- 著者: Enfu Hui, Jeanne Cheung, Jing Zhu, Xiaolei Su, Marcus J. Taylor, Heidi A. Wallweber, Dibyendu K. Sasmal, Jun Huang, Jeong M. Kim, Ira Mellman, Ronald D. Vale
- Corresponding author: Ira Mellman (mellman.ira@gene.com) (Department of Cancer Immunology, Genentech, South San Francisco, CA, USA); Ronald D. Vale (ron.vale@ucsf.edu) (Department of Cellular and Molecular Pharmacology and Howard Hughes Medical Institute, UCSF, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-03-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 28280247
背景
T細胞は、T細胞受容体 (TCR) からの抗原特異的シグナルと、共刺激受容体からの抗原非依存的シグナルの組み合わせによって活性化される。T細胞表面には、ナイーブT細胞の完全な活性化に必須な正のシグナルを伝達する共刺激受容体と、T細胞シグナル伝達の強度を低下させる共抑制受容体の2種類の共シグナル伝達受容体が発現している。共抑制受容体は、T細胞の過剰な活性化に対するチェックポイントとして機能し、感染時の末梢寛容と免疫恒常性の維持に重要な役割を果たすことが知られている Pardoll et al. NatRevCancer 2012。
プログラム細胞死受容体-1 (PD-1) は、様々な免疫細胞および非免疫細胞によって発現される2つのリガンド、PD-L1およびPD-L2に結合する共抑制受容体である Freeman et al. JExpMed 2000、Dong et al. NatMed 2002。PD-L1の発現はしばしばインターフェロンγ (IFNγ) によって誘導され、活性化時にこのサイトカインを分泌するT細胞によって間接的に制御される Freeman et al. JExpMed 2000。さらに、T細胞の活性化はT細胞自身のPD-1の発現を増加させる Wherry et al. NatRevImmunol 2015。したがって、慢性ウイルス感染中、T細胞はPD-1およびPD-L1の発現増加による恒常性負のフィードバックループを反映して、徐々に「疲弊」する。PD-1とそのリガンド間の相互作用は、ヒトがんに対するエフェクターT細胞活性を抑制することも示されている Sharma et al. Science 2015。PD-L1-PD-1経路を阻害する抗体は、様々な癌種で持続的な臨床的利益を示しており、特にPD-L1の発現によって既存の抗癌免疫の証拠を示す患者において顕著である Herbst et al. Nature 2014、Topalian et al. NEnglJMed 2012、Hamid et al. NEnglJMed 2013。興味深いことに、その利益はしばしば、腫瘍細胞自身によるPD-L1発現よりも、腫瘍浸潤免疫細胞によるPD-L1発現と相関することが報告されている。
ヒトがん治療におけるその重要性が実証されているにもかかわらず、PD-1を介したT細胞機能抑制のメカニズムは未解明な点が多かった。初期の研究では、PD-1がPD-L1に結合すると、PD-1細胞質ドメインの2つのチロシンがリン酸化されることが示された。トランスフェクト細胞における共免疫沈降 (co-IP) および共局在研究は、リン酸化されたPD-1が、細胞質チロシンホスファターゼShp2およびShp1、TCRリン酸化キナーゼLck、および抑制性チロシンキナーゼCskを直接的または間接的に動員することを示唆していた。