• 著者: Matthew D. Hellmann, Barzin Y. Nabet, Hira Rizvi, Aadel A. Chaudhuri, Daniel K. Wells ほか (Hellmann と Nabet が equally contributed)
  • Corresponding author: Maximilian Diehn (Stanford University), Ash A. Alizadeh (Stanford University), Matthew D. Hellmann (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32046999

背景

PD-(L)1阻害薬は進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の一部に顕著な長期奏効をもたらす画期的な治療法として確立されている。Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) での363例の臨床試験コホートにおいて、無増悪生存期間 (PFS) が12ヶ月以上を達成した患者は20% (n=72) に相当し、これは他の臨床試験の非選択NSCLC集団での長期奏効率と一致する。しかし、長期奏効を達成した患者でも最終的に再発・進行する例が存在し、その予測因子は未解明であった。特に、治療中断の最適なタイミングや、再発リスクが高い患者を早期に特定し介入するためのバイオマーカーは不足していた。

現行の定期的CT画像モニタリングは、放射線学的に明確に確認できる時点ではすでに腫瘍量がある程度蓄積しているため、早期介入の機会が限られる。また、長期奏効患者において治療継続をすべきか、いつ中断できるかの判断を支える分子的バイオマーカーは存在しなかった。循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析は、ステージIVの未治療NSCLCのほぼ全例でctDNAが検出可能であることが先行研究で示されており、PD-(L)1阻害薬開始後4-8週の早期ctDNA動態変化が初期奏効と一致することも知られていた (Gandara et al. NatMed 2018)。しかし、12ヶ月以上の長期奏効患者における遅発性再発の予測に特化したctDNA研究はこれまで報告されていなかった。

Cancer Personalized Profiling by Deep Sequencing (CAPP-Seq) は、NSCLC患者に合わせてデザインされた次世代シーケンス法であり、tumor-informed (腫瘍組織DNA情報を利用した高感度追跡) とtumor-naive (腫瘍組織なしでの血漿のみの解析) の2つのアプローチを提供する。Tumor-informed CAPP-Seqの検出限界は約0.002%、tumor-naiveは約0.1%であり、高感度かつ高特異度の検出が可能であると報告されている (Newman et al. NatMed 2014)。本研究では、PD-(L)1阻害薬に長期奏効したNSCLC患者のサーベイランス血漿サンプルにおけるctDNA検出が、最終的な再発リスクを画像進行に先行して予測できるという仮説を検証した。本研究は、長期奏効患者における微小残存病変 (MRD) の検出と、それに基づく個別化医療の実現に向けた新たなバイオマーカーの確立を目指したものであるが、この領域における長期奏効患者の再発予測に関する研究は手薄であり、分子レベルでの早期予測バイオマーカーの開発が強く求められていた。

目的

PD-(L)1阻害薬に12ヶ月以上奏効した進行NSCLC患者において、CAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by Deep Sequencing) を用いたサーベイランス時点の血漿ctDNA解析が、画像確認前の再発リスクを予測できるかを評価することを主要な目的とした。副次的に、tumor-informedアプローチとtumor-naiveアプローチの検出性能を比較し、クローナル造血由来変異がctDNA検出に与える影響を評価した。さらに、ctDNA情報が免疫チェックポイント阻害薬の治療期間個別化や、高リスク患者への早期介入にどのように応用できるかの可能性を探索した。本研究は、長期奏効患者における微小残存病変 (MRD) の検出と、それに基づく個別化医療の実現に向けた新たなバイオマーカーの確立を目指したものである。

結果

コホート特性と前処置血漿ctDNA検出: PD-(L)1阻害薬に長期奏効したNSCLC患者31例のコホートを特定した。治療前血漿が利用可能な9例全員でctDNAが検出された (8例はtumor-informed CAPP-Seq、1例はtumor-naive CAPP-Seq)。前処置血漿のctDNA変異の平均アレル頻度 (AF) は中央値0.29% (範囲0.07-6.62%) であり、対応する腫瘍生検のAFの中央値 (範囲3.68-59.09%) と比較して約40倍低値であった (Figure 2B)。これは進行NSCLCにおける血漿ctDNAと腫瘍組織変異量の乖離を定量的に示すものであった。前処置血漿のあった9例の腫瘍量は残りの22例と統計的に差がなく、9例は全体を代表していた (Supplementary Figure S2A)。

サーベイランス時点のctDNA検出と転帰の関連: サーベイランス時点の血漿ctDNA検出は、その後の放射線学的進行と高度に相関した。ctDNAが検出されなかった27例のうち25例 (93%) が無進行を維持した (血漿採取からの無イベント生存期間中央値16.96ヶ月、範囲4.76-24.21ヶ月)。一方、ctDNAが検出された4例全員がその後放射線学的進行を示した (Figure 2C)。Fisherの正確検定によるP値はp<0.0001と高度に有意であり、PPVは1.0 (95% CI 0.51-1)、NPVは0.93 (95% CI 0.80-0.99) を達成した。ctDNA陰性患者はctDNA陽性患者に比べ有意に長い無イベント生存期間を示した (Log-rank p<0.0001) (Figure 2D)。ctDNA陽性群と陰性群の間で、サーベイランス血漿採取時点の治療開始からの期間、または治療終了からの期間に有意差はなく (Supplementary Figure S2B, S2C)、残存腫瘍量や転移部位数も同等であり (Supplementary Figure S3A, S3B)、ctDNA検出は可視腫瘍量の差を反映したものではないことが確認された。

