrami, Alexiane Decout, Michael Heymann, F. Gisou van der Goot, Gerardo Turcatti, Rayk Behrendt, Andrea Ablasser
- Corresponding author: Andrea Ablasser (Global Health Institute, Swiss Federal Institute of Technology Lausanne (EPFL), Lausanne, Switzerland)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-07-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 29973723
背景
STING (stimulator of interferon genes) は、細胞質内における異常な二本鎖DNA (double-stranded DNA: dsDNA) を感知するcGAS (cyclic GMP-AMP synthase) が産生するセカンドメッセンジャー cGAMP (cyclic GMP-AMP) や、細菌由来の環状ジヌクレオチドを直接受容する中心的な細胞内シグナル伝達アダプター分子である。正常な状態では、STINGは小胞体 (endoplasmic reticulum) に局在しているが、リガンド結合に伴ってゴルジ装置へと移行し、そこでTBK1 (TANK-binding kinase 1) をリクルートして活性化する。これにより、下流の転写因子であるIRF3 (interferon regulatory factor 3) およびNF-κB経路が活性化され、I型インターフェロン (type I interferon: IFN) や各種炎症性サイトカインの強力な産生が誘導される。
先行研究において、STINGの慢性的な活性化は、Aicardi-Goutières症候群 (AGS) やSAVI (STING-associated vasculopathy with onset in infancy) などの単遺伝子性自己炎症性疾患の病態形成に直接関与していることが報告されている (Ishikawa et al. Nature 2009)。また、Stetson et al. (2008) は、Trex1 (three-prime repair exonuclease 1) の欠損が自己DNAの蓄積を招き、これがcGAS-STING経路を介して致死的な自己炎症性心筋炎を惹起することを報告している。さらに、Ahn et al. (2012) は、自己DNAに起因する炎症性疾患モデルにおいてSTINGが病態の主たる駆動因子であることを実証した。このように、STINGは自己炎症性疾患および慢性炎症性疾患における極めて有望な治療標的として注目を集めてきた。
しかしながら、高活性かつ選択的な小分子STING阻害剤の開発はこれまで極めて困難であり、実用的なアンタゴニストは存在しなかった。特に、STINGの活性化プロセスにおいてゴルジ装置におけるパルミトイル化修飾が重要な役割を果たすことは示唆されていたものの (Mukai et al. 2016)、その詳細な分子機構や薬理学的な阻害アプローチは未解明のままであった。これまでの阻害剤開発の試みは、主にリガンド結合ポケットを標的とするものであったが、十分な特異性や生体内安定性、細胞透過性を兼ね備えた化合物は得られておらず、治療薬開発の大きなギャップとなっていた。すなわち、生体内で機能する選択的かつ強力なSTING阻害剤が決定的に不足している状況であり、このシグナル伝達経路を特異的に遮断する新規の薬理学的アプローチの確立という課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、ハイスループットスクリーニング (high-throughput screening: HTS) を用いて、STINGの活性化を強力かつ選択的に阻害する新規小分子アンタゴニストを同定することである。さらに、同定された化合物の詳細な作用機序を分子レベルで解明し、特にSTINGの共有結合標的、パルミトイル化修飾への影響、およびゴルジ装置における多量体クラスター形成抑制機構を明らかにする。最終的には、cGAS-STING経路の持続的活性化によって重篤な多臓器自己炎症を呈する疾患モデルマウス (Trex1欠損マウス) を用いて、同定した阻害剤が生体内で安全かつ有効に炎症病態を改善できるかを検証し、自己炎症性疾患に対する新たな治療戦略としての基盤を確立することを目指す。
