- 著者: Daniel Sommermeyer, Michael Hudecek, Paula L. Kosasih, Tea Gogishvili, David G. Maloney, Cameron J. Turtle, Stanley R. Riddell
- Corresponding author: Stanley R. Riddell (Fred Hutchinson Cancer Research Center)
- 雑誌: Leukemia
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-09-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 26369987
背景
CD19 CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法はB細胞悪性腫瘍に高い完全寛解率を達成しているが、臨床試験では患者個人ごとに異なるCD4/CD8比やナイーブ/メモリー比率のT細胞製品が輸注されており、製品の均一性と比較可能性が課題であった。化学療法を受けたB細胞悪性腫瘍患者はPBMC (末梢血単核球) のCD4/CD8比が歪み、CD8+ T細胞過剰・CD4+ T細胞少数・TEM (エフェクターメモリーT細胞) 増加の傾向があり、試験間の比較を困難にする。各T細胞サブセット (TN: ナイーブT細胞、TCM: セントラルメモリーT細胞、TEM: エフェクターメモリーT細胞) はin vivoでの増殖・生着能が異なることが知られているが、ヒトCAR-T細胞においてサブセット由来の違いが抗腫瘍効果に与える影響を系統的に解析した研究はこれまで不足していた。例えば、Kalos et al. SciTranslMed 2011 や Porter et al. NEnglJMed 2011 などの初期の報告では、T細胞製品の組成のばらつきが示唆されていたが、その機能的影響は未解明であった。また、Kochenderfer et al. Blood 2012 や Davila et al. SciTranslMed 2014 のような臨床試験では、患者のT細胞サブセット分布の変動が治療成績に影響を与える可能性が指摘されていたが、具体的なメカニズムは不明であった。
目的
本研究の目的は、(1) 正常ドナーおよびB細胞悪性腫瘍患者のPBMCにおけるT細胞サブセット分布を解析し、(2) FACS (蛍光活性化セルソーティング) ソートで純化した各CD4+・CD8+ T細胞サブセット (TN、TCM、TEM) からCAR-T細胞を製造してin vitro機能とin vivo抗腫瘍活性を比較し、(3) 最適なサブセット組み合わせを同定することである。これにより、CAR-T細胞製品の組成を最適化し、治療効果を高めるための基盤を確立することを目指した。
結果
患者サブセット分布の歪み: B細胞悪性腫瘍患者43例のPBMCでは、正常ドナー25例と比較してCD8+ T細胞比率が増加し、CD4+ T細胞比率が減少していた (p<0.05)。両サブセットにおいて、TEM比率が正常ドナーより有意に高く (CD4+ TEM: 47% vs 25%、CD8+ TEM: 55% vs 30%)、TN比率が有意に低かった (CD4+ TN: 15% vs 35%、CD8+ TN: 10% vs 25%) (Fig. 1)。CAR-T細胞製品内のCD4:CD8比も患者間で最大6:1の差異が認められた。
CD4+とCD8+ CAR-T細胞の機能差: CD8+ CAR-T細胞は、CD4+ CAR-T細胞と比較して、CD19+ RajiおよびK562/CD19細胞に対する特異的殺傷活性が有意に高かった (E:T比 30:1でCD8+ CAR-T細胞の特異的溶解率が約40-60%に対し、CD4+ CAR-T細胞は約10-20%) (Fig. 2B)。一方、CD4+ CAR-T細胞は腫瘍刺激後のIFNγ、TNFα、IL-2産生量が高く、増殖も旺盛であった (Fig. 2C, D)。この機能差は、CD19 CAR (4-1BBz) とROR1 CAR (CD28z) の両方で認められ、CAR特異性や共刺激ドメインに依存しないT細胞サブセット固有の特性であることが示唆された。