画像進行に対するリードタイム: ctDNA陽性だった4例において、ctDNA検出から放射線学的進行確認までのリードタイムは中央値4.4ヶ月 (範囲0.9-11.5ヶ月) であった (Figure 4B)。これは定期CTスキャンの間隔 (通常3ヶ月) を大幅に上回る早期警告を提供することを意味する。具体的な症例として、患者LUP689はPD-1単剤療法2年間で部分奏効 (-45%応答) を示したが、22ヶ月時点でのctDNA陽性 (AF 0.39%) は画像上では変化なしであった。26.5ヶ月でも陽性 (AF 0.30%) であったが、28.5ヶ月ではAFが上昇 (AF 1.16%) し、同時期のPET-CTが初めて進行を示した (Figure 4D)。また、患者LUP429では放射線療法後の局所再発部位にctDNAが先行陽性となり、その後の局所照射でctDNAが陰性化し、現在も無病生存中である (Figure 4E)。

Tumor-naiveアプローチの検討とクローナル造血の影響: 腫瘍組織が利用可能な24例でtumor-naiveアプローチを追加解析した結果、tumor-informedアプローチとの不一致率は2/23例 (9%) に留まり、無イベント生存期間の分離はtumor-informedと類似した有意差を示した (Log-rank p<0.0001) (Figure 3A, 3B)。ただし、この等価性の達成には白血球DNAの対比解析によるクローナル造血由来変異の除去が必須であった。白血球変異は19例 (83%) のcfDNAに検出され、これらを除去しない場合は18例 (78%) で偽陽性分類が生じるのに対し、除去後は3例 (13%) に減少した (Figure 3B, 3C)。特に、これらの白血球由来変異の大多数 (平均81%) はクローナル造血に既知の遺伝子以外に位置しており、遺伝子レベルのフィルタリングでは除去できないことが示された (Figure 3D)。このことは、市販のtumor-naive液体生検ツールが白血球DNAのペア解析を行わない場合、偽陽性率が高くなる可能性を強く示唆する。

ctDNA陰性の臨床的意義: 19例の長期奏効患者が放射線画像上に残存病変を持ちながらもctDNA陰性を示した。さらに、放射線学的に完全奏効ではない患者においてもctDNA陰性が組織学的完全奏効 (pathologic complete response, pCR) と対応する例が確認された (患者LUP424)。この患者はPD-1+CTLA-4併用療法20ヶ月で-60%の縮小反応を示し、サーベイランス時点 (19.0ヶ月) でctDNA陰性、その後の外科的切除で完全病理学的奏効が確認された (Figure 4C)。この患者は治療開始から34ヶ月時点でctDNA陰性を維持し、無進行生存中である。これはctDNAが画像評価よりも深い分子レベルでの腫瘍排除を反映できることを示す。また、ステージIVのpCR後にもctDNA陰性の維持が継続的に確認でき、連続モニタリングでの信頼性が示された。

考察/結論

本研究の先駆的意義と先行研究との違い: 本研究は、PD-(L)1阻害薬に12ヶ月以上の長期奏効を示したNSCLC患者において、ctDNA解析がその後の再発を画像進行に先行して予測できることを初めて系統的に示した点で新規性が高い。これまでの研究では、治療開始後4-8週の短期ctDNA動態変化が初期放射線学的応答と相関することは示されていたが、これは最終的な長期転帰とは必ずしも相関しなかった。本研究は治療開始から中央値26.7ヶ月という後期サーベイランス時点でのctDNA測定が持つ特有の予測価値を示し、早期モニタリングとは独立した臨床的情報を提供することを示した。また、基準血漿のctDNA値は長期奏効患者で最終的な進行リスクとの相関を示さず、これは先行研究と異なる重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、長期奏効患者における微小残存病変 (MRD) の検出と、それに基づく個別化医療の実現に向けた新たなバイオマーカーの確立を目指し、サーベイランス時点でのctDNA検出が画像進行に中央値4.4ヶ月先行して再発を予測できることを示した。特に、白血球DNAのペア解析なしには市販のtumor-naive液体生検では高い偽陽性率が避けられないという技術的知見は新規なものである。