結果
C-178/C-176の同定とマウスSTINGに対する選択的阻害活性: ハイスループットスクリーニングにより、ニトロフラン誘導体C-178およびC-176を同定した。これらの化合物は、HEK293T細胞においてSTING依存性のIFNβルシフェラーゼレポーター活性を0.01-5 µMの濃度範囲で強力かつ用量依存的に抑制したが、RIG-IやTBK1依存性のレポーター活性には影響を与えなかった (Fig. 1b)。マウス骨髄由来マクロファージ (BMDM) において、C-178はcGAMP、cyclic di-GMP、dsDNAなどの異なるSTING作動薬によって誘導されるIfnb1遺伝子発現を強力に抑制した (Fig. 1d, e)。RNAシーケンス解析の結果、C-178はSTING作動薬CMAによって誘発される上位500個の遺伝子発現上昇のうち、99.6% (498遺伝子) を有意に抑制した (Extended Data Fig. 2c)。さらに、C-178はCMA刺激によるTBK1のリン酸化を完全に阻害した (Fig. 1f)。一方で、C-178およびC-176はヒト細胞 (THP-1およびWI-38) におけるSTING活性化には効果を示さず、マウスSTING (mmSTING) に対する種特異的な選択性を有することが明らかになった (Extended Data Fig. 2e)。
Cys91への特異的な共有結合によるSTING不活性化: mmSTINGのN末端領域 (21-137残基) に対するアラニンスキャニング変異導入実験の結果、91番目のシステイン残基をアラニンに置換したSTING(C91A)変異体のみがC-178による阻害作用に対して完全な耐性を示した (Fig. 2b)。細胞ウォッシュアウト実験において、C-178処理後の細胞は薬剤洗浄後もSTING活性化に対する抑制効果が持続し、不可逆的な共有結合形成が示唆された (Extended Data Fig. 3a)。野生型mmSTINGを用いたネイティブ質量分析では、C-178の結合に伴う質量シフトが確認されたが、C91S変異体ではこのシフトが完全に消失した (Fig. 2c, Extended Data Fig. 3c)。トップダウンLC-MS/MS解析により、Cys91に対する直接的な共有結合修飾が確定した (Extended Data Fig. 3d)。クリックケミストリー対応のアルキン誘導体C-176-ALを用いた生細胞内プロファイリングでは、WT mmSTINGが特異的に標識されたのに対し、C91AおよびC91S変異体、ならびにヒトSTINGは全く標識されなかった (Fig. 2e)。また、アジド修飾誘導体C-176-AZは、非特異的共有結合プローブであるヨードアセトアミドと比較して極めて低いバックグラウンドプロテオーム反応性を示し、超反応性システイン含有タンパク質パネルの中でもSTINGのみを特異的に標識したことから、高い標的選択性が実証された (Extended Data Fig. 4f, g)。
パルミトイル化阻害を介したSTING多量体化およびTBK1リクルートの阻止: 免疫染色の結果、C-178はSTINGの小胞体からゴルジ装置への移行プロセス自体には影響を及ぼさなかった (Fig. 3a)。しかし、[3H]-パルミテート代謝標識アッセイにおいて、CMA刺激によって誘導されるSTINGのパルミトイル化修飾は、C-178の存在下で著明に抑制された (Fig. 3c)。この抑制効果はトランスフェリン受容体やカルネキシンのパルミトイル化には影響せず、STINGに極めて特異的であった (Extended Data Fig. 5d, e)。ブルーネイティブPAGEおよびDSS化学架橋アッセイにより、活性化されたSTINGはゴルジ装置において高分子量の多量体クラスターを形成することが示されたが、C-178、C-176、および非選択的パルミトイル化阻害剤である2-BP (2-bromopalmitate) は、この多量体形成を完全に阻止した (Fig. 3d, Extended Data Fig. 5f)。さらに、共免疫沈降実験において、STING活性化に伴うTBK1のリクルートおよびTBK1のリン酸化が、C-178処理によって完全に消失することが確認された (Fig. 3e)。これらの結果から、阻害剤がCys91に共有結合することで、活性化に必要なパルミトイル化を阻害し、その結果としてゴルジ装置における多量体クラスター形成と下流のTBK1リクルートを物理的に遮断するという新規の作用機序が明らかになった。
