• 著者: Jessica Heatlie, Vanessa Chang, Sandra Fitzgerald, Yohanes Nursalim, Kate Parker, Ben Lawrence, Cristin G. Print, Cherie Blenkiron
  • Corresponding author: Cherie Blenkiron (Department of Molecular Medicine and Pathology, The University of Auckland, Auckland, New Zealand)
  • 雑誌: Biopreservation and Biobanking
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-06-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32856938

背景

液体生検は、患者の疾患診断およびモニタリングにおいて低侵襲的なアプローチとして注目されている。特に、細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicles) は、細胞間コミュニケーションや疾患進行に関与する重要なバイオマーカーとして認識され、その解析への関心が高まっている。液体生検の主要なアプローチとして、cfDNA (cell-free DNA) 解析と EV 解析の二つが挙げられるが、これらはそれぞれ異なる前解析処理プロトコルを必要とすることが一般的である。cfDNA 解析においては、K3-EDTA (potassium-EDTA) チューブや、Streck Cell-Free DNA BCT (Blood Collection Tube)、Roche Cell-Free DNA BCT といった cfDNA 専用の安定化採血管が広く使用されている。これらの特殊採血管は、有核細胞の膜を安定化させることで、細胞溶解によるゲノム DNA の放出を防ぎ、疾患関連 cfDNA の検出精度を高めることが報告されている (Das et al. 2013, Kerachian et al. 2019)。

一方、EV は血液中のすべての細胞に由来する複雑な粒子集団であり、特に血小板 (CD61陽性) および赤血球 (CD235a陽性) 由来の EV が主要な供給源となることが知られている (Wolf 1967, Karimi et al. 2018)。EV の特性や定量は、採血から処理までの時間、遠心分離条件、保存方法といった前解析処理変数に大きく影響されることが、Thery et al. JExtracellVesicles 2018 や Witwer et al. (2013) のガイドラインで強調されている。しかし、cfDNA 安定化採血管が EV の性状や定量に与える影響については、これまで体系的な評価が未解明であった。

現在のバイオバンキングでは、複数の分子バイオマーカーのダウンストリーム解析に適した血液検体の収集と処理が不足している。理想的には、バイオバンカーは複数の血液チューブを収集し、それぞれ特定のダウンストリーム目的に適した血漿を迅速に生成できることが望ましい。しかし、特に農村部のドナーや病院システム外の患者からの検体アクセスは困難であり、患者の採血負担を軽減し、バイオバンクの保存効率を向上させる「ワンチューブ液体生検」アプローチの確立が求められている。単一の採血管から cfDNA と EV の両方を解析できれば、このような課題を解決し、個別化医療の進展に貢献できる可能性がある。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とし、cfDNA 安定化採血管の EV 単離への転用可能性を評価する。

目的

本研究の主目的は、cfDNA 専用採血管である Roche Cell-Free DNA BCT および Streck Cell-Free DNA BCT から分離した MicroEV (>200 nm) および NanoEV (<200 nm) の粒子数、サイズ、タンパク量、および細胞由来マーカーが、標準的な K3-EDTA 採血管と比較して同等であるかを評価することである。これにより、cfDNA 採血管の EV 単離への転用可能性を検証する。

副次的な目的として、採血からの遅延処理(3 日間室温保存)が各 EV パラメータに与える影響を評価する。これは、特に遠隔地からの検体輸送など、即時処理が困難な臨床・研究環境における cfDNA 採血管の EV 解析への実用性を検討するためである。具体的には、採血管の種類と保存期間が、NanoEV の安定性(粒子数、タンパク量、CD45、EpCAM)および MicroEV の安定性(粒子数、タンパク量、CD61、CD235a)に及ぼす影響を詳細に解析する。最終的に、単純な EV 粒子数や総タンパク量ではなく、疾患特異的な EV サブタイプ解析に cfDNA 採血管が適しているか否かを判断するためのエビデンスを提供することを目的とする。

