- 著者: Qiuyu Gong*, Mehul Sharma* (*equal contribution), Marla C. Glass, Emma L. Kuan, et al. (Allen Institute for Immunology, Seattle, WA / Benaroya Research Institute / University of Pennsylvania / Stanford University)
- Corresponding author: Peter J. Skene (peter.skene@alleninstitute.org); Claire E. Gustafson (claire.gustafson@alleninstitute.org) (Allen Institute for Immunology, Seattle, WA, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-10-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 41162704
背景
加齢に伴う免疫機能の変化は、感染症への脆弱性の増加、ワクチン応答の低下、自己免疫疾患リスクの上昇に寄与するが、その分子機序は依然として十分に解明されていない。特に、従来の免疫老化研究は、65歳以上の高齢者に焦点を当てた単時点のスナップショット解析や、終末分化T細胞(老化・疲弊T細胞)に限定されることが多かった Sayed et al. Nat Aging 2021。しかし、免疫機能の低下は、55〜65歳の中高年期から始まることが示唆されており、この早期の免疫老化における変化を、縦断的かつマルチオーミクスアプローチで詳細に解析した研究は不足していた。例えば、T細胞サブセットにおける転写変化が、サイトメガロウイルス (CMV) 感染や全身性炎症といった交絡因子とどのように関連するのか、あるいは独立した現象であるのかは未解明であった。また、インフルエンザワクチン応答の年齢差を、単細胞レベルで縦断的に解析した大規模コホート研究はこれまで報告されていなかった。先行研究では、加齢に伴う免疫系の変化が報告されているが (Whiting et al. PLoS ONE 2015)、これらの研究は、免疫老化の動的なプロセスを包括的に捉えるには不十分であった。特に、T細胞の転写変化が、加齢に伴う免疫機能低下の主要なドライバーである可能性が示唆されているものの (Zhang et al. Nat Immunol 2022, Lu et al. Nat Commun 2022)、その詳細なメカニズムと、ワクチン応答への影響については、さらなる解明が求められていた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、健康な若年成人 (25–35歳) と中高年成人 (55–65歳) の縦断的コホート (Sound Lifeプロジェクト; n=96 donors) および追跡コホート (n=234 donors、40–90歳以上) を対象に、scRNA-seq、Olinkプロテオミクス、スペクトルフローサイトメトリーによるマルチオーミクス免疫プロファイリングを実施し、年齢、CMV感染、および季節性インフルエンザワクチン接種が末梢免疫の細胞組成、転写プログラム、および機能応答に与える影響を包括的に解明することである。特に、T細胞サブセットにおける年齢依存的な転写再プログラムの特性、それが全身性炎症やCMV感染と独立した現象であるか否か、そしてこの変化がインフルエンザワクチンに対するB細胞応答の低下とどのように関連するのかを明らかにすることを目指した。
結果
T細胞が老化関連転写変化の主要な免疫細胞コンパートメント: scRNA-seq解析により、T細胞サブセット、特に早期分化サブセット (naive CD4+ T細胞、naive CD8+ T細胞、CD4/CD8 TCM細胞) が最も多くの年齢依存的DEGを示した。一方、自然免疫細胞、B細胞、NK細胞では年齢による転写変化はほとんど認められなかった。naive CD4+ T細胞が最大のDEG数 (n=331 DEGs) を示し、naive CD8+ T細胞がそれに続いた (n=182 DEGs)。これらの年齢依存的転写変化は、性別、CMV感染、インフルエンザワクチン接種によるパターンとは明確に区別された (Fig 1e)。T細胞サブセットの年齢関連DEG数は、1年後も同様の傾向を示した (Extended Data Fig. 1d)。このことから、T細胞が免疫老化の主要な細胞コンパートメントであることが強く示唆された。
