• 著者: O’Leary B, Cutts RJ, Liu Y, Hrebien S, Huang X, Fenwick K, André F, Loibl S, Loi S, Garcia-Murillas I, Cristofanilli M, Huang Bartlett C, Turner NC
  • Corresponding author: Nicholas C. Turner (The Institute of Cancer Research and The Royal Marsden Hospital, London, UK)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30206110

背景

CDK4/6阻害薬パルボシクリブとER拮抗薬であるフルベストラントの併用療法は、PALOMA-3 (NCT01942135) 第III相試験において、プラセボ+フルベストラントと比較して無増悪生存期間 (PFS) 中央値を4.6ヶ月から11.2ヶ月へと有意に延長した。この結果を受け、ER陽性HER2陰性進行乳癌の標準治療として確立された (Turner et al. 2016)。CDK4/6はサイクリンD1と複合体を形成し、網膜芽細胞腫タンパク質 (RB蛋白) をリン酸化することでE2F転写因子を活性化し、細胞周期のS期移行を促進する重要な細胞周期制御軸である。CDK4/6阻害薬はこの軸を遮断することで抗腫瘍効果を発揮する (Sherr and Roberts 1999)。

しかし、治療中に耐性を獲得する患者が多く、その分子的メカニズムの解明が急務であった。CDK4/6阻害薬特異的な耐性機序として、前臨床研究ではRB1変異、サイクリンE1/E2 (CCNE1/CCNE2) 増幅、CDK6増幅が提唱されていた (Herrera-Abreu et al. 2016, Yang et al. 2017)。しかし、これらの臨床的証拠は極めて乏しく、RB1変異の臨床例はCondorelli et al. (2018) による3例の症例報告に過ぎなかった。RB1変異は原発性乳癌では稀であるが (Network et al. Nature 2012)、内分泌療法前治療歴のあるCDK4/6阻害薬耐性乳癌におけるその有病率は不明であった。RB1機能喪失変異は、その後の内分泌療法ベースの治療に対する耐性を付与したり、進行後もCDK4/6阻害薬を継続することによる利益を妨げたりする可能性があるため、腫瘍がRB1変異をどの程度の頻度で獲得するかを特定することは、CDK4/6阻害薬後の治療試験を計画する上で重要である。

一方、内分泌療法耐性に関連するESR1変異 (特にY537Sなどのリガンド結合ドメイン変異) やPIK3CA変異の獲得も耐性に寄与すると考えられていたが、CDK4/6阻害薬との組み合わせ治療における選択圧を大規模に評価した研究は存在しなかった。Fribbens et al. (2016) は、ベースラインのESR1変異がパルボシクリブの活性を予測しないことを報告している。治療開始早期に進行する患者 (一次耐性/早期進行) と治療終盤に進行する患者 (後期進行) では異なる耐性メカニズムが関与すると予想され、この二相性モデルの臨床的実証が求められていた。これらの知見は、CDK4/6阻害薬耐性に対する治療戦略を策定する上で重要なギャップを残しており、知識の不足が課題であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

PALOMA-3試験の登録患者から採取した治療開始前 (Day 1) と治療終了時 (EOT、進行時) のペア血漿循環腫瘍DNA (ctDNA) シーケンシングにより、パルボシクリブ+フルベストラント治療中のゲノムクローン進化パターンを網羅的に解析すること。具体的には、CDK4/6阻害薬特異的および内分泌療法関連の耐性メカニズムを同定し、特に早期進行と後期進行の耐性機序の違いを明確にすること。これにより、将来の治療戦略構築に資するエビデンスを提供することを目的とした。本研究は、無作為化試験の枠組みでctDNA解析を行うことで、各治療成分が変異の選択に与える影響を区別することを可能にする。

