- 著者: Miguel Reina-Campos, Maximilian Heeg, Kelly Kennewick, Ian T. Mathews, Giovanni Galletti, Vida Luna, Quynhanh Nguyen, Hongling Huang, J. Justin Milner, Kenneth H. Hu, Amy Vichaidit, Natalie Santillano, Brigid S. Boland, John T. Chang, Mohit Jain, Sonia Sharma, Matthew F. Krummel, Hongbo Chi, Steven J. Bensinger, Ananda W. Goldrath
- Corresponding author: Ananda W. Goldrath (agoldrath@ucsd.edu) (School of Biological Sciences, University of California San Diego, La Jolla, CA, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2023
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 37648857
背景
組織常在性メモリーT細胞 (TRM) は末梢組織に長期定着し、局所的な感染や腫瘍に対して迅速な防御応答を担うことが知られている。TRMは循環性メモリーT細胞 (TCM/TEM) とは異なるエネルギー代謝プログラムを持つと考えられており、特に小腸 (SI) TRMの組織常在性および長期生存を支える具体的な代謝経路はこれまで未解明であった。例えば、Konjarらはミトコンドリアが上皮常在性Tリンパ球の制御された活性化状態を維持することを示したが (Konjar et al. 2018)、具体的な代謝経路の特定には至っていなかった。また、PanらはTRM細胞の生存に外因性脂質取り込みと代謝が必要であることを報告したが (Pan et al. 2017)、その詳細なメカニズムは不足していた。さらに、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) がTRMと重複する代謝的特性を持つ可能性が示唆されていたが (Milner et al. 2017)、TRM代謝経路の強化が腫瘍免疫を改善できるか否かは未検討であった。酸化リン酸化 (OXPHOS) 依存性やコレステロール・イソプレノイド代謝が骨髄系細胞や他のリンパ球系細胞の機能に関与することは報告されていたが、T細胞の組織常在性との直接的な関連は不明であった。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、LCMV感染モデルを用いたin vivo CRISPR-Cas9ゲノムワイドメタボリックスクリーン (3,017遺伝子) により、SI TRMの形成および維持に必要な代謝遺伝子を同定することである。特に、同定された上位代謝経路 (OXPHOSおよびメバロン酸-コレステロール合成経路) の機能解析を詳細に行う。さらに、その知見をTILに適用し、TRM代謝経路の増強が抗腫瘍免疫を改善できるかを実証することを目指した。
結果
in vivo CRISPRスクリーン:SI TRMはOXPHOS複合体IIIとメバロン酸-コレステロール合成経路に特異的に依存する: 3,017遺伝子をカバーするメタボリックスクリーンでは、SI TRM選択的に消失する (つまりTRMに必要な) 上位遺伝子として、ミトコンドリア酸化リン酸化 (OXPHOS) 複合体IIIサブユニット (Uqcr11, Uqcrc2など) と、メバロン酸経路遺伝子 (FDFT1 [squalene synthase]、PDSS2 [decaprenyl diphosphate synthase]、HPD、COQ2など) が同定された (Fig. 1b, c)。血液TEMでは同遺伝子のノックアウト効果がほとんど認められず、SI TRM特異的な代謝依存性が確認された。このスクリーニングでは、n=7 mice (Lib7) および n=9 mice (Lib5) の細胞がプールされ、各ライブラリーで合計 n=16 mice のデータが解析された。
