• 著者: Suman Kumar Vodnala, Robert Eil, Rigel J. Kishton, Madhusudhanan Sukumar, Tori N. Yamamoto, Ngoc-Han Ha, Ping-Hsien Lee, MinHwa Shin, Shashank J. Patel, Zhiya Yu, Douglas C. Palmer, Michael J. Kruhlak, Xiaojing Liu, Jason W. Locasale, Jing Huang, Rahul Roychoudhuri, Toren Finkel, Christopher A. Klebanoff, Nicholas P. Restifo
  • Corresponding author: Nicholas P. Restifo (restifon@mail.nih.gov) (Surgery Branch, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-03-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30923193

背景

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) は腫瘍内で機能不全に陥っているにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害や養子T細胞移植 (ACT) により大型転移巣を根絶できるというパラドックスが長らく存在していた。T細胞は活性化後、ナイーブな幹細胞様状態から分化する際に、細胞外栄養素の取り込みと消費に依存し、強力な好気性解糖とmTOR駆動の同化成長を遂げることが知られている。しかし、腫瘍環境下ではT細胞が慢性的な抗原曝露により「疲弊」していると一般的に考えられてきた。近年、TILの一部サブセットが転写因子TCF7 (Tcf7) を発現するstem cell-like特性 (自己複製・多能性・持続性) を持つことが明らかにされており、これらの細胞が成功した免疫療法における腫瘍破壊に寄与すると考えられている。しかし、そのような幹細胞様TILが腫瘍環境下でどのように維持されるかのメカニズムは未解明であった。

複数の生物において、飢餓に対する細胞応答が幹細胞性を維持し、生物の寿命を延ばすことが報告されている。多くの固形腫瘍に共通する特徴として細胞壊死が挙げられ、壊死密度の高さは患者の生存率と逆相関することが示されている。壊死細胞は細胞内物質を細胞外空間に放出する。細胞内カリウム濃度は細胞外(約5 mM)よりもはるかに高い(約145 mM)ため、腫瘍間質液内の局所カリウム濃度は40 mMを超えることがある。先行研究では、腫瘍微小環境 (TME) における高細胞外カリウム (↑[K+]e) がT細胞のエフェクター機能を急性的に抑制することが報告されていた (Eil et al. Nature 2016)。また、T細胞の分化は Akt-mTOR (mammalian target of rapamycin) シグナル伝達とエピジェネティックな変化によって大きく推進されることが知られている (Kishton et al. Cell Metab 2017)。しかし、↑[K+]eがT細胞の栄養摂取、代謝、エピジェネティクス、細胞分化に与える影響はこれまで十分に検討されておらず、T細胞の幹細胞様特性の維持メカニズムについては知識ギャップが残されていた。特に、T細胞の幹細胞様特性を維持するメカニズムが不足しているという課題に対し、TMEにおける高カリウム環境がどのようにT細胞の代謝とエピジェネティクスを再プログラムし、幹細胞性を維持するのかを詳細に解析する必要があった。

本研究では、腫瘍間質液中に見られる高濃度の細胞外カリウムが、T細胞の栄養摂取を促進する電気化学的勾配を阻害し、同時にエフェクタープログラムの獲得と幹細胞性の喪失を制限するという仮説を立てた。このメカニズムを解明することで、T細胞の機能不全と幹細胞性維持という一見矛盾する現象を統一的に説明し、養子細胞療法 (ACT) の改善に向けた新たな治療戦略を開発することが本研究の重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍微小環境 (TME) に特徴的な高細胞外カリウム (↑[K+]e) がT細胞の代謝、エピジェネティクス、幹細胞性 (stemness) に与える影響を詳細に解明することである。具体的には、↑[K+]eがT細胞の栄養摂取、オートファジー、核サイトゾルアセチルCoA (AcCoA) レベル、ヒストンアセチル化、および幹細胞性関連遺伝子の発現にどのように影響するかを明らかにすることを目指した。さらに、これらのメカニズム的知見を基に、↑[K+]e処理やAcCoA代謝酵素の操作といった戦略が、養子細胞療法 (ACT) におけるT細胞の抗腫瘍効果と持続性を改善できるかを検証することを目的とした。最終的には、腫瘍におけるT細胞の機能不全と幹細胞性維持というパラドックスを統一的なメカニズムで説明し、がん免疫療法の新たな治療戦略を開発することを目指す。

