• 著者: Michael Kalos, Bruce L. Levine, David L. Porter, Sharyn Katz, Stephan A. Grupp, Adam Bagg, Carl H. June
  • Corresponding author: Carl H. June (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-08-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21832238

背景

慢性リンパ性白血病 (CLL; chronic lymphocytic leukemia) は、進行例やフルダラビン抵抗性例において極めて予後不良な疾患である。特に17p染色体欠失 (del(17p)) やTP53変異、複雑核型を有する患者では、既存の化学療法に対する治療抵抗性が極めて高く、有効な治療選択肢が限定されている。同種造血幹細胞移植は若年患者において唯一の治癒をもたらす可能性があるが、高齢患者や合併症を有する患者においては移植関連毒性が高く、適応が困難であるという課題が存在する。CD19は成熟B細胞、前駆B細胞、CLL細胞、および急性リンパ性白血病 (ALL; acute lymphoblastic leukemia) 細胞に特異的に発現する一方、正常組織では骨髄B系列細胞以外にほとんど発現しないため、オフターゲット毒性が限定的な極めて魅力的な標的抗原である。

しかし、これまでに実施されたキメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor) T細胞療法の臨床試験では、CD3ζシグナル伝達ドメインのみを有する第1世代CD19 CAR-T細胞は臨床応答が極めて限定的であった。また、CD28共刺激ドメインを付加した第2世代CAR-T細胞を用いても、in vivoにおける持続期間が極めて短いことが報告されていた (例: Kershaw et al. ClinCancerRes 2006Lamers et al. JClinOncol 2006Till et al. Blood 2008Park et al. MolTher 2007Pule et al. NatMed 2008Savoldo et al. JClinInvest 2011)。これらの先行研究においては、CAR-T細胞が患者の生体内で十分に増殖し、長期にわたって持続し、かつ機能的な発現を維持できるかという点が未解明な課題として残されていた。特に、CAR-T細胞が長期的な免疫記憶を確立し、持続的な抗腫瘍効果を発揮する詳細なメカニズムは不明であり、このin vivoにおける持続性の不足が臨床応用における最大の障壁となっていた。

ペンシルベニア大学のJune博士らは、4-1BB (CD137) 共刺激ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインを組み合わせたレンチウイルスベクターCAR (CTL019、後のtisagenlecleucelの原型) を前臨床モデルで開発し、その優れた抗腫瘍効果とT細胞生存性の向上を示してきた (例: Milone et al. MolTher 2009Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009)。本研究は、この第2世代4-1BB共刺激型CD19 CAR-T細胞 (CTL019) を用いた、化学療法抵抗性CLL患者に対するfirst-in-humanの概念実証試験であり、その安全性、in vivo動態、抗腫瘍効果、および記憶CAR-T細胞の形成を評価したものである。

目的

本研究の目的は、化学療法抵抗性または再発の進行慢性リンパ性白血病 (CLL) 成人患者に対し、4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを備えたCD19標的第2世代CAR-T細胞 (CTL019) を低用量で投与し、その安全性、in vivoにおける増殖能、長期持続性、臨床的有効性、およびメモリーCAR-T細胞の形成能を評価することである。特に、本試験はCAR-T細胞が患者生体内において長期的な抗腫瘍免疫記憶を確立し、持続的な抗腫瘍効果を発揮できるか否かを検証することを主たる目的とした。

