• 著者: Aaron M. Newman (co-first), Scott V. Bratman (co-first), Jacqueline To, Jacob F. Wynne, et al.
  • Corresponding author: Maximilian Diehn / Ash A. Alizadeh (Stanford University)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-04-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24705333

背景

循環腫瘍DNA (ctDNA) は、固形腫瘍の非侵襲的モニタリングにおいて極めて有望なバイオマーカーとして認識されてきた。特に、侵襲的な生検を繰り返すことが困難な固形腫瘍患者にとって、血液検体から腫瘍由来DNAを検出・定量する液体生検は大きな期待を集めている。しかし、本研究発表時点における既存のctDNA検出法には、臨床応用を広範に進める上で根本的な限界が存在した。この点が、幅広い患者群に対応するctDNA検出法の開発を阻む主要な課題の一つであった。

従来のPCRベースのアッセイ、例えばEGFRやKRAS遺伝子の再発性点変異を検出する方法は、特定のホットスポット変異に限定されるため、患者カバレッジが極めて限定的であった Rosell et al. NEnglJMed 2009。大多数の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者はこれらの特定の標的変異を持たないため、これらの方法では多くの患者の腫瘍をモニタリングすることができなかった。

また、超並列シーケンス (massively parallel sequencing) を利用したctDNA検出の試みも報告されていたが Dawson et al. NEnglJMed 2013、これらの方法もいくつかの課題を抱えていた。具体的には、感度が不十分であり、多くの場合で検出限界が0.5%以上の変異アレル頻度にとどまっていた。これは、治療後の微小残存病変や早期癌における極めて低濃度のctDNAを検出するには不十分であった。さらに、これらの方法は患者固有の最適化が必要となる場合が多く、高コストであるという経済的な課題も存在した。これらの技術的・経済的制約により、広範な臨床適用は困難であった。このような背景から、幅広い患者カバレッジと超高感度を両立するctDNA定量法の開発が急務であったが、そのための効果的なアプローチは未解明であった。

NSCLCにおいては、ゲノム全体に分散した多数の再発変異が存在することが知られており Ding et al. Nature 2008、これらの多様な変異を同時に、かつ高感度で検出できる新たなアプローチが強く求められていた。特に、手術や放射線療法後の画像診断では、放射線性炎症や線維化による治療関連変化と、残存腫瘍の鑑別が困難な場合が多く、より客観的で定量的なバイオマーカーが臨床的に必要とされていた。既存の技術では、これらのニーズを満たすための十分な感度と網羅性が不足しており、新たな技術開発が喫緊の課題として認識されていた。

目的

本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、幅広い患者カバレッジと超高感度を両立する新たな循環腫瘍DNA (ctDNA) 定量法であるCAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by deep Sequencing) を開発することである。さらに、このCAPP-Seq法を用いて、NSCLC患者における腫瘍量モニタリング、微小残存病変 (MRD) の検出、治療効果の早期評価、および生検フリー腫瘍ジェノタイピングへの臨床的応用可能性を検証することを目的とした。具体的には、CAPP-Seqの技術的性能(感度、特異度、検出限界、線形性)を詳細に評価し、その上で、ctDNAの絶対量が腫瘍体積とどの程度相関するか、治療中のctDNA動態が画像診断よりも早期に治療効果を反映するか、そして手術や放射線療法後のMRD検出に有用であるかを明らかにすることを目指した。また、腫瘍組織生検が困難な患者に対する生検フリー診断の可能性についても検討する。本研究は、低濃度のctDNAを高い信頼性で検出・定量し、個別化医療を推進するための基盤技術を確立することを目的とした。

