- 著者: Naiyer A. Rizvi, Matthew D. Hellmann, Alexandra Snyder, Pia Kvistborg, Vladimir Makarov, Jonathan J. Havel, William Lee, Jianda Yuan, Phillip Wong, Teresa S. Ho, Martin L. Miller, Natasha Rekhtman, Andre L. Moreira, Fawzia Ibrahim, Cameron Bruggeman, Billel Gasmi, Roberta Zappasodi, Yuka Maeda, Chris Sander, Edward B. Garon, Taha Merghoub, Jedd D. Wolchok, Ton N. Schumacher, Timothy A. Chan
- Corresponding author: Timothy A. Chan (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA); Naiyer A. Rizvi (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 25765070
背景
免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療に革命をもたらした。2014年9月に進行メラノーマで、2015年10月にはNSCLCでFDA承認を取得し、その有効性が広く認識されている。しかし、これらの薬剤に対する奏効率は20〜30%に留まり、どの患者が治療効果を享受できるかを予測するバイオマーカーの同定が喫緊の課題であった。
同時期に、Snyder et al. NEnglJMed 2014は、メラノーマ患者64例を対象としたイピリムマブ治療において、全エクソームシーケンス (WES) によって得られた腫瘍の体細胞変異量と臨床効果との間に相関があることを報告した。この研究は、「腫瘍変異量 (TMB) がネオアンチゲン生成を促進し、それが免疫系による腫瘍認識につながる」という仮説を提唱し、TMBが免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとなり得る可能性を示唆した。
肺癌は、喫煙に由来するC>Aトランスバージョン変異が優位に多く見られる癌種であり、Vogelstein et al. Science 2013やAlexandrov et al. Nature 2013が報告したように、メラノーマに次いで高いTMBを示すことが知られている。この特性から、肺癌はTMBをバイオマーカーとして検証するのに理想的な癌種であると考えられた。しかし、NSCLCにおける抗PD-1療法の効果予測因子としてのTMBの役割は、この時点ではまだ未解明であり、その機序的解明が不足していた。特に、TMBがネオアンチゲン生成にどのように影響し、それがT細胞応答にどのように結びつくのか、そしてその応答が持続的臨床的有用性 (DCB) にどのように寄与するのかについては、詳細な機序的解明が不足していた。
本研究は、ペムブロリズマブのNSCLC第I相試験 (KEYNOTE-001) から得られた患者コホートを用いて、WESを系統的に実施し、TMB、分子喫煙シグネチャー、ネオアンチゲン量、およびDNA修復遺伝子変異と臨床効果との関連性を詳細に解析することを目的とした。さらに、ネオアンチゲン特異的T細胞応答を直接検出することで、TMBが抗PD-1療法の効果予測バイオマーカーとして機能する機序的根拠を確立することが、本研究の重要な課題であった。これらの知見は、免疫チェックポイント阻害薬の個別化医療への応用を加速させる上で不可欠な情報を提供するものであった。
目的
本研究の目的は、ペムブロリズマブ治療を受けた進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者2つの独立コホートにおいて、腫瘍と正常組織のペア全エクソームシーケンス (WES) を実施し、抗PD-1療法に対する持続的臨床的有用性 (DCB) を規定するゲノム的決定因子を同定することである。具体的には、腫瘍の非同義変異量 (TMB)、分子喫煙シグネチャー、DNA修復遺伝子変異、およびネオアンチゲン量の各因子が、客観的奏効 (ORR)、DCB、および無増悪生存期間 (PFS) とどのように関連するかを評価する。
さらに、本研究は、卓越した臨床的奏効を示した患者において、ネオアンチゲン特異的T細胞応答を直接検出することにより、TMBとネオアンチゲン生成、そして抗腫瘍免疫応答の間の因果関係を実証することを目指す。これにより、TMBを抗PD-1療法の効果予測バイオマーカーとして確立し、その機序的根拠を明確にすることが最終的な目的である。これらの知見を通じて、NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬の治療戦略を最適化するための分子基盤を提供することを目指した。