臨床応用の潜在的シナリオ: 著者らは少なくとも2つの潜在的な臨床応用シナリオを想定している。第1は、ctDNA陰性の長期奏効患者において治療中断のタイミングを判断するためにctDNA情報を用いる戦略であり、CTスキャン上に残存病変があってもctDNA陰性が維持されている場合は治療中断・定期モニタリングへの移行の科学的根拠となりうる。第2は、ctDNA陽性患者において画像モニタリングの強化 (PET-CTなど) および早期治療変更 (oligoresidual lesionへの放射線・外科的介入、またはより広汎な進行に対する全身療法変更) を積極的に検討する戦略である。これらはいずれも前向き試験での検証が必要であり、現段階では仮説の領域に留まるものの、免疫チェックポイント阻害薬の治療期間個別化や、高リスク患者への早期介入にctDNA監視が有用である可能性を強く示唆する臨床的意義を持つ。

残された課題と今後の方向性: 本研究の主要な限界は、n=31という小規模コホートであり、ctDNA陽性例は4例のみである点で、統計的信頼性には根本的な限界がある。また、サーベイランス血漿採取時期の不均一性、治療レジメンの多様性 (複数の異なるPD-(L)1阻害薬)、ならびに全例で前処置血漿が得られなかった点も限界として挙げられる。ctDNA陰性であった27例の中で進行した2例については、進行がctDNA検出の5.7ヶ月・9.1ヶ月後であったことから、サーベイランス採取後のctDNA上昇がより早期に起きていた可能性が否定できない。さらにシリアルサンプルが3例しか得られなかったため、連続ctDNA測定による精度向上の効果も限定的にしか評価できなかった。著者らは前向きコホートでの均一な治療レジメン・均一な採血タイミング・前処置から定期サーベイランスまでの一貫した解析による大規模検証の必要性を明確に述べている。この後続試験は、ctDNA誘導型免疫療法期間の個別化を目指したものとして設計されるべきと論じている。

方法

患者選択とコホート: Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) で初期PD-(L)1阻害薬臨床試験に参加し、PFSが12ヶ月以上を達成した進行NSCLC患者31例を対象とした。うち29例が臨床試験、2例が市販PD-(L)1阻害薬を使用していた。全例がステージIV NSCLCであり、免疫療法開始日は2011年5月16日から2016年10月28日の間であった。追跡期間中央値は38.7ヶ月 (範囲14.3-81.7ヶ月)、治療期間中央値は20.4ヶ月 (範囲1.7-48.1ヶ月) であった。コホートの71% (22/31) でPD-L1陽性 (免疫組織化学染色; IHC) であり、97% (30/31) が喫煙歴を有していた。

サーベイランス血漿採取: サーベイランス血漿採取の時点は、免疫療法開始から中央値26.7ヶ月 (範囲8.3-61.8ヶ月) であった。31例中9例では、治療前の基準血漿サンプルも利用可能であった。血漿はCPT (Cell Preparation Tubes) またはCell-Free DNA BCT (Blood Collection Tubes) に採取され、遠心分離後、cfDNA抽出に供された。

腫瘍プロファイリング: 24例に腫瘍組織が利用可能であり、全エクソームシーケンス (WES, n=18) または標的シーケンス (MSK-IMPACT, n=6) にて解析された (Cheng et al. JMolDiagn 2015)。腫瘍組織は免疫療法開始前に採取された。腫瘍変異負荷 (TMB) は、コーディング領域の非同義変異数/Mbで算出された。

ctDNA解析 (CAPP-Seq): CAPP-Seqは既報のプロトコルに従って実施された (Newman et al. NatMed 2014)。最大32 ngのcfDNAまたは白血球DNAを用いてライブラリ作製後、カスタムデザインされたビオチン化DNAオリゴプローブによるハイブリダイゼーション濃縮を実施し、Illumina HiSeq4000でシーケンスされた。シーケンスデータはカスタムバイオインフォマティクスパイプラインを用いて処理された。

  • Tumor-informedアプローチ: 腫瘍組織の変異情報に基づき、cfDNA中の腫瘍変異を追跡するMonte Carlo法を使用し、P≤0.05を有意閾値とした。マッチした白血球DNAで検出された変異、および健常コントロール血漿サンプル (n=54) で2リード以上検出された変異、またはGenome Aggregation Database (gnomAD) に0.05%以上で登録された変異は除外された。
  • Tumor-naiveアプローチ: 腫瘍組織情報なしで血漿cfDNA中の変異を同定した。白血球DNAのペア解析により、白血球由来変異を除外した。また、gnomADに登録された変異、および健常コントロール血漿サンプルで2リード以上検出された背景変異もフィルタリングされた。tumor-naive解析の探索的解析では、大腸がんの併発によりctDNA検出が混同される可能性があった患者LUP425は除外された。

エンドポイントと統計解析: ctDNA検出と最終的な放射線学的進行との相関を評価した。陽性予測値 (PPV)、陰性予測値 (NPV)、およびFisherの正確検定を算出した。ctDNA陽性から画像確認進行までのリードタイム (event-free survival) を計測した。Kaplan-Meier曲線を用いてLog-rank検定で生存曲線を比較した。サンプルサイズは、先行研究における局所NSCLC術後MRDのHR約40という知見に基づき、再発率10%を仮定した場合、25例以上で95%以上の検出力を持つと事前に算出されていた。統計解析はGraphPad Prism v.6およびR 3.3.2を用いて実施された。