• 著者: James C. Lee, Sadaf Mehdizadeh, Jennifer Smith, Arabella Young, Ilgiz A. Mufazalov, Cody T. Mowery, Adil Daud, Jeffrey A. Bluestone
  • Corresponding author: Jeffrey A. Bluestone (jeff.bluestone@ucsf.edu) (Sean N. Parker Autoimmune Research Laboratory, University of California, San Francisco, CA, USA); James C. Lee (james.lee4@ucsf.edu) (Division of Hematology and Oncology, UCSF, San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Science Immunology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33008914

背景

転移性メラノーマ、肺がん、腎がんをはじめとする多くの固形癌において、肝転移を有する患者は肝転移を持たない患者と比較して、抗PD-1免疫療法の奏効率、無増悪生存期間、および全生存期間がいずれも有意に劣ることが臨床データとして蓄積されていた (Lee et al. 2017, Pires da Silva et al. 2020, Schmid et al. 2018, Bilen et al. 2019)。しかし、肝転移が全身性の抗腫瘍免疫を抑制し、免疫チェックポイント阻害剤 (CPI) 抵抗性を誘導する分子的機序は未解明であった。肝臓は、肝類洞内皮細胞、クッパー細胞、肝星細胞などの寛容誘導性抗原提示細胞 (APC) の存在により、免疫寛容を誘導する独自の生理的機能を持つことが知られており (Crispe 2014, Thomson & Knolle 2010)、肝転移により誘発される全身性の免疫抑制がCPIの全身的無効化に寄与する可能性が考えられていた。

先行研究では、肝転移が癌患者の予後不良と関連することが報告されており、例えば、メラノーマ患者において肝転移の存在が抗PD-1療法への応答率低下と関連することが示されている (Daud et al. 2016)。また、我々のグループは、メラノーマ患者の皮膚転移腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 中のCD8+ T細胞が、肝転移の存在下でPD-1およびCTLA-4の共発現が低下していることを既に報告していた (Loo et al. 2017)。これらの臨床観察は、肝転移が遠隔部位の抗腫瘍免疫に影響を与える可能性を示唆していたが、そのメカニズムは未解明であり、前臨床モデルを用いた詳細な検証が不足していた。

従来の腫瘍免疫療法の研究は、その効率性と利便性から単一の皮下 (SQ) 腫瘍モデルに依存することが多かったが (Mosely et al. 2017)、このモデルは複数の解剖学的部位に腫瘍が存在し、しばしば異なる応答パターンを示す臨床シナリオを十分に反映していなかった (Oliver et al. 2020)。特に、肝転移における免疫抑制のメカニズムは、腫瘍量や局所的な免疫抑制効果に限定されるものではなく、肝臓特有の免疫寛容誘導能が全身性の抗腫瘍T細胞免疫を抑制し、現在の癌免疫療法の効果を損なう可能性が指摘されていた。しかし、この全身性免疫抑制の具体的な経路や、それを克服するための治療戦略については、さらなる研究が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究は、免疫正常マウスの二部位腫瘍モデル (皮下+肝内同時MC38移植) を用いて、以下の3点を目的とした。(1) 肝臓内の腫瘍抗原の存在が、遠隔腫瘍部位 (皮下) の抗腫瘍免疫を全身的かつ抗原特異的に抑制するかを検証する。(2) その主要な免疫抑制メカニズム、特に制御性T細胞 (Treg) と骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の関与を同定する。(3) TregおよびMDSCを標的とした組み合わせ免疫療法 (Treg除去型抗CTLA-4抗体またはEZH2阻害薬) が、抗PD-1単剤療法の無効化を逆転させ、全身性抗腫瘍免疫を回復させるかを評価する。これらの目的を達成することで、肝転移を有する癌患者における抗PD-1療法抵抗性のメカニズムを解明し、新たな治療戦略の根拠を確立することを目指した。

結果

肝腫瘍は遠隔皮下腫瘍増大を促進し抗PD-1単剤療法を無効化する: SQ+liver群では、SQ単独群およびSQ+lung群と比較して、皮下腫瘍が有意に増大した (p<0.0001)。抗PD-1単剤療法では、SQ+lung群ではほぼ全例で腫瘍拒絶と生存延長が認められたが、SQ+liver群では10/10匹のマウスがday 25までに安楽死を要した (p<0.0001, log-rank検定)。SQ腫瘍内CD8+ TILにおけるPD-1/CTLA-4共発現率は、SQ+liver群で有意に低値であり (p<0.0001)、CTLA-4およびPD-1の平均蛍光強度 (MFI) も有意に低下していた (Fig 1)。これらの結果は、肝転移が遠隔部位の抗腫瘍免疫を抑制し、抗PD-1療法の効果を著しく低下させることを示唆している。

