- 著者: Mateusz Legut, Zoran Gajic, Maria Guarino, Zharko Daniloski, Jahan A. Rahman, Xinhe Xue, Congyi Lu, Lu Lu, Eleni P. Mimitou, Stephanie Hao, Teresa Davoli, Catherine Diefenbach, Peter Smibert, Neville E. Sanjana
- Corresponding author: Mateusz Legut (mateusz.legut@gmail.com); Neville E. Sanjana (neville@sanjanalab.org) (New York Genome Center / Department of Biology and Department of Neuroscience and Physiology, New York University, New York, NY, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-03-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 35296855
背景
キメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法は、CD19を標的とするCAR-T細胞が血液がんに対して顕著な効果を示し、米国食品医薬品局 (FDA) から5製品が承認されるなど、がん治療に革命をもたらした。しかし、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の効果は依然として低く、血液がんにおいても多くの患者が持続的な奏効を得られていないのが現状である。この耐性の主な原因は、腫瘍微小環境におけるT細胞の機能不全、特にT細胞疲弊 (T cell exhaustion) であることが複数の研究で示されている。T細胞の機能不全に寄与する遺伝子や経路を特定するための多大な努力が払われてきたが、これまでのゲノムワイドスクリーニングは、CRISPRベースの機能喪失 (loss-of-function) スクリーンに限定されており、T細胞機能の負の調節因子を同定するにとどまっていた。例えば、Shifrut et al. Cell 2018 や Dong et al. Cell 2019 は、CRISPRを用いた機能喪失スクリーンによりT細胞機能の負の調節因子を同定したが、T細胞機能を増強する正の調節因子を包括的に特定する機能付与 (gain-of-function) スクリーンは、ヒト初代T細胞では大規模に実施されていなかった。特に、大規模なCas9-転写活性化因子融合タンパク質のサイズと免疫原性が、in vivoまたは臨床応用におけるT細胞工学での使用を制限してきた。さらに、Sommermeyer et al. Leukemia 2016 では、CD4+とCD8+ T細胞の定義された比率が抗腫瘍活性に重要であることが示されているが、両方のT細胞サブセットで増殖を促進する遺伝子を同時に特定する大規模な機能付与スクリーンは不足していた。このため、T細胞機能を増強する正の調節因子をゲノムワイドに同定するためのシステム的なアプローチが不足しており、より有効な細胞免疫療法の開発に向けた新たな戦略が未開拓であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、T細胞の増殖、活性化、抗腫瘍活性を向上させる新規遺伝子を特定することを目的とした。
目的
本研究の目的は、約12,000個のバーコード付きヒトオープンリーディングフレーム (ORF) ライブラリーを用いたゲノムスケール機能付与スクリーニングをヒト初代CD4+およびCD8+ T細胞で実施し、T細胞の増殖、活性化、サイトカイン分泌を効果的に増強するORFを同定することである。特に、スクリーニングで最も上位にランクされたORFであるリンフォトキシン-β受容体 (LTBR) の作用機序を詳細に解析し、その機能増強が正規NF-κB経路の恒常的活性化を介していることを実証する。LTBR (lymphotoxin-β receptor) は通常、間質細胞や骨髄系細胞に発現するが、リンパ球には発現しないことが知られている。さらに、LTBRおよびその他の上位ORFが、CAR-T細胞およびγδ T細胞の抗原特異的抗腫瘍活性を改善する可能性を検証し、次世代T細胞療法の開発に向けた新たな戦略を提供することを目指す。また、ORF発現T細胞における転写産物、表面抗原、ORFの同一性を高スループットで定量化する新規単一細胞ゲノミクス手法であるOverCITE-seq (Overexpression-compatible Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by Sequencing) を開発し、ORFの作用機序解明に活用することも目的とする。