SREBP2がメバロン酸-コレステロール経路を駆動し、下流でCoQ産生を介してOXPHOSを支える: スクリーン上位の転写因子としてステロール制御エレメント結合タンパク質2 (SREBP2) が同定された (Fig. 1h)。SREBP2はコレステロール合成のマスター転写因子であるが、FDFT1 (スクアレン合成酵素;ステロール分岐点) のノックアウトがTRM形成を改善 (FDFT1下流がステロールではなくCoQ合成にフラックスするため) した一方、PDSS2 (CoQ側鎖合成酵素) やCOQ2のノックアウトはTRM消失をきたした (Fig. 3a)。このことから、SREBP2はメバロン酸経路を活性化し、FDFT1より上流の共通前駆体からコエンザイムQ (CoQ) (非ステロール産物) 産生を促進し、CoQが複合体IIIへの電子供与を介してOXPHOSを維持することでTRM機能を支えることが明らかとなった。SI TRMは腎臓、肝臓、WATのTRMより多くのSREBP2を必要としており、消化管環境における特異的な代謝依存性が示された (Fig. 2a, b)。Srebf2のshRNAmirによるノックダウンは、SI TRM細胞の形成を障害したが、脾臓のT細胞蓄積には影響がなかった (Fig. 2a)。
Fdft1 KOおよびPdss2 OEがTRM形成を増強し、腫瘍免疫を改善する: Fdft1 KO P14細胞はCoQ産生が増加し、SI TRMおよびメモリーT細胞形成が促進された (Fig. 3c)。Pdss2過剰発現 (OE) P14細胞はSI TRMを3–8倍増加させ、腎臓、肝臓、WATでも同様の増加が確認された (Fig. 3e)。MC38 (大腸がん) およびB16 (黒色腫) 腫瘍モデルへのFdft1 KOまたはPdss2 OEメモリーT細胞養子移植は、腫瘍コントロールを有意に改善した (Fig. 5h, j)。Fdft1欠損群では、MC38-GP33-41腫瘍の増殖が有意に抑制され (p<0.05)、腫瘍内のP14 CD8+ T細胞の持続性が改善された (Fig. 5h, i)。
高コレステロール食およびスタチン処置はSI TRMおよびTILを障害する: 高コレステロール食はSI TRM形成を損なった (Fig. 2h)。スタチン (HMGCR阻害) はSI TRMとTILを有意に減少させ、ヒト末梢血単核球 (PBMC) およびヒトTILでもスタチン処置でCD8+ TRM様細胞の減少が確認された (Fig. 2f, g)。Lovastatin (10 mg kg⁻¹) 処置マウスでは、感染7日後のSIにおけるP14 CD8+ T細胞の蓄積が対照群と比較して障害され、21日後にはSI TRM細胞の持続的な損失が認められた (Fig. 2f)。これは、臨床的に広く処方されるスタチンがT細胞の組織常在性および腫瘍免疫を損なう可能性を示唆する重要な副作用知見である。
TRM-TIL代謝プログラムの重複とZaragozic acid A + 抗PD-1の相加的腫瘍コントロール: 腫瘍内TILとSI TRMは代謝遺伝子スクリーニングで19遺伝子 (67%の重複) を共有し、その多くがCoQ合成に関与していた (Fig. 5b, c)。B16-GP33-41モデルでFDFT1特異的阻害剤Zaragozic acid A (ZAA) と抗PD-1の併用は、単剤より有意に腫瘍コントロールを改善した (p<0.05, Fig. 5l)。ZAA単剤群と比較して、ZAAと抗PD-1抗体の併用群では腫瘍増殖が有意に抑制され、生存率も改善した (p<0.05)。
CoQがミトコンドリア呼吸をサポートする: Srebf2ノックダウンCD8+ T細胞は基礎酸素消費率 (OCR) が低下し、最大呼吸能力も減少した (Fig. 4a)。スタチン処置もCD8+ T細胞のミトコンドリア呼吸をメバロン酸依存的に減少させた (Fig. 4b)。Pdss2欠損CD8+ T細胞でも同様のミトコンドリア呼吸の損失が観察された (Fig. 4c)。対照的に、Fdft1欠損は基礎OCRと予備呼吸能力を増加させ (Fig. 4d)、これはPdss2依存的であった (Fig. 4e)。Pdss2 OEは基礎および最大ミトコンドリア呼吸を促進するのに十分であった (Fig. 4f)。これらのデータと一致して、Fdft1欠損またはPdss2 OEはCoQ種、特にマウスで最も豊富なCoQ9とその前駆体であるデメトキシユビキノン9の生産を増加させた (Fig. 4g, h)。これらの結果は、メバロン酸-コレステロール合成経路の中間体が高いCoQプールを供給し、CD8+ T細胞のミトコンドリア呼吸を増強することを示唆する。
考察/結論
本論文は、Goldrath (UCSD) グループがin vivo CRISPRメタボリックスクリーンによってSI TRMが「OXPHOS複合体IIIとメバロン酸-CoQ合成経路」という二重の代謝プログラムに依存することを初めて系統的に実証した画期的な研究である。
