- 著者: Sung-Wook Hong, Peter D. Krueger, Kevin C. Osum, Thamotharampillai Dileepan, Adam Herman, Daniel L. Mueller, Marc K. Jenkins
- Corresponding author: Marc K. Jenkins (jenki002@umn.edu) (Center for Immunology / Department of Microbiology and Immunology, University of Minnesota Medical School, Minneapolis, MN, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-07-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 35794484
背景
ヒトは日常的に約100 gもの多量かつ多様な異種食物タンパク質を摂取しているが、健常な状態ではこれらに対する病原性の免疫応答は生じない。この経口免疫寛容 (oral tolerance) の維持機構として、これまでの先行研究では食物抗原特異的T細胞の細胞死や機能不活化、IL-10産生Tr1 (type 1 regulatory T) 細胞、TGF-βを活性化するTH3 (T helper 3) 細胞、あるいはFOXP3+制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) の末梢における誘導などが提唱されてきた。例えば、経口免疫寛容におけるTreg細胞の重要性を示した Curotto de Lafaille et al. (2008) や、食物抗原が小腸においてTreg細胞を誘導して粘膜免疫を制限することを示した Kim et al. (2016) などの既報が存在する。しかし、これらの分野における決定的な知見の多くは、TCR (T cell receptor) 単クローン性遺伝子導入マウスを用いた実験系に依存しており、これらはクローン頻度が異常に高いため生理的な免疫応答とは異なる挙動を示す可能性が指摘されていた。したがって、多様で正常なT細胞レパートリーを持つ野生型個体において、食物抗原特異的なポリクローナルCD4+ T細胞が実際にどのような動態を示し、どのような分化・機能状態を経て寛容を維持しているのか、その詳細な細胞集団の全貌は未解明であり、直接的な追跡研究は圧倒的に不足しているという課題が存在した。
目的
本研究の目的は、正常なT細胞レパートリーを保持する野生型C57BL/6Jマウスにおいて、実際の食物抗原である小麦グリアジンに由来するペプチド (GLP; gliadin peptide) に特異的な内在性ポリクローナルCD4+ T細胞を直接追跡することである。高感度なMHC-II (major histocompatibility complex class II) 蛍光標識テトラマー技術と磁気濃縮法を組み合わせることで、食物抗原に曝露されたナイーブCD4+ T細胞が、腸管および全身のリンパ組織において示す増殖、分化、機能不全、およびTreg細胞への変換プロセスを単一細胞レベルで解明し、経口免疫寛容を支える多層的な免疫抑制機構を明らかにすることを目指した。
結果
食物抗原特異的CD4+ T細胞の緩徐な増殖とTreg/THlin細胞への分化: グリアジン非含有食で飼育されたマウスにおけるGLP:I-Ab特異的CD4+ T細胞数は約200個であり、その約80%がナイーブ conventional T (Tconv) 細胞、約10%がTreg細胞であった。しかし、グリアジン含有食を1週間摂取させると、特異的T細胞数は約2,500個へと緩やかに増加した (Fig. 1c)。この増加した集団の構成比は、約60%がTreg細胞、約5%がCXCR5+ T濾胞ヘルパー (TFH; T follicular helper) 細胞、約25%がT-betやRORγtなどの系統特異的転写因子を欠くTH-lineage-negative (THlin) 細胞であり、炎症性のTH1細胞やTH17細胞は極めて少数であった (Fig. 1d)。対照的に、2Wペプチドと粘膜アジュバントであるコレラ毒素 (CT) を同時投与した陽性対照群では、特異的T細胞数が60,000個以上にまで爆発的に拡大し、TH1細胞およびTH17細胞の割合が著明に増加した (Fig. 1f, g)。この結果は、炎症を伴わない通常の食物抗原曝露下では、特異的T細胞が過剰な増殖を抑制され、主にTreg細胞とTHlin細胞へと分化することを示している。この実験系では、n=6 miceを用いた解析により、アジュバント非存在下での食物抗原単独曝露がマイルドな細胞増殖(約12.5-fold increase)に留まることが確認された。