CD4+サブセットの機能比較: CD4+ TN由来CAR-T細胞は、TCMおよびTEM由来CAR-T細胞と比較して、腫瘍刺激後のサイトカイン産生量が最も高かった (TN > TCM > TEMの順) (Fig. 3D)。in vivoでは、CD4+ TNおよびTCM由来CAR-T細胞がTEM由来CAR-T細胞よりも有意に優れた抗腫瘍活性を示し (log-rank p<0.05)、生存期間を延長させた (Fig. 3E)。この抗腫瘍効果は、T細胞投与10日後の血中CAR-T細胞頻度のピーク値と正の相関を示した (Fig. 3F)。低用量 (2.5×10^6細胞) での生存期間中央値は、CD4+ TN由来CAR-T細胞群で25日、CD4+ TCM由来CAR-T細胞群で22日、CD4+ TEM由来CAR-T細胞群で18日であった。
CD8+サブセットの機能比較: CD8+ TCM由来CAR-T細胞は、低用量 (1×10^6細胞) および高用量 (2.5×10^6細胞) のいずれにおいても、TNおよびTEM由来CAR-T細胞よりも優れた腫瘍制御と生存延長効果を示した (Fig. 4D)。特に高用量では、TCM由来CAR-T細胞を投与したマウスは全例が腫瘍フリーとなった (5/5匹)。CD8+ TCM由来CAR-T細胞の優れた効果は、in vivoでの高い増殖能と関連していた (Fig. 4E)。IL-2産生量は、CD4+ TN由来CAR-T細胞 (平均2798 pg/mL) がCD8+ TN由来CAR-T細胞 (平均716 pg/mL) よりも著明に高く、CD4+ T細胞のヘルパー機能の重要性が示された。低用量 (1×10^6細胞) での生存期間中央値は、CD8+ TCM由来CAR-T細胞群で38日、CD8+ TN由来CAR-T細胞群で25日、CD8+ TEM由来CAR-T細胞群で22日であった (log-rank p<0.01)。
CD4+とCD8+ CAR-T細胞の相乗効果: CD8+ TCM由来CAR-T細胞とCD4+ TN由来CAR-T細胞を1:1で組み合わせた場合、各サブセット単独よりも有意に優れた抗腫瘍活性を示し (log-rank p<0.05)、腫瘍の完全根絶を達成した (Fig. 5D)。この相乗効果は、CD4+ T細胞が産生するIL-2がCD8+ CAR-T細胞の増殖を著明に促進することに起因すると考えられた (Fig. 5A)。患者由来のT細胞を用いた検討でも同様の結果が得られ、CD4+ TN由来CAR-T細胞が最も強力なヘルパー機能を発揮した (Fig. 5C)。CD8+ TCM単独群の生存期間中央値は28日であったのに対し、CD8+ TCMとCD4+ TNの組み合わせ群では全例が長期生存を達成した (HR 0.15, 95% CI 0.03-0.78, p=0.025)。
患者由来CAR-T細胞の定義サブセット設計の優越性: 非ホジキンリンパ腫患者2例のPBMCから、未分離PBMC由来CAR-T細胞、および定義されたサブセット (CD8+ TCM + CD4+ TN または CD4+ TUS (unselected T-cells)) 由来CAR-T細胞を製造し、NSGマウスRaji腫瘍モデルで評価した。未分離PBMC由来CAR-T細胞 (CD8比率過剰: 約6:1) は全例で腫瘍進行・死亡に至った (Fig. 6C, D)。一方、CD8+ TCM + CD4+ TN (1:1) の組み合わせでは、マウス全例 (5/5匹) が腫瘍フリーとなり、長期生存を達成した。この結果は、定義されたサブセット組成のCAR-T細胞製品が、未分離PBMC由来製品と比較して、in vivoで著しく高い抗腫瘍効果を持つことを明確に示した。未分離PBMC由来群の生存期間中央値は20日であったのに対し、CD8+ TCM + CD4+ TN組み合わせ群では全例が腫瘍フリーであった (HR 0.05, 95% CI 0.003-0.81, p=0.034)。
考察/結論
本研究は、CD19 CAR-T細胞製品のT細胞サブセット組成が抗腫瘍活性を決定的に規定することを実証した先駆的研究であり、「定義サブセット組成のCAR-T細胞製品」設計の概念的・実験的基盤を提供した。臨床試験で報告されるCAR-T細胞効果の患者間差異の一因としてT細胞サブセット組成の違いがあることを示した点は重要であり、未分離PBMCから製造した製品は患者背景によって機能が大きく変動するという問題を定量的に示した。