結果

↑[K+]eがT細胞に機能的カロリー制限を誘発:栄養摂取を抑制しオートファジーを促進: ↑[K+]e培養T細胞 (n=6 replicates) では、LC-MSを用いた代謝物プロファイル解析により、解糖中間代謝物および必須アミノ酸が有意に減少した。具体的には、2-NBDGグルコース類似体およびBODIPY FLC16脂質類似体の取り込みが低下した (ともにP<0.01)。これは↑[K+]eが電気化学的勾配を阻害し、栄養摂取を抑制することを示唆する。一方で、Kennedyサイクル中間体 (glycerophosphoethanolamineなど) が富化されており、これはオートファジーの初期段階に関与するリン脂質生合成経路の活性化を示唆した。RNA-seq解析でも、オートファジー関連転写物が有意に増加した (NES -1.98; FDR<0.0001)。mCherry-eGFP-LC3フローサイトメトリーでは、自食胞-リソソーム融合を示すmCherry+GFP-細胞の比率が増加し、LC3b-II/I比の上昇がマウスおよびヒトCD8+ T細胞の両方で確認された。さらに、Akt-mTOR (pS6、p4E-BP1) の低下とAMPKの活性化が証明され、↑[K+]eがT細胞に機能的カロリー制限状態を誘発し、オートファジーを促進することが実証された (Figure 1, 2)。

核サイトゾルAcCoA枯渇がエフェクター・疲弊遺伝子座のH3K9Acを選択的に消失: ↑[K+]e条件下では、総細胞AcCoA (主にミトコンドリア由来) は上昇する一方、核サイトゾルAcCoAとその前駆体であるクエン酸は有意に低下した (P<0.001)。これはミトコンドリアでのAcCoA利用が優先されることを示唆する。全タンパク質アセチル化Lys量も低下した。ChIP-seq解析では、H3K9AcがIfngPdcd1 (PD-1)、Havcr2 (Tim-3)、CD244Klrg1などのエフェクター・疲弊遺伝子座のプロモーターおよびエンハンサーで選択的に消失した (NES=-2.15 effector; NES=-1.62 exhaustion; FDR<0.0001)。Cd3e、Actbなどの恒常発現遺伝子ではH3K9Acの変化は見られなかった。これらのH3K9Ac変化はATAC-seqクロマチンアクセスデータとも一致し、RNA-seqでも同様にエフェクター・疲弊遺伝子の転写が低下した。これは、核サイトゾルAcCoAの枯渇がエフェクタープログラムの抑制に寄与することを示唆する (Figure 3)。

ステムネス関連遺伝子座のH3K27me3抑制的メチル化が消失:Tcf7・Bach2・Klf2・Id3が保存: ↑[K+]eによりメチオニン、S-アデノシルメチオニン (SAM)、S-アデノシルホモシステイン (SAH) が枯渇し (P<0.01)、ChIP-seqでBach2、Tcf7、Klf2、Id3といったステムネス関連転写因子のH3K27me3抑制マークが減少した。これはステムネス遺伝子座の脱抑制を示唆する。表現型として、Tcf7タンパク質およびmRNAの保存、CD62L+ (P<0.0001) およびCD27+細胞の維持、IL-2産生能の保持が確認された。これらの変化はCD4+ T細胞でも再現され、IFNγ産生低下とIL-2産生保持が観察された (Figure 4)。

AcCoA補充がK+誘発ステムネスプログラムを逆転:エフェクター機能回復を確認: ↑[K+]e条件下でのT細胞 (n=3 replicates) に外部酢酸 (5 mM) 添加または精製AcCoA (50 μM) 電気穿孔を実施すると、核サイトゾルAcCoAが回復し、CD62L発現低下、オートファジー消失、IFNγ産生回復、IfngプロモーターH3K9Ac回復が確認された。ACLy阻害薬2-HC (5 mM) もK+と類似のCD62L増加、H3K9Ac減少、オートファジー増加をもたらし、2-HC処置pmel T細胞のACTでB16腫瘍増殖が有意に抑制され、生存期間が延長した (n=10 mice/群)。Atg7 CRISPRノックアウトにより↑[K+]e誘発CD62L増加が消失し、オートファジーがステムネス維持に必須であることが確認された (Figure 5)。

