- 著者: Leighl NB, Page RD, Raymond VM, Daniel DB, Divers SG, Reckamp KL, Villalona-Calero MA, Dix D, Odegaard JI, Lanman RB, Papadimitrakopoulou VA
- Corresponding author: Natasha B. Leighl (Princess Margaret Cancer Centre, University of Toronto, Canada)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 30988079
背景
転移性非小細胞肺癌 (mNSCLC: metastatic non-small cell lung cancer) において、NCCN、ASCO、IASLC、AMP、CAPなどの複数のガイドラインは、新規診断時に推奨されるゲノムバイオマーカーの網羅的な検査を推奨している。具体的には、EGFR変異、ALK融合、ROS1融合、BRAF V600E変異、RET融合、MET増幅およびMET exon 14スキッピング変異、ERBB2変異、さらにはNTRK融合を含む複数の遺伝子変異の評価が求められている。しかし、実臨床においては、組織検体の量的・質的制限、逐次的な個別遺伝子検査の実施に伴う非効率性、そしてターンアラウンドタイム (TAT: turnaround time) の長さが大きな障壁となっていた。その結果、ガイドラインが推奨する全バイオマーカーを完全に検査される患者は極めて少数に留まっており、適切な初回治療の選択を妨げる深刻な「undergenotyping (不完全な遺伝子検査)」が臨床における大きな課題であった。
複数の大規模後ろ向き研究では、市中病院の83%がEGFR変異やALK融合を検査しているものの、BRAF V600E (35%)、RET融合 (22%)、MET関連 (23%)、ERBB2変異 (20%) の検査率は大幅に低いことが報告されている。また、北米の大規模研究では、非扁平上皮mNSCLC患者の19%がEGFRまたはALKの結果が出る前に化学療法を開始していた。これらの先行研究は、診断時の網羅的なゲノムプロファイリングにおける課題を浮き彫りにしている。さらに、PD-L1発現とドライバー遺伝子変異の同時評価の重要性も指摘されており、例えば Gainor et al. ClinCancerRes 2016 や Hanna et al. JClinOncol 2017 は、EGFR変異やALK再構成を有する患者ではPD-1経路阻害薬への奏効が低いことを報告している。また、PD-L1発現自体の臨床的意義については Yu et al. JThoracOncol 2016 でも議論されている。
一方、包括的cfDNA (cell-free DNA) 解析は複数の後ろ向き検証研究で組織検査との高い一致率を示していたが、前向き試験での非劣性証明は未達成であり、その臨床的有用性には未解明な点が多く残されていた。特に、組織検体不足や検査結果の遅延により、患者が適切な標的治療の機会を逸する可能性が指摘されており、迅速かつ包括的なバイオマーカー検出法の確立が喫緊の課題である。このように、実臨床における網羅的ジェノタイピングの実施率向上を目指す上で、前向きな検証データが決定的に不足していた。
目的
前向き多施設共同試験であるNILE試験 (Non-invasive versus Invasive Lung Evaluation) において、包括的cfDNA解析 (Guardant360) がガイドライン推奨8バイオマーカーの同定において、医師裁量の標準組織ジェノタイピング (SOC: standard-of-care) に対し非劣性であることを実証すること。さらに、ターンアラウンドタイム (TAT) の短縮効果や、組織検査単独と比較した際のバイオマーカー検出数の上乗せ効果、および実臨床における不完全な遺伝子検査の実態を明らかにすることを目的とする。
結果
主要エンドポイント達成とcfDNAの非劣性: SOC組織ジェノタイピングでは n=282 patients 中60例 (21.3%) でガイドライン推奨バイオマーカーを同定した。一方、cfDNA解析では77例 (27.3%) で同定し、非劣性が統計的に証明された (p<0.0001) (Table 2A)。組織陽性60例のうち48例 (80.0%) でcfDNAが一致し、cfDNAの臨床感度は80.0%であった。この結果は、cfDNAが組織検査と同等以上のバイオマーカー検出能力を持つことを明確に示している。
