• 著者: Dall’Olio FG, Gelsomino F, Conci N, Marcolin L, De Giglio A, Grilli G, Sperandi F, Fontana F, Terracciano M, Fragomeno B, Tober N, Manferrari G, Brocchi S, Golfieri R, Fiorentino M, Ardizzoni A
  • Corresponding author: Filippo Gustavo Dall’Olio, MD (IRCCS Azienda Ospedaliero-Universitaria di Bologna, Division of Oncology, Bologna, Italy)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-03-16
  • Article種別: Original Article (前向き単施設コホート研究)
  • PMID: 33849808

背景

ICI (immune checkpoint inhibitor; 免疫チェックポイント阻害薬) はNSCLCの治療を革新したが、未選択の前治療患者における長期生存率は2年で22〜37%・5年で16%にとどまり、大半の患者が十分な恩恵を受けられない。PD-L1 (programmed death-ligand 1) PD-L1 発現のIHC (immunohistochemistry; 免疫組織化学) TPS (tumor proportion score; 腫瘍割合スコア) が唯一の承認バイオマーカーだが、PD-L1陰性例でも奏効し、PD-L1高発現例でも無効な症例が存在するため、予測精度に本質的な限界がある。

先行研究 (Herbst et al. 2016、Borghaei et al. 2015、Brahmer et al. 2015) では、組織PD-L1の予測能が腫瘍内・腫瘍間の空間的不均一性および単一生検のサンプリングバイアスによって著しく損なわれることが示されていた。腫瘍変異負荷 (TMB) とPD-1経路阻害の感受性との関係も報告され (Rizvi et al. Science 2015)、ICIの奏効予測に複数の因子が関与することが明らかになっていた。しかし、この予測能低下を補完する非侵襲的代替指標の確立は未検討であり、CTC (circulating tumor cell; 循環腫瘍細胞) を用いたPD-L1評価がこの課題を解決できるかどうかは不明であった。CTC数は乳癌・大腸癌・前立腺癌で独立した予後因子として確立されており (Cristofanilli et al)、NSCLCでもCTC数と予後・ICI有効性の逆相関が示唆されていたが、NSCLC ICI治療においてCTC PD-L1発現とOSとの相関を前向きに評価したデータは乏しかった (液体生検パラダイム)。FDA (Food and Drug Administration; 米食品医薬品局) 承認の唯一のCTC検出法であるCellSearch (cell-based search assay system) システムを用いた大規模前向き検証は insufficient であり、新たな予後バイオマーカーの確立が求められていた。

目的

ICI単剤療法 (ニボルマブ・ペムブロリズマブ・アテゾリズマブ) の二次以降治療を受けた進行NSCLC患者において、CellSearchシステムで検出したCTCのPD-L1発現と全生存 (OS; overall survival)・PFS (progression-free survival; 無増悪生存期間)・DCB (durable clinical benefit; 持続的臨床ベネフィット) との相関を評価し、既存予後因子と独立した予後バイオマーカーとしての有用性を検証する。

結果

患者背景と基本特性:全解析対象n=39 patients (CTCnull n=15 patients、CTCpos n=13 patients、CTCneg n=11 patients)。中央年齢68歳 (range 53-83)。ECOG PS (performance status) 0-1が30例 (77%)。組織型は非扁平上皮癌30例 (77%)。CTC検出率:24/39例 (62%)、CTC数1〜59/7.5 mL。CTC群別の組織PD-L1平均TPS:CTCnull 36.5% (SD 38.5) vs CTCpos 17.6% (SD 27.1) vs CTCneg 8.5% (SD 12.9) で群間有意差なし (P=0.083; Table 1)。腫瘍サイズ中央値88.5 cm (SD 55.8) で、CTC数と基準腫瘍サイズの有意な相関が確認された (r²=0.435、P=0.008)。

主要エンドポイント: OS:全体mOS 4.2ヶ月 (95% CI 2.3-6.1)。観察終了時に29例 (74%) が死亡 (Fig. 2)。CTC群別OS:CTCneg mOS 2.2ヶ月 (95% CI 0.8-3.6) を参照として、CTCpos mOS 3.7ヶ月 (HR 0.33、95% CI 0.13-0.83、P=0.019)、CTCnull mOS 16.0ヶ月 (95% CI 2.2-29.8、HR 0.17、95% CI 0.06-0.45、P<0.001)。CTCnullが最良の予後を示し、CTCnegが最不良であった。CTCposとCTCnull間に有意差なし (HR 1.96、P=0.157)。多変量解析 (ECOG・dNLR・骨転移・LDH (lactate dehydrogenase; 乳酸脱水素酵素) を共変量) でCTCスコアは独立した予後因子 (HR 2.08、95% CI 1.08-4.03、P=0.03) (Table 3)。CTC scoreをモデルに追加するとC指標が0.757→0.867 (バイアス補正 0.710→0.821) に有意に向上した。この改善は、CTC PD-L1スコアが既存の臨床予後因子を超える予測情報を提供することを意味する。