結果

驚異的なin vivo増殖と長期持続性: CTL019細胞は、投与された3名全員において、注入後2~3週間でピークを迎える極めて強力なin vivo増殖を示した。末梢血中におけるCAR-T細胞数は、注入時の細胞数と比較して1000倍から10000倍以上に拡大した (Fig. 2A, B)。特にUPN 01およびUPN 03では、末梢血中の全白血球の10%から95%以上をCTL019細胞が占めるまでに増殖した (Fig. 2C)。この爆発的な増殖は、患者体内のCD19陽性標的細胞 (CLL細胞および正常B細胞) との接触によって駆動されたと考えられ、わずか1.4 × 10⁷個という極めて低用量の細胞を投与されたUPN 03においても同様の増殖が確認された。さらに、CTL019細胞は投与後6ヶ月以上 (UPN 01では9ヶ月以上) にわたり末梢血および骨髄において高レベルで検出され続け、従来の第1世代CAR-T細胞やCD28型CAR-T細胞が数週間以内に消失していた動態と対照的な長期持続性を示した (Fig. 2B, D)。骨髄中のCAR-T細胞数は末梢血の5分の1から10分の1であったが、約35日の半減期で安定して推移した。

記憶CAR-T細胞の形成と機能的持続: 長期にわたり持続したCTL019細胞の表現型を多色フローサイトメトリーで解析した結果、これらの細胞がセントラルメモリーT細胞 (T_CM; central memory T cell) 表現型 (CD45RO+CD27+CCR7+) を獲得していることが示された (Fig. 4A, B)。CD8+CAR-T細胞は、投与後56日の初期段階ではエフェクターメモリー表現型 (CCR7-CD27-CD28-) を主体としていたが、投与後169日時点ではCCR7の発現、高レベルのCD27およびCD28の発現、ならびにCD127 (IL-7Rα) の発現を伴う機能的なセントラルメモリー様細胞集団へとシフトした。さらに、これらの長期持続する記憶CAR-T細胞をex vivoでCD19陽性標的細胞であるNALM-6 (human pre-B cell leukemia cell line) と共培養したところ、特異的な脱顆粒反応 (CD107a発現) を示し、抗CD19エフェクター機能を完全に保持していることが実証された (Fig. 4C)。この反応はCD19陰性標的細胞に対しては全く認められず、極めて高い抗原特異性が維持されていた。

強力な抗腫瘍効果と臨床応答: 3名中2名 (UPN 01、UPN 03) が完全寛解 (CR) を達成し、1名 (UPN 02) が部分寛解 (PR) を達成した (Table 1)。特に、CRを達成した2名は、いずれも既存の化学療法に極めて抵抗性で予後不良とされるdel(17p)変異や複雑核型を保有していた。UPN 01では、治療後1ヶ月以内に骨髄中のCLL細胞が完全に消失し、CTスキャンにおいて全身の巨大なリンパ節腫脹の急速な退縮が確認された (Fig. 5B, C)。さらに、高解像度IgHディープシーケンス解析において、治療前には全B細胞配列の99.7%以上を占めていた腫瘍クローンが、治療後28日および176日時点の末梢血および骨髄から完全に消失し (0 of 285,305 reads)、分子生物学的レベルでの完全寛解 (MRD陰性CR) が実証された (Table 2)。各CTL019細胞1個あたり平均1000個以上のCLL細胞を除去したと試算され、UPN 01では1:2200、UPN 03では1:93000という驚異的なin vivoエフェクター/ターゲット (E/T) 比が達成された (Table S6)。UPN 01のCRは11ヶ月以上、UPN 03のCRは10ヶ月以上持続した。

B細胞アプラジアと低ガンマグロブリン血症: CRを達成した患者では、治療後長期にわたり末梢血および骨髄におけるCD19陽性B細胞の完全な消失 (B細胞アプラジア; B cell aplasia) が持続した。これは、CTL019細胞が持続的にオンターゲット効果を発揮していることを示す直接的なバイオマーカーである。B細胞アプラジアに伴い、血清免疫グロブリンレベルの著しい低下 (低ガンマグロブリン血症) が引き起こされ、感染症予防のために定期的な静注用免疫グロブリン (IVIG) 補充療法が必要となった (Table S10)。また、骨髄中のCD138陽性形質細胞も投与後に著しく減少または消失した (Table S9)。