結果
非同義変異量と臨床効果の関連: Discovery cohort (n=16) において、DCB群の患者はNDB群と比較して有意に高い非同義変異量を示した。DCB群の非同義変異中央値は302 (範囲 33-664) であったのに対し、NDB群では148 (範囲 34-524) であり、Mann-Whitney検定で有意差が認められた (p=0.02)。コホートの中央値である209変異をカットオフとして高変異量群と低変異量群に分けた場合、高変異量群のDCB率は73% (11例中8例) であったのに対し、低変異量群では13% (8例中1例) と有意に低かった (Fisherの正確確率検定 p=0.04)。また、高変異量群の客観的奏効率 (ORR) は63%であったのに対し、低変異量群では0%であり (p=0.03)、無増悪生存期間 (PFS) 中央値も高変異量群で14.5ヶ月、低変異量群で3.7ヶ月と有意に延長していた (HR 0.19, 95% CI 0.05-0.70, ログランク検定 p=0.01)。(Fig 1A, B)
Validation cohortにおける結果の再現性: 独立したValidation cohort (n=18) においても、Discovery cohortと同様の結果が再現された。DCB群の非同義変異中央値は244であったのに対し、NDB群では125と有意に低かった (Mann-Whitney検定 p=0.04)。このコホートの中央値である200変異をカットオフとした場合、高変異量群のDCB率は83% (12例中10例) であったのに対し、低変異量群では22% (9例中2例) と有意差が認められた (Fisherの正確確率検定 p=0.04)。PFSにおいても、高変異量群で有意な延長が認められ、PFS中央値は未到達 vs 3.4ヶ月 (HR 0.15, 95% CI 0.04-0.59, ログランク検定 p=0.006) であった。これにより、TMBが抗PD-1療法の効果予測因子として独立コホートで検証された。(Fig 1C, D)
TMBの予測能とカットオフ値: Discovery cohortにおけるROC解析では、TMBのDCB予測能はAUC 0.87 (95% CI 0.66-1.05, p=0.02) と高い値を示した。最適カットオフ値として178変異が同定され、このカットオフ値を用いた場合のDCB予測の感度は100% (95% CI 59-100%)、特異度は67% (95% CI 29-93%) であった。Validation cohortにこのカットオフ値を適用した場合、178変異以上の腫瘍を持つ患者のDCB率は75%であったのに対し、178変異未満の患者では14%であり、感度86%、特異度75%を示した。全体として、非同義変異量が多いほどORR、DCB、PFSが改善する傾向が認められた。(Fig 1E, F, G)
分子喫煙シグネチャーと治療効果: 全34例の患者を対象に、分子喫煙シグネチャーと臨床効果の関連を解析した。C>Aトランスバージョン変異の頻度はDCB群で高く、C>Tトランジション変異の頻度はDCB群で低い傾向が認められた (いずれもMann-Whitney検定 p=0.01)。分子喫煙シグネチャー分類器によりTH (transversion-high) とTL (transversion-low) に分類した結果、TH腫瘍のORRは56%であったのに対し、TL腫瘍では17%と有意に低かった (Fisherの正確確率検定 p=0.03)。DCB率もTH腫瘍で77%、TL腫瘍で22%と有意差が認められ (p=0.004)、PFSもTH腫瘍で有意に延長した。PFS中央値は未到達 vs 3.5ヶ月 (HR 0.15, 95% CI 0.06-0.39, ログランク検定 p=0.0001) であった。注目すべきは、自己申告による喫煙歴 (pack-year) よりも分子喫煙シグネチャーの方が、治療効果と有意に強く相関した点である。これは、実際の喫煙歴よりもゲノムに刻まれた「喫煙による損傷」の程度が重要であることを示唆している。(Fig 2)
DNA修復遺伝子変異の役割: 最高変異量を示した奏効患者の解析において、POLD1、POLE、MSH2といったDNA修復および複製に関わる遺伝子に有害な変異が同定された (Fig 3)。特に、自己申告で非喫煙者であったにもかかわらず、全エクソームシーケンスで507個の非同義変異を持つ超変異腫瘍 (hypermutated tumor) の症例では、POLD1 E374K変異が同定された。この変異はPol δのエキソヌクレアーゼ校正ドメインに位置し、DNA複製の忠実度低下に寄与する可能性が示唆された。この腫瘍はC>Aトランスバージョンが比較的低く (20%)、C>Tトランジションが優位であった (51%)。また、別の高変異量奏効者ではPOLD1 C284Y変異が、MSH2変異例はLynch症候群に関連し、高TMBおよび高ネオアンチゲン量を示した。これらのDNA修復欠損は、TMBのドライバーとして独立した意義を持つことが示唆された。