副次エンドポイント: PFS:全体mPFS 2.6ヶ月 (95% CI 2.0-3.3) (Fig. 3)。CTCneg mPFS 1.9ヶ月を参照として、CTCpos mPFS 2.4ヶ月 (HR 0.36、95% CI 0.15-0.87、P=0.024)、CTCnull mPFS 3.1ヶ月 (HR 0.37、95% CI 0.15-0.95、P=0.040)。CTCnullがPFSでも最良の予後を示した。PFS多変量解析でCTCスコアは独立した予後因子 (HR 1.64、95% CI 1.00-2.70、P=0.05) (Table 4)。dNLR (derived neutrophil-to-lymphocyte ratio; 好中球リンパ球比) ≥3がPFSの最強の独立因子 (HR 8.01、95% CI 2.83-22.68、P<0.001) であったが、CTCスコアもこれを調整した後も独立した予後因子として残存した。

DCBと奏効率:DCB (durable clinical benefit; 持続的臨床ベネフィット、6ヶ月以上PD/死亡なし) はCTCnull 5/15例 (33%) vs CTCpos 3/14例 (21%) vs CTCneg 0/11例 (0%)。評価可能例の奏効率はCTCnull 38% vs CTCpos 43% vs CTCneg 0% (P=0.178)。病勢制御率DCR (disease control rate; 病勢コントロール率) はCTCnull 62% vs CTCpos 57% vs CTCneg 0% (P=0.035)。CTCneg群ではDCBを達成した患者が1例もなかった点が特に注目される。

CTC PD-L1と組織PD-L1の相関:CTC PD-L1と組織PD-L1 TPSは有意な相関を示さなかった (κ=0.292、P=0.176) (Fig. 1)。感度69.2%・特異度60.0%。CTCneg群では組織PD-L1 TPS≥50%の症例がゼロであり、組織PD-L1陰性でもCTCnull群では良好な予後が得られる可能性が示唆された。両者の非相関は、CTCと組織生検が腫瘍の異なる空間的・時間的側面をそれぞれ反映していることを示す。この結果はCTC PD-L1評価が組織生検の代替ではなく補完的な液体生検指標として機能することを支持する。

考察/結論

本研究は、NSCLCのICI治療においてCTC PD-L1スコアが独立した予後バイオマーカーとなることを初めて (first to demonstrate) 前向き単施設コホート研究で示した点が新規性 (novelty) である。CTCが検出されない群 (CTCnull) でmOS 16.0ヶ月と最良の予後を、PD-L1陰性CTC群 (CTCneg) でmOS 2.2ヶ月と極めて不良な転帰を示したことは、腫瘍由来細胞の血中循環それ自体が不良な予後と強く関連することを初めて定量的に証明した。

先行研究 (Guibert et al. 2017、Koh et al. 2018) では組織PD-L1とCTC PD-L1の相関が検討されていたが、これらの研究と異なり (differs from)、本研究は前向きデザインでICI投与前のCTCを採取し、OSを主要評価項目として設定した点に強みがある。CTC PD-L1と組織PD-L1の非相関 (κ=0.292、P=0.176) は先行研究と一致し、両者が腫瘍の異なる生物学的側面を反映することを裏付ける。組織PD-L1は特定時点・特定部位のサンプリングバイアスに依存するが、CTCは全身の腫瘍由来細胞を反映するため、空間的不均一性を補完できる (Liquid biopsy paradigm) 。

臨床的含意 (clinical implication) として、ICI候補患者の治療前評価においてCTC PD-L1スコアを追加することで、組織PD-L1単独では予測困難な患者層 — 特に組織PD-L1陰性でもCTCnullの予後良好群 — を同定できる可能性がある。Cスタティスティクスが0.757から0.867へ改善した事実は、CTC PD-L1が既存のバイオマーカーセット (PD-L1阻害薬治療 応答予測) に対して実質的な予測能向上をもたらすことを示す。

残された課題として (future direction)、本研究の限界は (1) n=39という小規模、(2) EpCAM依存のCellSearchは上皮間葉転換したCTCを見逃す可能性、(3) 単施設での外的妥当性制限、(4) PD-L1陽性CTC割合の定量性が転帰に与える影響の未評価にある。大規模多施設前向き試験および化学療法対照群での検証が不可欠である。CTC PD-L1スコアは液体生検を用いたリアルタイム治療効果モニタリングへの応用も期待されるが、標準化されたアッセイプロトコルの確立が課題である。

方法

前向き単施設コホート研究。ボローニャ大学病院にて2018年9月〜2020年2月に二次以降のICI単剤療法を受けた進行NSCLC患者n=39 patients を連続登録した。CTC検出:治療開始1週間以内に採血し96時間以内にCellSearch (cell-based search assay system; CellSearch、Menarini Silicon Biosystems) で処理。CTC定義:EpCAM (epithelial cell adhesion molecule; 上皮細胞接着分子) 陽性・サイトケラチン陽性・核染色陽性・白血球マーカー陰性、7.5 mL血液中のCTC数を報告。CTC PD-L1評価:フィコエリトリン標識抗PD-L1抗体を使用。患者分類:CTCnull (circulating tumor cell-null; CTC未検出) n=15 patients、CTCpos (circulating tumor cells-positive) n=13 patients、CTCneg (circulating tumor cells-negative) n=11 patients。組織PD-L1:Ventana自動染色システム + 抗PD-L1モノクローナル抗体 (クローン263)。追跡中央値12.0ヶ月 (95% CI 5.2-18.8)。Harrell C指標でモデル性能を定量化。OS・PFSはKaplan-Meier法、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを使用した。