結果
LTBRがゲノムワイドスクリーンで最も有意にT細胞増殖を促進するORFとして同定された: 約12,000個のヒトORFを用いたゲノムスケール機能付与スクリーンにおいて、CD4+およびCD8+ T細胞の両方でORFバーコードが一貫して濃縮された遺伝子をRobust Rank Aggregationで解析した結果、LTBRが最も上位にランクされたORFとして同定された (Fig 1)。LTBRは通常、間質細胞や骨髄系細胞に発現するが、リンパ球には発現しないことが知られている。他の上位ORFには、MAPK3 (ERK1)、BATF、CD59、IL12B、IL23A、CDK1、FOSBなどが含まれた。スクリーニングとは独立したドナーからの検証(33個のORF、n=2+ donors、3 biological replicates)では、16/33個のORFがT細胞増殖を有意に改善し、CD4+とCD8+ T細胞間でSpearman r=0.61 (p=0.002) の相関が認められた。特にLTBRは、CD4+およびCD8+ T細胞の両方でIL-2およびIFN-γ産生を5倍以上増加させ、CD25およびCD40Lの発現も増加させた (Fig 2)。
OverCITE-seqによる単一細胞レベルでのORF作用機序解明: 新規に開発されたOverCITE-seq法(転写産物、表面抗原、ORFの同一性を単一細胞で捕捉)を用いて、約30個のORFを導入したCD8+ T細胞プールを解析した。非刺激およびCD3/CD28刺激条件下でのUMAP解析により11個のクラスターが同定され、LTBR発現細胞はほぼ独占的にクラスター10(T細胞活性化・増殖シグネチャー)を形成した。これは、LTBR発現が特異的な転写プログラムを誘導することを示唆している。CDK1およびCLIC1はクラスター1(細胞周期)に濃縮された。バルクRNA-seq解析(静止状態のLTBR発現細胞 vs tNGFR対照細胞)では、MHC-IおよびII遺伝子(HLA-C, HLA-B, HLA-DPB1, HLA-DRB6)、CIITA、CD74、TRAF1、BIRC3、BATF3、JUNB、TCF7 (TCF1) など、T細胞機能、生存、幹細胞性に関わる多数の遺伝子が著明に上昇していることが示された (Fig 3)。
LTBRの作用機序:正規NF-κB経路の恒常的活性化による機能増強: ATAC-seq解析により、LTBR発現細胞(静止状態および刺激状態)においてNF-κB p65 (RELA) モチーフが最も有意に濃縮されていることが明らかになった。刺激されたT細胞におけるNF-κBとNFAT-AP-1の濃縮は既報の通りであったが、RELAはLTBR特異的に濃縮された (Fig 4f)。ウェスタンブロット解析では、CD3/CD28刺激後にRELA (Ser536) およびIκBαのリン酸化がより迅速に起こることが示され、RELBおよびNF-κB p52(非正規経路)も上昇した (Fig 4g, h, i)。CRISPRノックアウト (KO) 機能解析では、RELA KOによりLTBR細胞のIFN-γ産生が著明に低下し (p<0.0001)、LTBRのコアターゲット遺伝子(n=274 genes)の発現も低下した (Fig 4j, k)。一方、RELB KOでは効果が認められず、LTBRによる機能的変化が主に正規NF-κB (canonical RELA) 経路によって媒介されることが示唆された。LTB、TRAF2、NIKのKOもLTBR細胞のIFN-γ産生を著明に低下させたが、tNGFR細胞ではその効果は限定的であった。これは、LTBRとT細胞が発現するリガンド (LTB) とのオートクライン様ループの存在を示唆する。しかし、外来性のLTA (lymphotoxin alpha) やLIGHTはLTBR T細胞機能に影響を与えず、リガンド非依存的な恒常的活性化が示唆された。LTBRのC末端欠失変異体解析では、残基377-435の欠失により表現型が完全に消失し、TRAF2/3/5結合部位の喪失が原因である可能性が示唆された。また、自己会合ドメインの欠失 (324-377) も表現型を完全に消失させた (Fig 4e)。
