- 著者: Jens Samol, David Ng, Jonathan Poh, Min-Han Tan, Richa Dawar, Jennifer Carney, James Orsini Jr, Katherine Scilla, Yew Oo Tan, Tan Min Chin, Chee Keong Toh, Boon Cher Goh, Gilberto Lopes
- Corresponding author: Jens Samol (jens_samol@ttsh.com.sg) (Medical Oncology, Tan Tock Seng Hospital, Singapore)
- 雑誌: JCO Precision Oncology
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-06-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 40570258
背景
肺がんは全世界の癌罹患および癌死亡の主要な原因であり、非小細胞肺がん (NSCLC) が全肺がんの約 85% を占める。転移性非扁平上皮 NSCLC の 5 年生存率は依然として 23% と低い水準にあるが、過去 10 年間のドライバー変異特異的分子標的療法 (例: EGFR、ALK、RET、ROS1、NTRK など) の開発により、治療成績は著しく改善された。適切な標的薬による治療では、奏効率 (ORR) が 50-80% に達し、生存期間の顕著な延長が報告されている。NCCN NSCLC v3.2025 ガイドラインは、進行非扁平上皮 NSCLC 患者に対して、EGFR、ALK、RET、ROS1、NTRK1/2/3、ERBB2、KRAS、BRAF、MET、NRG1、FGFR2/3 の 11 遺伝子を対象とした広範な次世代シーケンシング (NGS) パネル検査を推奨している。特に、ALK、RET、ROS1、NTRK1/2/3 などの遺伝子再構成や MET エクソン 14 スキッピングイベントの検出には、RNA ベースのアッセイの利用が支持されている。
しかし、実臨床においては、NSCLC 患者の 15-40% が組織検体の不足により完全な分子検査を受けられないという課題が存在する。このような状況において、血漿中の循環腫瘍 DNA (ctDNA) を用いた液体生検は、低侵襲性かつ迅速な代替手段として確立されつつある。FDA は、Guardant360 CDx および FoundationOne Liquid CDx の 2 つの NGS ベース液体生検アッセイをコンパニオン診断薬として承認している。しかし、ctDNA ベースの液体生検は、特に DNA レベルでの検出が困難なイントロン領域をまたぐ遺伝子融合 (例: ALK、ROS1、RET、NTRK など) の検出感度に限界があることが指摘されている。先行研究では、未治療 NSCLC 患者における ctDNA ベース液体生検の遺伝子再構成検出感度は 37-63% にとどまると報告されており、この領域における診断のギャップが残されている。例えば、Leighl et al. ClinCancerRes 2019 は、ctDNA の検出感度に関する課題を指摘している。また、Rolfo et al. (2021) は液体生検の臨床的有用性を強調しつつも、感度に関する懸念が残されていることを示唆している。
この感度の課題を克服するため、循環腫瘍 RNA (ctRNA) の利用が注目されている。ctRNA は RNA レベルで遺伝子融合を直接検出できるため、ctDNA との統合によるマルチアナライトアプローチが診断収率の向上に寄与する可能性が示唆される。これまでの研究では、組織 RNA 検査が DNA 検査に加えて臨床的価値を高めることが示されているが、液体生検において ctDNA と ctRNA を組み合わせたアプローチの臨床的有用性を前向きに評価した研究は不足しており、その有効性は未解明な点が多い。したがって、本研究は、この知識のギャップを埋め、ctDNA と ctRNA を組み合わせた液体生検の性能を検証することを目的とする。
目的
本研究の主要な目的は、転移性非扁平上皮 NSCLC 患者において、LiquidHALLMARK (LHM) ctDNA アッセイの性能を、(1) 組織 NGS および (2) FDA 承認の Guardant360 CDx (G360 ctDNA) 液体生検と比較し、その非劣性を検証することである。特に、NCCN ガイドラインで推奨される 9 遺伝子 (G9: EGFR、ALK、RET、ROS1、BRAF、KRAS、MET、ERBB2、NTRK1/2/3) のバイオマーカー検出率において、LHM ctDNA が組織 NGS および G360 ctDNA に対して非劣性であることを示すことを目指した。非劣性マージンは 0% と設定された。