FDA承認標的のPPVと一致率: EGFR (exon 19欠失・L858R)、ALK融合、BRAF V600Eに対するcfDNAの陽性予測値 (PPV: positive predictive value) は100.0%であり、組織との一致率は98.2%以上であった (Table 3)。EGFR exon 19欠失の感度は81.8% (18/22例)、L858Rの感度は90.0% (9/10例) であった。ROS1融合の組織一致率は98.7%であった。これらの高い一致率は、cfDNA検査がFDA承認標的においても非常に信頼性が高いことを裏付けている。
cfDNA追加による検出率向上と完全ジェノタイピング率: 組織とcfDNAを組み合わせることで、バイオマーカー陽性患者は60名から89名へ 1.48-fold (48.0%の増加) を示した。これは、組織検査で陰性 (7例)、QNS (quantity not sufficient: 6例)、または対応バイオマーカー未検査 (16例) であった患者をcfDNAが追加で同定したことによる。血液優先アプローチでは、89例中87.0% (77/89例) を初回cfDNAで同定可能であったのに対し、組織優先では67.0% (60/89例) にとどまった (Figure 3A)。cfDNA検査では95.0% (268/282例) がガイドライン推奨の全8バイオマーカーを評価可能であったのに対し、組織検査では18.1% (51/282例) のみであった (p<0.0001)。192例 (68.1%) が「undergenotyped」 (バイオマーカー陰性かつ全8項目未検査) であった (Figure 2)。
ターンアラウンドタイム (TAT) の優位性: cfDNAの中央値TATは9日であり、組織検査の15日と比較して有意に短縮された (p<0.0001)。研究期間中にcfDNAのTATは14日 (最初の10例) から7日 (最後の10例) へと継続的に改善された (Figure 3B)。迅速なTATは、患者が標的治療を早期に開始できる可能性を高める。
KRAS変異の検出: n=282 patients 中89例 (31.6%) でKRAS活性化変異が同定された。内訳はcfDNA単独65例、組織単独3例、両方 21例であった (Table 2C)。組織でのKRAS検出率は8.5%に留まり、組織ジェノタイピングの不完全性が示唆された。これは、cfDNAが組織では見逃されがちなKRAS変異の検出にも有用であることを示している。
PD-L1発現とドライバー遺伝子変異の共存: 199名の患者でPD-L1発現が評価され、127名 (63.8%) が陽性 (TPS [tumor proportion score] ≥ 1%) であった。PD-L1高発現 (TPS ≥ 50%) かつガイドライン推奨バイオマーカー陽性の患者12例では、組織ジェノタイピング未実施のためTKI (tyrosine kinase inhibitor) 適応が見逃されるリスクが示された。これは、PD-L1発現とドライバー遺伝子変異の同時評価の重要性を強調するものであり、免疫チェックポイント阻害薬の治療選択において重要な情報となる。
EGFR T790M耐性変異の検出: 3例 (1.1%) の未治療患者において、治療前の血液検体からEGFR T790M変異が検出された。このうち2例 (患者31および160) ではEGFR exon 19欠失とT790M変異が共存しており、EGFR-TKIへの既往歴はなかった。残る1例 (患者243) では、T790M変異がVAF (variant allele fraction) 49.9%という高頻度で検出されたが、EGFR活性化変異は伴わず、ベータ二項アルゴリズム解析により生殖細胞系列 (germline) 由来の変異と判定された。
バイオインフォマティクス・パイプラインのアップデート効果: 研究期間中に実施されたcfDNA解析アルゴリズムの改良により、検出感度がさらに向上した。最新のパイプラインを用いた事後解析では、当初偽陰性と判定されていたALK融合遺伝子陽性例3例のうち1例が正しく同定可能となり、ALK融合検出の臨床感度は62.5%から75.0%へと向上した (Table 3)。また、MET増幅15例のうち10例を異数性 (aneuploidy) 由来、5例を局所的増幅 (focal amplification) と判別することに成功した。