結果

NanoEV 粒子数の安定性と採血管間差異の非存在: NanoEV (<200 nm) のピーク粒子径は NTA により約 100 nm であることが確認され、TEM でもエキソソーム様モルフォロジーが観察された (Fig. 2B, C)。NanoEV の総粒子数 (NTA による測定; 約 6×10^9〜1×10^10 total/mL plasma の範囲) は、3 種類の採血管すべてにおいて、即時処理と 3 日間遅延処理の間で統計的に有意な差は認められなかった (two-way ANOVA 有意差なし) (Fig. 4A)。これは、NanoEV 粒子数が採血管の種類や保存期間によらず比較的安定していることを示唆する。粒子数の変動は、処理条件よりも個々のドナー間差異に大きく依存することが示され、ドナー内変動が 3 倍未満であったのに対し、ドナー間変動は 5 倍以上であった。本研究では n=3 donors の血液サンプルが解析された。

NanoEV 関連タンパク量の遅延処理による増加と溶血との関連: NanoEV に関連するタンパク量は、3 日間遅延処理後に増加傾向を示した (Fig. 4A)。特に EDTA および Roche 管でこの傾向が顕著であったが、統計的有意差には達しなかった。このタンパク量増加は、同時期の溶血レベルの増加パターン (Fig. 3) と一致しており、血液細胞由来の遊離タンパク質が NanoEV 表面に吸着した可能性が示唆される。SEC F17 (タンパク質富化・EV 貧弱) フラクションのタンパク量を見ると、EDTA 管では遅延後に増加したが、Roche および Streck 管では減少した (Supplementary Fig. S1)。これは、cfDNA 安定化管が細胞溶解を抑制し、遊離タンパク質の放出を低減している可能性と一致する。NanoEV のタンパク質含量は、遅延処理により最大で 1.5-fold の増加が観察された。

MicroEV 粒子数とタンパク量の保存期間依存的増加: MicroEV (>200 nm; 10,000 g ペレット) の粒子数および関連タンパク量は、3 日間遅延処理後に全採血管種で有意に増加した (two-way ANOVA; 粒子数で p<0.01、タンパク量で p<0.001) (Fig. 4B)。代表的なドットブロットの例では、Day 0 と Day 3 の間で MicroEV タンパク量が約 2-3 倍増加した。この増加は、保存中の血小板活性化、赤血球崩壊、および有核細胞崩壊による EV 放出増加を反映する前分析的アーチファクトであると考えられる。この結果は、MicroEV のグローバルな粒子数計測を疾患バイオマーカーとして使用する際には、前分析処理の影響を考慮する必要があることを示唆する。溶血アッセイ (414 nm 吸光度) でも、3 日間保存後に EDTA および Roche 管で溶血の増加が確認された (Streck 管では変化なし) (Fig. 3)。また、EDTA 管では 3 日間保存後に回収可能な血漿量が約 5% 減少することも観察された。MicroEV の粒子数は、遅延処理後に最大で 2.8-fold の増加を示した。

CD45 変動: cfDNA 安定化管による有核細胞安定化効果: 白血球由来マーカーである CD45 は、EDTA 管の NanoEV において、3 日間遅延処理後に特異的に有意な増加を示した (two-way ANOVA 有意差あり、p<0.05) (Fig. 5)。これに対し、Roche 管および Streck 管では CD45 の遅延依存的な増加は認められなかった。この結果は、cfDNA 安定化管が有核細胞 (白血球) の崩壊を抑制し、白血球由来 EV の非特異的な放出を防ぐ効果があることを示唆する。一方、血小板由来マーカーである CD61 は、全採血管種の NanoEV で遅延後に有意な増加を示しており (Fig. 5、p<0.01)、cfDNA 安定化管の保護効果は有核細胞に特異的であり、血小板の活性化や赤血球の崩壊には及ばないことが示された。

EpCAM の安定性: 上皮細胞由来 EV の信頼性: 腫瘍細胞由来 EV のマーカーとして重要な EpCAM は、全採血管種および全保存条件 (即時処理・3 日間遅延処理の両方) において安定した発現を示した (Fig. 5)。EpCAM は正常な血液細胞には発現しないため、この安定性は、がん関連液体生検バイオマーカーとしての EpCAM 陽性 EV 解析への cfDNA 採血管の転用が有望であることを支持する。ただし、1 本のチューブで採血時の皮膚細胞混入と考えられる EpCAM の増加が例外的に観察された。EpCAM 陽性 EV のデンシトメトリー値は、すべての条件下で約 100-150 任意単位の範囲で安定していた。