結果

RB1変異の臨床的出現とCDK4/6阻害薬特異性: 195例のペアctDNA解析において、RB1変異の新規出現はパルボシクリブ+フルベストラント群のみで確認された (6/127例、4.7%; P=0.041、McNemar検定)。プラセボ+フルベストラント群 (68例) ではEOT時にRB1変異は検出されなかった。6例中2例がRB1変異を複数個獲得しており (例: Q257X+N519fsのポリクローナルRB1変異)、PyClone解析ではこれらが耐性サブクローン内に存在することが示された (Figure 1C)。全8つのRB1バリアントがストップコドン獲得またはフレームシフト欠失であり、RB機能の廃絶が高度に示唆される。4/6例ではPIK3CA変異の方がはるかに高いVAFを示し、RB1変異がサブクローン性であることが支持された (Supplementary Fig. S8)。デジタルPCRによる独立検証でDay 1サンプルでのRB1変異欠如を確認した (Q257X、N519fsなど) (Figure 1E)。これらの観察は、RB1異常の出現がパルボシクリブによる選択圧下で獲得または選択されることを支持するが、患者の少数 (6/127例、4.7%) にとどまる。

ESR1 Y537Sの選択的陽性選択: ESR1変異はDay 1の25.1% (49/195例) からEOTの31.3% (61/195例) に増加したが (P=0.07、有意差なし)、個別変異では特にESR1 Y537Sが両治療群で強く選択された (P=0.0037、McNemar検定; q=0.047、Bonferroni補正) (Figure 3A)。EOTで新たに検出されたY537S変異17例全例がデジタルPCRで検証された (17/17、100%) (Figure 3B)。Y537Sは内分泌療法の主要耐性変異であり、最もフルベストラント耐性を示すESR1変異として前臨床研究で同定されており、本臨床データはその意義を直接的に実証した。Y537Sが新規出現した例のうち17.6% (3/17例) ではDay 1にもデジタルPCRで微量検出され、一部のケースで治療前から微小サブクローンとして存在していたことが示された (Figure 3C)。ESR1変異は非常に多クローン性が高く (同一患者内で複数のESR1変異が経時的に変化)、ESR1変異が個々の腫瘍サブクローンのマーカーとして機能することを示した (Figure 4E, F)。

PIK3CA変異の選択的獲得: Day 1の19.0% (37/195例) からEOTの26.7% (52/195例) へとPIK3CA変異陽性患者割合が増加した (P=0.00069、McNemar検定) (Figure 2A)。患者全体の8.2% (16/195例) が新規PIK3CA変異を治療中に獲得した。最頻度変異はE542Kであり、Day 1と比較して増加傾向を示した (P=0.041、Bonferroni補正後q=0.41) (Supplementary Fig. S11)。ddPCRによる検証では最頻度バリアント (H1047R、H1047L、E545K、E542K) の100% (16/16) で確認され、アレル頻度推定の相関係数はr=0.97と高い一致を示した (Supplementary Fig. S10)。PIK3CA変異獲得頻度は両治療群間で有意差がなく (Supplementary Fig. S13)、内分泌療法 (フルベストラント) 耐性への寄与が主因と考えられた。ddPCRによるDay 1サンプルの検査では、獲得されたPIK3CA変異の一部 (6/18例、33.3%) がDay 1時点で検出可能であったが、その多くはctDNAシーケンシングの検出限界を下回る非常に低いアレル頻度であった (Supplementary Fig. S12)。

後期進行 vs. 早期進行の違いと二相性耐性モデル: パルボシクリブ+フルベストラント群 (n=127) において、EOTで何らかの新規ドライバー変異を獲得した35例の中央値PFSは14.3ヶ月であったのに対し、変異非獲得92例の中央値PFSは5.5ヶ月であった (HR 0.65, 95% CI 0.48-0.88, log-rank P=0.0018) (Figure 5A)。ESR1変異獲得例では中央値PFS 13.7ヶ月対非獲得7.4ヶ月 (log-rank P=0.032) (Supplementary Fig. S29)、PIK3CA変異獲得例では中央値12.7ヶ月対9.2ヶ月 (log-rank P=0.34) (Supplementary Fig. S30)。早期進行患者ではドライバー変異の新規獲得は稀であり、ベースライン時点で既存のサブクローン (内分泌療法による選択圧を受けた既存変異クローン) の増殖が主な耐性機序であることが示唆された。これに対し後期進行患者では治療圧下での新規ゲノム変化が主因となる二相性モデルが明確となった。骨転移の存在が変異獲得と関連する可能性が示唆された (P=0.013, q=0.15) (Supplementary Table S6)。

