• 著者: Štefan Bálint, Sabina Müller, Roman Fischer, Benedikt M. Kessler, Maria Harkiolaki, Salvatore Valitutti, Michael L. Dustin
  • Corresponding author: Michael L. Dustin (Kennedy Institute of Rheumatology, Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology and Musculoskeletal Sciences, University of Oxford, Oxford, UK)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32381591

背景

細胞傷害性Tリンパ球 (CTL; cytotoxic T lymphocyte) は、ウイルス感染細胞やがん細胞を特異的に認識して排除する免疫システムの主要なエフェクター細胞である。従来の教科書的なモデルにおいて、CTLによる標的細胞の殺傷は、免疫シナプス (IS; immunological synapse) と呼ばれる接着界面において、分泌リソソーム (SL; secretory lysosome) から可溶性の細胞傷害性タンパク質が放出されることで進行すると考えられてきた。具体的には、孔形成タンパク質であるPerforin (PRF1) が標的細胞の細胞膜にポアを形成し、そこからセリンプロテアーゼであるGranzyme B (GZMB) が標的細胞の細胞質内へと流入することで、カスパーゼ経路を介したアポトーシスが誘導される。これらの細胞傷害性因子は、SL内においてプロテオグリカンであるSerglycin (SRGN; セルグリシン) と凝縮体を形成して貯蔵されていることが既報により知られている。

しかしながら、放出されたPRF1やGZMBが、単なる個別の可溶性分子として拡散していくのか、あるいは何らかの秩序だった超分子構造体として標的細胞へとデリバリーされるのかという根本的な疑問は、長年にわたり未解明のままであった。過去のいくつかの研究において、細胞傷害性因子が粒子状の形態で放出される可能性が提示されたことはあったものの、その具体的な分子組成、ナノスケールの立体構造、および放出後の自律的な殺傷能力については直接的な証明がなされておらず、免疫学における大きな課題として残されていた。特に、CTLが複数の標的細胞と次々に接触して迅速に殺傷を繰り返す「rapid contact」モードにおいて、可溶性分子の単純拡散のみに依存するモデルでは、周囲の正常組織への非特異的な傷害を回避しつつ、高い殺傷効率を維持するメカニズムを十分に説明できず、詳細な知見が決定的に不足していた。

この分野における先行研究として、Stinchcombe et al. (2001) はCTLの脱顆粒プロセスにおける分泌リソソームの極性化を報告し、Peters et al. (1991) は細胞傷害性顆粒の超微形態的特徴を電子顕微鏡下で観察している。さらに、Kalos et al. SciTranslMed 2011 はキメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor) T細胞を用いた臨床応用において、CTLの強力な標的殺傷能が持続的な治療効果に寄与することを示した。しかし、これら従来の知見をもってしても、放出された細胞傷害性因子が細胞外でどのように構造的完全性を維持し、自律的に機能するのかという物理的実態は未解明のままであった。本研究は、この長年のミッシングリンクを埋めるため、GZMB-mCherry-SEpHluorin (酸性環境で消光し中性環境で蛍光を発する緑色蛍光タンパク質変異体) 融合タンパク質を用いた革新的なイメージング系と支持脂質二重層 (SLB; supported lipid bilayer) 技術を駆使し、放出される細胞傷害性因子の実態を分子レベルで解明することを試みた。

目的

本研究の目的は、CTLが免疫シナプスにおいてPRF1やGZMBを単なる可溶性モノマーとしてではなく、高度に組織化された多タンパク質複合体として放出しているかを検証することである。そして、この放出された構造体のナノスケールにおける三次元構造(グリコプロテイン外殻と細胞傷害性コアの配置)、詳細なプロテオーム組成、およびCTL本体から離脱した後の自律的な標的細胞殺傷能を明らかにすることを目的とする。さらに、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いて、構成成分であるThrombospondin-1 (TSP1; トロンボスポンジン1) の機能的役割を検証し、最終的に「超分子攻撃粒子 (SMAP; supramolecular attack particle)」という、分泌リソソーム内で事前形成され、放出後に自律して機能する新規の非膜性細胞外殺傷エンティティの動作モデルを確立することを目指す。