LTBR T細胞は疲弊抵抗性と生存増強を示す: 反復刺激(3 rounds of CD3/CD28 stimulation)後、LTBR CAR T細胞はtNGFR対照細胞と比較して有意にPD-1発現が低下し (p<0.001)、機能が維持された (Fig 4d)。これは、LTBRがT細胞疲弊に対する保護効果を持つことを示唆する。また、LTBR cells は活性化誘導細胞死 (AICD) に対しても優位な抵抗性を示した (n=2 donors × 3 replicates) (Fig 4c)。さらに、幹細胞性因子であるTCF1 (TCF7)、BATF3、JUNBの発現増加が認められ、T細胞の自己複製と生存が促進されることが示唆された。LTBRの恒常的発現は表現型維持に必要であるが、発現消失から表現型喪失までには時間的ラグが存在するため、一過性発現も治療的に適用可能である可能性が示唆された。
CAR-T細胞、患者T細胞、γδ T細胞への応用: CD19-28zおよびCD19-BBz CARとLTBRを共発現させた結果、Nalm6 GFP+細胞との共培養において、IFN-γおよびIL-2分泌が増加し (n=3 replicates、representative of 2 donors)、殺傷活性も増加した(特にCD28 CARで顕著) (Fig 5b, c, e)。反復抗原刺激後もIFN-γ産生が維持された (Fig 5g)。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 患者由来のPBMC(n=2 patients)を用いた検証では、LTBR CAR T細胞がCD19+ Nalm6細胞に対して有意なIFN-γ/IL-2産生増加を示し (p<0.05)、CD19- Jurkat細胞では効果がなかったことから、患者T細胞においても有効かつ抗原特異性を維持することが確認された (Fig 5h)。Vγ9Vδ2 γδ T細胞にLTBRを含む上位ORFを導入した結果、膵臓腺癌 (PDAC) および白血病細胞株との共培養においてIFN-γおよびIL-2産生が増加した (Fig 5i)。これは、LTBRなどの上位ORFがαβ T細胞とγδ T細胞の両方に適用可能であることを示している。
考察/結論
本研究は、ヒト初代T細胞において史上最大規模のゲノムスケール機能付与ORFスクリーン(約12,000遺伝子)を実施し、リンパ球に通常発現しないLTBRがT細胞に「合成的」な機能増強プログラムを誘導することを初めて発見した先駆的研究である。
新規性: 本研究で初めて、LTBRがT細胞で正規NF-κB経路を恒常的に活性化し、MHC-II、TCF1、BATF3、JUNB、および抗アポトーシス遺伝子を誘導することで、増殖、サイトカイン産生、疲弊抵抗性、幹細胞性という4つの望ましい特性を同時に増強するという「合成T細胞プログラム」の概念を提唱した。これは、CAR-T細胞設計の新たなアプローチを示すものである。また、新規単一細胞マルチオーミクス手法であるOverCITE-seqの開発は、ORFスクリーンの機序解明に有用なプラットフォームを提供した。
先行研究との違い: これまでの研究では、LTBRが細胞株においてプロアポトーシス的な役割を持つことが示されていたが、本研究で初代T細胞において観察された表現型とは対照的であった。また、LTBRが内因的に発現する細胞では非正規NF-κB経路の活性化が重要であるとされてきたが、本研究ではLTBR発現による表現型および機能的変化が主に正規NF-κB経路によって媒介されることを、エピゲノムプロファイリングとCRISPRベースの機能的摂動解析により示した点で、これまでの知見と異なっている。
臨床応用: 本知見は、次世代T細胞療法の改善に向けた新たな戦略を提供するものであり、特にCAR-T細胞設計において、LTBRの過剰発現がT細胞の抗腫瘍活性と持続性を向上させる可能性を示唆する。FDA承認のCAR療法が既にレンチウイルスまたはレトロウイルスによるCAR遺伝子導入に依存していることから、ORFの追加は製造や規制上の大きな課題を伴わないと考えられる。また、「LTBR発現を一過性にすれば安全性を確保できる」という指摘は、臨床応用のロードマップとして重要である。
残された課題: 今後の検討課題として、LTBRのトランケート版(例えば393-435欠失変異体)のさらなる最適化、in vivoモデルにおけるLTBR CAR-T細胞の効果確認、NF-κB恒常的活性化に伴う腫瘍形成リスクの評価、免疫抑制性腫瘍微小環境を持つ固形腫瘍モデルへの応用、および抗原提示細胞や免疫抑制細胞との共培養スクリーンへの拡張が挙げられる。これらの研究は、免疫抑制性の腫瘍微小環境を克服し、確立されたがんを根絶できる合成細胞療法の開発に繋がるであろう。
方法