コピー数変化とその他のメカニズム: 前臨床的に提唱されていたCCNE1/CCNE2増幅はEOTで新規に獲得された患者はゼロであり、CDK4/6のゲートキーパー変異も確認されなかった。RB1遺伝子座 (13q) のコピー数欠失はDay 1の16.2% (6/37例) からEOTの27.4% (14/51例) に増加傾向を示したが統計的有意差は得られなかった (P=0.30)。ERBB2ホットスポット変異獲得は1.5% (3/195例)、FGFR2変異は1.0% (2/195例) に認めた (Figure 2C)。APOBEC変異シグネチャが耐性サブクローンに濃縮されており (患者390、253の耐性サブクローンで確認)、APOBECが進行乳癌のゲノム多様性と耐性獲得を促進する機序の1つである可能性が示された (Figure 1D, H)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はPALOMA-3という無作為化第III相試験の登録患者から系統的にペアctDNAを解析した初の大規模研究であり、CDK4/6阻害薬耐性の臨床的ランドスケープを初めて体系的に明らかにした。Condorelli et al. (2018) による3例のRB1変異報告とは対照的に、本研究はランダム化試験設計により「CDK4/6阻害薬特異的」か「フルベストラント関連」かを初めて識別可能にした点で方法論上の革新性がある。RB1変異が4.7%と比較的低頻度に留まったことは、前臨床研究でRB1消失が主要な耐性機序として強調されていたこととやや対照的であり、実臨床では多様な耐性経路が並行して機能することを示す。興味深いことに、RB1変異はESR1変異が野生型の腫瘍でのみ選択される傾向が認められた (Figure 2D)。これは、フルベストラントの有効性がESR1変異によって損なわれていない場合にRB1変異が選択される可能性を示唆しており、耐性への異なる経路が存在することを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、パルボシクリブ+フルベストラント治療中のクローン進化が頻繁に発生し、RB1変異がパルボシクリブ+フルベストラント群でのみ少数に認められることを示した。また、ESR1 Y537S変異がフルベストラント耐性を促進する主要なドライバー変異として、両治療群で選択的に出現することを新規に同定した。さらに、新規ドライバー変異の獲得が、早期進行患者よりも治療期間が長い患者で多く見られるという二相性耐性モデルを臨床的に実証したことは、これまで報告されていない新規の知見である。APOBEC変異シグネチャが耐性サブクローンに濃縮されていることも、APOBECが進行乳癌のゲノム多様性と耐性獲得を促進する機序の1つである可能性を新規に示唆する。

臨床応用: フルベストラント耐性 (ESR1 Y537S選択、PIK3CA変異獲得) が組み合わせ療法全体の耐性の主要ドライバーであるという本研究の知見は、より強力なER標的薬 (経口選択的エストロゲン受容体分解薬 (SERD) など) の開発の合理性を提供する。特にESR1 Y537S変異に対する活性を有する薬剤の開発が重要であることが示された。ctDNA経時モニタリングによる耐性出現の早期検出が可能であり、ESR1/PIK3CA変異のctDNA追跡は治療変更タイミングの指標となりうる。また、後期進行患者では多様な変異が蓄積しており、その情報に基づいた次治療選択 (PI3K阻害薬、ERBB2阻害薬、FGFR阻害薬など) が有望である。RB1変異が比較的稀であるという知見は、進行後も内分泌療法ベースの次治療が有効である可能性を示唆しており、既存の臨床データと一致する。

残された課題と研究の限界: 本研究の主な限界は、コピー数変化の評価が腫瘍純度に依存するため低純度サンプルでの感度が制限される点、エクソームシーケンシングが14例のみであり稀な獲得変異の検出が不完全である点、治療期間2年超の患者数が少なく超後期進行の耐性メカニズムが評価困難である点が挙げられる。「獲得」変異の一部がDay 1時点で極めて低頻度で存在していたことも示されており、既存微小クローンの増殖と新規変異獲得の厳密な区別は困難である。ctDNA解析はサブクローン性の増幅や欠失の検出に限界があるため、RB1欠失の確定的な解析には組織ベースの分析が必要である。今後の検討課題として、RB1変異患者に対する最適次治療の確立、経口SERDの有効性検証 (ESR1 Y537S対応)、CCNE1増幅などctDNA検出困難なコピー数異常の組織ベース評価、および複数耐性変異共存例への対応戦略の構築が残されている。