先行研究との違い: これまでの研究では、TRM細胞の代謝適応に関する包括的な理解が不足していたが、本研究はin vivo機能ゲノミクス、メタボロミクス、トランスクリプトミクスを組み合わせることで、その詳細なメカニズムを解明した点で、先行研究と対照的である。特に、SI TRM細胞がSREBP2によって駆動されるメバロン酸-コレステロール経路の非ステロイド性産物、特にCoQに特異的に依存することを示した点は新規である。
新規性: SREBP2がメバロン酸経路を活性化し、FDFT1より上流の共通前駆体からCoQ (非ステロール産物) 産生を促進し、CoQがミトコンドリア複合体IIIへの電子供与を介してOXPHOSを維持するというシグナル軸の解明は、本研究で初めて報告された。これは、コレステロール合成経路のターゲットによってTRM/TIL機能が改善できることを示す創薬上の重要なコンセプトである。
臨床応用: Fdft1 KOおよびPdss2 OEという遺伝的アプローチで腫瘍免疫が改善し、FDFT1阻害薬Zaragozic acid Aと抗PD-1の相加効果が実証されたことは、FDFT1/PDSS2を薬理学的ターゲットとした腫瘍免疫増強療法の前臨床的根拠を確立した。スタチンがSI TRMとTILを損なうという発見は、がん免疫療法を受ける患者でのスタチン使用が腫瘍免疫に悪影響を与える可能性を示唆し、臨床的意義が高い。CoQ産生を介した非ステロール経路の選択的増強という「FDFT1の下流を迂回してCoQ側にフラックスを増やす」アプローチは、コレステロール合成阻害の副作用を回避しつつ免疫増強を実現する新規な戦略として、将来的な臨床応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、Zaragozic acid A誘導体または他のFDFT1阻害剤の臨床開発、TILやCAR-T細胞へのPdss2過剰発現によるex vivo操作の応用、ヒト腫瘍における組織常在性TILの代謝プロファイルとCoQ経路の相関、スタチン服用患者でのICB奏効率の後ろ向き解析、および他の臓器組織常在性の特異的代謝依存因子の同定が挙げられる。Limitation として、本研究のin vivo CRISPRスクリーニングにおける細胞回収率が一部のTRM集団で低かった点が挙げられる。
方法
LCMV (リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス) Armstrong株感染C57BL/6マウスに、3,017遺伝子を標的とするsgRNAライブラリーをレトロウイルスで導入した抗原特異的P14 CD8+ T細胞を養子移植した。感染28日後にSI TRM (CD44hiCD62LloCD8α+CD103+) と血液TEM (CD44hiCD62LloCD8α-) のsgRNAバーコードをシークエンスし、TRM選択的に濃縮・枯渇する遺伝子を同定した (MAGeCK解析)。SREBP2、FDFT1、PDSS2について個別ノックアウトP14細胞の多臓器 (小腸、腎臓、肝臓、白色脂肪組織 WAT) TRM形成を評価した。Pdss2 cDNA過剰発現P14細胞を構築し、SI TRMおよび他臓器TRM形成への効果を解析した (3–8倍増加を確認)。高コレステロール食およびスタチン (抑制) 処置マウスでSI TRMへの影響を評価した。ヒトPBMC由来CD8+ T細胞およびヒトTILでのスタチン処置効果を解析した。MC38 (大腸がん) およびB16-GP33-41 (黒色腫) 皮下腫瘍モデルにFdft1 KOまたはPdss2 OEメモリーT細胞を養子移植し、TIL形成および腫瘍コントロールを評価した。Zaragozic acid A (FDFT1特異的阻害剤) と抗PD-1の併用でB16-GP33-41腫瘍コントロールを評価した。RNA-seqデータ解析にはTrimmomatic Bolger et al. Bioinformatics 2014、DESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014、GSVA Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013、ComplexHeatmap Gu et al. Bioinformatics 2016、Harmony Korsunsky et al. NatMethods 2019、QuPath Bankhead et al. SciRep 2017などのツールを用いた。統計解析には、2群間の比較に両側不対 Student t-test、多群間の比較に二元配置分散分析 (two-way ANOVA) を用いた。