本研究では、3名の健康ドナーからCD4+およびCD8+ T細胞をそれぞれ分離し、約12,000個のバーコード付きフルレングスORFレンチウイルスライブラリー(各遺伝子に平均6つのバーコード)を形質導入した(導入効率20-30%)。細胞はImmunocult-XF T細胞拡張培地で培養した。14日間培養後、CD3/CD28刺激を行い、CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) で標識した。4日後、CFSElow細胞(増殖が最も高い下位15%)をソーティングし、ORFバーコードを次世代シークエンシングにより定量化し、MAGeCK解析を用いて濃縮されたORFを同定した。スクリーニングとは独立したドナーから得たT細胞を用いて、33個の上位ORFについて個別の検証を行った。これには、T細胞増殖、CD25/CD154発現、IL-2およびIFN-γ産生の測定が含まれる。
ORFの作用機序を詳細に解析するため、新規単一細胞ゲノミクス手法であるOverCITE-seqを開発した。この手法は、10x Genomics ChromiumプラットフォームとORF転写産物の捕捉を強化する定常配列プライマーを組み合わせることで、単一細胞レベルで転写産物、表面抗原、およびORFの同一性を同時に定量化することを可能にした。約30個のORFを導入したCD8+ T細胞プールを、非刺激およびCD3/CD28刺激条件下でOverCITE-seqにより解析し、UMAPクラスタリングと差次的遺伝子発現解析を行った。
LTBRの作用機序をさらに深く理解するため、バルクRNA-seq(静止状態およびCD3/CD28刺激下でのLTBR発現細胞とtNGFR (truncated nerve growth factor receptor) 対照細胞の比較)を実施した。また、ATAC-seq (assay for transposase-accessible chromatin by sequencing) によりクロマチンアクセシビリティの変化を解析し、転写因子モチーフの濃縮を評価した。ウェスタンブロット解析により、NF-κB経路の主要タンパク質(p65/RELA (v-rel avian reticuloendotheliosis viral oncogene homolog A)、IκBα (NFKB inhibitor alpha)、RELB (v-rel avian reticuloendotheliosis viral oncogene homolog B)、NF-κB p52)のリン酸化状態を評価した。CRISPR-Cas9を用いた機能的救済実験では、LTBRシグナル伝達経路に関わる11遺伝子(LTB (lymphotoxin beta)、TRAF2 (TNF receptor associated factor 2)、NIK (NF-κB inducing kinase)、RELA、RELB、LIGHT (TNF superfamily member 14)、ASK1 (apoptosis signal-regulating kinase 1)など)をノックアウトし、LTBR発現細胞におけるIFN-γ産生への影響を評価した。さらに、LTBRのC末端欠失変異体を作成し、その機能に必要なドメインを同定した。LTBR T細胞の疲弊抵抗性と生存増強を評価するため、活性化誘導細胞死 (AICD) 抵抗性、反復刺激後のPD-1発現、およびTCF1 (T cell factor 1)/BATF3 (basic leucine zipper ATF-like transcription factor 3)/JUNB (jun B proto-oncogene, AP-1 transcription factor subunit) などの幹細胞性因子の発現を解析した。
CAR-T細胞への応用可能性を検証するため、FDA承認のCD19-28zおよびCD19-BBz CARとLTBRをトリシストロン性ベクターを用いて共発現させた。これらのCAR-T細胞を用いて、Nalm6 GFP+細胞に対する殺傷アッセイ、サイトカイン産生(IL-2、IFN-γ)、および反復抗原刺激後の機能維持を評価した。さらに、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 患者由来の末梢血単核球 (PBMC) におけるLTBR CAR-T細胞の有効性を検証した。最後に、Vγ9Vδ2 γδ T細胞に上位ORFを導入し、膵臓腺癌 (PDAC) および白血病細胞株との共培養におけるサイトカイン産生増加を評価した。統計解析には、MAGeCK、DESeq2、topGOパッケージ、およびStudentのt検定、Mann-Whitney検定、Spearmanの相関係数を用いた。