方法

PALOMA-3試験 (521例をパルボシクリブ+フルベストラント対プラセボ+フルベストラントに2:1無作為化) に参加した患者から、治療開始前 (Day 1) と治療終了時 (EOT、進行時) のペア血漿サンプルを収集した。血漿はEDTA採血管で採取後、30分以内に遠心分離し、-80°Cで保存した。DNA抽出はQiagenのCirculating Nucleic Acid kitを使用し、DNA量はTaqManベースのデジタルPCR (ddPCR) アッセイで定量した。

Phase 1 (エクソームシーケンシング): 腫瘍純度10%以上の高腫瘍コンテンツサンプルを持つパルボシクリブ群患者16例を対象に、Day 1/EOT血漿DNAのエクソームシーケンシングを実施した (メジアン深度164×、範囲139〜212×)。ハイブリッドキャプチャーライブラリはAgilent SureSelect V6を用いて調製し、Illumina HiSeq 2500でペアエンドシーケンシングを行った。リードはBWA v0.7.12を用いてhg19リファレンスにアラインし、GATKベストプラクティスに従って処理した。コピー数評価はCNVkit v0.8.4、純度評価はASCAT 2を用いて実施した。バリアントコールはMuTECT v1.1.7、MuTECT2 (GATK v3.7)、VarDict v1.5.0の3つのツールで実施し、40×以上のカバレッジがあり、かつ2つ以上のコーラーで同定されたバリアントのみを採用した。PyClone (0.13.0) を用いたクローナリティ解析によりサブクローン構造を推定し、RパッケージdeconstructSigsを用いて変異シグネチャ解析も実施した。染色体不安定性指数はAndor et al. NatMed 2016に記載の方法で評価した。

Phase 2 (標的シーケンシング): エクソーム解析で設計した305アンプリコンの標的パネル (RB1、CDK4、CDK6、CDKN1A、CDKN2B、NF1の全コーディングエクソン、TP53のエクソン5-8、PIK3CA、ESR1、ERBB2、FGFR1、FGFR2、FGFR3、AKT1、KRAS、NRAS、HRASのホットスポット) を用い、両治療群の全ペアサンプル (n=195; パルボシクリブ群 n=127、プラセボ群 n=68) を対象にdual-platform (Ion Proton/Illumina HiSeq) エラー修正シーケンシングを実施した。Ion Protonでのメジアン深度はDay 1で2,187×、EOTで3,251×、Illumina HiSeq 2500ではそれぞれ10,637×/8,947×であった。シーケンシングアーチファクトはiDES (integrated digital error suppression) を用いて除去し、手動キュレーションを行った。バリアントコールは、両データセットでホットスポット、ストップゲイン、フレームシフトについてはアレル頻度0.3%以上、その他のコールについては0.5%以上で、かつ最低5リードの代替リードがある場合にのみ採用した。

コピー数評価と腫瘍純度推定: 約1,000 SNPを含む1,729アンプリコン標的パネルを使用し、腫瘍純度推定と同時にコピー数評価を実施した。このパネルは、乳癌で頻繁にヘテロ接合性消失 (LOH) を示す8つの染色体領域のSNPと、RB1、CDKN2A、PTENのLOH評価用SNP、および乳癌で増幅がよく見られる11遺伝子のコピー数評価用アンプリコンを含んだ。Ion Protonで1,000-2,000×の深度でシーケンシングを行った。腫瘍純度は、LOHを伴う単一の二倍体クローンを仮定して推定した。コピー数評価はOncoCNV (v6.8) パッケージを使用し、正規化されたlogR値に基づいて行った。

統計解析: Kaplan-Meier生存分析とログランク検定を用いてPFSを評価し、Cox比例ハザードモデルでハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。ペアデータ間の比較には、連続性補正付きMcNemar検定を用いた。非ペアデータ間の比較にはFisher直接確率検定を用いた。多重比較補正にはBonferroni補正を適用した。すべてのP値は両側検定であり、有意水準はα=0.05とした。統計解析はRバージョン3.4.3を用いて実施した。