in vivoにおけるC-176の抗炎症効果と自己炎症性病態の改善: 生体内における有効性を検証するため、溶解性を向上させたC-176を野生型C57BL/6Jマウスに腹腔内投与した。C-176の前投与により、CMA誘発性の血清I型IFNおよびIL-6レベルの上昇が著明に抑制された (Fig. 4a)。C-176は短い血清半減期を示すものの、共有結合性阻害剤であるため、生体内において持続的な阻害効果を発揮した (Extended Data Fig. 6b)。次に、cGAS-STING経路の持続的活性化により重篤な多臓器炎症を呈するAicardi-Goutières症候群モデルであるTrex1-/-マウスに対し、C-176を2週間投与した。その結果、血清I型IFNレベルは約70%減少し (p<0.001, n=5 mice)、心臓における炎症パラメーターが強力に抑制された (Extended Data Fig. 7b, c)。さらに、3ヶ月間の長期投与試験 (C-176群 n=5 mice vs vehicle群 n=4 mice) において、心臓におけるIsg15およびCxcl10 mRNAの発現が有意に低下し (Fig. 4b), 心臓組織のH&E病理組織スコア (組織傷害+炎症スコア) が劇的に改善した (Fig. 4c)。野生型マウスを用いた2週間の連日投与試験では、血液細胞数や肝・腎機能パラメータに異常は認められず、顕著な毒性は観察されなかった (Extended Data Fig. 6d-g)。
H-151:ヒトおよびマウスSTINGを標的とする次世代共有結合阻害剤: ヒトSTING (hsSTING) を阻害する化合物のスクリーニングから、新規アンタゴニストH-151を同定した (Fig. 5a)。H-151は、ヒト単球系細胞株THP-1において、cGAMP刺激によるIFNB1 mRNA発現およびTBK1リン酸化を0.02-2 µMの濃度範囲で強力に抑制した (Fig. 5b-d)。代謝標識アッセイにより、H-151はhsSTINGのパルミトイル化を特異的に阻害することが確認された (Fig. 5e)。質量分析およびトップダウンLC-MS/MS解析により、H-151はhsSTINGのCys91に不可逆的に共有結合していることが実証された (Fig. 5f, Extended Data Fig. 9i)。H-151はマウスSTINGに対しても交差活性を示し、CMA投与マウスにおける血清I型IFNおよびIL-6の上昇を有意に抑制した (Fig. 5g, n=5 mice)。さらに、Trex1-/-Ifnb1Δβ-luc/Δβ-lucレポーターマウスを用いた7日間のH-151投与試験において、全身のIFNβ駆動性生物発光シグナルが著明に減少した (Fig. 5h, i, p=0.0007, n=3 mice)。これにより、H-151がヒトおよびマウスの両方のSTINGを強力に阻害し、生体内において優れた抗炎症効果を発揮する実用的な治療薬候補であることが証明された。
考察/結論
本研究は、cGAS-STING経路の活性化を薬理学的に阻害する、これまで報告されていない新規の共有結合型小分子アンタゴニストを初めて同定した画期的な成果である。特に、STINGの膜貫通領域に位置するCys91に化合物が共有結合し、活性化に伴うパルミトイル化修飾を特異的に阻害するという分子メカニズムの解明は、学術的にも極めて新規性が高い。本研究により、パルミトイル化がゴルジ装置におけるSTINGの多量体クラスター形成および下流のTBK1リクルートを制御する必須の空間的プラットフォームとして機能していることが、薬理学的ツールを用いて初めて実証された。
本研究で開発されたC-176/C-178 (マウス特異的) およびH-151 (ヒト・マウス共通) は、従来の可逆的阻害剤と異なり、短い血清半減期でありながら持続的な生体内効果を発揮するという共有結合阻害剤ならではの優れた薬物動態学的特性を示した。さらに、プロテオーム全体に対するバックグラウンド反応性が極めて低く、高い標的特異性を有することが確認された。Trex1欠損自己炎症モデルマウスを用いた3ヶ月間の長期投与試験において、心臓などの多臓器における炎症病態や組織傷害スコアを有意に改善し、かつ明らかな毒性を示さなかったという知見は、本化合物クラスの臨床応用に向けた強力な前臨床証拠 (proof-of-concept) を提示しており、その臨床的意義は極めて大きい。
