- 著者: Morrissey MA, Williamson AP, Steinbach AM, Roberts EW, Kern N, Headley MB, Vale RD
- Corresponding author: Ronald D Vale (Ron.Vale@ucsf.edu)
- 雑誌: eLife
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-04
- Article種別: Original Article (Short Report)
- PMID: 29862966
背景
キメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor) は、腫瘍抗原を認識する細胞外単鎖抗体可変領域断片 (scFv; single-chain variable fragment) と T 細胞受容体 (TCR) ・共刺激分子由来の細胞内シグナルドメインを連結した合成受容体であり、T 細胞を再プログラムしてがんを攻撃させる先行研究が確立してきた (Fesnak et al. 2016; Kochenderfer et al. 2009)。B 細胞性悪性腫瘍に高発現する CD19 を標的とする CAR-T は血液腫瘍に対し患者の 70-90% で測定可能な改善を示し成功を収めてきた (Lim et al. 2017; Haso et al. 2013)。この成功は、免疫細胞をがん標的化に再プログラムする手法が広く応用可能であることを示唆する。一方マクロファージは debris や病原体を貪食する自然免疫の中心的エフェクターであり、T 細胞が物理的に排除・不活化される固形腫瘍内部にも浸潤できる稀有な能力を持つ (Lee et al. 2016)。しかし健常マクロファージを移入した初期の臨床試みは腫瘍増殖を抑制できず、マクロファージが腫瘍へ活性を向けるには追加シグナルを要すると示唆された (Lacerna et al. 1988; Andreesen et al. 1990)。貪食の負の制御因子である CD47 の抗体遮断が腫瘍量を減らした事実は、マクロファージ活性化と engulfment の方向へ天秤を傾けることが有望な治療経路であることを示す (Majeti et al. 2009; Chao et al. 2010)。しかし、CAR-T が達成した「特定抗原を認識して攻撃する」能動的プログラミングを、固形腫瘍浸潤能を持つマクロファージの貪食機構へ移植する設計原理はこれまで未確立であり、抗原特異的に貪食を駆動できる合成受容体は存在せず、この knowledge gap を埋める手段が足りなかったことが本研究の出発点であった。
目的
CAR-T の設計を雛形として、特定の細胞表面抗原の認識に応じてマクロファージの貪食 (phagocytosis) を能動的に誘導する新規合成受容体ファミリー CAR-P (Chimeric Antigen Receptors for Phagocytosis) を構築し、抗原特異的に抗原被覆粒子およびヒトがん細胞を貪食させ得るか、さらに whole cell eating を増強する受容体設計とがん細胞数減少効果を検証すること。
結果
Megf10 と FcRγ の細胞内ドメインが貪食を駆動する:CAR-T と同じく aCD19 scFv と CD8 膜貫通ドメインを共有し、細胞内に既知の murine 貪食受容体 (Megf10 (multiple EGF-like domains 10) / FcR の共通 γ サブユニット FcRγ / Bai1 (brain-specific angiogenesis inhibitor 1) / MerTK) のいずれかを連結した CAR-P ライブラリを J774A.1 murine マクロファージにレンチウイルスで導入した。engulfment 標的には CD19 細胞外ドメイン (ヒスチジンタグ付き) を NiNTA-lipid 含有支持脂質二重膜越しに結合させた直径 5 μm シリカビーズを用いた。Megf10 または FcRγ 細胞内ドメインを持つ CAR-P 発現マクロファージは CAR 非発現対照に比し有意な CD19 ビーズ貪食を示した一方 (Figure 1b,c)、Bai1 / MerTK / シグナルドメインを欠く接着のみの CAR-P[GFP] は細胞表面に発現するもののビーズと結合しなかった。FcRγ 型 CAR-P を初代 murine 骨髄由来マクロファージに発現させても CD19 ビーズの貪食が誘導され、初代細胞での有効性が確認された (Figure 1d、n = 78-163 cells/condition、3 回の独立実験、p<0.0001、Kruskal-Wallis 検定 + Dunn 補正)。