EV 分離への cfDNA 管転用の総括評価: 即時処理 (採血後 1 時間以内) を条件とした場合、採血管の種類が NanoEV および MicroEV の粒子数に有意な差を与えないことが示され、cfDNA 専用管の EV 単離への転用可能性が実証された。しかし、グローバルな MicroEV 粒子計数や NanoEV 総タンパク量を EV 定量の代替指標として使用することは、特に保存遅延条件下では前分析的変動に大きく影響されることが示された。したがって、特定 EV サブポピュレーション (EpCAM 陽性 EV など、疾患特異的で血液細胞には発現しない表面タンパク質を持つもの) の選択的解析には、cfDNA 採血管の転用が有望であると結論付けられる。

考察/結論

本パイロット研究は、健常ドナー n=3 という小規模設計ながら、cfDNA 採血管の EV 解析への転用可能性とその限界を初めて体系的に評価した。本研究の最大の意義は、「ワンチューブ液体生検」の概念実証を提供した点にある。すなわち、単一の採血管から cfDNA と EV の両方を解析できる可能性を示したことである。これは、特に農村部や希少疾患コホートにおける患者の採血負担軽減とバイオバンク保存効率の向上に直結する、臨床応用上の重要な意義を持つ。

先行研究では、cfDNA 安定化管が cfDNA の保護効果を持つことは既に確立されているが (Medina Diaz et al. 2016, Markus et al. 2018)、EV 安定性に関する系統的評価は本研究が初である点で新規である。本研究の結果は、Roche および Streck の cfDNA 安定化管が有核細胞の崩壊を抑制し、CD45 陽性 EV の非特異的増加を防ぐことを示した。この特性は、腫瘍由来 EV (EpCAM 陽性) のような疾患特異的 EV の選択的解析において、血液細胞由来のコンタミネーションを低減できる点で有利である。この点は、血小板活性化や赤血球崩壊がすべての採血管で認められたことと対照的であり、cfDNA 安定化管の保護効果が細胞種によって異なることを示唆する。

これまで報告されていない知見として、NanoEV の粒子数は採血管種や保存期間によらず安定していたものの、その関連タンパク質量は遅延処理により増加する傾向が示された。これは、溶血や細胞溶解によって放出された遊離タンパク質が EV 表面に吸着する可能性を示唆しており、単純な EV 総タンパク量を EV 量の代替指標とすることの限界を示す。同様に、MicroEV の粒子数とタンパク質量は、3 日間の遅延処理後に全採血管種で有意に増加した。この結果は、MicroEV のグローバルな粒子計数が前分析処理の影響を大きく受けるため、疾患バイオマーカーとしての使用には注意が必要であることを強調する。

残された課題として、本研究は健常ドナー 3 名という小規模なコホートで実施されたため、統計的検出力に限界がある。多くの傾向が「有意差なし」に留まった可能性があり、がん患者を含む大規模コホート (少なくとも n≥20 patients) での統計的検証が今後の検討課題である。また、EV 単離プロトコルのさらなる標準化 (例えば、Thery et al. JExtracellVesicles 2018 への厳格な準拠) が必要である。さらに、cfDNA 採血管に含まれる固定剤が EV 内部の核酸 (miRNA や EV-RNA など) の保存に与える影響についても評価する必要がある。先行研究では、Roche 管が赤血球溶血に関して優れた安定性を示すことが報告されており (Zhao et al. 2019)、PAXgene や Norgen cfDNA チューブを含む将来の比較評価も推奨される。

結論として、cfDNA 採血管は即時処理 (採血後 1 時間以内) を条件として EV 分離に転用可能である。しかし、グローバルな MicroEV 計数や全 NanoEV タンパク量は前分析的変動の影響を大きく受けるため、血液細胞に発現しない疾患特異的分子 (例えば EpCAM 陽性 EV) を標的とした選択的 EV サブポピュレーション解析への使用が推奨される。

方法

ドナーと倫理承認: 自己申告による健常者 n=3 名から、ニュージーランド医療・障害倫理委員会 (14/NTA/138) の承認を得た上で、書面による同意を取得後に末梢血を採血した。採血には 21G 翼状針を使用し、採血管は製造元の指示に従って転倒混和した。