THlin細胞の多面的なアネルギー特性とscRNA-seqによるサブセット解析: フローサイトメトリー解析により、THlin細胞はアネルギーマーカーであるFR4およびCD73を高発現し、さらに共抑制分子であるCD200、BTLA、VISTA、CTLA4を豊富に発現していることが判明した (Extended Data Fig. 3b)。これらの細胞は、IL-4レポーター陰性、LAG-3陰性、LAP陰性であり、TH2細胞、Tr1細胞、TH3細胞のいずれとも異なる独立した集団であった (Extended Data Fig. 2c)。scRNA-seq解析(11クラスターのUMAP解析)により、ペプチド3回投与後のTHlin細胞は、SellやCcr7を発現するナイーブ様アネルギー細胞(cluster 0: 23%)、活性化状態にあるブラスティング様アネルギー細胞(cluster 1: 33%)、およびIzumo1rやCtla4を発現するTFH様アネルギー細胞(cluster 3: 13%)などの複雑なサブセットから構成されていることが明らかになった (Fig. 2b, Table 1)。機能評価において、THlin細胞はTH1細胞やTH17細胞と比較してIL-2産生能が著しく低下しており、in vitro刺激におけるTH1細胞への再分化能も制限されていた。さらに、n=5 miceからソートしたTHlin細胞をナイーブレシピエントマウスへ養子移植し、ペプチド投与を継続したところ、移植細胞の一部がIL-2依存的にFOXP3+ Treg細胞へと変換することが実証され、抗IL-2抗体の投与によってこの変換は有意に阻止された (Fig. 3d)。この過程において、THlin細胞からTreg細胞への分化は、抗IL-2抗体投与群で著しく抑制され(p<0.001)、IL-2シグナルがこのアネルギー前駆細胞からのTreg誘導に必須であることが示された。
Treg細胞による炎症性T細胞の抑制とTHlin細胞形成の非依存性: Foxp3DTRマウスを用いてTreg細胞を除去した状態でペプチドを経口投与したところ、特異的CD4+ T細胞の総数は対照群と比較して10倍に増加した (Fig. 4a, b)。内訳をみると、TFH細胞が20倍、TH1細胞が100倍に激増したのに対し、THlin細胞は2倍の微増に留まり、TH17細胞の増加は認められなかった (Fig. 4c)。また、Treg細胞除去マウスにおいてIL-2を中和すると、TFH細胞およびTH1細胞の過剰な増加はそれぞれ90%および50%抑制されたが、THlin細胞の挙動には影響を与えなかった (Fig. 4a-c)。これらの結果は、Treg細胞がIL-2を隔離(消費)することによって炎症性のTH1細胞やTFH細胞の発生を強力に抑制している一方で、THlin細胞の初期形成自体はTreg細胞の存在に依存せず、抗原提示時のシグナル環境によって自律的に誘導されることを示している。このTreg除去実験(n=4 mice)において、Treg細胞が欠損すると抗原特異的T細胞の増殖が約10-fold increaseを示すことから、TregによるIL-2隔離が全身性の過剰な免疫活性化を防ぐ主要な防壁であることが裏付けられた。
考察/結論
本研究は、正常なT細胞レパートリーを有する野生型マウスにおいて、食物抗原特異的な内在性ポリクローナルCD4+ T細胞の挙動を初めて直接追跡することに成功し、経口免疫寛容の維持における「多層的なT細胞機能不全」という新しい概念的枠組みを提示した。
先行研究との違い: 従来の経口免疫寛容モデルは、「抗原特異的T細胞のクローン除去・不活化」または「Treg細胞による能動的抑制」という二者択一的な視点で語られることが多かった。これに対し、本研究は食物抗原に曝露されたナイーブT細胞が、単一の不活化状態に陥るのではなく、THlin細胞と呼ばれる非正統的なアネルギー様サブセットの多層的なネットワークを形成し、これが状況に応じてIL-2依存的にTreg細胞へと分化するという連続的かつ相補的な維持モデルを提唱した点で、これまでの単純化された寛容モデルと大きく異なる。