結果

SMAPの放出、標的細胞への転移、および自律的細胞傷害性の実証: CMV pp65ペプチドをパルスしたJY標的細胞と、GZMB-mCherry-SEpHluorinおよびWGAで二重標識したCTLを共培養したところ、混合後6分以内に、標的細胞の内部へmCherryとWGAの二重陽性を示す輝度の高いpuncta(点状シグナル)が転移していく様子がリアルタイムで観察された (Fig 1A)。これに対し、ペプチドをパルスしていない対照群のJY細胞では、CTLとの接触が生じてもこのような二重陽性punctaの転移はほとんど検出されず、両群間には極めて有意な差が認められた (p<0.0001, n=50 cells)。全反射照明蛍光顕微鏡 (TIRFM) を用いた解析では、CTLが活性化SLBに接触した直後(1分以内)に、酸性環境下で消光していたSEpHluorinの緑色蛍光シグナルが免疫シナプスにおいて急速に出現し、脱顆粒による中性環境への曝露が示された (Fig 1B)。このSEpHluorin陽性シグナルは、可溶性分子のように速やかに拡散することなく、20分以上にわたって免疫シナプス領域に局在したまま安定して留まり続けた。さらに、氷冷PBS洗浄によってCTL本体をSLBから完全に除去した後も、PRF1陽性およびGZMB陽性の微粒子がSLB上に強固に付着した状態で残存しており、固定処理を行わない生状態であっても数時間にわたり構造を維持することが確認された (Fig 1D)。このCTL除去後のSLBを用いてK562標的細胞に対する細胞傷害活性を評価したところ、SMAPの密度依存的に標的細胞のLDH放出が誘導され、SMAP単独で標的細胞を直接かつ自律的に殺傷できる能力を持つことが証明された (Fig 1E)。なお、SMAP自体はLDH活性を一切有していないため (n=3 replicates)、このLDHシグナルは純粋に標的細胞の膜崩壊に伴うアポトーシス/ネクローシスに由来するものである。

質量分析プロテオミクスによるSMAP構成成分の同定とTSP1の特定: 活性化SLB上に放出されたSMAPを回収し、LC-MS/MSを用いた詳細なプロテオミクス解析に供したところ、合計285種類のタンパク質が安定して同定された (Fig 2A)。このうち、82種類のタンパク質は活性化SLB(ICAM-1 + 抗CD3ε)においてのみ特異的に検出された。コア成分であるGZMBおよびPRF1はすべてのサンプルにおいて高スコアで同定された。一方で、細胞膜マーカーであるCD45や、脱顆粒時に細胞表面に露出するLAMP-1 (CD107a; 補体活性化制御因子) などの膜タンパク質は検出限界以下であり、回収されたSMAP画分への細胞膜断片の混入は極めて軽微であることが示された。同定されたタンパク質群の中で、カルシウム結合リピート配列を有する糖タンパク質であるTSP1が、SMAPの主要な構成候補として見出された。ライブイメージング解析により、CTLの活性化に伴ってTSP1とPRF1が同一の軌跡をたどって同時に放出されることが確認された。さらに、ウエスタンブロッティングによる生化学的解析の結果、血小板等に貯蔵されている通常の全長TSP1 (145 kDa) とは異なり、CTLおよびSMAPに含まれるTSP1は、カルシウム結合ドメインを含むC末端側の60 kDa断片として存在していることが明らかになった。

CRISPR-Cas9によるTSP1ノックアウトがCTLの殺傷能に与える影響: SMAPにおけるTSP1の機能的意義を検証するため、CRISPR-Cas9システムを用いてヒトプライマリーCD8陽性T細胞におけるTSP1遺伝子のノックアウトを試みた。5人のドナー (n=5 donors) 由来のCTLにおいて、TSP1の発現量を約60%減少させることに成功した (Fig 2D)。このTSP1ノックアウトCTLを用いて、K562細胞に対する抗CD3εリダイレクト殺傷活性を測定したところ、対照群のCTLと比較して殺傷効率が30%有意に低下することが示された (p<0.001) (Fig 2E)。一方で、同様にSMAP画分に濃縮されていたGalectin-1を約90%ノックアウトしたCTLでは、K562細胞に対する殺傷能に一切の影響を及ぼさなかった。TSP1のノックアウトは、CTLの活性化SLBに対する接着能や運動性には影響を与えなかったが、放出されるSMAP内のTSP1、PRF1、およびGZMBの蛍光シグナル強度を著しく低下させた。これらの結果から、TSP1のC末端ドメインはSMAPの構造的安定性または標的細胞への結合・保持において必須の役割を担っており、CTLの細胞傷害活性を最大化するために極めて重要な因子であることが示された。