サイトカイン放出症候群 (CRS) および腫瘍崩壊症候群 (TLS): 強力なin vivo増殖および腫瘍融解に伴い、UPN 01およびUPN 03において高熱、悪寒、血圧低下、呼吸困難を伴うサイトカイン放出症候群 (CRS; cytokine release syndrome) が発生した。血清中サイトカインレベルの解析では、IFN-γがベースラインの約160倍、IL-6が約20倍、IL-8が約3倍、IL-10が約3倍に急上昇した (Fig. 3)。これらのサイトカインの上昇ピークは、CAR-T細胞のin vivoにおけるピーク増殖時期と時間的に完全に一致していた。臨床的には、これらのCRS症状は抗IL-6受容体抗体 (トシリズマブ) や副腎皮質ステロイドの投与を行うことなく、支持療法のみで自然軽快した。また、UPN 01においては、膨大な腫瘍量の急速な崩壊に伴い、高尿酸血症や高カリウム血症を特徴とする腫瘍崩壊症候群 (TLS; tumor lysis syndrome) が発生したが、ラスブリカーゼ投与などの適切な支持療法により管理可能であった。

臨床的動態および統計的評価: 本試験において、CTL019細胞の強力な抗腫瘍効果は、前処置化学療法単独の効果とは明確に区別された。例えば、UPN 02における末梢血中CLL細胞のクリアランスは、ベンダムスチン投与後のCTL019細胞注入に伴って急速に進行し、絶対リンパ球数 (ALC) は 60,600/µl vs 200/µl (注入後18日目) と劇的な減少を示した。また、定量的な安全性および有効性の指標として、重篤な臨床症状の発生期と一致して血清中IFN-γおよびIL-6レベルの急激な上昇 (それぞれ fold change 160x および fold change 20x) が確認された。さらに、qPCRによるトランスジーン検出において、定量下限値である 2 copies/µg DNA を超える高感度な追跡が6ヶ月以上にわたり維持され、統計的にも極めて安定した持続性が証明された。

考察/結論

先行研究との違い: これまでに実施された第1世代CAR (CD3ζ単独) や、Savoldo et al. JClinInvest 2011などで報告されたCD28型第2世代CARを用いた臨床試験と比較して、本研究の4-1BB共刺激ドメイン搭載CARは、in vivoにおける増殖能および長期持続性において圧倒的に優れていた。従来のCD28型CAR-T細胞が投与後数週間以内に消失していたのとは対照的に、本研究のCTL019細胞は6ヶ月以上持続した。これは、4-1BBシグナル伝達がT細胞の生存を維持し、過度な活性化誘導細胞死 (AICD) を抑制し、記憶分化を促進するという前臨床研究の知見 (例: Milone et al. MolTher 2009) を、実際の患者体内において初めて裏付けたものである。

新規性: 本研究における最大の新規性は、投与されたCAR-T細胞の一部が患者生体内において機能的なセントラルメモリーT細胞 (T_CM) として長期にわたり定着し、抗原特異的なエフェクター機能を維持し続けることを本研究で初めて実証した点にある。また、わずか1.4 × 10⁷個という極めて低用量のCAR-T細胞投与であっても、生体内での爆発的な自己増殖により、1個のCAR-T細胞が1000個以上のCLL細胞を駆逐するという驚異的な抗腫瘍効率を達成できることを新規に示した。

臨床応用: 本知見は、難治性のB細胞性悪性腫瘍に対するがん免疫療法の臨床応用において極めて大きな意義を持つ。特に、del(17p)やTP53変異といった、従来の化学療法や分子標的薬では極めて予後不良であった患者群において、MRD陰性の完全寛解を長期にわたり維持できたことは、難治性白血病治療における革命的な進歩である。本研究で確立されたCAR-T細胞の製造プロセス、投与プロトコル、およびCRSやTLSといった特有の有害事象の管理経験は、現代のCAR-T細胞療法におけるbench-to-bedsideの基盤モデルとなった。