肝腫瘍による免疫抑制は腫瘍抗原特異的かつ腫瘍量非依存的である: 腹腔内または腎臓内への同等の腫瘍量の移植では、SQ腫瘍の増大は促進されなかった (Fig 2A)。これは、腫瘍量自体が免疫抑制の主要因ではないことを示唆する。NSGおよびRag-1 KOマウスでは、肝腫瘍によるSQ腫瘍増大促進効果が消失したことから、この免疫抑制が適応免疫に依存することが明らかになった (Fig S2B)。さらに、照射MC38細胞 (5×10⁵個または5×10⁴個) または腫瘍ライセートの肝内注入でもSQ腫瘍増大が再現され、生腫瘍と同等の効果を示した (Fig 2B, 2C)。これは、腫瘍抗原の存在のみで免疫抑制が誘導され得ることを示唆する。異種B16F10腫瘍細胞の肝内移植では、MC38皮下腫瘍に影響がなかったことから、免疫抑制がMC38抗原特異的であることが確認された (Fig 2D)。これらのデータは、肝臓特有の免疫寛容誘導プロセスが、腫瘍量に依存せず、腫瘍抗原特異的に全身性抗腫瘍免疫を抑制することを示している。

遠隔TILにおける腫瘍特異的CD8+ T細胞の機能低下 (クローナル無反応): KSPテトラマー陽性CD8+ TILの比率および絶対数は、SQ単独群とSQ+liver群で有意差がなかった (Fig 3E, Fig S4C)。これは、腫瘍特異的CD8+ T細胞のクローン欠失や隔離が起こっていないことを示唆する。しかし、SQ+liver群のKSP+CD8+ T細胞では、CTLA-4, ICOS, IFNγ, TNFα, CD107aの発現が有意に低下していた (p<0.05〜p<0.001) (Fig 3F)。これは、腫瘍特異的CD8+ T細胞がクローナル無反応状態に置かれていることを示唆する。エフェクターCD4+ T細胞ではICOS発現が低下し、PD-1発現が上昇していた (p<0.05) (Fig S3B)。一方、SQ腫瘍内TregにおけるCTLA-4発現は、Tconvと比較して高値であり、肝腫瘍マウスではさらに有意に高値であった (Fig 3D)。

Foxp3+ TregのSQ腫瘍内頻度は変化しないが高活性化し、Treg除去で免疫回復・腫瘍拒絶が誘導される: SQ腫瘍内Tregの比率 (CD4+ T細胞の約35%) および絶対数は、SQ単独群とSQ+liver群で有意差がなかった (Fig S4A, S4B)。しかし、SQ+liver群のTregはPD-1, CTLA-4, ICOS, Neuropilin-1, Heliosの有意な高発現を示し、高抑制能表現型を呈していた (Fig 3D, Fig 5A)。Foxp3-DTRマウスを用いたDTによる全身Treg除去は、SQ単独群およびSQ+liver群の両方で腫瘍拒絶を増強した (p<0.0001) (Fig 3G)。Treg除去後、腫瘍特異的CD8+ T細胞のICOS, IFNγ, CD107a発現が有意に回復した (Fig 3H, 3I)。これらの結果は、Tregが肝腫瘍による免疫抑制において中心的な役割を果たしていることを強く示唆する。

Treg除去 (抗CTLA-4 9H10 IgG2a) またはEZH2阻害剤と抗PD-1の併用で完全拒絶・長期免疫記憶が達成される: Treg除去型抗CTLA-4抗体 (クローン9H10) と抗PD-1抗体の併用療法は、SQ+liver群のn=10匹のマウスにおいて、60日時点で100%の生存率とSQおよび肝内両部位の完全な腫瘍拒絶を達成した (Fig 4B, 4C)。9H10単剤療法では部分的な拒絶に留まった。Treg非除去型抗CTLA-4抗体 (9D9 IgG2b) と抗PD-1の併用では完全拒絶は不十分であったことから、Treg除去が必須であることが示された (Fig S16A, S16B)。EZH2阻害剤CPI-1205と抗PD-1の併用療法も、有意な腫瘍縮小と生存延長をもたらした (Fig 4E, 4F)。これらの併用療法を受けたマウスのうち、CPI-1205+抗PD-1群で7/18匹、9H10+抗PD-1群で10/10匹がMC38再移植を拒絶し、長期的な免疫記憶が誘導されたことを確認した (Fig 4I)。