超解像顕微鏡dSTORMおよびCSXTによるSMAPのナノスケール三次元構造の解明: dSTORMを用いた超解像イメージングにより、WGAで染色されたSMAPは、1つの免疫シナプスあたり平均27±12個のクラスターとして検出された (Fig 3A)。個々のSMAPを詳細に観察すると、WGAのシグナルは直径120±43 nmの極めて明瞭な中空のリング状(二次元投影における球形殻構造)を呈していることが判明した。2色dSTORM解析により、TSP1はWGAシグナルと59±3%という高い割合で共局在し、同様にリング状の外殻構造を形成していることが示された (Fig 3B)。SMAPは親油性膜染料であるDiDには全く染色されず、この外殻が脂質二重膜ではなく、TSP1をはじめとする糖タンパク質で構成された非膜性のシェル(glycoprotein shell)であることが裏付けられた。さらに、3色dSTORMを用いて内部の細胞傷害性因子の空間配置を解析したところ、TSP1およびWGAで構成される外殻の内部に、PRF1およびGZMB、さらにはSRGNが充填された細胞傷害性コアが存在する「シェル-コア構造」が鮮明に描き出された (Fig 4A)。

さらに、この構造を無染色かつ水分を含んだ自然な状態で検証するため、CSXTによる炭素密度マッピングを行った。その結果、放出されたSMAPは平均直径111±36 nmの球状粒子であり、炭素密度の極めて高い外殻と、相対的に密度の低い内部コアからなる構造を有していることが三次元的に実証された (Fig 3C)。また、静止期および活性化初期のCTLの細胞質内部をCSXTで観察したところ、分泌リソソームの内部に、このSMAPと同一のシェル-コア構造を持つナノ粒子が複数個、緊密にパッキングされた「多コア顆粒 (multicore granules)」が多数同定された (Fig 3D)。この多コア顆粒は、CTLが活性化シグナルを受容すると、免疫シナプスを形成する基底膜近傍へと速やかに極性化して移動していく様子が捉えられた。以上の結果から、SMAPは脱顆粒の瞬間に自己組織化されるのではなく、CTLの分泌リソソーム内においてあらかじめシェル-コア構造を持った独立した粒子として形成・貯蔵されており、刺激に応じてそのままの形態で細胞外へと一挙に放出されることが完全に証明された。

考察/結論

本研究は、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) が標的細胞を殺傷する際、Perforin (PRF1) やGranzyme B (GZMB) を個別の可溶性分子として単純拡散させるのではなく、Thrombospondin-1 (TSP1) のC末端断片を含む糖タンパク質外殻(シェル)と、PRF1、GZMB、Serglycin (SRGN) からなる細胞傷害性コアで構成された、直径約120 nmの自律的な殺傷粒子「超分子攻撃粒子 (SMAP)」として放出していることを、最先端の超解像イメージング技術と生化学的手法を駆使して初めて明らかにした。

先行研究との違い: これまでの免疫学における定説では、CTLからの脱顆粒は可溶性タンパク質の放出と同義であり、標的細胞の殺傷は接着界面におけるこれら可溶性因子の濃度勾配に依存すると考えられてきた。本研究の結果は、細胞傷害性因子が高度に組織化された非膜性の糖タンパク質シェルに包まれた「粒子」として放出されることを示し、従来の単純拡散モデルとは明確に異なる新たなパラダイムを提示した。また、エクソソームやマイクロベシクルに代表される既知の細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) が脂質二重膜を基本骨格とするのに対し、SMAPは脂質膜を持たず、糖タンパク質が自己組織化した外殻を持つという点で、既存のどの細胞外粒子カテゴリーとも異なる新規のエンティティである。さらに、CTL本体が去った後も、SLB上に固定されたSMAPが単独で標的細胞を殺傷できるという「自律的細胞傷害性」を示した点は、T細胞の殺傷作用が接触時間や空間的制約を超えて持続し得ることを意味しており、従来の細胞間相互作用モデルと対照的な知見である。

新規性: 本研究の最大の新規性は、これまでCTLの細胞傷害活性における役割がほとんど知られていなかったTSP1(特にそのC末端60 kDa断片)が、SMAPの外殻を構成する主要な構造タンパク質であることを突き止め、その機能的役割を解明した点にある。CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により、TSP1のノックアウトがCTLによる標的細胞殺傷能を30%有意に低下させることを示した事実は、TSP1がSMAPの構造維持や標的細胞への効率的なデリバリーに直接寄与していることを示す強力な証拠である。さらに、CSXT解析により、SMAPがCTLの分泌リソソーム内部において、すでにシェル-コア構造を備えた「多コア顆粒」として事前形成・貯蔵されていることを視覚的に捉えたことも、これまで報告されていない極めて新規性の高い発見である。

