• 著者: Noemi Andor, Trevor A. Graham, Marnix Jansen, Li C. Xia, C. Athena Aktipis, Claudia Petritsch, Hanlee P. Ji, Carlo C. Maley
  • Corresponding author: Carlo C. Maley (Arizona State University); Hanlee P. Ji (Stanford University)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2015-11-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26618723

背景

腫瘍内不均一性 (ITH: intratumor heterogeneity) は、がんの進行と治療抵抗性の主要な原動力として広く認識されており、その理解はクローン進化の枠組みから治療への応用が期待されている。がんは単一の細胞に由来するが、体細胞変異の蓄積と自然選択により、遺伝的に異なる複数のクローンが生じ、腫瘍内に共存する。こうして生じたITHは、治療に対する適応進化の基盤となり、部分的に有効な治療に対して耐性クローンが選択されることで、治療失敗の一因となることが知られている。例えば、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012は腎細胞癌の多領域生検解析により、ITHが治療抵抗性の原因となることを報告した。また、Nik-Zainal et al. Cell 2012は乳がんにおけるクローン進化の多様性を詳細に解析し、ITHの広範な存在を示した。さらに、McGranahan et al. SciTranslMed 2015は、単一腫瘍サンプルからのエクソームシークエンシングデータを用いて、既知のドライバー変異のクローン状態を特定し、ITHを引き起こすクローン拡大イベントを同定した。

しかし、これまでがん種横断的にITHの程度を系統的に定量化し、その臨床的帰結を大規模に評価した研究は不足していた点が課題として残されていた。既存のITH研究は、大腸癌や腎癌などの単一がん種に集中する傾向があり、多クローン性の普遍性とその予後的意義について包括的な証拠が不足していた。特に、単一腫瘍サンプルからのITHの網羅的な解析は、中程度のシークエンシング深度と単一サンプルという制約により、その機会が限られていた。エクソームシークエンシングデータから腫瘍メタゲノムを解析するアルゴリズム (EXPANDS (expanding ploidy and allele frequency on nested subpopulations) やPyCloneなど) の進歩により、単一生検からITHを定量化する手法が実用化され、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の公開データを活用したパンキャンサー解析が可能となった。これにより、ITHの普遍性と臨床的意義を大規模に検証する機会が生まれた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、TCGAの12がん種1,165例のエクソームシークエンシングデータを用いて、パンキャンサーレベルでITHの程度を系統的に定量化することである。具体的には、ドライバー遺伝子変異のクローン特性と臨床予後との関連を評価する。さらに、ゲノム不安定性とITHの関係、およびがん関連遺伝子 (CAN genes) の変異クローン特性のがん種横断的一貫性を解析する。また、病理学的に評価可能な形態的ITH指標 (腫瘍核の不均一性) と遺伝的ITHの相関を定量化し、日常病理診断における代理指標としての有用性を検証することも目的とする。これらの解析を通じて、ITHががんの予後予測および治療戦略に与える影響を包括的に理解することを目指す。本研究は、ITHががんの診断や治療において普遍的なバイオマーカーとして機能する可能性を明らかにすることを目指す。

結果

ITHの普遍性とクローン構成: TCGAの12がん種1,165例の解析において、EXPANDS推定では86%​の腫瘍が少なくとも2つの遺伝的に異なるクローンを有することが判明した (PyClone推定では1,107例中80%)。これはITHががん種横断的に普遍的な特徴であることを示している。全腫瘍で平均4クローンが共存し (EXPANDS中央値 5クローン、PyClone中央値 3クローン)、クローンあたり10〜16個の非サイレント体細胞SNVが含まれていた (Fig. 2a, b)。最も均質ながん種とされる甲状腺癌でも、EXPANDSで52%、PyCloneで65%のサンプルで2クローン以上が確認され、多クローン性が主体であることが示された。黒色腫が最も高いITHを示した (Fig. 1d, Fig. 2a-d)。腫瘍核の形態的不均一性 (病理学的指標) と遺伝的ITHの間には有意な相関が認められた (Spearman’s ρ = 0.24〜0.41; p < 0.001)。EXPANDSとPyCloneによるクローン細胞頻度の推定は、クローナルコピー数領域内のSNVについて相関係数 ρ = 0.77で良好に一致した。単一クローンのみが検出されたのは全腫瘍の14% (EXPANDS) から20% (PyClone) であり、均一腫瘍は少数派であることが明確に示された。