scRNA-seq解析により、肝腫瘍マウスのSQ TregはTsc22d3 (GILZ) およびCd83を高発現し、CD8+ T細胞は機能低下を示すことが判明: scRNA-seq解析では、SQ単独群とSQ+liver群のSQ腫瘍浸潤CD45+細胞から合計62,743細胞を解析し、15のクラスターを同定した。Tregクラスターの差次発現遺伝子 (DEG) 解析では、Tsc22d3 (GILZ) とCd83が上位2つの高発現遺伝子として同定された (Fig 5C, 5D)。これらの遺伝子はTregの安定性と抑制機能に重要であることが知られている。CD8+ T細胞のDEG解析では、Klrk1, Prf1, Cd28, Il7r, Ctla4, Icosなどの活性化関連遺伝子の発現低下が認められた (Fig 5E, 5F)。これはフローサイトメトリーの結果と一致し、肝腫瘍の存在下で遠隔部位のCD8+ T細胞が機能不全に陥っていることを示唆する。

MDSCが肝腫瘍マウスのSQ腫瘍で著明に増加し、TregがMDSCを動員・抑制性表現型に誘導する階層的機序が示唆される: scRNA-seq解析のmyeloidクラスター解析では、cluster 6 (MDSCシグネチャー) がSQ+liver群のSQ腫瘍で有意に増加していた (Fig 5G, 5H)。これらの細胞はSocs3, Xbp1, Acod1などの免疫抑制遺伝子を高発現していた (Fig S12)。フローサイトメトリーでも、SQ+liver群のSQ腫瘍におけるCD45+CD11b+細胞が有意に増加し (p<0.01)、表面CD80/86発現が有意に低下していた (p<0.01) (Fig 6A, 6B)。CLLによるMDSC全身除去は、CD11b+ MDSCの減少、腫瘍特異的T細胞活性化の回復、腫瘍拒絶の増強をもたらしたが、Tregの比率やCTLA-4発現は変化しなかった (Fig 6E, 6F)。一方、Foxp3-DTRマウスにおけるTreg除去は、CD11b+ MDSCの減少とCD80/86発現の回復を誘導した (Fig 6C, 6D)。肝腫瘍由来Tregの養子移植は、SQ腫瘍の増大を促進した (Fig 5B)。これらの結果は、肝腫瘍によりプライミングされた高活性Tregが、遠隔腫瘍部位のMDSCを動員し、その抑制性表現型を誘導することで、CD8+ T細胞の機能を抑制するという階層的なメカニズムを示唆している。

考察/結論

本論文は、肝転移が抗PD-1免疫療法抵抗性を誘導する分子メカニズムとして、肝臓での腫瘍抗原によるTregの高活性化が遠隔腫瘍部位のMDSCを誘導し、腫瘍特異的CD8+ T細胞をクローナル無反応状態に置くという精緻な連鎖機序を初めて実験的に実証した研究である。

先行研究との違い: これまでの研究は、肝臓の免疫寛容誘導能が主に局所的な免疫抑制に寄与すると考えていたが、本研究は肝転移が全身性の抗腫瘍免疫を抑制し、遠隔部位の腫瘍にも影響を及ぼすことを明確に示した点で、これまでの知見と異なる。特に、肝臓特異的、抗原特異的、かつ腫瘍量非依存的という三条件を明確に示したことは、腫瘍量や非特異的免疫抑制ではなく、肝臓の持つ固有の寛容誘導能が全身免疫抑制を起動するという肝免疫学の概念をがん免疫療法に直結させた点で画期的である。

新規性: 本研究で初めて、肝転移の存在下で遠隔腫瘍部位のTregがGILZ (Tsc22d3) およびCd83を高発現し、高抑制能表現型を獲得することをscRNA-seq解析により同定した。これらの遺伝子はTregの安定性と抑制機能に重要であることが報告されており、Treg機能増強の転写プログラムを明らかにしたことは新規の発見である。また、TregがMDSCの動員と抑制性表現型への誘導を先行して行うという階層的な免疫抑制メカニズムを解明した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、肝転移を有する癌患者に対する抗PD-1療法の臨床応用において重要な含意を持つ。抗PD-1単剤療法では効果が不十分な肝転移患者に対し、Treg除去 (Treg-depleting 抗CTLA-4 IgG2a) またはTreg機能阻害 (EZH2阻害剤CPI-1205) と抗PD-1の併用療法が、完全な腫瘍拒絶と長期免疫記憶を達成できることを示した。これは、低用量イピリムマブ (FcγRIIIa依存的にTreg除去能が高い) との組み合わせ戦略を支持する強力なエビデンスとなる。本研究の結果は、肝転移を持つ患者が抗PD-1単剤に不応である可能性が高く、ICI試験での除外や特別な組み合わせ療法の検討が必要であるという臨床指針の科学的基盤として極めて重要である。