CAR-P は多様な抗原・サイズを特異的に貪食する:aCD22 抗体断片を用いた aCD22 CAR-P[Megf10] は CD22 ビーズを貪食し、別抗原への転用が可能であった (Figure 2a)。特異性検証では aCD19 CAR-P[Megf10] マクロファージは CD22 ビーズをほとんど食べず (18/151 細胞)、aCD22 CAR-P[Megf10] は CD19 ビーズをほとんど食べなかった (20/142 細胞) のに対し、同種抗原では aCD19 で 87/149、aCD22 で 103/148 と高頻度に貪食した。CAR-P[Megf10] は直径 2.5-20 μm のビーズを貪食可能で、大型ビーズほど背景を上回る特異性が高かった (例 20 μm: 194/760 CAR-P[Megf10] vs 23/587 CAR-P[GFP]、p<0.0001、Mann-Whitney 検定、Figure 2b)。10 μm 条件で内因性 Megf10 リガンドである 10% phosphatidylserine + ICAM-1 被覆ビーズ (51/390 細胞) と CD19 ビーズが同程度の頻度で貪食され、CAR-P が内因性系と同等に効率的であることが示された。
phospho-ITAM を介する局所シグナルが engulfment を起動する:CAR-P[Megf10] 発現マクロファージはビーズとのシナプスで phosphotyrosine の増加を示したが、CAR-P[GFP] では認められず (Figure 3a、n≥11、fold enrichment、cortex 比)、F-actin も同シナプスに濃縮した。Megf10 と FcRγ はいずれも Src ファミリーキナーゼがリン酸化する細胞質 ITAM (Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motif) を持つ。そこで 3 個の ITAM を持つ TCR の CD3ζ サブユニットを用いた第一世代 CAR-T を導入したところ、CD19 ビーズを CAR-P[Megf10] と同程度に貪食させた (Figure 3c、n = 156-167 cells/condition、p<0.0001)。リポソームベースの蛍光消光アッセイで Syk の tandem SH2 ドメイン (tSH2) は CD3ζ と FcRγ にそれぞれ ~15 nM・~30 nM の同等の親和性で結合し、TCR の CD3ζ 鎖が Syk キナーゼのリクルートを介して貪食を駆動し得ることが定量的に示された (Figure 3d)。
CAR-P は whole がん細胞の trogocytosis と eating を誘導する:内因性 CD19 を高発現する Raji B 細胞 (がん性) と共培養すると、CAR-P[Megf10] の 78%・CAR-P[FcRγ] の 85% のマクロファージが 90 分以内に標的細胞の「bite」(>1 μm の内在化 vesicle、trogocytosis 様の nibbling) を内在化したが、CAR-P[GFP] では劇的に減少した (Figure 4a、n = 46/39/102 細胞)。whole cell engulfment は稀で、CAR-P[Megf10] / CAR-P[FcRγ] とも 4-8 時間で macrophage 100 個あたり 2 個であった (Figure 4e)。抗 CD47 抗体による「don’t eat me」シグナル遮断は opsonized Raji の whole cell eating を 2.5 倍に増加させた (Figure 4—figure supplement 3)。large target の内在化に重要な PI3K の p85 サブユニットをリクルートする CD19 細胞質ドメイン (aa 500-534) を FcRγ に連結した CAR-P[tandem] は、whole cell の貪食能を CAR-P[GFP] に比し 3 倍 (macrophage 100 個あたり 6 個) に増加させた (Figure 4d,e、n = 555-921 cells)。
CAR-P がん共培養でがん細胞数が有意に減少する:CAR-P マクロファージと Raji B 細胞を 44 時間共培養 (10,000 マクロファージ : 20,000 Raji) すると、FACS で計数した Raji 数が対照に比し有意に減少した (Figure 4f、two-tailed Fisher Exact / one-way ANOVA + Dunnett 補正、p<0.0001)。whole cell eating に優れた CAR-P[tandem] のみならず CAR-P[FcRγ] もほぼ同等に Raji を排除し、whole cell engulfment と trogocytosis 後の細胞死の双方が寄与し得ると考えられた。Abstract 記載のとおり CAR-P 発現マクロファージは共培養でがん細胞数を 40% 超減少させた。
考察/結論
本研究は、これまで T 細胞活性化に限定して用いられてきた CAR の設計原理が、ITAM を介する貪食シグナル系へ転用可能であることを実証した点で、既存の CAR-T パラダイムと対照的な拡張をもたらす。aCD19 CAR-T が CD3ζ の ITAM を介して T 細胞を活性化するのと異なり、CAR-P は同じ ITAM リン酸化を Syk リクルートに結びつけマクロファージの engulfment を起動する。受容体結紮による Src ファミリーキナーゼと阻害性ホスファターゼの空間的分離が TCR や FcR のシグナルを起動するという先行研究のモデル (Davis and van der Merwe 2006; Freeman et al. 2016) と整合的に、CAR-P も膜-膜界面でのキナーゼ・ホスファターゼ分配を介して受容体結合を ITAM リン酸化へ変換すると考えられる。