RAMによる非線形転写再プログラムの実証:CMV・全身炎症非依存性: 独自開発したRAM (RNA age metric) は、8つの年齢感受性T細胞サブセットにおいて、中高年成人が若年成人よりも高値を維持することを示した (2年間の縦断追跡、Spearman r有意)。このRAMの上昇は非線形であり、2つの独立したscRNA-seqデータセット (n=1,000人超) でも同様のRAM上昇が確認された (Fig 2f,g)。古典的炎症マーカー (TNF、IL-6、IL-1B) は年齢と相関せず、CMV感染状態とも関連がなかった (CMV+ vs CMV-で炎症タンパク質に差異なし)。このことから、老化関連T細胞転写再プログラムは、全身性炎症やCMV感染とは独立した固有のプロセスであることが示唆された (Fig 2b)。さらに、RA発症リスク者 (Pre-RA) では、CD4+ TCM細胞のRAMが健常コントロールより有意に高く (Fig 2j)、RAMが自己免疫加速老化の指標としても機能する可能性が示唆された。この所見は、RAMが疾患リスクの早期特定に役立つバイオマーカーとなる可能性を示している。
CMV感染は老化とは別個の末梢免疫再構成を誘導し持続する: CMV+成人では、3種のT細胞サブセット (KLRF1+/- GZMB+ CD8 TEM、エフェクターVδ1 γδ T) と適応NK細胞が一貫して増加し、CMV血清転換後も安定して維持された (Fig 3a,b)。しかし、これらのCMV応答性サブセットの転写プロファイルには年齢依存的な変化がほとんどなく、CMV応答性T細胞でのRAM増加も認められなかった (Fig 3h,i)。これは、CMV感染がT細胞の転写老化を加速しないことを示唆する。一方、適応NK細胞は加齢とともに有意に減少した (P adj=0.01) (Fig 3f)。この結果は、CMV感染が免疫系に与える影響が、年齢による免疫老化とは異なる経路で進行することを示している。
老化したT細胞によるTH2偏向とB細胞ワクチン応答低下の分子連関: 老化CD4+ TCM細胞は、若年成人よりもTH2様状態スコアが有意に高く (Fig 5a)、この傾向は2年間の追跡期間中も維持された (Fig 5b)。追跡コホート (40–90歳以上) でも、加齢とともにTH2様状態スコアが連続的に増加した (Fig 5c)。TH1様状態やTH17様状態には年齢による有意な変化は認められなかった。TEA-seq解析により、TH2の主要転写因子であるGATA3の活性が、CD4+ TCM細胞全体で老化とともに有意に上昇することが示された (P=0.00016) (Fig 5e)。STAT6、STAT5A、IRF4の活性も同様に上昇した。さらに、IL4遺伝子座のクロマチン開放性が増大し (Fig 5f)、TCR刺激後のIL-4産生が若年成人よりも老年成人で有意に増加した (Fig 5g)。CD4 TCM細胞の自発的IFNγ-IL-4+細胞頻度はRAMと強く相関した (P=0.0043) (Fig 5j)。
インフルエンザワクチン応答に関して、B/Phuket株 (2015年以降毎年ワクチン接種株) 特異的HAIは、老年成人で有意に低下した (day 0およびday 7の両方) (Extended Data Fig. 5d)。CD27-エフェクターメモリーB細胞では、老年成人で活性化遺伝子 (ZEB2、TBX21、BATF) および系統遺伝子 (FCRL5、CD19、MAS4A1) の発現が低下し、IgG遺伝子発現も低下した (Fig 4f,g,h)。特に、B/Phuket特異的IgG2産生が増加し、IgG2/IgG3比のスキューイングが認められた (P=0.048) (Fig 4k)。これらの変化は、IL-4によるin vitroクラススイッチングの既知の効果と一致する。この結果は、加齢に伴うT細胞のTH2偏向が、B細胞のワクチン応答低下に直接的に寄与する分子メカニズムを示唆している。
考察/結論
本論文は、Gong・Sharma & Skene・Gustafson (Allen Institute for Immunology) グループが、健康な若中年成人の最大規模縦断的マルチオーミクス免疫コホートを構築し、免疫老化の初期変化として「T細胞TH2偏向→B細胞クラススイッチング異常→繰り返しワクチン抗原に対するIgG機能低下」という連続的分子カスケードを初めて実証した画期的な研究である。
先行研究との違い: 従来の免疫老化研究が炎症 (inflammaging) やCMV感染を主要なドライバーと仮定していたのに対し、本研究は老化関連T細胞転写再プログラム (RAM) がCMV感染や全身炎症とは独立した固有のプロセスであることを証明した点で、これまでの見解と対照的である。これは、T細胞内在性の転写変化が免疫老化の主役であることを強く示唆する。
