- 著者: Hiroki Ishikawa, Zhe Ma, Glen N. Barber
- Corresponding author: Glen N. Barber (University of Miami, Miami, FL, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2009
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 19776740
背景
自然免疫系は、病原体の早期検出とI型インターフェロン(IFN)産生を含む宿主防御の開始に不可欠である。しかし、RNAウイルス認識と比較して、DNA病原体によるI型IFN誘導の分子メカニズムについては理解が不足していた。RNA認識経路では、RIG-I (retinoic acid-inducible gene I) やMDA5 (melanoma differentiation-associated gene 5) がウイルスRNA二本鎖を検知し、IFN産生を誘導する経路がYoneyama et al. Nature Immunol. 2004およびKato et al. Nature 2006により確立されていた。しかし、DNA病原体であるHSV-1 (herpes simplex virus type 1) やListeria monocytogenes、細菌DNAがI型IFNを誘導する機序は、RNA認識経路とは独立しており、その実体は不明なままであった。Toll-like receptor 9 (TLR9) がCpGモチーフを持つDNAを認識して形質細胞様樹状細胞(pDC)でIFNを誘導することは知られていたが (Bauer et al. 2001)、非CpG細胞内DNA種を検出してIFN産生を引き起こす受容体やアダプター分子は同定されていなかった。ZBP1 (Z-DNA binding protein 1) / DAI (DNA-dependent activator of IRFs) が細胞内DNA受容体候補として同定されたが (Takaoka et al. 2007)、ノックアウト (KO) マウスでの機能冗長性が指摘されていた。AIM2 (absent in melanoma 2) はDNAセンサーとしてインフラマソーム (IL-1β産生) を活性化するが、I型IFN産生とは独立していた。Barberグループは以前にSTING (stimulator of interferon genes; TMEM173 / MPYS / MITA) を小胞体(ER)に局在する膜貫通タンパク質として同定し、I型IFN誘導に関与すると示唆したが (Ishikawa & Barber 2008)、in vivoでのDNA感染防御とDNAワクチンにおけるSTINGの機能は解明されておらず、どのDNA種がSTING経路を必要とするかも不明なままであった。この分野における重要なギャップは、RNA認識経路 (RIG-I/MDA5) に対応する細胞内DNA認識アダプター分子の実体が不足していたことであり、in vivo感染防御とワクチン免疫原性においてどの分子が不可欠であるかが確立されていなかった。
目的
本研究の目的は、Sting欠損 (Sting-/-) マウスおよびSTING欠損細胞を用いて、STINGがin vitroの多様な非CpG細胞内DNA種(ウイルスDNA、細菌DNA、合成DNA)に応答したI型IFN産生に必須であるかどうかを明らかにすることである。さらに、in vivoでのDNAウイルス (HSV-1) およびRNAウイルス (VSV) 感染からの防御にSTINGが必要であるかどうか、およびDNAワクチンの免疫原性にSTINGが寄与するかどうかを評価する。これらの解析を通じて、STINGがDNA病原体に対する宿主防御とDNAベースワクチンのアジュバント活性において果たす役割を包括的に解明することを目指す。本研究は、STINGが細胞内DNAを介したI型インターフェロン依存性自然免疫に必須であり、DNA病原体に対する宿主防御とDNAワクチンのアジュバント効果を促進するという仮説を検証するものである。
結果
STING欠損MEFで非CpG DNA種へのIFN-β産生が消失: Sting-/-MEFはアデノウイルス (Ad5) DNA、HSV-1/2 DNA、E. coli DNA、子牛胸腺 (CT) DNA、ISD (CpGを含まない45 bp二本鎖オリゴ)、poly(dGC:dGC)のいずれのトランスフェクションでもIFN-β産生が野生型比で10-fold以上消失し (p<0.001)、n=3回の独立実験 (各条件 1×10^5 cells/well) で再現性が確認された (Fig. 1a-f)。poly(dAT:dAT)はSTING非依存的なRIG-I経路によってわずかにIFN産生が維持された。poly(I:C) (MDA5経路) のIFN産生はSTING欠損で影響されなかった。IL-6産生も同様にSTING欠損MEFで著減した。IfnbおよびIfna2 mRNA誘導もSting-/-MEFではほぼ消失し、IRF3核移行およびNF-κB活性化も障害されたことから、STINGがTBK1 (TANK-binding kinase 1) の上流で機能することが示唆された。この結果は、STINGが広範な非CpG DNA種に対するI型IFN応答に必須であることを明確に示した。