ドライバー変異のクローン特性と予後: 259個のCAN遺伝子のうち48% (124遺伝子) が複数がん種にまたがって変異しており、CAN遺伝子はがん種横断的に特徴的なクローンサイズで変異する傾向があった (Fig. 3a)。TP53変異は大クローン (EXPANDS平均cancer-cell fraction: 0.811; PyClone: 0.746) で観察され、腫瘍創設時の早期イベントであることが確認された。一方、「通常は小クローンに出現するドライバー遺伝子変異」の存在は、死亡リスクの有意な上昇と相関した (HR = 2.15, 95% CI: 1.71-2.69)。この関連はがん種横断的に一貫していた。同一腫瘍内に2つ以上のクローンが共存することも、独立した死亡リスク上昇と相関した (HR = 1.49, 95% CI: 1.20-1.87) (Fig. 5a)。これは、小クローン内のドライバー変異が腫瘍の悪性度や進化の進行度を反映することを示唆する。例えば、ERBB3変異は膀胱癌で他の癌種よりも大きなクローンサイズで検出され、PTEN変異は膠芽腫で特に大きなクローンサイズで検出された (Fig. 3b)。

ゲノム不安定性のトレードオフ: コピー数変化が腫瘍ゲノムの25%未満または75%超に影響する場合、死亡リスクが低下した (HR = 0.15, 95% CI: 0.08-0.29, p = 5 × 10⁻⁶) (Fig. 5b)。この二峰性パターンは、ゲノム不安定性の低い状態 (安定したドライバーを持つ腫瘍) と高い状態 (高い免疫原性) の両端で予後が良く、中程度の不安定性が最も悪いというコスト・ベネフィットのトレードオフを示唆する。また、4つ以上のクローンが共存する場合も死亡リスクが低下するという逆U字型の関係が示された (Table 1)。この関係は、特に化学療法や放射線療法を受けていない患者群 (n=643 individuals) で顕著であった (Fig. 5d)。この知見は、高度なゲノム不安定性が腫瘍細胞の適応度を低下させる可能性を示唆する。

CAN遺伝子の一致性と年齢相関: CAN遺伝子のクローンサイズはPyCloneとEXPANDS間で良好な一致を示し (r = 0.43〜0.94; p = 3.4×10⁻¹⁸〜0.12)、アルゴリズム間の頑健性が確認された。大クローン中のSNV数と診断時年齢との相関が確認され (Spearman’s ρ = 0.30; p < 1×10⁻⁶)、小クローン中のSNV数とも年齢相関があった (ρ = 0.18; p = 5×10⁻⁶)。これは年齢とともにITHが蓄積するという進化的枠組みと一致する。非CAN遺伝子のサイレントSNVがクローン数の変動の0-57%を説明したのに対し、CAN遺伝子の非サイレントSNVは30%の変動を説明し (p < 0.05)、クローン拡大を駆動する変異がCAN遺伝子の非サイレントSNVに多いことを示唆した (Fig. 3e)。

組織型別ITH分布と腫瘍純度: 腺癌、扁平上皮癌、黒色腫などでクローン数の分布が異なっていたが、クローンサイズの分布はがん種間で比較的一様であった。腫瘍純度と最大クローンサイズの相関はEXPANDS (Pearson r = 0.43; p < 1×10⁻⁶) とPyClone (r = 0.63; p < 1×10⁻⁶) の両方で確認された。低腫瘍純度はクローン検出数の低下を説明するのに十分ではないことが確認された (Fig. 2e-h)。また、核の多様性 (形態的ITH) は腫瘍タイプ間で異なり (Fig. 4c)、遺伝的ITHが高いほど核の多様性が増加した (腎癌で ρ = 0.413, FDR調整p = 0.004; 胃癌で ρ = 0.406, FDR調整p = 2.97 × 10⁻⁴) (Fig. 4d)。

考察/結論

本研究は、ITHが12がん種の大多数 (86%) に普遍的に存在し、ドライバー変異のクローン位置 (大クローン vs 小クローン) とクローン数が予後と独立して相関することを、大規模パンキャンサー解析で初めて示した。特に、小クローンに出現するドライバー変異の存在が死亡リスクをHR = 2.15 (95% CI: 1.71-2.69) と強力に上昇させるという知見は、これらの変異が腫瘍の生物学的悪性度やクローン進化の進行度を反映することを示唆する。これは、McGranahan et al. SciTranslMed 2015などの先行研究が単一がん種でITHとアウトカムの関連を示したのに対し、本研究はがん種横断的な普遍性を確立した点で新規性がある。