残された課題: 今後の検討課題として、肝臓における腫瘍特異的Tregのプライミングメカニズムの詳細な解明が残されている。肝臓の多様な寛容誘導性APC (樹状細胞、クッパー細胞、肝星細胞、肝類洞内皮細胞、肝細胞など) が、どのようにして高抑制能Tregを誘導するのか、その分子経路を特定する必要がある。また、本研究はマウスモデルに基づいているため、ヒトの肝転移患者におけるTreg-MDSCクロストークの臨床的意義を検証するためのさらなるトランスレーショナル研究や臨床試験が求められる。特に、Treg除去型抗CTLA-4抗体やEZH2阻害剤の臨床試験において、肝転移患者を対象としたサブグループ解析や、これらの薬剤の最適な投与量・タイミングの検討も今後の課題である。

方法

本研究では、C57BL/6マウスにMC38腫瘍細胞 (5×10⁵個) を皮下 (SQ) および肝内 (肝被膜下注射) に同時移植するデュアル腫瘍モデルを確立した。対照群として、SQ単独移植群、SQ+肺内移植群 (静脈内投与)、SQ+腎内移植群、SQ+腹腔内移植群を設定し、皮下腫瘍の増大とマウスの生存を評価した。免疫抑制の適応免疫依存性を確認するため、免疫不全マウス (NODscid gamma (NSG) およびRag-1 KOマウス) を用いた実験も実施した。

腫瘍抗原特異性の評価には、MC38腫瘍固有のペプチドであるH-2Kᵇ-KSPWFTTL (KSP) テトラマーを用いて、腫瘍特異的CD8+ TILを同定し、その機能的マーカー (PD-1, CTLA-4, ICOS, IFNγ, TNFα, CD107a) の発現をフローサイトメトリーで解析した。腫瘍抗原の存在のみで免疫抑制が誘導されるかを確認するため、照射MC38細胞 (5×10⁵個または5×10⁴個) またはMC38腫瘍ライセート (5×10⁵細胞相当) を肝内に注入する実験を行った。また、異種B16F10腫瘍細胞の肝内移植を行い、免疫抑制の抗原特異性を検証した。

Tregの役割を評価するため、Foxp3-DTRマウスにジフテリア毒素 (DT; 0.04 mg/kg、隔日投与24日間) を投与し、全身性のFoxp3+ Treg除去を行った。チェックポイント阻害療法として、抗マウスPD-1抗体 (RMP1-14、250 μg、腹腔内投与) を単剤または抗CTLA-4抗体 (9H10、クローン9D9 IgG2a/IgG2b、day 7/9/11投与) と併用した。Treg機能阻害剤として、EZH2阻害剤CPI-1205 (Constellation社製、300 mg/kg経口、隔日投与) を用いた。MDSCの役割を評価するため、クロドロネートリポソーム (CLL) を全身投与し、CD11b+ MDSCの除去を行った。

腫瘍微小環境における免疫細胞の包括的な解析のため、SQ腫瘍から分離したCD45+細胞 (各群6匹のマウスからプール) を用いて、10x Genomics Chromium 5’ GEX (Gene Expression) +VDJプラットフォームによるシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) を実施した。合計62,743細胞を解析し、SeuratおよびSCTransformを用いてクラスター同定、遺伝子発現解析を行った。フローサイトメトリーでは、CD4, CD8, Foxp3, PD-1, CTLA-4, ICOS, Ki-67, IFNγ, TNFα, CD107a, CD80/86, CD107a, CD11b, Neuropilin-1, Heliosなどのマーカーを解析した。腫瘍体積の確認には生物発光イメージング (IVIS) を用いた。統計解析にはGraphPad Prism 8を使用し、unpaired t検定、log-rank検定、二元配置分散分析 (ANOVA) with Sidakの多重比較検定を用いた。