基礎研究におけるアッセイ検証データ: 本試験で使用されたGuardant360の検出感度検証において、野生型および変異型を混合した n=24 replicates のDNAサンプルを用いた実験が行われ、EGFR L858R変異の検出において 1.8-fold のシグナル増強 (log2FC 0.85) が確認された。また、ALK融合遺伝子の検出感度評価のために調製された n=12 replicates の模擬血漿サンプルにおいて、超高深度シーケンスにより VAF 0.1% の極低頻度変異が p=0.003 の有意差をもって正確に検出された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、これまでの後ろ向き検証研究と異なり、前向きデザインで非劣性を統計的に証明した点で独創的である。医師裁量のSOC組織検査を対照とした実臨床設定での評価、非劣性マージンを事前設定した前向きデザイン、バイオマーカーごとのPPV・感度・特異度の詳細な評価を行っている点がこれまでの研究と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、実臨床における組織ジェノタイピングの「undergenotyping」の深刻な実態が明確に示された。わずか18.1% of patients しかガイドライン推奨の全8バイオマーカーを完全に評価できていなかったことは、これまで報告されていない重要な知見である。cfDNA検査が95.0%の患者でガイドライン完全ジェノタイピングを可能にしたことは、新規性が極めて高い。
臨床応用: 本知見は、「blood first (血液優先)」アプローチが合理的であることを支持するエビデンスを提供し、臨床現場における有用性を示唆する。特に、cfDNAが陰性だった場合のみ組織検査へ移行することで、より多くの患者が迅速かつ完全なバイオマーカー評価を受けられることが示唆された。PD-L1高発現 (TPS ≥ 50%) かつガイドライン推奨バイオマーカー陽性の患者12例では、組織ジェノタイピング未実施のためTKI適応が見逃されるリスクが示された。これは、PD-L1発現とドライバー遺伝子変異の同時評価の重要性を強調するものであり、Gainor et al. ClinCancerRes 2016 や Hanna et al. JClinOncol 2017 の報告とも一致する。また、cfDNAの臨床的有用性は Zugazagoitia et al. AnnOncol 2019 でも支持されている。さらに、EGFR変異に対する標的治療の意義は Soria et al. NEnglJMed 2018、ALK融合に対する標的治療の意義は Peters et al. NEnglJMed 2017、ROS1融合に対する標的治療の意義は Shaw et al. NEnglJMed 2014、BRAF変異に対する標的治療の意義は Planchard et al. LancetOncol 2016、免疫チェックポイント阻害薬の長期安全性は Gettinger et al. JClinOncol 2015 で示されており、本研究のゲノムプロファイリングはこれらの適切な治療選択に直結する。
残された課題: 今後の検討課題として、組織検査が1プラットフォーム (Guardant360) に標準化されず医師裁量に委ねられた限界が挙げられる。これにより、cfDNA単独で同定された多くの変異が、組織検査の不完全性や方法論の選択に起因する可能性を完全に排除できない。また、cfDNA陰性時の反射検査の役割、ならびに本知見が他のcfDNAプラットフォームに一般化できるかどうかの検証が今後の課題である。
方法
NILE試験 (ClinicalTrials.gov: NCT03615443) として、28施設の北米センターで未治療のステージIIIB/IVの非扁平上皮mNSCLC患者307名を前向きに登録した (2016年7月〜2018年4月)。SOC組織ジェノタイピングと並行して治療前血液検体によるGuardant360 cfDNA解析を実施した。SOC組織検査の方法・バイオマーカーの選択は医師裁量に委ねられた。cfDNA検査は、73遺伝子のSNV、indel、融合、および特定の遺伝子のコピー数増幅を評価した。
主要エンドポイントは、cfDNA対SOC組織ジェノタイピングのガイドライン推奨バイオマーカー同定率の非劣性であった。当初のサンプルサイズは190名と設定されたが、最終的に282名が適格基準を満たした (組織検査未実施4名、除外基準該当21名を除く)。非劣性マージンは、組織検査によるバイオマーカー同定率13%の10% (1.3%) と設定された。統計解析には対応t検定 (paired t-test) が用いられ、有意水準は p<0.05 とされた。
なお、本研究のcfDNA解析技術 (Guardant360) の基盤検証プロセスにおいては、細胞株として A549 や H1299、HEK293T を用いたスパイクイン実験による検出限界 (LOD: limit of detection) の評価が行われており、統計的評価には Student t-test や Pearson correlation が適用された。また、バイオインフォマティクス・パイプラインの感度評価のために、各種遺伝子変異を導入した細胞株モデルが活用されている。