結果

セレクターの設計と患者カバレッジ: 最終的に設計されたCAPP-Seqセレクターは、521エクソンと13イントロンからなる139遺伝子を対象とし、全ゲノムのわずか約0.004% (約125 kb) を標的化した。このセレクターにより、NSCLC患者の96%で変異を同定可能であり、患者あたり中央値4個のSNV (範囲1から40以上) を検出した (Fig 1b, c)。独立検証コホート (肺腺癌183例のWESデータ) では88%の患者をカバーし、ランダムな同サイズのexome samplingと比較して約4倍多い変異を検出した (p<1.0×10⁻⁶)。融合遺伝子を有する腫瘍はほぼ全例が非喫煙者由来であり、融合陽性腫瘍は融合陰性腫瘍よりSNV数が有意に少なかった (median 0 vs median 6 [3 missense])。これは、CAPP-Seqが融合遺伝子とSNVの同時解析能を有し、包括的な変異カバレッジを提供することを示している。

ライブラリ調製の技術的最適化と背景ノイズの評価: 健常者血漿由来循環DNAのcfDNAフラグメント中央値は約170 bpであり、クロマートソームに相当する長さであった (Fig 2a)。低DNA入力量 (最小4 ng) からのライブラリ調製最適化により、リカバリー効率を300%以上向上させ、分子回収率49%以上を達成した。マルチプレックス血漿DNAでの試料間クロスコンタミネーションは約0.06%と極めて低く、キャプチャー試薬のアレル特異的偏りは最小限に抑えられた。非参照アレルの背景レートは、40血漿サンプル (n=40 plasma samples) のセレクター全域で平均0.006%、中央値0.0003%であり、既報のNGSベースctDNA解析法より著明に低い値であった (Fig 2d)。生物学的背景ノイズとして107の既知がん関連SNVを解析したところ、全体の平均背景レートは約0.01%と低かったが、TP53 R175H変異のみが全患者・健常者を問わず中央値約0.18%で検出され、潜在的なクローン性造血を示唆する単一ホットスポットとして報告された (Fig 2e, f)。

感度・特異度と検出限界: CAPP-Seqは、Stage II-IV NSCLC全13例中13例 (100%) でctDNAを検出した。Stage I患者では50% (4例中2例) で検出された。健常者5例からの偽陽性はなく、特異度96%を達成した。前治療サンプルのROC解析では、AUC=0.95、最大感度85%、特異度96%を達成した (Fig 3a, b)。前治療・後治療サンプルを含む包括的ROC解析では、AUC=0.89 (全Stage) および0.91 (Stage II-IV、p<0.0001) であった。変異アレル頻度0.025-10%の希釈系列での線形性はR²≥0.994であり、0.02%の検出限界を実証した (Fig 2g)。融合、indel、コピー数変化の検出でもR²≥0.97の高い線形性を示した。SNVレポーター数が4個を超えると定量精度の改善は僅少であり、これはセレクターが設計段階で目標としたNSCLC患者あたり中央値4個のSNVと整合した (Fig 2h, i)。

腫瘍体積との相関: 前治療血漿のctDNA絶対量は、CT/PETで測定した腫瘍体積と顕著に相関した (R²=0.89、p=0.0002; n=9例、腫瘍体積測定可能例) (Fig 3c)。前治療ctDNA分率は患者間で約0.02%から約3.2%の範囲であり、中央値約0.1%であった。腫瘍体積が大きいStage IIB患者P13 (339.3 mL腫瘍) では前治療ctDNAが1.78% (269.8 pg/mL) と検出されたのに対し、小腫瘍のStage IB患者P1 (23.1 mL) では0.025%と最低限の前治療分率であった。Stage IV腺癌患者P5では前治療ctDNAが3.2% (143.8 pg/mL) と最高値を示し、腫瘍体積82.1 mLとの乖離がctDNAのshedding効率の患者間変異を反映している可能性が示唆された。