抗原提示細胞でもSTINGが必須: STING欠損マクロファージ (n=3 replicates) はISD、HSV-1感染、Listeria monocytogenes感染でのIFN-β産生が著減した。AIM2/インフラマソーム (IL-1β) 産生はSTING欠損で影響されず、STING経路とAIM2経路の独立性が示された (Fig. 1e)。GM-DCs (n=3 replicates) でもDNA感染やISDへのIFN-β/IFN-α産生がSTING依存的であった。FLT3-DC (pDC含む) (n=3 replicates) でも細胞内DNA (ISD、HSV等) によるIFN産生がSTING依存的であったが、外来性CpG ODNはSTING欠損FLT3-DCでも正常に誘導されたことから、TLR9経路はSTINGに依存しないことが確認された (Fig. 1g)。これらのデータは、STINGが線維芽細胞だけでなく、主要な抗原提示細胞においてもDNA認識によるI型IFN産生に不可欠であることを強調する。
in vivo HSV-1感染防御にSTINGが必須:致死感染モデル: Sting-/-マウス (n=7 mice/群) はHSV-1 (静脈内 1×10^7 PFU) 感染後7日以内に全例死亡したが、野生型の80%が生存した (p=0.017、log-rank検定) (Fig. 2a)。感染5日後にSting-/-マウスの脳にHSV-1が高量検出されたが、野生型では検出不能であり、>100-foldの差が認められた (Fig. 2b)。HSV-1感染6時間後の血清では、Sting-/-マウスで野生型に比べてI型IFN産生が著しく減少した (Fig. 2c, d)。RANTESおよびIL-6レベルも同様にSting-/-マウスで著しく減少した (Fig. 2e, f)。さらに、膣内HSV-1投与でもSting-/-マウスは感受性亢進を示した。VSV (negative-strand RNA virus) 静脈内感染でもSting-/-マウス (n=6 mice/群) は野生型より有意に致死感受性が亢進し (Fig. 2g)、早期 (6時間) のI型IFN産生が欠損した (Fig. 2h, i)。EMCV (encephalomyocarditis virus) やpoly(I:C)への応答はSTINGに依存しなかったことから、STINGはMDA5機能に影響しないことが示唆された。これらのin vivoデータは、STINGがDNAウイルスおよび一部のRNAウイルス感染に対する宿主防御に不可欠であることを明確に示した。
フラビウイルスNS4BによるSTINGサプレッション: 黄熱ウイルス (YFV) およびデングウイルスの非構造タンパク質NS4B産物がSTINGのN末端領域 (アミノ酸125-222) と強い相同性を持つことがデータバンク解析で判明した。NS4BはERに局在し、STINGのN末端ドメインと直接会合することで、ISD刺激に応答したSTINGの活性化を>5-fold抑制した (Fig. 2j-l)。このSTINGサプレッション機構はフラビウイルス属に広く保存されており、dengueやZikaウイルスがSTING依存的なI型IFN産生を回避する免疫回避機構の一つであることが示された。この発見は、ウイルスが宿主の自然免疫応答をどのように回避するかについての新たな洞察を提供する。
STINGのリロカリゼーション:ERからSec5陽性小胞へのTBK1との共移動: 細胞内DNA刺激後 (ISD処理 2時間以内)、STINGはTBK1と共にERから核周囲の小胞 (Sec5含有のexocystコンポーネント) へと移動したことが免疫蛍光共焦点顕微鏡で確認された (Fig. 4a, d, e, g)。この移動はSec5のノックダウンによって阻害され、IFN-β産生が著減した (>10-fold低下) (Fig. 4h, i)。STING-TBK1複合体のリロカリゼーションがIFN産生シグナル伝達の空間的基盤を形成し、Sec5との相互作用がTBK1活性化に必要であることが示された。Sting欠損MEFでは、TBK1はISD刺激に応答して核周囲領域への再局在を示さなかった。このことは、STINGがTBK1の細胞内局在と活性化に不可欠であることを示唆する。
DNAワクチンのアジュバント活性にSTINGが必要: Sting-/-マウス (n=5 mice/群) にOVA発現プラスミドDNAを免疫すると、野生型と比較して血清OVA特異的IgGが約5-fold減少した (p<0.05) (Fig. 3a)。さらに脾臓CD8+T細胞頻度 (Sting-/-: <1% vs WT: >5%) とIFN-γ産生 (ELISPOT) もSting-/-マウスで著減した (Fig. 3b, c)。OVAペプチドへの免疫グロブリン応答は正常であり、DNA感知経路のSTINGによる活性化が細胞傷害性T細胞 (CTL) 応答の誘導に特異的に必要であることが示された。この結果は、STINGがDNAワクチンによる適応免疫応答の誘導において重要なアジュバント機能を持つことを実証した。