ネオアンチゲン量と治療効果: 腫瘍あたりの候補ネオアンチゲンの中央値は112個 (範囲 8-610) であった。ネオアンチゲン量は非同義変異量と強く相関しており (Spearman r=0.91, p<0.0001)、DCB群の患者はNDB群と比較して有意に高いネオアンチゲン量を示した (Fig 4A)。高ネオアンチゲン量群のPFS中央値は14.5ヶ月であったのに対し、低ネオアンチゲン量群では3.5ヶ月と有意に短かった (ログランク検定 p=0.002)。ネオアンチゲン予測は、TMB単独よりもやや優れた予測能を示す傾向が認められた。(Fig 4B)
ネオアンチゲン特異的T細胞応答の直接検出: Discovery cohortの卓越した奏効者 (Study ID no. 9) から、治療開始前および治療後に採取されたPBMCを用いて、ネオアンチゲン特異的T細胞応答を解析した。HERC1 P3278S変異由来の9-merペプチド (ASNA P SAAK) に対するCD8+T細胞応答が、治療開始後に誘導されることが検出された (Fig 4C)。治療開始3週間後のDay 21にはCD8+T細胞の0.040%が反応し、Day 44でも0.044%が維持された。このT細胞応答の迅速な誘導は、腫瘍退縮の動態と密接に相関しており、腫瘍退縮がプラトーに達するにつれてT細胞応答も背景レベル近くに戻った (Fig 4D)。これらのT細胞は、CD45RA-CCR7-HLA-DR+LAG-3表現型を示し、活性化エフェクターT細胞集団に合致した。さらに、これらのT細胞は、IFNγ、TNFα、CD107a、CCL4を同時に産生する多機能性を示し、変異型ペプチドに特異的に反応した。(Fig 4E)
PD-L1発現とTMBの組み合わせ: 34例中30例でPD-L1発現の半定量的な結果が得られた。高変異量 (>200、コホート中央値以上) かつPD-L1発現陽性 (弱/強発現) の患者群では、DCB率が91% (11例中10例, 95% CI 59-99%) と非常に高かった。対照的に、低変異量かつPD-L1発現陽性の患者群では、DCB率はわずか10% (10例中1例, 95% CI 0-44%) であった。PD-L1弱発現の患者に限定した場合でも、高変異量群のDCB率は75% (4例中3例, 95% CI 19-99%) であったのに対し、低変異量群では11% (9例中1例, 95% CI 0-48%) であった。これらの結果は、TMBとPD-L1発現が独立した、かつ相補的なバイオマーカーとして機能する可能性を示唆している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、Snyder et al. NEnglJMed 2014がメラノーマとイピリムマブで示したTMB-免疫療法応答の仮説を、肺癌と抗PD-1療法という異なる癌種・薬剤の組み合わせで独立に検証し、その普遍性を示した点で、これまでの研究と異なり、TMBのバイオマーカーとしての汎用性を強く支持した。特に、分子喫煙シグネチャーが自己申告の喫煙歴よりも治療効果と強く相関することを示した点は新規の知見であり、ゲノムに刻まれた変異パターンが臨床的有用性をより正確に反映することを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、ペムブロリズマブ治療を受けたNSCLC患者において、ネオアンチゲン特異的T細胞応答が治療後に誘導され、その応答が腫瘍退縮と時間的に並行して検出されることを直接的に示した。これは、抗PD-1療法がネオアンチゲン特異的T細胞反応性を増強するという機序的仮説をin vivoで実証した点で新規性が高い。また、POLD1やMSH2といったDNA修復遺伝子の変異が超高TMBと関連し、高い奏効を示すことを同定した点も、TMBのドライバー変異としての新たな側面を明らかにした。
臨床応用: 本研究の知見は、NSCLC患者における抗PD-1療法の個別化医療への臨床応用に直結する。TMBが高値の患者、特に分子喫煙シグネチャー陽性やDNA修復欠損を有する患者群が、抗PD-1療法から最大の恩恵を受ける可能性が高いことを示唆している。これにより、治療選択の層別化が可能となり、不必要な治療を避け、有効な治療を適切な患者に提供するための重要な指針となる。TMBとPD-L1発現を組み合わせることで、さらに患者選択の精度を高められる可能性も示された。