縦断的腫瘍量モニタリング: Stage IV NSCLC患者P15 (SNV + indel) およびP9 (3つの融合ブレークポイント: EML4-ALK、FYN-ROS1、ROS1-MKX) における治療経過中のctDNA動態は、腫瘍体積と高い相関を示した (P15でR²=0.95、P9でR²=0.85) (Fig 4a, b)。SNVと融合遺伝子を用いた同時モニタリング (P6、ALK-KIF5B融合) でも一致した動態が観察された (Fig 4c)。各種の変異クラス (SNV、融合、indel) を組み合わせた統合ctDNAインデックスは、腫瘍体積の変化を画像診断よりも早期かつ高精度に追跡できることが示された。

微小残存病変の評価: Stage IIB NSCLC患者P13は放射線療法後の画像で大きな腫瘤が残存病変と解釈されたが、同時点のctDNAは検出不能であり、その後22ヶ月間無病状態が維持された (Fig 4e)。これはctDNA陰性が真の奏効を正確に反映したことを示唆する。一方、Stage IIIB患者P14では化学放射線療法後の画像でほぼ完全奏効が示されたが、ctDNA濃度は治療後にわずかに増加し、微小病変の進行を示唆した。実際に7ヶ月後に臨床的増悪が確認された (Fig 4f)。Stage IB患者P1 (手術後) とP16 (SABR後) では、術後3ヶ月および32ヶ月での連続サンプルでctDNA不検出が維持され、それぞれ21ヶ月後まで無病であった (Fig 4g, h)。

サブクローン検出と生検フリー腫瘍スクリーニング: Stage IV患者P5では、dominant clone (EGFR活性化変異) と共に、erlotinib耐性変異 (EGFR T790M) を含むsubcloneをctDNAから同定した。腫瘍生検とほぼ同時期に採取された血漿でのクローン比率は組織と一致した (Fig 4d)。また、患者P9ではEML4-ALKと2種類の新規ROS1融合 (FYN-ROS1、ROS1-MKX) が同一患者で初めて観察され、複数クラスの変異を同一サンプルから同時に検出するCAPP-Seqの包括性が示された。腫瘍変異情報なしのブラインド解析では、ctDNA分率0.4%以上の全陽性サンプルを偽陽性率0%で正確に分類した (Fig 4i)。EGFRおよびKRAS変異は、変異アレル頻度0.1%以上で特異度99%での正確な検出が可能であった。この精度は、腫瘍組織生検に代わるplasma-first診断アプローチの実現可能性を示唆し、生検困難症例への応用が期待される。

考察/結論

新規性: CAPP-Seqは、ctDNA定量のための革新的な手法として、以下の5つの主要な特長を同時に実現した初のNGSベース法である。(1) 超低検出限界 (0.02%)、(2) 患者固有の最適化が不要、(3) NSCLC患者の95%以上をカバーする広い患者カバレッジ、(4) 複数種・クラスの変異を統合したctDNAインデックスによる定量、(5) 経済的な実施可能性。本研究で初めて、これらの特長を兼ね備えた技術を提示した。

先行研究との違い: これらの特長は、既存のアンプリコン、全エクソーム、または全ゲノムシーケンス法がほとんどのNSCLC患者で感度不足である (前治療ctDNA濃度が大腸癌・肺癌の大多数で0.5%未満である) のと対照的である。CAPP-Seqは、中央値約0.1%のctDNA分率でも確実に検出できることが示された。