副次的な目的として、各アッセイのターンアラウンドタイム (TAT)、およびバイオマーカー検出結果に基づいた治療を受けた患者の奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) を評価した。さらに、探索的解析として、LHM ctRNA の追加が、特に遺伝子再構成の診断収率を向上させるか否か、またその臨床的有用性を評価した。これにより、ctDNA 単独アッセイと比較して、ctRNA を統合したマルチアナライト液体生検が、遺伝子再構成の検出において優位性を示す可能性を検討した。
結果
患者背景と評価可能例数: 2021 年 4 月から 2022 年 12 月までに、米国およびシンガポールで合計 151 例の転移性非扁平上皮 NSCLC 患者が登録された (Table 1)。患者の大部分は腺癌 (96.0%) であり、男性が 55.0%、中央値年齢は 68 歳 (範囲 31-93 歳) であった。アジア系患者が 76.2% を占めた。登録患者 151 例中、1 例はベースラインで採血不能であった。残りの 150 例中 36 例は主要解析の対象外とされた。その内訳は、組織検体不足 (QNS: quantity not sufficient) が 23 例、組織 NGS 未実施が 8 例、G360 ctDNA 未実施が 3 例、LHM ctDNA 未実施が 2 例であった。最終的に、3 種類すべてのバイオマーカーアッセイが実施された 114 例が主要解析に含まれた (Fig 1)。全登録患者 151 例のうち、95% 以上が液体生検解析に適格であり、組織検体利用不能 (QNS など) は 15.2% に相当した。
LHM ctDNA vs. 組織 NGS: 非劣性は未達: 主要解析対象の 114 例において、組織 NGS は 68 例 (59.6%) に G9 バイオマーカーを検出したのに対し、LHM ctDNA は 55 例 (48.2%) に検出した。両者の検出率の差は -11.4% (片側 95% CI: -16.4%、p=1.00) であり、LHM ctDNA の組織 NGS に対する非劣性は達成されなかった。組織 NGS で確認された G9 陽性 68 例に対する LHM ctDNA の感度は 72.1%、特異度は 87.0%、精度は 78.1% であった (Data Supplement, Table S1)。各 G9 バイオマーカーにおける全体的な精度は 93.0% から 100% の範囲であり、LHM ctDNA と組織 NGS の高い臨床的コンコーダンスを示した (Table 2)。個別のバイオマーカーでは、KRAS G12C の感度は 100%、EGFR L858R/exon19del の感度は 82.4%、ALK 再構成の感度は 50.0% であった。全 151 例のコホートでは、組織 NGS が 70 例 (46.4%)、LHM ctDNA が 69 例 (45.7%)、G360 ctDNA が 66 例 (43.7%) に G9 バイオマーカーを検出した。
LHM ctDNA vs. G360 ctDNA: 非劣性達成: 組織 NGS で確認された G9 陽性 68 例において、LHM ctDNA は 49 例 (72.1%) を検出し、G360 ctDNA は 45 例 (66.1%) を検出した。両者の検出率の差は 5.9% (片側 95% CI: 0%、p=.002) であり、LHM ctDNA の G360 ctDNA に対する非劣性が成立した。LHM ctDNA と G360 ctDNA の陽性一致率は 93.3%、陰性一致率は 69.6%、全体一致率 (OPA: overall percent agreement) は 85.3% であった。各 G9 バイオマーカーにおける OPA は 92.6% から 100% の高範囲を示した (Fig 2)。LHM ctDNA は G360 ctDNA が見逃した 7 例の G9 陽性患者を検出し、G360 ctDNA は LHM ctDNA が見逃した 3 例を検出した。組織 NGS が G9 陰性とした 46 例中、7 例 (ALK 2 例、EGFR 2 例、KRAS 2 例、ERBB2 1 例) でいずれかの液体生検により G9 バイオマーカーが検出された (Data Supplement, Table S2)。組織検体不足などにより組織 NGS が実施できなかった 31 例 (20.5%) のうち、LHM ctDNA と G360 ctDNA は 15 例に G9 バイオマーカーを検出し、そのうち 11 例 (73.3%) は両アッセイで一致した (Data Supplement, Table S3)。
ターンアラウンドタイム (TAT): 液体生検の速報性: LHM ctDNA の平均 TAT は 9.7 日 (範囲 5-37 日) であり、G360 ctDNA の平均 TAT は 10.1 日 (範囲 6-18 日) であった。一方、組織 NGS の平均 TAT は 21.7 日 (範囲 3-98 日) であった。LHM ctDNA と組織 NGS 間の TAT の差は統計的に有意であり (p<.001)、LHM ctDNA は組織 NGS よりも平均 12 日早く結果を報告した。LHM ctDNA と G360 ctDNA 間の TAT に有意差は認められなかった (p=.63)。