しかし、これらの抑制性エフェクターの直接的な標的を特定することは、抗PD-L1/PD-1免疫療法のメカニズムを理解するために極めて重要であるにもかかわらず、PD-1結合エフェクターの下流標的については依然として不明な点が多かった。最近の研究では、PD-1活性化がTCRシグナル伝達、CD28共刺激シグナル伝達、ICOS共刺激シグナル伝達、またはこれらの経路の組み合わせを抑制することが示唆されていた。ERK、Vav、PLCγ、PI3キナーゼ (PI3K) など、様々なシグナル伝達分子のリン酸化低下が報告されているが、これらの分子はTCRと共刺激経路の両方に共通のエフェクターであり、PD-1の直接的な標的ではない可能性も指摘されていた。特に、CD28シグナル伝達がPD-1抑制の候補として挙げられていたものの、TCRシグナル伝達と比較した定量的で直接的な比較実験が不足しており、PD-1がどちらの経路を優先的に抑制するのかという知識ギャップが残されていた。この知識ギャップを埋めることが、本研究の重要な課題である。
目的
本研究の目的は、PD-1を介したT細胞抑制の分子メカニズムを解明することである。具体的には、細胞外小胞生化学再構成系 (LUV) と全反射蛍光 (TIRF) 顕微鏡、および完全細胞系を組み合わせて、PD-1に動員されるリン酸化酵素および脱リン酸化酵素を同定する。さらに、PD-1-Shp2複合体の下流のTCRシグナル成分と共刺激受容体CD28のどちらが優先的な脱リン酸化標的であるかを定量的に決定することを目的とする。この定量的比較を通じて、PD-1がT細胞機能を抑制する主要な経路を特定し、抗PD-L1/PD-1免疫療法の作用機序に関する理解を深めることを目指す。特に、CD28シグナル伝達がPD-1の主要な標的であるという仮説を検証し、その生理学的意義を評価する。
結果
PD-1はShp2を特異的に動員し、LckがPD-1の主要リン酸化酵素である: FRETアッセイにより、LckがPD-1の主要なリン酸化酵素であり、Cskではないことを確認した。リン酸化されたPD-1にはShp2のみが直接結合し、Shp1、Csk、SHIP-1などの他のSH2ドメイン含有タンパク質は結合しなかった (Fig 1B)。完全長Shp2はShp1と比較して29倍高い親和性でPD-1に結合した (fig. S2A)。PD-1の細胞質ドメインにおけるY224とY248の両方のチロシンがShp2結合に寄与し、両方のチロシンの二重リン酸化が最適なShp2動員に必要であることが示された (Fig 1C)。PD-1-Shp2複合体はShp2がPD-1を自己脱リン酸化することで解離し、Lck活性の持続がShp2の恒常的動員に必要であることが示唆された (Fig 1G)。Shp2のPD-1への結合特異性は、他の共刺激受容体 (CD3ζ、CD3ε、CD28、ICOS、DAP10、CD226、CD96、TIGIT、CTLA4) では観察されず、PD-1がShp2を動員する独自のメカニズムを持つことが示された (Fig 1D, E)。この結果は、PD-1-Shp2ネットワークがLckの活性に依存し、PD-1のリガンド結合がない場合には迅速にリセットされる正負のフィードバックループを形成することを示唆する。
CD28がPD-1-Shp2複合体の最優先脱リン酸化標的である (IC50 約96 PD-1分子/μm²): LUV再構成系においてPD-1濃度を滴定した結果、CD28の50%脱リン酸化濃度 (IC50) は約96 PD-1分子/μm² (p<0.01) であった (Fig 2B, C)。これに対し、TCRシグナル成分であるCD3ζ、ZAP70、LAT、SLP76のIC50はいずれも1000 PD-1分子/μm²を超え、CD28と比較して10倍以上感受性が低いことが確認された (Table S2)。Lck自体 (Y394/Y505) は400〜600 PD-1分子/μm²で50%脱リン酸化されたが、抑制性チロシンY505の優先的脱リン酸化により、Lck活性への正味の促進効果が示唆された。Cskの添加はCD28とTCRの両方のPD-1感受性を高めたが、CD28が最も感受性が高いという結果は変わらなかった (fig. S7)。CD45はCD28、CD3ζ、ZAP70を同等に脱リン酸化し (3〜4倍の差のみ)、PD-1-Shp2の高い選択性 (>10倍) とは対照的であった。これらの結果は、CD28がLckの基質としてCD3ζよりも弱い触媒速度 (kcat比6:1) を持つため、キナーゼ-ホスファターゼネットワークにおいてCD28がPD-1-Shp2抑制に対してより感受性が高いというメカニズムを支持する。このLUV系では、n=3 independent experimentsで再現性が確認された。