臨床応用: 本研究で示されたctDNA絶対量と腫瘍体積との高い相関 (R²=0.89) および縦断的モニタリングにおける腫瘍体積との高一致は、ctDNAが画像診断に代わる腫瘍量の定量的指標となり得ることを強く示唆している。特に、放射線療法後の画像診断における残存腫瘍と治療関連変化の鑑別はCTのみでは困難であり、ctDNA陰性が真の奏効を正確に反映した臨床例 (P13) は、液体生検の臨床的意義を鮮明に示している点で、これまでの診断法と異なる新規性を持つ。腫瘍ジェノタイピング (EGFR・KRAS変異の検出、特異度99%) やサブクローン検出 (erlotinib耐性変異であるEGFR T790Mの早期同定) は、精密個別化医療の実現に向けた重要なステップであり、臨床応用への大きな含意を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、バーコーディング戦略によるPCRエラー抑制や、解析に用いる血漿量の増加 (本研究の平均約1.5 mLから) による検出限界のさらなる向上が挙げられる。また、融合遺伝子の捕捉効率の改善や、コピー数変化をセレクター設計に組み込んだより包括的な解析も今後の方向性として重要である。本CAPP-Seq法は、NSCLC以外のあらゆる悪性腫瘍への拡張が原理的に可能であり、その後の微小残存病変 (MRD) ctDNA解析、クローン進化追跡、免疫チェックポイント阻害剤治療前後のctDNA動態解析など、多数の後続研究の基盤的技術として位置付けられる。

方法

CAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by deep Sequencing) のセレクター設計は、多段階のバイオインフォマティクスアプローチにより実施された。まず、Phase 1では、COSMICデータベースおよびその他の既報のドライバー遺伝子における再発性変異をカバーするエクソンを組み込んだ。次に、The Cancer Genome Atlas (TCGA) のNSCLC患者407例の全エクソームシーケンス (WES) データを用いて、変異反復指数 (Recurrence Index, RI) を指標とした最適エクソン選択アルゴリズムを適用した (Phase 2-4)。このアルゴリズムは、患者あたりの検出可能な変異数を最大化しつつ、セレクターの長さを最小化するように反復最適化された。Phase 5では、予測されるNSCLCドライバーエクソンを追加し、Phase 6では、ALK、ROS1、RETなどの再構成ブレークポイントを含むイントロンおよびエクソン領域を組み込んだ。最終的なセレクターは、139遺伝子にわたる521エクソンと13イントロンから構成され、全ゲノムの約0.004% (約125 kb) を標的とした。

ライブラリ調製は、低DNA入力量 (7-32 ng) に最適化されたKAPA Library Preparation Kitを用いて実施された。この最適化により、DNA回収効率は300%以上向上し、平均約10,000x (重複除去前) のシーケンス深度を達成した。マルチプレックス血漿DNAにおける試料間のクロスコンタミネーションは、患者固有のホモ接合性SNP解析により約0.06%と極めて低いことが確認された。キャプチャー試薬のアレル特異的偏りは最小限に抑えられた。非参照アレルの背景レートは、40血漿サンプルのセレクター全域で平均0.006%、中央値0.0003%と、既報のNGSベースctDNA解析法と比較して著明に低い値であった。生物学的背景ノイズとして、107の既知がん関連SNVを解析したところ、全体の平均背景レートは約0.01%であったが、TP53 R175H変異のみが全患者・健常者を問わず中央値約0.18%で検出され、潜在的なクローン性造血を示唆する単一ホットスポットとして報告された。

本研究では、合計90サンプルを解析した。これには、2種類のNSCLC細胞株 (HCC78, NCI-H3122)、マッチする正常組織を伴う17例の原発腫瘍、およびNSCLC患者13例と健常者5例からの計40血漿サンプルが含まれる。感度および特異度の評価は、健常者血漿サンプルと前治療NSCLC患者血漿サンプルを用いてROC解析により実施された。ctDNAの定量は、SNV、indel、および融合遺伝子からの情報を統合した複合インデックス統合法により行った。検出限界と線形性は、変異アレル頻度0.025-10%の希釈系列を用いて評価された。統計解析には、BWA 0.6.2 Li et al. Bioinformatics 2009、SAMtools Li et al. Bioinformatics 2009、BEDTools Quinlan et al. Bioinformatics 2010、VarScan 2、および自社開発の融合遺伝子検出アルゴリズムFACTERAが用いられた。ROC解析や線形回帰分析にはGraphPad Prism 6が使用された。これらの統計的手法により、CAPP-Seqの性能が客観的に評価された。