治療アウトカム: 3 アッセイ間で同等の ORR・PFS: 登録された 151 例中 129 例が一次治療を受けた。内訳は、標的療法が 64 例 (49.6%)、化学療法が 53 例 (41.1%)、免疫療法が 39 例 (30.2%) であった。RECIST v1.1 に基づく ORR は、標的療法群で 40.4% (95% CI 27.6-54.2%)、化学療法群で 17.8% (95% CI 8.0-32.1%)、免疫療法群で 9.4% (95% CI 2.0-25.0%) であった。一次標的療法を受けた患者において、組織 NGS の結果に基づいて治療を受けた群 (45.2%、95% CI 29.9-61.3%)、LHM ctDNA の結果に基づいて治療を受けた群 (39.0%、95% CI 24.2-55.5%)、および G360 ctDNA の結果に基づいて治療を受けた群 (36.8%、95% CI 21.8-54.0%) の間で ORR は同等であった。一次標的療法を受けた患者の中央 PFS は 23.6 ヶ月 (95% CI 15.9-NR) であり、非標的療法群の 3.8 ヶ月 (95% CI 2.8-5.5) と比較して有意に長かった (ハザード比 0.26、95% CI 0.16-0.41、p<.001) (Fig 4A)。各アッセイのバイオマーカー検出結果に基づいて標的療法を受けた患者の中央 PFS は、組織 NGS マッチ群で 23.6 ヶ月 (95% CI 16.3-NR)、LHM ctDNA マッチ群で 18.6 ヶ月 (95% CI 12.0-NR)、G360 ctDNA マッチ群で 20.1 ヶ月 (95% CI 14.4-NR) と類似していた (Fig 4B)。
ctRNA の付加的価値: 遺伝子再構成の診断収率向上: 101 例の患者が LHM ctRNA 検査を受けた。LHM ctRNA は 7 つの G9 バイオマーカー (ALK 4 例、ROS1 2 例、MET exon14 skipping 1 例) を検出し、そのうち 6 例は組織 NGS で確認され、1 例は LHM ctDNA と G360 ctDNA の両方で確認された (Table 3)。ctRNA 陽性患者 7 例全員が一次標的療法を受け、そのうち 6 例で治療奏効が評価可能であった。LHM ctRNA 陽性患者の ORR は 66.7% (4/6) であった。組織 NGS で確認された遺伝子再構成 16 例 (うち 10 例は十分な血漿量があり ctRNA 検査可能) において、LHM ctDNA は 7/16 (43.8%)、G360 ctDNA は 6/16 (37.5%) を検出した。LHM ctRNA は、血漿量不足のため検査できなかった 3 例を除いた 13 例中 6 例 (46.2%) を検出した。LHM ctDNA と ctRNA を統合したアプローチでは 9/16 (56.3%) の遺伝子再構成を検出し、ctRNA の追加により LHM ctDNA 単独と比較して 28.6% (2/7)、G360 ctDNA と比較して 50.0% (3/6) の診断収率増加を達成した。全 G9 バイオマーカーで見ると、LHM ctDNA+ctRNA は 70 例中 52 例 (74.3%) を検出し、G360 ctDNA の 70 例中 45 例 (64.3%) を上回り、G360 ctDNA と比較して 15.6% の診断収率増加を示した。全体として、ctRNA の組み込みにより、LHM の組織 NGS に対する G9 バイオマーカー感度は 72.1% (49/68) から 75.0% (51/68) に向上し (Fig 2 および Data Supplement, Table S5)、G360 ctDNA の 66.2% (45/68) を有意に上回った。LHM ctDNA と ctRNA の組み合わせは、G360 ctDNA よりも 8.8% 多くの G9 陽性患者を検出し (片側 95% CI 2.4%、p=.001)、優越性を示した。
考察/結論
LIQUIK 試験は、転移性非扁平上皮 NSCLC 患者において、LHM ctDNA が FDA 承認の G360 ctDNA に対する非劣性を前向き多施設デザインで証明した初の研究である。また、ctDNA と ctRNA を統合したマルチアナライト液体生検の臨床的有用性を前向きに評価した初の試験でもある。
先行研究との違い: 本研究において、LHM ctDNA の組織 NGS に対する非劣性が達成されなかった (-11.4% 差) 点は、Leighl et al. ClinCancerRes 2019 や Palmero et al. の先行研究と一見相反する。しかし、本研究が比較基準として「医師の選択による標準的組織検査」ではなく「組織 NGS」を用いた点で、より厳格な直接比較を実施したことに違いがある。これは、液体 NGS と組織 NGS の性能をより直接的に評価することを可能にした点で、これまでの研究とは異なるアプローチである。
