• 著者: Rachel Ambler, Grace L. Edmunds, Sin Lih Tan, Silvia Cirillo, Jane I. Pernes, Xiongtao Ruan, Jorge Huete-Carrasco, Carissa C. W. Wong, Jiahe Lu, Juma Ward, Giulia Toti, Alan J. Hedges, Simon J. Dovedi, Robert F. Murphy, David J. Morgan, Christoph Wülfing
  • Corresponding author: David J. Morgan (d.j.morgan@bristol.ac.uk); Christoph Wülfing (christoph.wuelfing@bristol.ac.uk) (School of Cellular and Molecular Medicine, University of Bristol, UK)
  • 雑誌: Science Signaling
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-09-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32934075

背景

腫瘍微小環境 (TME) における腫瘍特異的CD8+ T細胞 (TIL) の殺傷能力は著しく抑制されることが知られており、その主要な分子的媒介として抑制性受容体PD-1の発現増加が示されている。PD-1は、持続的な抗原曝露に応答してT細胞表面に増加し、慢性ウイルス感染症においてはCD8+ T細胞の疲弊表現型を維持することが報告されている (Barber et al. Nature 2006)。PD-1の関与は、ホスファターゼSHP-2の細胞界面へのリクルート、AktおよびRas経路の持続的活性化の抑制、解糖系の阻害と脂肪分解および酸化代謝の促進、そしてTCR誘導性のストップシグナルの阻害など、T細胞活性化に多岐にわたる影響を及ぼすことが示されている (Hui et al. Science 2017)。PD-1およびCTLA-4に対するモノクローナル抗体療法は、抗腫瘍免疫応答を増強し、臨床的に大きな成功を収めている (Wolchok et al. NEnglJMed 2013)。しかし、TILが標的腫瘍細胞と接触した際に、MTOC (microtubule organizing center) 分極、免疫シナプスのF-アクチン動態、Ca2+シグナリング、細胞カップル安定性といった細胞生物学的ステップのいずれが障害されているかについての詳細なex vivo解析はほとんどなく、PD-1シグナリングが具体的にいつ、どのように機能するのかは未解明であった。特に、急性のPD-1遮断とin vivoでの持続的PD-1関与の遮断がTIL機能回復に対して異なる効果を持つかどうかはこれまで検証されていなかった。また、腫瘍細胞殺傷におけるT細胞の細胞骨格再編成の重要性は確立されているものの、TILにおけるこのプロセスがどのように障害されるか、そしてその障害がPD-1によってどのように制御されるかについての具体的なメカニズムは不足していた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、RencaHA (HA発現腎癌細胞株) とclone 4 (HA特異的CD8+ T細胞) マウスモデルを用いたex vivoライブセルイメージング系を確立し、TILがRencaHA腫瘍細胞と相互作用する際の細胞生物学的プロセスを詳細に解析することである。具体的には、(1) TILの細胞殺傷能、(2) 微小管形成中心 (MTOC) の分極、(3) F-アクチン動態とその調節因子 (cofilin、coronin 1A、Arp3) の挙動、(4) Ca2+シグナリング、(5) 細胞カップルの維持能力を定量的に評価する。さらに、PD-1シグナル伝達がこれらの機能障害にどのように寄与するかを明らかにするため、in vivoでのPD-1ブロッキングと急性in vitroでのPD-1ブロッキングがTIL機能回復に与える影響の差異を検証する。これにより、TIL機能障害の根底にある細胞生物学的メカニズムと、PD-1がそのメカニズムに与える影響の時空間的特性を解明することを目指す。

結果

TILの細胞殺傷能の著しい低下: HAペプチドをパルスしたRenca+HA細胞に対するclone 4 CTLの殺傷速度は8±3%/hour (n=7実験) であった。これに対し、RencaHA腫瘍に養子移入後に採取したTILの殺傷速度は3±1%/hourと有意に低下した (p<0.0001, Welch’s t-test)。HA非パルスRenca細胞に対しては殺傷が認められず、抗原特異的溶解が確認された。この結果は、腫瘍微小環境への浸潤がCD8+ T細胞の細胞傷害能を著しく減弱させることを明確に示している (Fig 1)。

MTOC分極の遅延と細胞カップル維持の障害: Tubulin-GFPを発現するclone 4 CTLは、標的細胞接触後7分以内に全ての細胞 (n=51 CTLs) がMTOCを腫瘍細胞界面へ再局在させた。しかし、TIL (n=55 TILs) では7分時点でのMTOC界面局在比率が有意に低下した (p<0.0036, proportion z-test)。さらに、初期接触からタイトな細胞カップルへの移行率は、CTLで78±3%であったのに対し、TILでは31±6%と著しく低かった (p<0.0001)。TILは初期シナプス形成後数秒から数分以内に分極が減弱し、界面から離れる方向のoff-synapse lamellaeの発生比率がCTLより有意に高かった (p<0.0001)。また、TILの14±3%が初期結合部位から少なくとも界面径1個分以上移動 (translocation) したのに対し、CTLでは4±2%であった (p<0.0001)。これらのデータは、TILが免疫シナプスの安定性を維持できないことを示唆する (Fig 2)。