臨床応用の観点から、ドライバー変異の「クローン地位」が治療戦略に重要な情報を提供する。小クローンに出現するドライバー変異は、治療前生検では検出できない場合があり、単一の治療標的では克服困難なポリクローナル耐性を想定した治療計画が必要となる。ゲノム不安定性のトレードオフ (コピー数変化が腫瘍ゲノムの<25%または>75%に影響する場合、死亡リスクがHR = 0.15 (95% CI: 0.08-0.29) に低下) という知見は、高度にゲノム不安定な腫瘍が免疫原性を持ちやすく、免疫チェックポイント阻害薬に応答しやすい患者群の同定にも臨床的意義を与える可能性がある。また、腫瘍核形態的ITHと遺伝的ITHの相関 (Spearman’s ρ = 0.24〜0.41) は、日常病理診断でのITH評価が遺伝的ITHの代理指標として利用できる可能性を示唆する。これは、病理医が形態学的特徴からITHの程度を推測し、治療方針決定の一助とすることに繋がる可能性がある。

残された課題として、本研究が単一生検からのITH評価に限定されている点が挙げられる。これは空間的・縦断的変化を捉えられず、multiregion samplingなしに腫瘍内の完全なITHを評価することに固有のlimitationがある。また、2つの独立したアルゴリズムを用いた点は頑健性の強みであるが、いずれもシークエンス深度に依存するため、腫瘍純度の低いサンプルでは検出感度が制限される可能性がある。今後の検討課題として、液体生検やmultiregion sequencingを用いたITH定量の前向き臨床試験が必要である。本研究の知見は、ITH定量を治療選択や予後予測に組み込む将来の研究への道を開いた重要な基盤研究として評価される。特に、TRACERx試験 (肺癌) をはじめとする縦断的多点生検研究における知見の先駆けとして位置づけられる。

方法

TCGAの12がん種 (甲状腺癌、前立腺腺癌、腎明細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、子宮頸扁平上皮癌・腺癌、胃腺癌、肺腺癌、膀胱尿路上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚悪性黒色腫、低悪性度神経膠腫、膠芽腫) から、Broad Institute由来の高品質かつ均一な深度のpaired tumor-normal exome sequencingデータを持つ腫瘍サンプル1,165例を選択した。クローン検出感度がシークエンス深度と網羅性に依存するため、同一シークエンスセンター由来のデータに限定し、平均5,221Mbのリード深度を確保した。体細胞一塩基変異 (SNV) はMuTectで、コピー数変異 (CNV) はExomeCNVで算出した。

腫瘍のクローン構成推定には、EXPANDS (expanding ploidy and allele frequency on nested subpopulations) とPyCloneの2つの独立したバイオインフォマティクスツールを用いた。EXPANDSはSNVとCNVを統合したアルゴリズムであり、細胞頻度10%以上のクローンを検出する。PyCloneはSNVベースの独立したアルゴリズムで、高深度シークエンスデータを活用する。両アルゴリズムの結果を比較することで、推定の頑健性を確認した。EXPANDSは各SNVの細胞頻度をコピー数依存の確率分布としてモデル化し、これらの分布をクラスタリングして各サブポピュレーションの遺伝的内容(SNVとCNVのセット)を推定した。PyCloneはSNVの細胞頻度を異なる方法で推定し、サブクローンCNVをモデル化せず、高深度シークエンスデータを活用した。

259個のがん関連遺伝子 (CAN genes) の変異クローン特性を評価し、そのクローン特性と臨床アウトカム (全生存期間、無増悪生存期間) との関連をCox比例ハザードモデルを用いて解析した。特に、ドライバー遺伝子変異が腫瘍内の大クローンまたは小クローンのいずれに存在するかを評価した。ゲノム不安定性の指標として、CNVが腫瘍ゲノムに占める割合 (CNV abundance) を算出し、その予後との関連を調べた。CAN遺伝子の選択は、変異頻度解析、NCIのCancer Gene Index (CGI) リソース、およびSNVの有害性を定量化するCADD (Combined Annotation-Dependent Depletion) フレームワークリソースを統合して行った。

さらに、病理学的に評価可能な形態的不均一性 (核のサイズとH&E染色強度のばらつき) を、CellProfilerソフトウェアを用いて2,231枚のH&E染色スライド画像から定量化した。この形態的ITHと遺伝的ITHの相関をSpearmanの相関係数を用いて評価した。腫瘍純度 (ESTIMATE法による発現プロファイリング推定値) がITH測定に与える影響を調整するため、線形回帰分析を用いてITH測定値を正規化した。統計解析には、ログランク検定、t検定、カイ二乗検定、Cox回帰モデル、Spearman相関、Pearson相関を用いた。多重比較補正にはFDR法を適用した。