新規性: 本研究で初めて、ctDNA と ctRNA を組み合わせた液体生検が、ctDNA 単独アッセイと比較して遺伝子再構成の検出収率を向上させることを前向きに示した。特に、ALK、ROS1、RET などのイントロン領域をまたぐ融合遺伝子において ctRNA の付加価値が顕著であったことは、NCCN ガイドラインが組織 RNA 検査を推奨している事実と整合する新規の知見である。LHM ctDNA と ctRNA の組み合わせは、G360 ctDNA よりも 8.8% 多くの G9 陽性患者を検出し (p=.001)、優越性を示したことは、マルチアナライトアプローチの有効性を裏付ける。
臨床応用: 本研究の知見は、液体生検の臨床応用におけるいくつかの重要な側面を強調する。第一に、液体生検の特異度は G9 バイオマーカー別に 98% 以上と高く、誤陽性リスクが低いことが示された。第二に、組織 NGS が実施不能な患者 (20.5%) に対して液体生検が代替検査を提供し、そのうち 15/31 例 (組織 QNS 含む) で G9 陽性を同定した。第三に、組織 NGS で G9 陰性とされた症例の 15.2% に液体生検で G9 バイオマーカーが同定され、組織検査との相補性が実証された。第四に、液体生検の TAT は組織 NGS より平均 12 日短縮され (9.7 日 vs 21.7 日、p<.001)、治療開始の遅延を抑制する臨床的意義がある。これらの結果は、特に組織生検が困難または不十分な臨床現場において、液体生検が補完的役割を果たすことを強く支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、ctRNA の前分析安定性 (例: 安定化チューブの開発・検証) の改善が挙げられる。また、遺伝子再構成の全体頻度が NSCLC で 8-17% と低いため、より大規模なコホートでの遺伝子再構成サブグループ解析が必要である。さらに、ctRNA 検査の保険適用やコスト最適化、組織 RNA 解析と組み合わせた ctDNA+ctRNA 戦略の標準化も今後の課題となる。本研究は、液体生検が DNA と RNA の統合へと進化する方向性を前向きデザインで確認した重要なエビデンスであり、特に組織生検が困難な状況での液体生検の補完的役割を強固に支持する。
方法
試験デザインと参加者: 本研究は、LIQUIK (LIQUId Biopsy for Detection of Actionable Genomic BiomarKers in Patients With Advanced NSCLC; ClinicalTrials.gov 識別子: NCT04703153) と題された多施設共同前向き観察コホート研究として実施された。2021 年 4 月から 2022 年 12 月にかけて、米国およびシンガポールの計 10 施設で患者登録が行われた。本研究は、ヘルシンキ宣言、GCP ガイドライン、および適用される規制要件に準拠して実施され、すべての参加者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。報告は STARD ガイドライン (Data Supplement, Text S1) に従った。適格患者は、新規診断され、治療歴のない、組織学的または細胞学的に確認された転移性非扁平上皮 NSCLC 患者で、年齢 21 歳以上であった。
遺伝子型解析手順: 患者は、(1) 組織 NGS (リファレンスアッセイ)、(2) LHM ctDNA (Lucence Health; アンプリコンベース NGS、CLIA 認定・CAP 認定)、および (3) G360 ctDNA (Guardant Health; ハイブリッドキャプチャーベース NGS、FDA 承認) の 3 種類のアッセイで検査された。研究期間中に LHM はバージョンアップされ、細胞遊離 RNA (cfRNA) 解析 (LHM ctDNA および ctRNA) が追加された。cfRNA 検査に再同意し、十分な血漿量がある患者は cfRNA 検査も受けた。すべての NGS アッセイは、NCCN ガイドラインで推奨される 9 遺伝子 (G9: EGFR、ALK、RET、ROS1、BRAF、KRAS、MET、ERBB2、NTRK1/2/3) を対象とした。
統計解析: 主要評価項目は、LHM ctDNA と組織 NGS、および LHM ctDNA と G360 ctDNA の G9 陽性患者検出率における非劣性であった。非劣性マージンは 0% と設定された。検出率の差と片側 95% 信頼区間 (CI) の推定には、ブートストラップを用いたロジスティック一般化推定方程式 (GEE) モデルが使用された。副次評価項目には、TAT、ORR、および PFS が含まれた。TAT の統計的差は線形混合モデルを用いて決定された。ORR の 95% CI は正確法で計算され、PFS の差はログランク検定を用いて評価された。詳細な統計解析方法は Data Supplement (Text S2) に記載されている。