新規性: 本研究は、Treg細胞を除去した環境下であってもTHlin細胞の形成自体は阻害されず、一方でTH1細胞が100倍に激増するという事実を本研究で初めて明らかにした。これは、Treg細胞が主にIL-2の隔離を介して病原性TH1/TFH細胞の拡大を抑制する防壁として機能する一方で、THlin細胞の形成はTreg非依存的な初期の抗原提示環境(低共刺激シグナルなど)によって決定されるという、これまで報告されていない相互補完的な二重の寛容維持機構の存在を証明している。
臨床応用: 食物抗原特異的なTHlin細胞からTreg細胞への変換プロセスがIL-2シグナルに依存しているという発見は、経口免疫寛容の誘導および維持におけるIL-2の重要性を浮き彫りにしている。この知見は、食物アレルギーやセリアック病などの炎症性腸疾患における免疫寛容の破綻病態を理解する上で極めて重要であり、低用量IL-2療法や抗原特異的アネルギーT細胞の誘導を標的とした新たな免疫療法の開発に向けた臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトの末梢血や腸管組織において、本研究で同定されたマウスのTHlin細胞に相当する「FR4+CD73+様のアネルギー性CD4+ T細胞サブセット」が実際に存在するかどうかの検証が必要である。また、食物アレルギー患者やセリアック病患者において、このTHlin細胞からTreg細胞への変換効率やサブセット構成比にどのような異常が生じているかを解明することが、臨床応用への展開における重要なステップとなる。
方法
グリアジン由来ペプチド (GLP: CNVYIPPYCTIAP) とI-Ab分子からなるMHC-IIテトラマーを作製した。グリアジン非含有食 (AIN-93G) で飼育したC57BL/6Jマウス、およびグリアジン含有食 (Teklad global 18%) に切り替えて1週間経過したマウスから、脾臓およびリンパ節(Peyer’s patches、腸間膜リンパ節、肝臓リンパ節を含む腸肝軸二次リンパ器官 [GLA SLOs; gut-liver axis secondary lymphoid organs]、およびそれ以外の非腸肝軸二次リンパ器官 [non-GLA SLOs])を回収し、磁気濃縮フローサイトメトリーを用いてGLP:I-Ab特異的CD4+ T細胞を定量・解析した。比較対照として、2Wペプチド (EAWGALANWAVDSA)、TOXOペプチド (AVEIHRPVPGTA)、LLOペプチド (NEKYAQAYPNVS) を3回経口投与(day 0, 2, 4)するモデル(3×プロトコール)および6回投与(day 0, 2, 4, 6, 8, 10)するモデル(6×プロトコール)を用いた。一部の群には粘膜アジュバントとしてコレラ毒素 (CT; cholera toxin) を同時投与した。リンパ球の二次リンパ器官からの出輸を阻害するため、S1P (sphingosine-1-phosphate) 受容体1アゴニストであるFTY720を投与した。Treg細胞の関与を検証するため、Foxp3DTRマウスを用いてジフテリア毒素投与によるTreg細胞の選択的除去を実施した。また、IL-2の関与を調べるため、抗IL-2中和抗体 (S4B6) を投与した。単一細胞レベルでの遺伝子発現解析として、CD44hiテトラマー結合細胞をソートし、10x Genomicsプラットフォームを用いた単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq) を実施した。データ解析には、Stuart et al. Cell 2019 に記載のSeuratパッケージ、および Hafemeister et al. GenomeBiol 2019 に基づくsctransform法を用いた。統計解析にはGraphPad Prism 9を使用し、2群間比較にはStudent’s t-test、多群間比較にはone-way ANOVAおよびTukey’s post hoc testを用いた。