F-アクチン中心消失の障害と調節因子の変化: F-tractin-GFPを用いた解析では、CTL (n=60 CTLs) では標的細胞接触後2分以内にF-アクチン界面中心濃縮比が1.3倍以下に低下し、中央クリアリングが完了した。しかし、TIL (n=51 TILs) では同時点でも1.5倍以上維持され、クリアリングが障害されていることが示された。TILは全体的なF-アクチン量もPhalloidin染色で有意に低値であった。F-アクチン脱重合を促進するcofilinおよびcoronin 1Aの界面集積は、TILでタイトな細胞カップリング直後からCTLより有意に増加し (p<0.01)、この傾向は持続した。一方、Arp3 (actin-related protein 2/3) の界面集積に有意差はなかった。Phospho-tag Western blot解析では、抗CD3コーティングプレートで活性化したTILは、全時点でCTLより高い脱リン酸化 (活性化) cofilin比率を示した (p<0.0001)。これらの結果は、F-アクチン脱重合促進がTILのF-アクチン不安定化の機序であることを示唆する (Fig 3, Fig 4)。

Ca2+流入の低下と細胞カップル維持不全への寄与: Fura-2 ratiometric imagingにより、CTL (n=50 CTLs) は標的細胞との最初の膜接触後に急速かつ大きなCa2+上昇を示した。対照的に、TIL (n=14 TILs) では接触後数分までCa2+上昇が遅延し、振幅も有意に低下した (p<0.0001)。Ca2+チャネル遮断薬Ni2+とCa2+キレーターBAPTA (1,2-Bis(2-aminophenoxy)ethane-N,N,N’,N’-tetraacetic acid tetrakis acetoxymethyl ester) で処置したCTLは、殺傷速度が5.8±0.3%から2.9±1.0%/hourへ低下し、タイトカップル形成率も78%から34%へ減少した。また、off-synapse lamellaeの増加とtranslocationの増加 (4%から29%) が観察された。これらの結果は、Ca2+シグナリング障害が細胞カップル維持不全と直接的に関連していることを示唆する (Fig 5)。

Jasplakinolide処置によるTIL殺傷能の模倣: 低濃度Jasplakinolide (40nM) で処置したCTL (n=40 CTLs) は、細胞カップリング率は有意に変化しないものの、F-tractin-GFP分布がTIL類似のパターンを示した。この処置により、CTLの殺傷速度は8±3%から3%/hourへとTILと同等レベルまで有意に低下した (p<0.0001)。このことは、F-アクチンターンオーバーの障害のみでTIL様の殺傷不全を誘発できることを示しており、F-アクチン代謝障害がTILの殺傷不全の十分条件であることを強く支持する (Fig 3)。

3D腫瘍環境におけるTIL機能不全の再現: RencaHA球状体と一晩共培養したSIL (spheroid-infiltrating lymphocyte) は、Renca+HA標的細胞に対する殺傷速度が5.6±0.7% (CTL共培養コントロール) から3.5±0.9%/hourへと有意に低下した (p<0.05)。SILではPD-1発現がCTLより有意に増加し、タイトカップル形成率も78±3% (CTL) から47±4% (SIL) へと減少した (p=0.007)。off-synapse lamellae、translocation、Ca2+流入の障害もSILで再現された (n=43 SILs)。これらの結果は、可溶性因子ではなく、腫瘍細胞との直接的な3D接触がTILの分極障害状態を誘導するのに必要十分であることを示している (Fig 6)。

in vivo PD-1ブロッキングによるTIL機能回復: 抗PD-1 mAbのin vivo投与は、腫瘍増大を有意に減少させ (p<0.01)、clone 4 TILの殺傷速度を対照マウスと比較して有意に増加させた (p<0.05)。in vivo PD-1ブロッキングを受けたTIL (n=42 TILs) では、界面中心F-アクチン消失がCTLレベルまで回復し、cofilin界面集積の増加も消失した。RencaHA-PD-L1-/-マウスから分離したTIL (n=43 TILs) でも同様の結果が得られた。しかし、translocation比率とoff-synapse lamellae生成は有意には変化しなかった。これらのデータは、PD-1のin vivoでの関与がTILの細胞骨格再編成を障害し、細胞傷害能を低下させることを示唆する (Fig 7, Fig 8)。