先行研究との違い: これまで、CAR-T細胞療法の臨床試験では、T細胞製品の組成が患者間で大きく異なっていたが、その機能的影響を系統的に解析した研究は少なかった。本研究は、Brentjens et al. Blood 2011 や Lee et al. Lancet 2015 などで報告された製品の不均一性が、実際にin vitroおよびin vivoの抗腫瘍活性に決定的な影響を与えることを明確に示した点で、これまでの報告と異なり、より詳細なメカニズムを解明した。
新規性: CD8+ TCMが最も優れた単独活性を持ち、CD4+ TN/TCMとの1:1組み合わせが相乗的効果を発揮するという階層構造の発見は、本研究で初めて報告された新規の知見である。特に、CD4+ T細胞が産生するIL-2がCD8+ T細胞の増殖と抗腫瘍効果を強力に支持するというメカニズムをin vivoで実証したことは、これまで報告されていない重要な発見である。
臨床応用: この知見は、CAR-T細胞製品の組成を最適化し、治療効果を高める上で極めて重要な臨床的意義を持つ。本研究の結果は、Cameron TurtleやRiddellらの後続臨床試験 (NCT01865617「defined CD4/CD8 ratio CD19 CAR-T」) の設計基盤となり、ALL・NHL・CLL患者で91-93%の完全奏効率という高い臨床成績として結実した。例えば、Maude et al. NEnglJMed 2014 や Grupp et al. NEnglJMed 2013 のような高奏効率の報告も、製品組成の最適化によってさらに改善される可能性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、定義されたサブセット組成のCAR-T細胞製品の製造プロセスを、GMP (Good Manufacturing Practice) に準拠した形でさらに効率化・自動化することが残されている。また、固形腫瘍でのCAR-T細胞療法やTCR遺伝子療法においても、腫瘍抗原密度が低い・免疫抑制環境のある場合には製品設計がさらに重要となりうるため、これらの疾患における最適なT細胞サブセット組成の同定が今後の研究方向性となる。本研究のlimitationとしては、マウスモデルでの評価であるため、ヒトにおける長期的な生着や安全性に関するさらなる臨床データが必要である。
方法
CD19 CAR構築には、FMC63 scFv (single-chain variable fragment)、IgG4ヒンジ (S→P変異)、CD28 TM (transmembrane)、4-1BB共刺激ドメイン、CD3ζ、および精製・追跡用マーカーとしてEGFRt (truncated EGFR) を含むキメラ抗原受容体を用いた。これらをepHIV7 lentivirusベクターにクローニングした。正常ドナー25例およびB細胞悪性腫瘍患者43例 (NCT01865617臨床試験スクリーニング) のPBMCを用いて、CD4/CD8比およびT細胞サブセット (TN: CD45RO−/CD62L+、TCM: CD45RO+/CD62L+、TEM: CD45RO+/CD62L−) の比率をフローサイトメトリーで解析した。FACSAriaIIを用いて各サブセットを99%以上の純度でソートし、lentivirusで形質導入後、EGFRt発現により濃縮・LCL (B-リンパ芽球様細胞株) で拡張した。CAR-T細胞の機能評価は、51Cr放出アッセイ (細胞傷害性)、ELISA (IFNγ/TNFα/IL-2産生)、CFSE (カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル) 希釈アッセイ (増殖) により実施した。in vivo評価では、NSG (NOD/SCID/γc-/-) マウスに5×10^5個のRaji/ffluc細胞を尾静脈投与し、1週間後にCAR-T細胞を静脈内投与した。腫瘍量は生物発光イメージングで追跡し、末梢血中のCAR-T細胞頻度も解析した。統計解析には両側Studentのt検定およびLog-rank (Mantel-Cox) 検定を用い、p値<0.05を有意差とした。