↑[K+]e処置T細胞のin vivo移植でB16腫瘍退縮・生存期間延長:ステムネスが機能: ↑[K+]e処置pmel T細胞を確立B16担癌マウス (n=5〜10 mice/群) に養子移植すると、通常培養T細胞と比較して腫瘍内および脾臓でのCXCR5+Tim3- (ステムライク) T細胞分画が増加し (P<0.001)、腫瘍増殖が有意に抑制され (Wilcoxon rank sum test)、生存期間が延長した (log-rank P<0.05)。再移植実験でも↑[K+]e処置T細胞が高い抗原再刺激応答を示した。患者由来ヒトTIL (メラノーマ、大腸がんなど) も↑[K+]e培養でCD62L+細胞の収量が増加した (複数患者サンプルで確認)。これは↑[K+]eがヒトT細胞の幹細胞性を保持する可能性を示唆する (Figure 4)。

Acss1 (ミトコンドリアAcCoA合成酵素) 過発現がK+様代謝再プログラムを模倣し抗腫瘍効果を向上: ↑[K+]eによりAcss1 (ミトコンドリア局在AcCoA合成酵素) のタンパク質は上昇したが (Acss2は不変)、Acss1 (Acss2ではない) 過発現によって酸素消費能 (基礎・最大SRC) が増加した。Acss1遺伝子導入pmel T細胞はオートファジーフラックス増加、mTOR基質低リン酸化を示し、in vivo B16 ACTモデルで腫瘍抑制と生存期間が向上した (n=10 mice/群; P<0.05)。これはAcss1が↑[K+]eと同様の代謝再プログラムを誘導し、T細胞の抗腫瘍活性を改善することを示唆する (Figure 6)。

考察/結論

本研究は、腫瘍微小環境における高細胞外カリウム (↑[K+]e) がT細胞の機能不全と幹細胞性維持という一見矛盾する現象を、機能的カロリー制限という単一のメカニズムによって説明できることを実証した。腫瘍壊死に由来する↑[K+]eは、T細胞の電気化学的勾配を障害し、栄養摂取を低下させることで機能的カロリー制限状態を誘発する。この状態はオートファジーを誘導し、核サイトゾルAcCoA (acetyl-coenzyme A) の枯渇とヒストンアセチル化の減少を介してエフェクター遺伝子座のエピジェネティクスを変化させ、エフェクター機能の獲得を抑制する。同時に、メチオニン中間体の枯渇はステムネス関連遺伝子座のH3K27me3抑制マークの減少を促し、Tcf7+幹細胞性プログラムを維持する。

新規性: 本研究で初めて、TMEにおける高カリウム環境がT細胞の代謝とエピジェネティクスを再プログラムし、エフェクター機能の抑制と幹細胞性の維持という二重の役割を果たすことを統一的なメカニズムとして提示した。特に、核サイトゾルAcCoAのサブセルラーな枯渇がヒストンアセチル化を介してエフェクター遺伝子の発現を抑制し、同時にメチオニン代謝の変動がH3K27me3を介して幹細胞性遺伝子の脱抑制を誘導するという詳細なエピジェネティックメカニズムを明らかにした点は新規である。

先行研究との違い: これまでの研究では、T細胞の疲弊と幹細胞性は別々のメカニズムで制御されると考えられてきた。しかし、本研究はこれらが↑[K+]eによって引き起こされる機能的カロリー制限という共通のトリガーによって同時に制御されることを示した点で、これまでの理解と対照的である。また、↑[K+]eがT細胞の機能に与える影響は報告されていたが、それが栄養摂取、オートファジー、エピジェネティクス、そして幹細胞性維持にまで及ぶ包括的なメカニズムとして解明されたのは本研究が初めてである。

臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法の改善に向けた新たな治療戦略を提供する。in vitroでT細胞を↑[K+]eで処理することで、より優れたACT (adoptive cell transfer) 製品に変換できるという実用的な知見が得られた。これは、T細胞の持続性と抗腫瘍活性を向上させる可能性を秘めている。さらに、AcCoA代謝を薬理学的 (2-HCや酢酸補充) または遺伝学的 (Acss1過発現) に操作することでも同様の効果が得られることが示された。これらの介入は、T細胞の代謝状態を再プログラムし、幹細胞性を誘導することで、ACTの有効性を高める可能性を秘めている。ヒトTILでも同様のCD62L保存効果が確認されたことは、これらの戦略がヒト臨床転換性を持つことを強く示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、↑[K+]eがTMEにおける複数の免疫抑制メカニズム (例: α-ケトグルタル酸欠乏、低pH、VEGFなど) とどのように相互作用するかを詳細に解析する必要がある。また、↑[K+]eによるT細胞の代謝再プログラムが、他の免疫細胞 (例: NK細胞、マクロファージ) の機能に与える影響についても検討が残されている。さらに、↑[K+]e処理T細胞やAcss1過発現T細胞を用いた臨床試験を通じて、その安全性と有効性を検証することが今後の重要な方向性である。本研究はマウスモデルと一部のヒトTILデータに基づいているため、より大規模なヒト臨床データでの検証がlimitationとして挙げられる。

方法

マウスpmel TCR導入CD8+ T細胞を↑[K+]e (+40 mM) または通常培地で培養し、以下の解析を行った。まず、代謝物プロファイルはLC-MSを用いて包括的に評価した。オートファジーフラックスはmCherry-eGFP-LC3レポーターシステムとフローサイトメトリー、およびLC3b-II/I比のウェスタンブロット解析により測定した。エネルギーセンサーの活性はAkt-mTORおよびAMPK (adenosine monophosphate-activated protein kinase) のリン酸化レベルをウェスタンブロットで評価した。核サイトゾルAcCoA (acetyl-coenzyme A) は特異的なアッセイで定量し、全タンパク質アセチル化Lysレベルも測定した。全ゲノムエピジェネティクス解析として、ヒストンH3のLys 9アセチル化 (H3K9Ac) およびLys 27トリメチル化 (H3K27me3) のChIP-seqとChIP-PCRを実施し、RNA-seqにより遺伝子発現プロファイルを解析した。

AcCoA操作実験として、↑[K+]e条件下でのT細胞に外部酢酸 (5 mM) 添加または精製AcCoA (50 μM) の直接電気穿孔を行い、核サイトゾルAcCoAレベル、CD62L発現、オートファジー、IFNγ産生、およびH3K9Acレベルへの影響を評価した。また、ATPクエン酸リアーゼ (ACLY) 阻害薬である2-hydroxycitrate (2-HC、5 mM) を用いて核サイトゾルAcCoAレベルを低下させ、その効果を↑[K+]e処理T細胞と比較した。オートファジーの必要性を検証するため、CRISPR/Cas9システムを用いてAtg7遺伝子をノックアウト (KO) したT細胞を作製し、↑[K+]e誘発CD62L増加への影響を評価した。

in vivo実験では、B16メラノーマACTモデルを用いて、↑[K+]e処置pmel T細胞および逆転写ウイルスAcss1過発現T細胞の抗腫瘍効果と生存期間を評価した (n=5〜10 mice/群)。腫瘍増殖はWilcoxon rank sum test、生存期間はlog-rank testで統計解析を行った。T細胞のin vivoでの持続性と分化状態は、腫瘍内および脾臓におけるCXCR5+Tim3- T細胞分画のフローサイトメトリー解析により評価した。再移植実験では、B16腫瘍から再分離したCD90.1+ TILをCD90.2+レシピエントマウスに再移植し、抗原再刺激応答を評価した。

患者由来のヒトTIL (メラノーマ、大腸がん、肺がん、卵巣がん) を用いて、↑[K+]e培養がCD62L+ T細胞の収量に与える影響を評価した。これらの患者サンプルは全エクソーム解析によりネオ抗原特異的T細胞を同定し、CD62L発現を評価した。統計解析には主に二項t検定を用いた。