急性in vitro PD-1遮断ではTIL機能は回復せず: 急性ex vivo PD-1ブロッキング (抗PD-1 mAb単独添加) では、TILの殺傷速度、界面F-アクチン消失、Ca2+シグナリングのいずれも回復しなかった。むしろ、CTLの一部シグナリング要素 (Ca2+) が障害された。translocationのみが増加した (CTL 4%→24%, n=35 CTLs; TIL 14%→50%, n=24 TILs; p<0.0001)。PD-L1過発現RencaHA標的細胞を用いたin vitro実験でも殺傷阻害は認められなかった。これらの結果は、PD-1が急性シグナルではなく、in vivoでの長期・持続的関与を通じてTILのF-アクチン依存的細胞カップル維持を障害することを示唆する (Fig 9)。

考察/結論

本研究は、腫瘍内TILの殺傷機能障害の細胞生物学的機序として、「Ca2+感受性のF-アクチン再編成障害→免疫シナプス安定性低下→MTOC分極遅延→細胞カップル維持不全→殺傷能低下」という連鎖的カスケードをex vivoライブセルイメージング系で初めて詳細に定量した。

先行研究との違い: これまでの研究では、TILの機能障害がPD-1発現と関連することが示されてきたが、本研究は、PD-1の急性in vitro遮断ではTIL機能が回復せず、in vivoでの持続的PD-1関与遮断のみが回復をもたらすという非自明な結果を示した点で、これまでの知見と対照的である。これは、PD-1による機能障害が急性的なシグナル遮断では逆転しない、より持続的なin vivoシグナリングによって確立された「プログラムされた状態」であることを示唆する。

新規性: Jasplakinolide処置によるF-アクチン安定化阻害のみでTIL様殺傷不全が再現されたことは、F-アクチンターンオーバー阻害がTIL機能低下の十分条件であることを示す新規かつ重要な機械論的エビデンスである。また、SphreoidモデルでTIL様表現型が再現されたことは、可溶性TME因子ではなく腫瘍細胞との直接接触がPD-1シグナリングの起動に必要であることを本研究で初めて証明した。

臨床応用: 本知見は、抗PD-1療法の奏効機序が単純なPD-1/PD-L1シグナル遮断だけでなく、より長期的なT細胞再プログラミング (転写的エピジェネティックリセット) を要することを示唆し、臨床応用において治療戦略の最適化に貢献する可能性がある。特に、腫瘍内T細胞の細胞骨格動態を標的とした新規治療戦略 (cofilin/coronin 1A阻害など) の妥当性を支持する。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトTILでの本メカニズムの検証、cofilin活性化の上流シグナル (SHP-2など) の同定、およびPD-1以外の抑制受容体 (CTLA-4、TIM-3など) との分担の解明が挙げられる。また、PD-1の持続的関与がT細胞の転写プログラムにどのような変化をもたらすのか、その詳細な分子メカニズムを明らかにすることも今後の研究方向性として重要である。

方法

BALB/cマウスにRencaHA皮下腫瘍を形成させ、in vitroで活性化・レトロウイルス導入 (Tubulin-GFP、F-tractin-GFP、Cofilin-GFP、Arp3-GFP、Coronin1A-GFP) したclone 4 CD8+ T細胞を養子移入した。96時間後にGFP+ TILをFACSソートして採取した。ex vivo殺傷アッセイでは、HAペプチドをパルスしたRenca+HA細胞上にCTL/TILをオーバーレイし、蛍光顕微鏡で細胞面積縮小率 (%/hour) を定量した。スピニングディスク共焦点顕微鏡を用いて、MTOC分極 (tubulin-GFP)、F-アクチン分布 (F-tractin-GFP)、細胞カップル形態 (DIC)、およびcofilin/Arp3/coronin 1Aの界面集積を解析した。Ca2+イメージングは、Fura-2 ratiometric dye (Ex340/Ex380比) を用いて標的細胞接触後のCa2+動態を測定した。F-アクチン安定化操作のため、Jasplakinolide (40nM、高濃度) を用いてCTLを処置した。3D腫瘍環境の影響を評価するため、RencaHA球状体 (Matrigel) と一晩共培養したSIL (spheroid-infiltrating lymphocyte) を採取し、同様の解析を行った。in vivo PD-1ブロッキング実験では、抗PD-1 mAbをday-1/0/+1/+2/+3/+4に投与し、CTL養子移入後のTILを採取して解析した。RencaHA-PD-L1-/-細胞株もCRISPR-Cas9システムを用いて作成し、PD-L1欠損の影響を比較した。cofilinの活性化状態は、Phospho-tag Western blottingにより定量した。統計解析には、Anderson-DarlingおよびShapiro-Wilkテストによる正規性確認後、SAS procedure MIXEDを用いたAR(1)共分散行列を持つ一般線形モデル法、およびBonferroni補正を適用したStudent’s tテスト、Mann-Whitney Uテスト、proportion zテスト、一元配置分散分析 (ANOVA) を用いた。