新規性: 本研究で初めて、TH2偏向の機序としてGATA3活性上昇、IL4遺伝子座のクロマチン開放、および自発的IL-4産生増加というエピゲノム-機能的連関を解明した。この詳細な分子メカニズムの特定は、免疫老化の治療標的としてGATA3/STAT6/IL-4軸を指定する具体的根拠を提供する点で新規性が高い。また、IgG2/IgG3スキューイングと反復接種抗原への応答低下の関連を明らかにしたことも、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、次世代インフルエンザワクチンへの年齢適応設計 (アジュバント選択、接種スケジュール最適化) に直接的な臨床的示唆を与える。RAMがRA発症リスク者で高値を示したことは、免疫老化加速が自己免疫疾患発症前から生じることを示唆し、免疫老化指標としてのRAMの臨床バイオマーカー開発可能性を示す。これは、自己免疫疾患の早期診断や介入に繋がる translational な意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、GATA3/IL-4軸を標的とした老化免疫機能回復介入法の開発が挙げられる。また、本研究のコホートは中高年までが中心であるため、高齢者 (65歳超) コホートとの橋渡しにより、非線形変化の上流メカニズムをさらに解明する必要がある。ワクチン応答の予測バイオマーカーとしてのRAMの臨床検証や、他の自己免疫疾患 (SLE、MS等) におけるRAM加速の確認も今後の研究方向性である。本研究のlimitationとして、健常成人を対象としているため、疾患を持つ個体における免疫老化の動態についてはさらなる研究が必要である。
方法
Sound Lifeプロジェクトでは、健康な若年成人49例 (25–35歳) と中高年成人47例 (55–65歳) を2年間追跡した。参加者は年1回の季節性インフルエンザワクチン接種を受け、1人あたり最大10回の採血が行われた。追跡コホートでは、n=234例 (40–90歳以上) を対象に横断的解析を実施した。
scRNA-seq解析には、71種類の免疫細胞サブセットを標識したHuman Immune Health Atlasを独自開発し、縦断データセットから1,370万細胞、追跡データセットから320万細胞を構築した。データ処理にはSCANPY Wolf et al. GenomeBiol 2018 を用い、Harmony Korsunsky et al. NatMethods 2019 により年齢群間のバッチ効果を調整した。Olink 92プロタンパク質プラズマプロテオミクスにより、循環プロテオームの変化を定量した。スペクトルフローサイトメトリーを用いて、細胞表面マーカーおよび細胞内サイトカインの発現を解析した。
年齢依存的な転写変化を定量化するため、各T細胞サブセットの年齢依存的DEG (differentially expressed genes) のコンポジットスコアであるRAM (RNA age metric) を独自開発した。CMV血清状態 (+/-)、性別、ワクチン接種の交絡因子は統計モデルで調整した。
インフルエンザワクチン応答の評価には、HAI (血球凝集阻害試験) アッセイを用いて、複数インフルエンザ株特異的IgG、IgG2、IgG3抗体レベルを定量した。B細胞のクラススイッチング異常を評価するため、IgG2/IgG3比を算出した。
T細胞の転写因子 (TF) 活動性解析には、TEA-seq (scRNA-seq + エピトープ + クロマチンアクセシビリティ) データセットを利用し、Chromvar解析によりTFモチーフアクセシビリティを評価した。TCR刺激後のIL-4産生はフローサイトメトリーで測定した。
さらに、関節リウマチ (RA) 発症リスク者 (抗シトルリン化タンパク抗体陽性) のRAM解析を実施し、免疫老化加速との関連を検討した。統計解析にはDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を用いた差次的遺伝子発現解析、Wilcoxon rank-sum test、Spearman相関分析、線形混合モデル (lme4パッケージ) を適用した。クロマチンアクセシビリティ解析にはArchRパッケージ Granja et al. NatGenet 2021 を用い、MACS3 Zhang et al. GenomeBiol 2008 でピークを同定した。