新規な点として、本研究で初めて scFv と貪食受容体細胞内ドメインを連結した合成受容体ファミリーが構築され、抗原 (CD19・CD22) とシグナルドメイン (Megf10・FcRγ・CD3ζ) のモジュール組換えで貪食を抗原特異的にプログラムできること、さらに PI3K リクルートモチーフの tandem 連結という novel な設計で whole cell eating を 3 倍に増強できることが示された。professional phagocyte だけでなく非専門食細胞である NIH 3T3 線維芽細胞でも trogocytosis を誘導できた点も新規な知見である。
臨床応用・橋渡しの観点では、マクロファージは固形腫瘍に浸潤できる稀有な免疫細胞であり、T 細胞が排除される腫瘍内部を標的化できる潜在力を持つ。CD47-SIRPα の「don’t eat me」経路阻害が engulfment を促す positive signal と組合せたとき最も有効という報告 (Alvey et al., 2017) と本研究の anti-CD47 による 2.5 倍増強は整合し、CAR-P 発現と CD47/SIRPα 阻害の併用が translational に相加効果を生む可能性を示す。これは既存 CAR-T 療法を補完する新規モダリティとして橋渡し的価値を持つ (Science et al. Clinical 2018 の CAR-T 総説、CancerImmunolRes et al. Basic 2015 の連続殺傷機構、CD47 標的の iScience et al. Basic 2024 とあわせ参照)。
残された課題として、whole cell engulfment は 20 μm ビーズより低頻度であり、標的の硬さ等の物理的性質が engulfment を制約すると推定される (Beningo and Wang, 2002)。また CAR-P で樹状細胞に trogocytosis を誘導できたものの model 抗原 ovalbumin の robust な cross presentation は検出できず、cross presentation 増強には樹状細胞サブセットや受容体自体の最適化が今後の検討課題として残る。in vivo での腫瘍認識・攻撃能の検証は本研究の限界であり次段階となる。総じて、CAR アプローチが T 細胞活性化を超えた生物学的プロセスへ転用可能であり、貪食細胞での合成受容体発現ががん細胞の特異的 engulfment と排除を駆動するに十分であることを示した点で、CAR 工学の地平を拡げる研究である (NatRevCancer et al. Clinical 2021 が論じる CAR 機構の発展系とも位置づけられる)。
方法
J774A.1 murine マクロファージ・NIH 3T3 線維芽細胞・ヒト Raji B 細胞・初代骨髄由来マクロファージ (BMDM; bone marrow derived macrophage)・骨髄由来樹状細胞を用い、各 CAR-P 構築物 (aCD19/aCD22 scFv、CD8 stalk/膜貫通、Megf10〔aa 879-1147〕/FcRγ〔aa 19-86〕/MerTK/Bai1〔以上 murine 貪食受容体細胞内ドメイン〕/CD3ζ〔aa 52-164〕/PI3K p85 リクルートモチーフ〔CD19 aa 500-534〕/tandem 細胞内配列、蛍光体) を HEK293T 産生レンチウイルスで安定発現させた。engulfment 標的は支持脂質二重膜を形成した 2.5-20 μm シリカビーズに His タグ付き CD19/CD22 細胞外ドメイン (10 nM) を NiNTA-lipid 越しに結合させて作製した。bead engulfment assay は 37℃ 45 分、bites assay は 60 分、eating assay は 44 時間共培養後に計数用ビーズを加えフローサイトメトリーで mCherry 陽性 Raji を計数した。Syk tSH2 と CD3ζ/FcRγ の親和性は His タグ付き CD3ζ + Lck をリポソームに結合させた蛍光消光アッセイで測定し、ATP 添加 ~45 分後の最後の 20 timepoint の平均消光から one site specific binding 非線形フィットで Kd を算出した。画像は spinning disk 共焦点顕微鏡 (40×/0.95 または 100×/1.49 対物) で取得した。統計は Kruskal-Wallis 検定 + Dunn 多重比較補正 (ビーズ engulfment)、Mann-Whitney 検定 (サイズ titration)、two-tailed Fisher Exact 検定 (bites・whole cell eating)、Ordinary one-way ANOVA + Dunnett 補正 (FACS 計数) を用い、誤差棒は 95% 信頼区間で示し p<0.0001 を *** とした。解析は ImageJ/Fiji・GraphPad Prism 7 を使用した。