TIRF顕微鏡によりPD-1とCD28の高い共局在が確認された (PCC 0.89): OT-I CD8+ T細胞をpMHC、B7.1、ICAM-1を含む支持脂質二重膜に接触させた際、PD-1は共刺激受容体CD28と強く共クラスターを形成した (PCC 0.89 ± 0.05)。一方、PD-1とTCRの重複は有意に少なく (PCC 0.69 ± 0.09;p<0.0001;n=17 cells)、PD-1とCD28の共局在がより顕著であった (Fig 3A)。PD-1とCD28の共局在は、細胞-二重膜接触直後 (0秒) から始まり、T細胞が完全に伸展する30秒まで持続した。分子は中心求心的に移動し、最終的にはTCRが中心に、CD28とPD-1が外周に位置する「ブルズアイ」パターンに分離した (145秒) (Fig 3B)。PD-L1非存在下ではPD-1は拡散性のままであり、PD-L1がPD-1と共刺激受容体を近接させるために必要であることが確認された (fig. S13)。ICOS共刺激受容体もTCRよりPD-1と強く共局在したが、PD-1の基質ではないことが示された (fig. S10)。
完全細胞系でもCD28が優先的に脱リン酸化され、IL-2産生が63%低下した: PD-1を導入したJurkat T細胞 (約40 PD-1分子/μm²) をPD-L1 High Raji B細胞 (約86 PD-L1分子/μm²) で刺激すると、IL-2分泌が63%低下した (p<0.0001, two-way ANOVA) (Fig 4B)。PD-L1密度の増加に伴い、CD28リン酸化 (p85α共沈殿で評価) は接触後2分で低下したが、ZAP70、CD3ζ、LAT、SLP76のリン酸化には有意な変化がなかった (Fig 4C, D)。この効果は10分後には減弱し、in vitro系で示されたShp2-PD-1フィードバックループの細胞内再現が示唆された。PD-L1 Low Raji B細胞 (約16 PD-L1分子/μm²) を用いた場合でも、2分後のCD28脱リン酸化が検出されたが、TCRシグナルには影響がなかった (fig. S14B, C)。これらの結果は、PD-1-Shp2がTCRよりも共刺激受容体CD28の脱リン酸化を強く優先することを示している (fig. S15)。IL-2産生はn=4 independent measurementsで評価され、各測定はtriplicatesで実施された。
考察/結論
新規性: 本研究は、PD-1の主要なシグナル下流標的がTCRではなくCD28であることを、生化学的再構成系と完全細胞系の双方から定量的に初めて証明した。この新規な知見は、PD-1がShp2を介してCD28を優先的に脱リン酸化する分子基盤として、「CD28がLckの基質としてCD3ζより弱い (kcat比6:1) ため、競合的リン酸化-脱リン酸化系においてCD28が感受性が高い」という機序を提示した。このメカニズムは、PD-1がT細胞の共刺激シグナル伝達を特異的に抑制するという、これまで報告されていない重要な側面を明らかにする。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-1がTCRシグナル伝達を抑制するという見解が主流であったが、本研究はそれと異なり、CD28シグナル伝達がより優先的な標的であることを明確に示した点で、新規性が高い。この結果は、Kamphorst et al. (同号掲載) のin vivo LCMV系でCD28非存在下ではPD-1療法が無効であるという観察と完全に一致する。これは、抗PD-L1/PD-1療法の主要な作用機序が「T細胞エフェクターのTCRシグナル回復」ではなく、「CD28共刺激シグナルの再活性化」であることを強く示唆する。