臨床応用: 本研究で得られた知見は、がん免疫療法や感染症治療におけるCTLの治療効果を最大化するための新たな戦略(bench-to-bedside)に直結する。例えば、キメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法において、CAR-T細胞が標的がん細胞を殺傷する効率は、このSMAPの放出効率や構造的安定性に依存している可能性がある。SMAPの外殻成分であるTSP1やその他の糖タンパク質を遺伝子工学的に修飾・強化することで、より殺傷能力が高く、かつ標的特異性の優れた「人工SMAP」や、SMAP放出能を増強した次世代CAR-T細胞の開発につながる臨床的有用性が期待される。また、SMAPのプロテオミクス解析からCCL5やIFN-γなどの免疫調節因子も同定されたことは、SMAPが単なる殺傷装置にとどまらず、周囲の免疫微小環境を制御するシグナル伝達体としても機能している可能性を示唆しており、がん微小環境の制御に向けた新たな治療標的となる可能性がある。さらに、TSP1のC末端にはマクロファージの「don’t eat me」シグナル受容体であるCD47への結合部位が含まれていることから、SMAPが標的細胞に結合した際、周囲のマクロファージによる貪食を誘導・促進する協調的メカニズムが存在する可能性があり、この経路を標的とした新規免疫チェックポイント阻害療法の開発も考えられる。

残された課題: 本研究によりSMAPの基本構造と機能が解明されたものの、いくつかの重要な課題が今後の検討課題として残されている。第一に、dSTORM解析において、150 kDaという巨大な分子サイズを持つ抗体が、強固な糖タンパク質外殻を透過して内部コアのPRF1やGZMBに容易にアクセスできた現象は、物理的な障壁モデルからは予想外であり、外殻のナノポア構造やダイナミクスについてさらなる解明が必要である。第二に、SMAPが標的細胞の表面に結合した後の、詳細な膜透過およびGZMB注入の分子メカニズムや、標的細胞内への取り込み経路(エンドサイトーシス等)の全容はまだ完全に解明されていない。また、本研究ではNK細胞や末梢血CD8陽性CD57陽性CTLでも同様のSMAP放出が確認されているが、これらがFasLを提示する膜性ベシクル(シナプス性エクトソーム)とどのように協調して生体内の免疫監視を達成しているかについて、さらなるin vivoモデルでの検証が求められる。

方法

サイトメガロウイルス (CMV) のリンタンパク質65 (pp65) 特異的なヒトCD8陽性CTLクローンを樹立して実験に用いた。このCTLに対し、分泌リソソームに特異的に移行するGZMB-mCherry-SEpHluorin融合タンパク質をコードするmRNAをエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。さらに、SLを可視化するためにAlexa Fluor 647標識した小麦胚芽凝集素 (WGA; wheat germ agglutinin) による二重標識を行った。標的細胞には、pp65ペプチドをパルスした、あるいはパルスしていないHLA-A2陽性のJY細胞(ヒトBリンパ芽球様細胞株)を用い、共焦点顕微鏡によるタイムラプスイメージングでCTLから標的細胞への蛍光シグナルの転移を観察した。

無細胞系での粒子回収および機能解析のため、側方流動性を持つICAM-1 (intercellular adhesion molecule-1) および抗CD3ε抗体を提示させた支持脂質二重層 (SLB) 上でCTLを活性化させた。一定時間培養後、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) を用いてCTL本体を物理的に剥離・除去し、SLB上に残存したSMAPを回収した。SMAPの自律的殺傷能は、標的細胞としてK562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細胞株、ATCCより入手)をSLB上のSMAPと共培養し、死細胞から放出される乳酸脱水素酵素 (LDH; lactate dehydrogenase) を測定するLDH放出アッセイにより定量評価した。

SLB上に捕捉されたSMAPの組成解析には、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) によるプロテオミクス解析を適用した。対照群として、ICAM-1のみを提示させた非活性化SLB上の回収物を用いた。TSP1の機能解析のため、CRISPR-Cas9システムを用いてCTLにおけるTSP1遺伝子のノックアウト (KO) を行い、K562細胞に対する抗CD3εリダイレクト殺傷アッセイを実施した。

SMAPの超解像構造解析には、直接確率的光再構築顕微鏡 (dSTORM; direct stochastic optical reconstruction microscopy) を用いて、WGA、TSP1、PRF1、GZMBのナノスケール空間配置をマッピングした。また、炭素密度に基づく非破壊的な三次元構造解析として、炭素被覆EMグリッド上に捕捉したSMAPを急速凍結し、ダイヤモンド・ライト・ソースにてクライオ軟X線トモグラフィー (CSXT; cryo-soft X-ray tomography) 解析を行った。統計解析には、Prismソフトウェアを用い、2群間比較にはStudent t-testまたはMann-Whitney U testを適用した。