残された課題: 今後の検討課題として、TMBの最適なカットオフ値の癌種別最適化、FFPE組織の品質がTMB測定に与えるバイアスの評価、および血中TMB (blood TMB) の実用化が挙げられる。また、ネオアンチゲンの量的評価だけでなく、その質的評価 (例: Luksza et al. 2017のfitness model) の導入、T細胞炎症性遺伝子発現プロファイル (T cell inflamed GEP) など他のバイオマーカーとの統合的な評価も必要である。さらに、免疫療法耐性メカニズムにおけるクローン動態の解析も、今後の研究で解明すべき重要な課題として残されている。本研究は34例という比較的小規模なコホートから出発したものの、その洞察は免疫腫瘍学全体の分子論的基盤を変革した歴史的論文である。
方法
患者集団と臨床分類: 本研究では、ペムブロリズマブ投与を受けた進行NSCLC患者2つの独立コホートを対象とした。最初のコホートは「discovery cohort」と称され、KEYNOTE-001試験由来の16例 (n=16) で構成された。2番目のコホートは「validation cohort」と称され、追加集積された18例 (n=18) で構成され、合計34例の患者が解析対象となった。本研究はレトロスペクティブコホート研究として実施された。臨床的有用性は、DCB (durable clinical benefit) とNDB (no durable benefit) に分類された。DCBは、部分奏効 (PR) または病勢安定 (SD) が6ヶ月以上持続した場合と定義され、NDBは6ヶ月以内に病勢進行 (PD) となった場合と定義された。主要評価項目 (primary endpoint) は非同義変異量とDCBの関連性であった。
ゲノム解析: 患者のFFPE (ホルマリン固定パラフィン包埋) または凍結組織からDNAを抽出し、腫瘍-正常ペアの全エクソームシーケンス (WES) を実施した。シーケンスはIllumina HiSeq 2500プラットフォームを用いて行われ、平均ターゲットカバレッジは164倍であった。体細胞変異のコールにはMuTectが使用され、非同義変異 (ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位変異) のみがカウントされた。シーケンスデータの精度を確保するため、376個のランダムに選択された変異について、Ampliseqを用いた直交法によるターゲット再シーケンスが実施され、357個の変異 (95%) が確認された。
分子喫煙シグネチャーの評価: 既報のバイナリー分類器を用いて、C>Aトランスバージョン変異の比率に基づき、腫瘍をTH (transversion-high、喫煙パターンに特徴的な変異シグネチャーを持つ) とTL (transversion-low、非喫煙者パターンに特徴的な変異シグネチャーを持つ) に分類した。この分類器は、喫煙によるゲノム損傷の程度を評価するために用いられた。
ネオアンチゲン予測: 患者特異的なHLAクラスIアレル (6アレル) をタイピングし、NetMHCソフトウェアを用いて9-merペプチドのHLA結合親和性を計算した。結合親和性IC50値が500 nM以下のペプチドを候補ネオアンチゲンと定義した。このアプローチにより、各腫瘍におけるネオアンチゲン量を定量的に評価した。
T細胞応答解析: 卓越した臨床的奏効を示した患者1例 (Study ID no. 9) から、治療開始前 (Day 0)、治療後 (Day 21、Day 44、Day 63、Day 256、Day 297) に採取された末梢血単核球 (PBMC) および生検組織由来腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) を用いて、ネオアンチゲン特異的T細胞応答を解析した。候補ネオアンチゲンペプチドプールで細胞を刺激し、IFNγ、TNFα、CD107a、CCL4の多機能性サイトカイン産生をマルチパラメータフローサイトメトリーで評価した。特に、MHCマルチマーを用いたスクリーニング戦略により、HERC1 P3278S変異由来のネオアンチゲン (ASNA P SAAK) に対するCD8+T細胞応答を直接検出した。
統計解析: 臨床的有用性とゲノム的決定因子との関連性は、Mann-Whitney U検定、Fisherの正確確率検定、およびログランク検定を用いて評価された。無増悪生存期間 (PFS) の解析にはカプラン・マイヤー曲線が用いられ、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。TMBのDCB予測能は、ROC曲線 (Receiver Operating Characteristic curve) 解析により評価され、AUC (Area Under the Curve) が算出された。