残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が挙げられる。第一に、長期的なB細胞アプラジアに伴う低ガンマグロブリン血症の管理であり、IVIG補充療法の長期的な安全性とコストが課題となる。第二に、重症CRSや神経毒性 (ICANS) の予測および管理アルゴリズムの確立である。第三に、患者個々のT細胞の質 (T-cell fitness) に依存する製造成功率の向上、第四に、CD19抗原の消失や変異による治療抵抗性・再発メカニズムの解明である。これらの課題は、本研究以降10年以上にわたるCAR-T細胞研究の中心的テーマとなっている。

方法

試験デザインと患者: 本試験は、単施設パイロット臨床試験 (試験識別子: NCT01029366) として実施された。対象は、フルダラビン抵抗性または再発の進行CLL患者3名 (UPN (unique patient number) 01、UPN 02、UPN 03) である。UPN 01は65歳男性で、過去に4レジメンの化学療法歴を有していた。UPN 02は77歳男性で、予後不良因子であるdel(17p)変異を保有していた。UPN 03は64歳男性で、同様にdel(17p)変異を保有していた。全患者が広範な骨髄浸潤 (40%から95%以上) および巨大なリンパ節腫脹を伴う高腫瘍量 (約1 kg、1.0 × 10¹²個以上のCLL細胞) を有していた。

CAR構造とレンチウイルスベクター: マウス抗CD19単鎖可変領域フラグメント (scFv; single-chain variable fragment) (FMC63由来) に、CD8αヒンジ/膜貫通ドメイン、4-1BB (CD137) 共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを連結したキメラ抗原受容体 (CD19-BB-z (CD19-BB-zeta)) を設計した。この遺伝子を、複製不能な自己不活性化型レンチウイルスベクターに組み込み、CTL019を構築した。

CAR-T細胞の製造: 患者から白血球アフェレーシスにより末梢血単核球を採取した。抗CD3/CD28ビーズを用いてT細胞を選択的に活性化・増殖させ、レンチウイルスベクターを介してCAR遺伝子を導入した。細胞はWAVE (rocking platform device WAVE Bioreactor system) を用いて8~12日間培養・増幅させた。最終日に磁気分離によりビーズを除去し、CAR-T細胞を回収して凍結保存した。

前処置および投与: CAR-T細胞注入の1~4日前に、リンパ球除去を目的とした化学療法が実施された。UPN 01にはベンダムスチン、UPN 02にはベンダムスチン、UPN 03にはペントスタチンおよびシクロホスファミドが投与された。CTL019細胞は、UPN 01に1.1 × 10⁹個 (1.6 × 10⁷個/kg)、UPN 02に5.8 × 10⁸個 (1.0 × 10⁷個/kg)、UPN 03に1.4 × 10⁷個 (1.46 × 10⁵個/kg) の用量で、3日間にわたる分割点滴 (10%、30%、60%) により静脈内投与された。

評価項目と解析手法:

  • CAR-T細胞の動態解析: 末梢血および骨髄におけるCAR-T細胞の定量を、定量的PCR (qPCR) 法により実施した。qPCRの定量下限は2コピーのトランスジーン/µgゲノムDNAであった。
  • 表現型解析: 多色フローサイトメトリーを用いて、末梢血中のCAR-T細胞の分化段階 (セントラルメモリー、エフェクターメモリーなど) および活性化/消耗マーカー (PD-1、CD57、CD127など) を解析した。
  • サイトカイン測定: 血清および骨髄上清中の30種類のサイトカイン・ケモカインレベルを、Luminexビーズアレイ法を用いて測定した。
  • 臨床応答評価: 骨髄生検、CTスキャン、およびIWCLL (International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia) 基準に基づき、完全奏効 (CR; complete response) または部分奏効 (PR; partial response) を評価した。
  • 微小残存病変 (MRD) 解析: 高スループットの免疫グロブリンH (IgH) 遺伝子再構成ディープシーケンス解析を用いて、腫瘍クローンの有無を評価した。
  • 統計解析: 記述統計を基本とし、サイトカインレベルの変化はベースラインからのfold changeとして算出した。生存曲線および持続性の解析にはKaplan-Meier法を適用した。