臨床応用: 本知見はがん免疫学的に重要な含意を持つ。腫瘍内におけるCD28リガンド (B7.1) 発現APCの役割を説明する可能性があり、腫瘍細胞ではなく浸潤免疫細胞がPD-L1陽性である方が、臨床的奏功の予測精度が高いという臨床知見とも整合する。PD-1阻害療法がCD28シグナル伝達を回復させることでT細胞の抗腫瘍応答を強化するという理解は、治療戦略の最適化に繋がる可能性がある。例えば、CD28共刺激をさらに強化する併用療法や、CD28リガンドを発現するAPCの腫瘍微小環境における役割を標的とするアプローチが考えられる。
残された課題: 今後の検討課題としては、CD28以外の共刺激分子 (例: ICOS) がPD-1による抑制にどのように関与するのか、また、PD-1がT細胞の異なる分化段階や機能状態において、CD28以外のシグナル経路にどのような影響を与えるのかを包括的に解明する必要がある。さらに、本研究で示されたin vitroおよびin celluloでの知見が、より複雑なin vivo環境、特にヒト腫瘍微小環境においてどのように機能するかを詳細に検証することが今後の研究課題である。本研究のlimitationとして、Jurkat細胞株を用いた実験は、初代T細胞の生理学的応答を完全に再現するものではない可能性がある点が挙げられる。
方法
LUV (大型一枚膜小胞) 系再構成: T細胞様膜面を模倣したLUVに、PD-1細胞質ドメイン、CD3ζ、CD28、ICOS、LAT、Lckを生理学的密度で結合させた。可溶性成分としてZAP70、p85α、Gads、SLP76、Shp2を生理的濃度で添加した。FRET (蛍光共鳴エネルギー移動) アッセイを用いて、LckおよびCskのPD-1リン酸化能、ならびにShp2、Shp1、SHIP-1などのPD-1結合特異性を定量的に評価した。PD-1濃度 (分子/μm²) を系統的に変化させ、各シグナル成分の50%脱リン酸化濃度 (IC50) をウエスタンブロット定量により算出した。この系では、リン酸化、脱リン酸化、および膜表面でのタンパク質-タンパク質相互作用からなる反応カスケードがATP添加によって開始される。
TIRF顕微鏡 (全反射蛍光顕微鏡) による共局在解析: PD-1-mCherry、CD28-mGFP、およびAlexa647標識抗TCR抗体で標識したOT-I CD8+ T細胞を、pMHC (TCRリガンド)、B7.1 (CD28リガンド)、およびICAM-1 (インテグリンLFA1リガンド) を提示する支持脂質二重膜上に展開した。PD-1/CD28およびPD-1/TCRの共局在は、Pearson相関係数 (PCC) を用いて測定した (n=17 cells)。細胞-二重膜接触後0秒から30秒、145秒までの時間経過を追跡し、PD-1、CD28、TCRの空間的配置の変化を観察した。
完全細胞系におけるシグナル伝達解析: PD-1をレンチウイルスで導入したJurkat T細胞 (約40 PD-1分子/μm²) と、PD-L1を導入したRaji B細胞 (抗原提示細胞、APC) を共培養した。Raji B細胞は、高発現レベル (PD-L1 High、約86 PD-L1分子/μm²) または低発現レベル (PD-L1 Low、約16 PD-L1分子/μm²) のPD-L1を発現するように調整した。CD28、CD3ζ、ZAP70、LAT、SLP76のリン酸化状態を、PD-L1強度 (PD-L1 High : PD-L1-比) の変化に対してウエスタンブロットで評価した。CD28のリン酸化は、CD28リン酸化特異的抗体が利用できないため、p85αとの共沈殿を介して間接的に評価した。IL-2産生は、共培養24時間後にELISAで定量した。これらの実験は、PD-1がT細胞機能に及ぼす抑制活性と、その下流のシグナル伝達分子への影響を評価するために実施された。統計解析にはStudent’s t-testおよびtwo-way ANOVAを用いた。