採血管: K3-EDTA BD Vacutainer、Streck Cell-Free DNA BCT、Roche Cell-Free DNA Blood Collection Tubes の 3 種類を同一ドナーから同時に採取した。

処理タイムポイント: 採血後 1 時間以内 (即時処理) と、採血管を室温で 3 日間保存後 (遅延処理) の 2 条件で血漿を処理した。3 日間保存の期間は、遠隔地から分析ラボへの検体輸送時間をモデル化したものである。

血漿処理: 全ての血漿は、まず 1500 g で 10 分間 (緩徐減速) 遠心分離し、続いて 10,000 g で 10 分間室温で遠心分離した。この 10,000 g 遠心分離後のペレットを MicroEV として回収した。上清である血漿は、NanoEV 分離のために -80°C で凍結保存した。

NanoEV 単離: 凍結保存した血漿を解凍後、さらに 10,000 g で 10 分間遠心分離し、その後サイズ排除クロマトグラフィー (SEC: Size Exclusion Chromatography) を用いて NanoEV を単離した。qEV2 サイズ排除カラム (Izon Science, ニュージーランド) と自動フラクションコレクター (AFC: Automated Fraction Collector) を製造元の指示に従って使用した。具体的には、カラムを PBS (リン酸緩衝生理食塩水) でフラッシュ後、2 mL の血漿サンプルをロードし、PBS で溶出させた。AFC は最初の 6 x 2 mL フラクションをボイドボリュームとして廃棄し、続く 20 x 2 mL フラクションを回収した。本研究では、F8 と F9 を NanoEV 富化フラクションとしてプールし、F17 をタンパク質に富む EV 貧弱フラクションとして解析に用いた。

透過型電子顕微鏡 (TEM: Transmission Electron Microscopy): NanoEV 富化フラクション (F8/F9) を超純水で洗浄し、Vivaspin 500 (100 KDa (キロダルトン) MWCO) で濃縮した。Formvar コート銅グリッドに吸着させ、2% 酢酸ウラニルでネガティブ染色後、Tecnai G2 Spirit TWIN TEM (FEI, Hillsboro, OR) を用いて 120 kV で観察した。

ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis): プールした F8/F9 フラクションを PBS で 1:5 に希釈し、Nanosight NS300 システム (Malvern Instruments Ltd) を用いて粒子サイズと粒子数を解析した。各サンプルはトリプリケートで、それぞれ 30 秒間のビデオを 3 回 (5 秒間隔) 記録した。カメラレベルとスクリーンゲインはそれぞれ 7 と 2 に固定した。

タンパク質濃度アッセイ: MicroEV ペレット、プールした NanoEV F8/F9、および F17 フラクションのタンパク質含量は、Pierce BCA (Bicinchoninic Acid) Protein Assay Kit (Thermo Scientific) を用いて測定した。NanoEV フラクションは、高感度検出のため、5 µL の 10% SDS (Sodium Dodecyl Sulfate) を添加し、37°C で 2 時間インキュベートする修正プロトコルを適用した。

ドットブロットによる EV の細胞由来マーカー評価: ニトロセルロース膜を Biodot 装置 (BioRad) にセットし、MicroEV (1:50 希釈、50 µL) およびプールした NanoEV F8/F9 (200 µL) をロードした。ブロッキング後、一次抗体 (CD61、EpCAM、CD45、CD235a) を一晩 4°C または室温で 1 時間インキュベートした。洗浄後、HRP (Horseradish Peroxidase) 標識二次抗体をインキュベートし、GE ECL (BioRad ChemiDock) で検出した。スポットのデンシトメトリーは FIJI ソフトウェアを用いて行った。

溶血アッセイ: 血漿 100 µL を Synergy 2 プレートリーダー (BioTek, Agilent) で 414 nm の吸光度を測定し、溶血の程度を評価した。測定値は最低サンプル値で正規化した。

統計解析: データ解析と視覚化は GraphPad Prism (version 8.3.0) を用いて行った。2 元配置分散分析 (two-way ANOVA) を行い、その後に Sidak の多重比較検定を実施した。