先行研究との違い: 本研究は、従来のSTING阻害研究が試みてきたリガンド結合ポケットへの競合的阻害アプローチとは異なり、膜貫通領域の特定のシステイン残基 (Cys91) への共有結合を介して、翻訳後修飾であるパルミトイル化を特異的に阻害するという全く新しい作用機序を初めて提示した点で、これまでの報告と明確に異なる。
新規性: 本研究で初めて、STINGの活性化に不可欠なパルミトイル化修飾を直接的かつ選択的に遮断する共有結合性小分子阻害剤C-176およびH-151を新規に同定し、その立体特異的な結合様式を質量分析レベルで解明した。
臨床応用: 本知見は、Aicardi-Goutières症候群やSAVIなどの重篤な単遺伝子性自己炎症性疾患のみならず、全身性エリテマトーデス (SLE) や無菌性心筋炎など、cGAS-STING経路の異常活性化が関与する広範な慢性炎症性疾患に対する新規治療薬としての臨床応用に直結する。
残された課題: 今後の検討課題として、H-151およびその誘導体のさらなる最適化による経口吸収性の向上や、より詳細な長期安全性のプロファイリングが挙げられる。また、がん免疫療法における免疫チェックポイント阻害剤との併用効果や、腫瘍微小環境におけるSTING阻害の二面性 (抗腫瘍免疫の抑制リスク) の解明、そして最終的にはヒト自己炎症性疾患患者を対象とした臨床試験の実施が今後の重要な研究方向性である。
方法
約20,000種類の化合物ライブラリーを対象に、マウスSTING (mmSTING) とIFNβプロモーター駆動型ルシフェラーゼレポーターを安定導入したHEK293T細胞を用いた細胞ベースのハイスループットスクリーニングを実施した。この一次スクリーンから、ニトロフラン骨格を有する誘導体C-178およびC-176を同定した。さらに、ヒトSTING (hsSTING) を標的とする阻害剤を探索するため、約30,000化合物のライブラリーから同様のレポーターアッセイを用いてスクリーニングを行い、新規化合物H-151を同定した。
化合物の結合部位を同定するため、mmSTINGのN末端領域 (アミノ酸21-137残基) を対象にアラニンスキャニング変異導入実験を実施した。共有結合の形成を検証するため、細胞ウォッシュアウト実験、野生型 (WT) およびC91S変異型mmSTINGを用いたネイティブ質量分析 (native mass spectrometry)、およびトップダウンLC-MS/MS (liquid chromatography-tandem mass spectrometry) 解析を行った。また、クリックケミストリー対応のアルキン修飾誘導体C-176-AL、H-151-AL、およびアジド修飾誘導体C-176-AZを合成し、生細胞内でのターゲットプロファイリングや、超反応性システイン含有タンパク質パネルに対する選択性評価を行った。
STINGの活性化に伴うパルミトイル化修飾の定量には、[3H]-パルミテートを用いた代謝標識アッセイ (metabolic labelling) を実施し、免疫沈降法によって回収したSTINGの放射活性を検出した。STINGの多量体化およびクラスター形成の解析には、ブルーネイティブPAGE (blue native PAGE) およびDSS (disuccinimidyl suberate) を用いた化学架橋アッセイ、ならびに共焦点レーザー走査顕微鏡を用いた免疫染色法を適用した。
in vivoにおける薬理効果の検証として、C57BL/6J野生型マウスにSTING作動薬であるCMA (10-carboxymethyl-9-acridanone) を投与し、誘発される血清I型IFNおよびIL-6レベルに対するC-176およびH-151の抑制効果を評価した。さらに、自己炎症性疾患モデルであるTrex1欠損 (Trex1-/-) マウスに対し、C-176を2週間または3ヶ月間長期投与し、血清中I型IFNレベル、心臓における炎症性遺伝子 (Isg15, Cxcl10) の発現、および組織病理学的スコアを評価した。また、H-151のin vivo効果をリアルタイムで可視化するため、Trex1-/-Ifnb1Δβ-luc/Δβ-lucレポーターマウスを用いて、7日間の投与期間における全身の生物発光イメージング解析を行った。統計解析にはGraphPad Prismを使用し、Student t-testまたはone-way ANOVAを用いて有意差を算出した。