考察/結論
本論文は、BarberグループがSTINGが細胞内非CpG DNA種(ウイルス、細菌、合成DNA)によるI型IFN産生を媒介する内在性シグナル伝達アダプター分子として必須であることを、in vivoおよびin vitroで包括的に実証した研究である。これまで報告されていない非CpG細胞内DNA種を認識してI型IFNを産生する「第4の核酸認識経路」としてSTINGを位置づけた点が新規な貢献である。既知の核酸認識経路であるTLR9 (CpG DNA認識)、RIG-I/MDA5 (RNA認識)、AIM2 (インフラマソーム活性化) と異なり、STING経路はこれらの経路とは独立して機能することが示された。
フラビウイルスNS4BによるSTINGサプレッションという免疫回避機構の発見は、dengueやZikaウイルスへのSTING経路を標的とした抗ウイルス戦略の研究に影響を与え、既知のRIG-I/MDA5系サプレッション機構 (NS3/4A等) と異なる新たな免疫回避様式を提示した。DNAワクチンのCD8 T細胞応答にSTINGが必須という発見は、後のcGAS (cyclic GMP-AMP synthase) によるcGAMP産生を介したSTING活性化 (cGAS-STING経路) の基礎となり、現在のSTINGアゴニスト (DMXAA類縁体等) を利用した免疫原性細胞死との相乗効果や腫瘍内I型IFN産生の臨床応用への道筋を拓いた。STINGアゴニストを腫瘍内投与してI型IFNを誘導しT細胞活性化を増強するがん免疫療法は、現在複数の臨床試験で検討されており、IFN産生経路活性化との関連で本研究の直接的な発展形である。
残された課題としては、2009年時点ではSTINGの直接DNA結合活性の有無、cGAMPが内在性STINGリガンドとして機能するかどうかの解明 (後にcGASによるcGAMP産生として解決)、STING下流のシグナル経路の詳細、腫瘍免疫でのSTINGの役割、および自己免疫疾患でのSTING過活性化の病態的意義が挙げられていた。これらの課題は、その後の研究でSTING経路の理解を深める上で重要な方向性を示した。本研究は、STINGがDNA病原体に対する宿主防御とDNAベースワクチンのアジュバント活性に必須であることを確立したが、STINGのERから核周囲小胞への移行メカニズムの詳細や、Sec5以外のexocystコンポーネントとの相互作用についてはさらなる検討が必要である。
方法
Sting欠損 (Sting-/-) マウス (C57BL/6J背景、Jackson Laboratory) 由来の低継代マウス胚線維芽細胞 (MEF; passage 2-5)、骨髄由来マクロファージ、GM-DC (granulocyte-macrophage dendritic cells)、FLT3-DC (pDC含む) をそれぞれ1×10^5 cells/wellで播種した。その後、各種DNAリガンド (ISD: 45 bp非CpGオリゴ、poly(dGC:dGC)、Ad5 DNA、HSV-1株 KOS 由来ゲノムDNA、E. coli DNA、子牛胸腺 CT DNA) をLipofectamine 2000でトランスフェクションまたは直接感染させ、IFN-β産生 (ELISA)、Ifnb/Ifna2 mRNA (RT-qPCR)、IRF3核移行 (免疫蛍光染色)、NF-κB活性化 (レポーターアッセイ) を測定した。 in vivo実験では、野生型 (n=10 mice/群) およびSting-/-マウスに静脈内HSV-1感染 (致死用量 2×10^6 PFU)、膣内HSV-1感染、静脈内VSV感染を行い、生存率、ウイルスタイター (プラーク法)、血清I型IFN、サイトカイン (ELISA) を測定した。DNAワクチン実験では、OVA発現プラスミドDNA 25 μgを野生型またはSting-/-マウス (n=5 mice/群) に筋肉内免疫し、血清OVA特異的IgG (ELISA)、脾臓CD8+T細胞頻度 (FACS)、IFN-γ産生 (ELISPOT) を評価した。 統計解析にはStudent t検定およびlog-rank検定を用い、p<0.05を有意差の基準とした。細胞の固定には4%パラホルムアルデヒドまたはメタノール/アセトン混合液を使用し、蛍光標識抗体を用いて共焦点顕微鏡で観察した。RNAi実験では、Dharmacon社製の21-ヌクレオチドsiRNAデュプレックスを用いてSec5、Trapb (translocon associated protein beta)、Sting、Sec61bの発現を抑制した。STINGのリロカリゼーションは、HA (hemagglutinin) タグ付きSTINGを安定発現するSting-/-MEFを使用し、カルレティキュリンやミトトラッカーとの共染色により評価した。分画実験により、STINGのミクロソーム、MAM (mitochondria-associated ER membrane)、ミトコンドリア画分への局在を解析した。